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地球から「借金」をする私たち ― オーバーシュート・デイが教えてくれること

生態系
2025年10月15日 作成
地球から「借金」をする私たち ― オーバーシュート・デイが教えてくれること

オーバーシュート・デイ(地球の自然予算を使い果たす日)という言葉を聞いたことがありますか? 

オーバーシュート・デイは、国際団体「グローバル・フットプリント・ネットワーク(GFN)」が毎年公表している環境指標です。 この日は、人類のエコロジカル・フットプリント(=人間が消費する資源を供給し、廃棄物を吸収するのに必要な土地や海の面積)が、地球のバイオキャパシティ(=生態系が資源を再生し、廃棄物を吸収できる能力)を超えてしまう時点を示しています。

イメージとしては、世界の人々が「1年分の自然からの資源」を元日に受け取ったとすると、それをすべて使い切ってしまう日がオーバーシュート・デイです。算出方法は以下の式で表されます。

地球のオーバーシュート・デイ=(地球のバイオキャパシティ ÷ 人類のエコロジカル・フットプリント) × 365日(閏年は366日)

オーバーシュート・デイが 年末を過ぎる(=365日を超え、翌年の1月以降になる) 場合は、その年は地球の自然予算を使い切っていないことを意味します。反対に、365日以内であれば、自然予算を使い果たしてしまったことになります。

理想は自然予算を使い果たさないことです。オーバーシュート・デイが存在するということ自体、その年には生態系に 「赤字」 が発生しているということになります。さらにオーバーシュート・デイが早いほど、自然予算の消費が速いことを意味します。

なお、2025年のオーバーシュート・デイは7月24日であることが、GFNから発表されています。


国別のオーバーシュートデイ
さらにGFNは、国別のオーバーシュート・デイ(Country Overshoot Day)も毎年発表しています。これは、もし世界中の人々がその国の平均的な生活スタイルをしたと仮定した場合、その年の自然予算を使い切ってしまう日を指します。

計算式は次の通りです:
国別オーバーシュート・デイ=(地球の一人当たりバイオキャパシティ/その国の一人当たりエコロジカルフットプリント)×365日(閏年は366日)

もし世界中のすべての国が、 「地球が1年で再生できる資源量の範囲内」 で暮らしていたら、つまりオーバーシュート・デイ(使い果たす日)が 1年の365日よりも後にくるようなペースだったら、地球全体としても「使いすぎ」にはならず、資源の再生が追いつく持続可能な状態になります。これは、一部の国が資源を使いすぎ、その分を他の国が埋め合わせをするような状態ではなく、どの国も地球が再生できる範囲内で暮らすことで、地球全体として持続可能な状態を保てる、ということです。


日本のオーバーシュート・デイを計算してみると
Global Footprint Network(GFN)は、1961年以降の国別バイオキャパシティとエコロジカル・フットプリントのデータを公開しており、それを使って独自に日本のオーバーシュート・デイを計算することができます。図1にその推移を示します。

その結果、日本のオーバーシュート・デイは以下のような変遷を示しました:

  • 1964年まではオーバーシュート・デイは年末以降(=366日以降)であり、赤字状態ではありませんでした
  • 1965年には、オーバーシュート・デイが 12月30日 となり、1日分だけ赤字が生じています
  • 2024年のオーバーシュート・デイは 5月13日 でした。※この日は、GFN が2024年に公式に発表している 5月6日 と異なりますが、これはデータの更新・補正が原因と考えられます。

この傾向から、日本では「自然資源を使い果たす日」が年を追うごとに早まってきていることが確認できます。すなわち、より早い段階で「生態学的赤字」が発生する年が増えているということです。

grh_20251015_02.jpg

もう少し、グラフを注意深く見てみましょう。


まず最も目を引くのは、1965年から1970年代にかけて、日本のオーバーシュート・デイが急速に前倒ししていることです。この時期はまさに日本の高度経済成長期と重なります。つまり、国全体の経済が大きくなると同時に、自然予算を使い果たしてしまうスピードも速くなっていたのです。

高度成長期の後、オーバーシュート・デイは一時期やや横ばいになりますが、1980年代半ばから1995年ごろにかけては再び前倒しが進みます。これは、バブル景気と重なり、消費や資源利用がさらに増えたことが背景にあると考えられます。再び、「経済の拡大=予算消費の加速」の図式が働いているのが見てとれます。

1995年以降は、比較的落ち着いた推移になっています。これは、日本がバブル崩壊後の低成長期(いわゆる「失われた30年」)に突入したことと、環境問題への関心が高まり始めた社会的背景と重なります。
とはいえ、オーバーシュート・デイが5月13日という状態は重大です。たとえるなら、年間で使ってよい「自然予算」を元旦に受け取って、ゴールデンウィーク直後に使い切ってしまっているということです。その後の半年以上は、資源を「借金」して生活しているようなものです。

では、その「借金」とは何でしょうか?
それは主に 化石燃料の消費、そして 大気中への CO₂ 蓄積 といった形で、地球の蓄えを切り崩したり未来への負債を背負いながら生活しているということです。過去からの「遺産」を使い切り、未来へも「借金」を重ねている──その構図がオーバーシュートデイの背後にはあるのです。


地球のオーバーシュート・デイ
ここまで日本のオーバーシュート・デイの変化を見てきましたが、地球全体のオーバーシュート・デイはどうなっているのでしょうか。図 2 は、GFN が提供している地球全体のオーバーシュート・デイの推移を示すグラフです。

grh_20251015_03.jpg

出典:Global Footprint Network www.footprintnetwork.org.

このグラフから読み取れることを整理します

  • 日本ではオーバーシュート・デイが最初に現れたのが 1965 年ですが、地球全体では 1971 年です。この違いは、国ごとの消費量が異なることを意味しています。
  • その後、時期によってわずかに改善する(=前倒しがゆるやかになる)年もありますが、長期傾向としては オーバーシュート・デイが年を追うごとに早まっている、つまり「赤字」が拡大していることがわかります。

現在では、「サステナブル」「持続可能」「SDGs」といったキーワードが日常的に語られるようになりましたが、本当の意味での持続可能な世界を実現するためには、オーバーシュート・デイを年末以降に持ってくるような仕組み・生活様式の転換が必要です。そのために何ができるのか、みんなで力を合わせて考える必要があります。

(新津 尚子)


参考文献
オーバーシュートデイ(英語)
https://overshoot.footprintnetwork.org/

国別オーバーシュートデイ(英語)
https://overshoot.footprintnetwork.org/newsroom/country-overshoot-days/

Image by bBear

 

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