第10回 日本語リライト演習
こちらのファイルには、日本語リライト演習の課題文と、リライト文が2点入っています。ダウンロードして、それぞれ自分が作成したリライト文とくらべてみましょう。どの表現が自分の「腑」に落ちるか、感じながら読みくらべてみてください。
こちらのファイルには、日本語リライト演習の課題文と、リライト文が2点入っています。ダウンロードして、それぞれ自分が作成したリライト文とくらべてみましょう。どの表現が自分の「腑」に落ちるか、感じながら読みくらべてみてください。
<質問4>最後の文the rest of usが上手に訳せませんでした。このような表現を訳せるようになるためのヒントを教えてください。
<回答>
ぜひ辞書を引いて、「読んで」みてください。restには、「休息」のほかに「その他の人々[物]」という意味がありますね。例えばオンライン辞書の「英辞郎」だけでも、たくさんの用例に触れることができます。どんな場面で使われていて、どういう日本語に訳されているか調べてみてください。
この課題では、we, our, usという言葉が何度か出てきますが、ここでの「私たち」は2通りの意味に使われています。 「私たち人類」と「著者を含めた先進国の私たち」です。では、the rest of usのusはどちらでしょうか? 「人類全体」ですね。では、「人類の中のその他の人々」とは誰のことでしょうか? 直前で南米の熱帯雨林の原住民の悲劇が語られていますので、それ以外の人々、つまり先進国の人々のことですね(おおざっぱな分け方ですが)。このようにひとつひとつを取り上げて考えていくと、答えは自然に導かれると思います。
訳し方は、正確に「先進国の私たち」あるいは、「そこに住まない私たち」としても良いですが、単に「私たち」としても文脈から意味は十分に伝わると思います。日本語の「私たち」もいろいろな意味で使われますので、適切な訳語を選ぶには、日本語の力も必要ですね。
数多くの英文に親しんでいると、the rest of 〜などの語句に自然になじむことができますし、解釈にも悩まなくなってくると思います。ただし、文法が不確実であればその勉強も必要です。読みやすい文法書を手元におかれると良いでしょう。
また、数多くの日本語の文章に触れたり、自分自身で書くことに親しんでいると、日本語の表現力がつきます。翻訳の力を磨きたければ、英文にしろ日本文にしろ、心にとめるべき単語や表現を意識して読み書きするようにしましょう。よい表現は、ノートに書きとめておくのもひとつの方法ですね。
また、英文の原書と翻訳をつき合わせて読んでみるのも勉強になります。ただし、その場合は、翻訳が原文を忠実に訳したものかどうか、気をつけて選ぶ必要があります。日ごろからこのような努力を積み重ねることで、1年、2年と経つうちに違いが出てきますから、がんばりましょう。
<質問3>今回の課題でヤノマミ族の人の名前が出ていましたが、人名のカタカナ表記はどのように調べ、選択していくとよいのでしょうか。
<回答>
人名に関わらず、固有名詞の表記について調べる場合には、ぜひインターネットを活用しましょう。
まず、定訳や決まった表記がないかどうかを調べます。Googleでは、原語を入れて、「日本語のページを検索」ボタンをクリックすると該当の表記がでてくることがあります。複数のページで異なった表記にヒットした場合は、それぞれの候補について日本語で検索し、ヒット数やそのサイトが信頼できるかどうかを検討してから、どれを使うかを決めるのがよいでしょう。
また、「人名」「辞典」などのキーワードで検索すると、オンライン辞書がたくさんヒットします。著名人であれば、カタカナ表記もほとんどヒットしますし、アラビア語人名辞典など、英語以外の人名表記などの情報もあります。
それでも候補が絞れなかったり、表記が不明な場合は、仮訳で作業をすすめて申し送り事項とし、編集者やクライアントと相談して最終的な判断をします。インターネットを駆使して必要な情報を探し出す「検索術」も大切な翻訳技術のひとつです。ぜひご自分でいろいろとトライして、効率のよい方法を探してくださいね。
また、「外国人名辞典」(三省堂)など、出版されている資料もありますので、手元や近くの図書館にある場合は、活用してみましょう。
<質問2> on behalf が2か所でてきます。「私たちのために……行われている」とすると「私たちの利益のため」か「私たちが原因で」と両方の意味にとれてあいまいな(わかりにくい)気がします。
<回答>
「〜のために」という表現は、おっしゃるように両方の意味に使われることがあります。でもこの場合、「私たちが原因で商業活動が行われている」というのは、漠然としていませんか?(より具体的に「私たちの果てしない欲望が原因で」となっていれば、そう解釈ができると思いますが)この場合は、文の流れからしても「私たちの利益のために」という意味にとるのが自然ではないかと思います。もちろん、「私たちの利益のために」と明快に訳しても良いですね。
ただし、「原文に忠実に」ということは、原文の言葉をそのまま一語ずつ日本語に置き換える、ということでは必ずしもありません。
原文になるべくぴったりと沿いながら、自然でわかりやすい日本文にするのです。その結果、時として、原文とは対応しないように見える言葉が訳文に並ぶこともありますが、内容が「ぴったりと忠実に沿う」ことが大切なのです。
これを見事にこなすのはプロの翻訳者にとっても難しいことですが、どういうことかを実際に理解していただくには、上手な訳文、上手でない訳文をみながら、自分の中の「腑」を鍛えていかれると良いでしょう。
<質問1>パラグラフ1のour global impactsについて。解説では「われわれ人間が与えた影響」としていますが、私は「われわれの地球が受けた影響」と受身で訳していました。(5つの訳文も同じ様です)受身と能動では、全くニュアンスが違ってきますが、これは誤訳ですか?
<回答>
our global impactsの解釈は、この言葉だけを取り出してみても、文脈から考えても、どちらにしても「われわれが(地球に対して)与えた影響」となりそうですね。
まずour impacts の意味ですが、「われわれが与えた影響」ととるのが自然でしょう。「われわれの地球が受けた影響」という意味でしたら、impacts on (our) Earth とするほうが自然だと思います。たとえば、次のようなタイトルの本がありますので、参考にしてみてください。Our Ecological Footprint: Reducing Human Impact on the Earth Water Supply : Our Impact on the Planet
次に全体の文脈のなかで考えてみましょう。パラグラフ1で、our global impactsに言及したあとで、すぐに熱帯雨林が地球全体にとってどれだけ重要であるかを語っています。この流れの中だけでみてみると、「我々の地球が受けた影響」と訳しても自然に感じてしまうかもしれません。でも、全体の趣旨は、「熱帯雨林に住む原住民たちが先進国による環境破壊の直接の被害にあっており、先進国に住む私たちは、全員がその加害者であることに気づくべきだ」ということですから、「われわれが……」としたほうが、著者の意図が生かされますね。
そう考えれば、受身が前面に出た訳は、著者の意図とは異なり、誤訳となってしまうと思います。しかし、良いところに気がつかれましたね。その「気づき」を大切にすることが、翻訳の力を伸ばしていくコツです。細かく神経を行き届かせて、これからも正確で読みやすい翻訳をめざしていってくださいね。
パート1〜パート3まで全体の課題文とエダヒロ訳のファイルです。それぞれについて、こちらからご利用下さい。
Next Stage1 課題文
Next Stage1 エダヒロ訳
<質問> 翻訳の勉強について。Next Stageのように、ひとつの課題をじっくり取り組むほかに、読解力をつけるには、どのような方法がよいでしょうか。
<回答>
翻訳にとても前向きに取り組んでいらっしゃいますね。
読解力をつけるということは、時間と根気のいる仕事です。さらに翻訳の場合は、理解した英文を適切な日本文で表現しなければいけませんので、日本語の力も重要なポイントです。要点をまとめてみましょう。
1)英語の構文をとれないことがあるのでしたら、基本的な文法の学習書を1〜2冊仕上げてみましょう。大学入試や英検の読解問題(解説付き)に取り組んでみるのもよいでしょう。
2)日常的に英字新聞や雑誌を読んだり、興味のある分野の原書を読むことにより、英文や英語文化に自然に親しむことができます。
3)翻訳書の原書と翻訳をつき合わせて読んでみましょう。ただし、翻訳本の場合、編集上の都合などにより、必ずしも原文どおりではないこともあるので、どの本を選ぶかは、何ページか対照してから選ぶなど、注意したほうがよいでしょう。関心のある分野なら、勉強もかねて有益な勉強になると思います。
4)お手本にしたいと思うような日本文を口に出して読んでみましょう。文章を耳で確認するのは、よい方法です。
5)日本語の本や新聞を読んだときに、これと思う言葉や表現、文章のつなぎ方などがあったら、ノートに書きとめておくといいでしょう。
6)自分の中に「表現のたくわえ」を増やす一方で、それを使う練習もしましょう。たとえば、次のような方法があります。
・定期的に日記やエッセイを書いて日本語の表現力を磨く。
・ある英文を2〜3タイプの和文に訳し分ける練習をする。
7)実際に訳すとき、一度作った訳文の「意味」を取り出して、「この意味を別の言葉で言うとしたら、どういう言葉を使うかな?」と考えてみるのも良いと思います。
パート3のヒトリゴト解説です。こちらからご利用下さい。
<質問> 悩みに悩んだ末、結局英文の解釈を間違ってしまいます。辞書を丹念に調べる以外にも何か解決方法はありますか。
<回答>
解釈をまちがえる原因はいろいろありますが、主なものを考えてみましょう。
(1)単語の意味を理解しているつもりでいても、正確に理解できていない。
(2)構文がとれていない。
(3)それが慣用句・熟語であることに気づいていない。
(4)文脈の理解が足りない。
(5)英文の表現や発想になれていない。
(6)背景知識がたりない。
次に、原因別に一般的な対策を考えてみましょう。
(1)辞書を丹念に調べているつもりでも調べかたに問題はありませんか? 訳語をみる時は次の点に注意しましょう。
・文中で使われている品詞(名詞、形容詞、副詞、自動詞、他動詞など)と同じ品詞のところを見ているか。
・前置詞との組み合わせによって意味が変わらないか。
・名詞の場合は冠詞や可算・不可算、単・複の問題も注意してみましょう。
・例文も確認しましょう。
場合によっては複数の辞書を調べます。できれば、英英辞典もみると、訳語だけみたのではわからない、その言葉の定義が明確にわかります。
(2)文法のおさらいをしましょう。文法の知識は、構文の理解というだけでなく、 多くの点で助けとなります。カンに頼って訳すのは危険です。
(3)いくつか、キーワードを変えて、辞書やインターネットなどで調べてみましょう。
(4)文法的にまちがいはなくても、解釈を誤ることがあります。自分が作った訳文を何度も読み返してみて、話の流れに矛盾や無理がないか、よく考えてみましょう。読んでみて、ひっかかりを感じて間違いを発見することも少なくありません。
(5)日ごろから、新聞・雑誌・小説などで、英文に親しむようにしましょう。
(6)やはり、日ごろから英字新聞・雑誌・小説などに親しむことによって、自然に英語圏の文化が理解されます。また、Googleで調べると、いろいろな分野の背景知識が得られます。
英文をまちがえずに解釈することは、プロにとっても難しいことです。(1)〜(6)までの中に、自分の苦手なことや、やったことのない項目があれば、ぜひトレーニングでも意識して取り組んでみてくださいね。
<質問> 訳す以前に辞書の使い方が下手です。辞書は最低何冊くらいいりますか? また、何年くらい使うことができますか? インターネットはどのように使ったらいいですか?
<回答>
現在は紙の辞書、CD−ROM, 電子辞書、ネット上の辞書など、さまざまな媒体がありますので、目的と用途を考えていろいろと試してみて、自分に合った方法を探すのが一番よいと思います。残念ながら「何冊あれば大丈夫」とは言えませんし、言葉は時代とともに変わるもので、「何年使える」という基準はありません。第1回でご紹介した翻訳に役立つリソース集では、代表的なものを取り上げましたが、それぞれ一度書店で手にとって、実際に読んでみましょう。
紙の辞書は、解説や用例、文法的な説明などをていねいに読んで学習したい方に向いています。訳語の数よりも解説が分かりやすいかどうかを基準に選ぶとよいと思います。パソコンでの検索用にCD化されている辞書もたくさんありますね。
電子辞書は1つに数冊の辞書が入っていますし、持ち運びに便利です。こちらもいろいろな種類が各社からでていますので、家電店などで実際に手にとって比較してみてはいかがでしょうか。
インターネットでも、無料の辞書がたくさん公開されています。新しい言葉の検索や訳語の多さという点では、一番使いやすいでしょう。代表的なものは、アルクのオンライン辞書「英辞郎」がありますが、言葉の由来や使われ方など、解説はくわしくありませんので、他の媒体とあわせて使用することも必要となります。
また、辞書ではありませんが、Googleなど、検索サイトも便利です。一例ですが、英語を入力して、「日本語のサイトから探す」をチェックすると、その英語に対応する日本語が出てくることがあります。その中から、翻訳中の英文に近い分野の文献を選び、その分野で使用されている表現を研究することができますし、訳語だけではなく、背景知識を得ることもできます。
いろいろと試して、自分が一番やりやすい方法を探していきましょう。
パート2のヒトリゴト解説です。こちらからご利用下さい。
次のファイルはパート2の5つの訳文です。PDFファイルになっていますので、ファイル名をクリックして表示させ、プリントアウトしたものをご用意ください。
<質問> 専門用語がわからない場合の調べ方を教えてください。
<回答> リーダーズ、リーダーズ・プラス英和辞典やアルクのオンライン辞書「英辞郎」など、辞書で引けるものもありますが、他に、最も一般的なのは、Googleで検索することでしょう。英語の訳語を知りたい時は、その英語をキーワードとして入力し、「日本語のページを検索」すると、その訳語を使ったURLがヒットする可能性があります。
それで見つからなければ、「ウェブ全体から検索」をし、その意味が理解できそうな英文を探し、自分なりに訳語を考えてみて、その言葉をキーワードとして改めてGoogleで検索して確かめます。訳語だけでなく、背景知識を知りたい時も、Googleは役に立ちますよ。
パート1のヒトリゴト解説です。こちらからご利用下さい。
<質問> 訳文の練り上げに時間がかかってしまいます。短時間に効率よく練り上げる方法はあるのでしょうか。
<回答>
A:エダヒロが「初訳」と「練り直し」にかける時間の割合は、1:5か1:6ぐらいです。つまり、最初の訳文を作る時間の5〜6倍の時間をかけて、ゆっくりじっくりと練り上げています。練り直し・練り上げは、翻訳の完成度を左右する重要なプロセスですから、時間をかけずに進めるのは難しいのではないでしょうか。短時間で要領よくできるにこしたことはないでしょうが、誤訳やこなれない表現が残っているとしたら、完成度が落ちてしまいますよね。また、ある単語や文章を、ああでもない、こうでもない、と考えて選んで組み立てていくプロセスこそが翻訳の醍醐味でもありますので、ここを楽しまずに流れ作業のように終えてしまうのはもったいない気もします。
とはいえ、時間は有限ですので、限られた時間の中で質の高い文章に仕上げる力を普段から蓄えておくことが大切でしょう。例えば、1)日本語の本や新聞を読んで、あっと思った単語や表現をノートに書き留めていく、2)定期的に日記やエッセイを書いて日本語の表現力を磨いておく、3)ある英文を2〜3タイプの和文に訳し分ける練習をする、など自分の引き出しを増やす努力をしておきましょう。
練り直しの時に、訳文を縦書きでプリントアウトしたり、声を出して読み上げてみるのも、質を高める助けになります。いろいろな方法を試して、自分に合うやり方を探してみてください。
次のファイルは5人が訳した5つの訳文です。PDFファイルになっていますので、ファイル名をクリックして表示させ、プリントアウトしたものをご用意ください。
PDF中の5つの訳文は、みなさんと同じように翻訳を勉強中の人や、少し仕事がもらえるようになってきた駆け出しの翻訳者など、さまざまなレベルやタイプの方の実際の翻訳例です。したがって解釈の間違いや表現の誤りなども含まれていることにご注意下さい。
翻訳に役立つリソースを集めました。
それぞれ、書籍、電子辞書、CD-ROMなどで提供されています。翻訳には、CD-ROMをコンピューターのハードディスクにインストールし、辞書検索ツール(下記参照)を使って、一括検索ができると便利です。辞書によっては、オンラインで無料公開されているものも多数あります。
実際にいろいろ試してみて、自分にあったものを探してみてください。
なお、ここで紹介した書籍、ウエブサイト、ソフトウエアを利用される場合は、必ずそれぞれの内容や規約を確認して、自己責任でのご使用をお願いします。
英和辞典
・ランダムハウス英和大辞典 (小学館)
・リーダーズ英和辞典 (研究社)
・リーダーズ・プラス(研究社)
・ジーニアス英和大辞典(大修館)
・ビジネス技術実用英語大辞典(日外アソシエーツ)
・新編英和活用大辞典(研究社)
・英辞郎(アルク)
・英辞郎 on the Web (http://www.alc.co.jp/)
英英辞典
・COBUILD English Dictionary
・Oxford Advanced Learner's Dictionary (無料検索サイト:http://www.oup.com/elt/catalogue/teachersites/oald7/)
・Longman Dictionary of Contemporary English (無料検索サイト:http://www.ldoceonline.com/)
検索サイト
・Google (http://www.google.co.jp)
・翻訳者のためのインターネットリソース(http://www.kotoba.ne.jp/)
・ライフサイエンス辞書プロジェクト(http://lsd.pharm.kyoto-u.ac.jp/ja/)
辞書検索ツール
・DDWIN (http://homepage2.nifty.com/ddwin/)
・Jamming(http://dicwizard.jp/jamming.html)
・PDIC(http://homepage3.nifty.com/TaN/)
日本語表記参考資料
・記者ハンドブック (共同通信社)
・日本語の正しい表記と用語の辞典 (講談社)
・類語国語辞典 (角川書店)