« 2009年09月 | メイン

2009年10月22日

第10回 日本語リライト演習

こちらのファイルには、日本語リライト演習の課題文と、リライト文が3点入っています。ダウンロードして、それぞれ自分が作成したリライト文とくらべてみましょう。どの表現が自分の「腑」に落ちるか、感じながら読みくらべてみてください。

NS3Rewriting.pdf


第10回 質問(6)

<質問6>
第6パラグラフの「community actors」という言葉も簡単なようで訳しにくい単語でした。「地域の当事者」という意味はわかるのですが、あまりしっくりきません。「地域社会の住民」としてしまっては弱いでしょうか。

<回答>
「actor」は英和辞典では、「俳優」のほかに「行為者」「関係者」などという訳語が紹介されていますね。この課題の原書は「システム思考」をベースにしていますが、この分野では、「actor」は「実行者」と訳されることが多いようです。おそらく「actor」の意味・訳語を調べた上で「住民」とする方が自然ではないかと思われたのでしょうが、そうすると意味が変ってしまうと思います。

ここでは、ランドルフでの一連の出来事を例に挙げて、その件に関わる人々を中心に話を展開しています。「all the community actors」とは、その直前の文章「The original action . . . individual action」が言及している当事者全員、つまりスケボー少年たち、中心街に買い物に来る年配者たち、中心街の商店主たち、自治体の役人たちなど、円を描いている動きに直接関与した人びとをさしており、この町の住民全員をさすわけではありません。

「この地域社会の住人はみな」とすると、住民全員がこの件に直接関わっていると受け取れます。

ちょっとした言葉の使い方で意味が異なってしまうことは、よくあることです。これからも、このように細かいところに引っかかるという心配りを大切にしていってください。

第10回 質問(5)

<質問5>
時制の訳し方/とらえ方についてお尋ねします。原文は過去形(現在形)でも、場合によっては、自然の流れの日本語を求めて現在形(過去形)で訳してもいいのでしょうか。今回迷う箇所がありましたが、エダヒロ訳にも原文の過去形を現在形(その逆も)で訳出している箇所が見受けられました。この辺のさじ加減のコツを教えて下さい。

<回答>
まず、英文でも日本文でも、過去のことを必ず過去形で表現するとは限りません。過去のことを現在形で語ると、臨場感が出る、その時だけのことではないというニュアンスが出る、文章が引き締まった感じになる、などの効果がありますね。

従って、過去形の英文を現在形で訳す場合もありますし、逆に、過去のことを現在形で語っている英文でも、過去形で訳したほうが流れが良い、あるいは、単なる好みで過去形で訳出する場合もあります。

つまり、このような場合の時制は、文章の内容が読み手に正確に伝わる限りは、どちらで表現するのも自由だと言えるでしょう。

ただし、今回の課題は評論文ですので、臨場感をどこまで出すかは好みの問題と言えそうですが、これが物語や小説であれば、過去形で書かれた文章でも現在形で訳さないと読者を引き込むことは難しいでしょう。そのあたりのさじ加減が翻訳の難しさであり、面白さでもあります。

第10回 質問(4)

<質問4>
Some examplesなど「some」や名詞の複数がでてきた場合の訳語に迷います。「いくつも」「いくつか」またはあえて複・単数を表現しないなど何か判断する基準や訳出のコツをお教え下さい。

<回答>

複数・単数を表現するかしないかの判断基準は、複数であることを明確にしなければいけないか、あるいはしたほうが良いか、否か、です。その判断は、翻訳者にゆだねられています。基本的には、翻訳は原文に忠実であることが求められるので、わずかでも複数であることを知らせたほうが良い理由があるのでしたら、複数として訳したほうがよいでしょう。

訳し方ですが、特に「コツ」といえるものは、残念ながらありません。翻訳者がいかに豊富な語彙を持っているか、そしてその文章にふさわしい言葉を選択できるか、にかかっています。複数を表現する方法は、多種多様です。「いくつか」「いくつも」の他に、「さまざまな」「いろいろ」「あれこれ」「など」、あるいは、「中には〜」「〜の中には」とする方法もあります。また、語尾で「〜もある」とまとめる方法もあります。それぞれにニュアンスや雰囲気の違いがあり、使い方の違いがあります。日本語って本当に奥が深いですね! いろいろと使いこなせるようになるとよいですね。

第10回 質問(3)

<質問3>
「There are several examples in this story of different community needs driving system. 」について。主語、述語の関係が今一つわかっていない気がしましたが、この「in this story」と「of different 〜」はどうつながっているのですか。ここの主語は different community needs と考えましたが、それは間違いでしょうか。

<回答>
「There is 構文」の場合、主語は、there is(are)のあとに続く名詞です。従って、この文章の主語は、several examplesです。

of different community needs driving systemは、主語の several examplesを修飾し、「システムを動かす様々な地域社会のニーズの幾つかの実例」という意味になります。本来several examples のすぐ後に置くべきものですが、ここでは、動詞のare(「存在する」という意味)を修飾するin this storyが、間に挿入されているのです(ちなみにdriving systemは、different community needsを後ろから修飾しています)。

従って、この文章は次のように書き換えることができます。
There are several examples of different community needs driving system in this story.

構文がとれないと、正確な意味がつかめず、不正確な訳文になってしまいますね。英語の構文を解説した学習書がたくさん出ていますので、もし必要だと思われたら、基本に一度立ち返ってみて下さい。

第10回 質問(2)

<質問2>
第4パラグラフの最後の文章は「our interest」ではなく「their interest」となっているので、会話の一部というよりは地の文だと思います。会話の一部として訳さない方がいいと思うのですが、いかがでしょうか。

<回答>
「メール講座Next Stage2」では、「原文になくても効果的な場合は、会話体をうまく利用する」ということを学習ポイントのひとつとして取り上げましたね。今回もそのような場面がいくつかあると思います。ご質問の部分も、解説で取り上げていますが、会話体にすることによって若者達のブツブツ言う声が聞こえてくるような感じがしませんか? 特に、そのまえのAfter allで始まる一文が、明らかに会話文の形で書かれているので、Furthermoreでつながる次の部分も同じように会話文として訳すことは、自然な流れともいえるでしょう。

ただし、ここを「会話文として訳すべき」ということではありません。全体のトーンにもよりますし、だれの立場で語っているようにするかで変ってきますよね。ここでのエダヒロ訳は、若者達の感情の動きに沿って訳す、という形にしてみましたが、もちろんtheir をtheir として(つまり若者を外から見る立場として)訳す方法もあります(そのほうが多いでしょうね)。この翻訳トレーニングでは、「原文に忠実に訳す」ことが大原則ですが、この大原則をはずさずに原文をより効果的に伝えるテクニックとして、このような「冒険」もぜひ試してほしいというメッセージも込め、この訳文を選んでいます。

第10回 質問(1)

<質問1>
第1パラグラフ 「The town had gone to〜」と過去完了を用いているのは、「かつてこういうことがあった」というニュアンスを加えるためですか? それとも別の意味があるのですか?

<回答>
ここではランドルフで起きたことが過去形で語られています。歩行者用設備が作られたのはそれ以前であり、問題が起きたときには、設備はすでに完成していたので、この部分は過去完了形になっています(英語では時制が細かく区別されます)。特別なニュアンスを追加するためではありません。

第10回 課題文とエダヒロ訳

パート1からパート3までの課題文とエダヒロ訳のファイルです。それぞれについて、こちらからご利用下さい。

Next Stage3 課題文
NS3English.pdf


Next stage3 エダヒロ訳
NS3Edahiro.pdf

2009年10月15日

第9回 Q&A

<質問>
翻訳の勉強も進んできたので、そろそろ少し仕事をしてみたいと思いますが、どこから始めてよいかわかりません。なにかアドバイスをいただけませんか?

<回答>
「翻訳の仕事」といっても、分野(ビジネス、出版)、就業形態(在宅、オンサイト勤務)などによって、求められる力も違えば、仕事の探し方もさまざまです。

「翻訳」「仕事」というキーワードでインターネットを検索してみるといろいろな情報がありますので、まずは自分がどのような仕事をしていきたいのか、調べてみましょう。

求められる仕事の形態も内容も本当にいろいろです。ブログを書いている翻訳者さんもたくさんいらっしゃるので参考にしてみてくださいね。

仕事を探す方法としてよくあげられるのは、

(1)翻訳者として企業に就職(派遣)する。
(2)在宅翻訳者向けのトライアルを受けて、翻訳会社に登録する。
(新聞広告、インターネットにもたくさんでています)
(3)知人、友人の紹介

などがあります。

(1)、(2)は、方針が決まったら片っ端から自分のできそうな仕事、興味のある分野の仕事にチャレンジしていくことも可能です。

仕事を探す中で、その分野で必要な力や求められる経験、専門知識などが分かると思います。トライアルの文章を見て、歯が立たないと感じられるようでしたらもっと実力をつけてからということになるでしょう。

翻訳者(翻訳志望者)の勉強会や交流会へ参加してネットワークを広げることで、(3)のような仕事の機会に結びつくこともあります。オンライン、オフラインいろいろなネットワークがありますので、探してみてはいかがでしょうか?

ただし、エージェントの立場から見てみると、たとえトライアルに合格できるだけの力をお持ちの方でも、専門分野や経験がなければなかなか仕事の依頼はしにくいという実情があるようです。最初から有償の仕事を探すのではなく、まずは勉強会への参加やボランティア活動などで経験を積んで実績をつくるのも一案です。

いずれにせよ、プロの翻訳者として大切なことは、「受けた仕事の期限を守り、調べ物をおろそかにせず、相手の要望に合った質の高い訳文を提供できるよう、ベストを尽くすこと」です。がんばってください!

第9回 パート3解説

パート3の解説です。こちらのURLからPDFファイルをダウンロードしてください。

NS3-9kaisetsu.pdf

2009年10月08日

第8回 パート3 5つの訳文

次のファイルはパート3の5つの訳文です。PDFファイルになっていますので、ファイル名をクリックして表示させ、プリントアウトしたものをご用意下さい。

NS3-8yakubun.pdf

2009年10月01日

第7回 Q&A

<質問>
翻訳通信講座を受けてみて、翻訳力とは日本語表現力であると痛感しました。そこでお聞きしたいのですが、特にこの人の文章が好きだと思われる(日本人の)作家の方はありますか。又、日々日本語力を磨く練習として、お手本にされているような文章、意識してこれだけはやっているということはありますか。

<回答>
おっしゃるように、日本語の表現力は翻訳を支える大きな力ですね。

特にこの人の文章が好き、という作家さんがいるわけではないのですが、本はいろいろな分野のものをよく読みますし、読みながら感じるもの(表現が硬いな、ちょっとピンと来ないな、これはわかりやすいな、など)をつねに自分のどこかで確認しながら読んでいるみたいです。

日本語を磨く練習は、「口に出す」ことです。耳で確認する、というのかな。いくつか練習法をアドバイスしましょう。

お手本にしたいと思うような日本文にたくさん触れることで、何が良い日本文なのかを感じ取る「感覚」が自分の中に形成されると思います。

日常生活の中でも、日本語の本や新聞を読んで、これと思う言葉や表現、文章のつなぎ方などをノートに書き留めていくといいと思います。そうして「蓄え」を増やす一方、それを使う練習もします。例えば、
・定期的に日記やエッセイを書いて日本語の表現力を磨く
・ある英文を2〜3タイプの和文に訳し分ける練習をする
などの方法が効果的です。このように、日頃からインプットとアウトプットを繰り返すことにより、ボキャブラリーは確実に増えていくと思います。

また、実際に訳すときには、一度作った訳文の「意味」を取り出して、「この意味を別の言葉で言うとしたら、どういう言葉を使うかな?」 と考えてみるとよいと思います。言葉磨きは、地道な努力を続けることが必要です。いろいろと試してみてください。