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食料品の値上げの理由に、海外で起きた長雨や干ばつ、戦争・内戦の影響による「原材料の高騰」があげられることがあります。日本国内で生産される食料が少なければ、それだけ海外の値上げの影響を深刻に受けることになります。そこで、今回の「データを読む」では、日本の食料自給率について、年次推移や国際比較、その背景にある産業構造の変化に関するデータを紹介します。
2021年の食料自給率は38%
農林水産省によると、基礎的な栄養価である熱量(カロリー)を元に計算するカロリーベースの日本の食料自給率は、2021年時点で38%です。この数字は、国民1人1日当たりに供給しているカロリーに対する国産のカロリーの割合を示しています。つまり私たちに供給されているカロリーのうち、38%が国産、62%は輸入に頼っているということです。
この38%という数字は、世界と比べると高いでしょうか。それとも低いでしょうか。図1は各国の食料自給率です。グラフを見ると、カナダやオーストラリア、フランス、米国では食料自給率は100%を上回っていることがわかります。こうした国々は、食料を輸出している国です。ドイツやスペイン、スウェーデンは80%台です。それに対して日本(38%)と韓国(35%)の食料自給率は特に低いことが分かります。
日本も、昔から食料自給率が低かったわけではありません。図2は、1965年から2021年までの日本の食料自給率の推移を示したグラフです。グラフを見ると、高度経済成長期の只中の1965年には食料自給率は73%あることがわかります。ところが高度経済成長期が終わる1973年には55%と10年足らずの間に18ポイントも減少しています。その後も食料自給率は減少を続け、1990年代後半からは40%あたりで推移しています。
減り続ける農業従事者と高齢化
高度経済成長期に食料自給率が低下したことには、日本の産業構造の変化が大きく関係しています。図3は、1920年から2020年までの、各産業の労働者の割合をしましたものです。1920年には54.9%と半数以上を占めていた第一次産業(農林漁業)の従事者は、第二次世界大戦後、特に高度経済成長期に大きく減少しています(青色の線)。その後も減少傾向に歯止めがかかることはなく、2020年には3.5%にまで減少しています。その一方で、高度経済成長期には、第二次産業(製造業など)と第三次産業(サービス業など)の人口の割合が増えています。
農業従事者の高齢化も深刻です。図4をみると、農業従事者の人口が減っているだけではなく、高齢化が大きく進行していることもわかります。2005年の段階でも57.4%を占めていた65歳以上の基幹的農業従事者(仕事として主に自営農業に従事している者)は、2020年には69.6%とほぼ7割に達しています。
海外から安い食料を購入できることは、消費者としてはありがたいことかもしれません。ただ、食料輸出国も、食料不足になれば自国民向けの食料を優先するでしょう。気候変動や戦争、内戦など現代社会は多くのリスクを抱えています。「自分たちが食べるものは自分たちで生産する」ことを、もう一度考える必要があるのではないでしょうか。
(新津 尚子)
参考文献
総務省「国勢調査」
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00200521&result_page=1
農林水産省「食料自給率・食料自給力について」
https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/011_2.html
農林水産省「令和3年度 食料・農業・農村白書」
https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/r3/index.html
「農業が温暖化を解決するとは? リジェネラティブな農業とは?」