ホーム > データを読む > 平成の生活満足度の状況は? 経済危機の影響は限定的

データを読む

41

平成の生活満足度の状況は? 経済危機の影響は限定的

社会
経済
2019年12月23日 作成
平成の生活満足度の状況は? 経済危機の影響は限定的

令和の始まりという節目を迎えた2019年も、いよいよ終わろうとしています。この機会に、バブル崩壊とリーマンショックという大きな経済危機があった平成の時代、人々の暮らしはこれらの出来事にどのように影響を受けたのかを振り返ってみましょう。

今回は、平成の2大経済危機であるバブル崩壊とリーマンショックが、生活満足度、完全失業率、GDPの増加率にどのように影響しているのかを分析しました。なお、バブル崩壊は平成が始まって間もない1990年代初頭に、世界同時不況(リーマンショック)は2008年(平成20年)9月にリーマン・ブラザーズ・ホールディングスが経営破綻したことが引き金となって起こりました。

 
 
経済危機の影響をうけない生活満足度、大きく受ける完全失業率とGDP

経済危機の生活満足度への影響は限定的

図1は、内閣府の「国民生活に関する世論調査」による生活満足度のグラフです(満足は「満足している」「まあ満足している」、不満は「やや不満だ」「不満だ」を足した値※)
※ただし、1991年までは、満足は「十分満足している」「十分とはいえないが、一応満足している」、不満は「まだまだ不満」「きわめて不満だ」を足した値

grh_20191223_02.jpg

平成の「満足」の推移をみると、(1)平成初期(1989年から1995年)は高め、(2)中頃(1996年から2006年辺り)に一度下降し、その後(3)後期は上昇していく、という3つの期間にわけることができます。バブル崩壊との関わりでは、バブル崩壊から少し経ってから生活満足度は下降しています。一方で、リーマンショックが起きた2008年は生活満足度が緩やかに上昇している時期にあたり、リーマンショックによるマイナスの影響は見られません。

 
経済危機の影響を大きく受ける完全失業率とGDP増加率

それに比べると、完全失業率(図2)とGDP増加率(図3)は、バブル崩壊とリーマンショックの直後に、数値が大きく変動しています。特に変動が大きいのはリーマンショック後です。完全失業率はリーマンショック直後に1ポイント以上上昇し、GDPの増加率は一気にマイナスに転じています。生活満足度がリーマンショックの影響をまったく受けていないのとは対照的です。

grh_20191223_03.jpg
grh_20191223_05.jpg

 
 

幸福に影響するとされる「非地位財」とは?

今回のデータからは、経済危機のうちリーマンショックが生活満足度に与える影響はほとんどなかったことがわかりました。つまり経済危機だからといって、生活満足度が低くなるとは限らないのです。経済危機や完全失業率、GDPの増加率は、私達の生活満足度に大きく影響すると思われがちなだけに、意外な結果かもしれません。この理由を考える際に参考になる考え方として、ダニエル・ネトル氏の「地位財」と「非地位財」の議論を紹介します。

前田隆司氏によると、地位財とは、所得、社会的地位、物的財のような「周囲の人と比較できるもの」です。それに対して、非地位財とは、健康や自主性、社会に属している意識のような、「他人が持っているかどうかとは関係ないもの」です。そして、地位財による幸福はあまり長続きしないのに対し、非地位材による幸福は長続きします。収入が増えたり、昇進したりするとそのときは嬉しくても、その幸せはあまり長続きしません。それに対して、非地位財は、個人の安心・安全な生活のために重要なものであり、非地位財を手に入れたことによる幸せは長続きします。

そう考えると、「生活満足度には所得や物的財(車や家を持っているなど)の地位財以上に、自主性や居場所などの非地位財が関係している」ことが推測できます。このことこそが、経済面があまり生活満足度に影響しない一つの理由なのではないでしょうか。

もちろん、失業すれば、収入(地位財)を失うだけではなく、やりがいや居場所(非地位財)も失いますから、失業者を大量に出す社会は、生活満足度や幸福度も低いでしょう。また、一人ひとりに仕事があることは非常に重要で、全体的な満足度の高低に関わらず、軽視されるべきではありません。

しかしその一方で、生活満足度がリーマンショックの影響を受けていないことは、「国の経済状況が悪いと、みんなが不幸になる」という考え方が、必ずしも正しくないことを示しています。令和という新たな時代、そして2020年は、「幸せになるためには、経済の発展が必要」という固定観念から脱却し、「幸せに暮らすこと」と「国全体の経済発展」が切り離されて議論される時代になるかもしれません。

 

参考文献
ダニエル・ネトル,2007,『目からウロコの幸福学』オープンナレッジ
前田隆司, 2013, 『幸せのメカニズム』講談社

(新津 尚子)

 

このページの先頭へ

このページの先頭へ