ホーム > データを読む > 国際的に突出して低い日本企業の能力開発費

データを読む

39

国際的に突出して低い日本企業の能力開発費

2019年01月29日
社会
 
国際的に突出して低い日本企業の能力開発費

厚生労働省が2018年10月1日に発表した「平成30年度 労働経済の分析」のページをめくって、すぐに気になったのが、「GDPに占める企業の能力開発費の動向」のグラフでした。

[図1]GDP(国内総生産)に占める企業の能力開発費の割合の国際比較について

p1-2.jpg

出典:「平成30年度 労働経済の分析」(厚生労働省)

能力開発費とは、企業が社員の研修にかける研修費のことです。ここでいう能力開発には、職場の上司や先輩が日常的に指導する"OJT"研修は含まず、社内外を問わず職場を離れて受講する"OFF-JT"と言われる研修費用を対象にしています。 

グラフをみると、日本の能力開発費の割合は、欧米5か国に比べて突出して低いことがわかります。他の国々がGDPの1%以上を投下しているのに対して、日本のその割合は0.1%と、10倍以上の開きがあります。実際の投資額を米国と比べてみましょう。 

能力開発費への投資の割合が一番高い米国は、2010-1014年の米国の実質GDP平均を計算すると約16兆2063億USドル/年です(計算を簡単にするために、1USドルを100円換算として計算すると、約1620兆6300億円/年)。米国はGDPの2%を能力開発に投資しているので、単純に計算すると、投資額は3241億USドル、約32兆4100億円となります。 

一方、日本の同時期の実質GDPは、約500兆3499億円/年 ()で、能力開発費への投資は0.1%なので、5003億円です。日本の実質GDPは米国の約1/3ですが、能力開発投資は米国の約1.5%しかないことになります。 
  IMFのWorld Economic Outlook Databaseから引用し、平均値を計算

この現状に対して、国もその問題意識を以下のように述べています。

「国際比較によると、我が国のGDPに占める企業の能力開発費の割合は、米国などと比較し、突出して低い水準にあり、経年的にも低下していることから、労働者の人的資本が十分に蓄積されず、ひいては労働生産性の向上を阻害する要因となる懸念がある」

(この後、産業間や企業規模間での違いなど、かなり詳細な分析が続くので、ご関心のある方は「平成30年度 労働経済の分析」を参照してください)

[図1]は2014年までの時系列データですが、この後どう推移しているでしょうか。同書では厚生労働省の「能力開発基本調査」からの引用によるデータが示されています。

[図2]一社当たりの能力開発費の推移と人手不足との関係などについて

p2.jpg

出典:「平成30年度 労働経済の分析」(厚生労働省)

[図2]からは能力開発費の下限が2014年に底を打ち、増加に転じている様子が分かります。

この時期は、人手の過剰感から不足感へ転じる時期と重なっていることが、[図3]の雇用人員判断指数の動向を示すグラフから分かります(D.I.とは業界判断指数のことを指します)。2014年以降は、1990年初頭のバブル期に肉薄するくらい、人手不足感が高まっています。

[図3]雇用人員判断D.I.の推移

p3-2.jpg出典:「平成30年度 労働経済の分析」(厚生労働省)

厚生労働省の分析にも「人出不足などの影響もあり、近年、一社当たりの能力開発費については増加に転じている」と記載があり、[図2]からも確かにそのように読み取れます。しかし、能力開発費の上昇率と比較すると、海外との乖離を補うほどの勢いではなさそうです。

 そもそも、企業は何のために能力開発を行うのでしょうか。労働政策研究・研修機構の「多様な働き方の進展と人材マネジメントのあり方に関する調査(2018年)」のデータには、能力開発を行う理由について、厚生労働省が独自集計したデータが記載されています。

[図4]企業が人材育成を行う目的について

p4-1.jpg

 

出典:「平成30年度 労働経済の分析」(厚生労働省)

[図4]の「企業が人材育成を行う目的について」のデータを見ると、「今いる従業員の能力をもう一段アップさせ、労働生産性を向上させる」との回答が80%以上と、他を大きく引き離してトップでした。しかし、2位以降の回答については、「グローバルな経済活動・イノベーション活動の重要度が高まると考える企業」とそうでないと区分された企業に差があることが興味深く読み取れます。

 前者は、「数年先の事業展開を考慮して今後必要となる人材を育成する」や「数年先の技術革新に備えて、今後必要となる人材を育成する」といった未来に向けた事業成長を目的とする項目の割合が高いことがわかります。一方、後者では「従業員のモチベーションを維持・向上させる」や「今いる従業員が当面の仕事をこなすために必要な能力を身にさせる」といった目の前の課題解決を目的とした方針の割合が高いことが見てとれます。

 いま、日本はどの国も直面したことのない超少子高齢化の時代を迎えています。労働人口が減り、国内の市場規模が小さくなっていくなかで、各企業が今後の事業成長を支えるために、その時々の変化に対する対応型ではなく、中長期を見据えた能力開発計画をつくり、策を講じることは非常に重要だと考えられます。 

また、グラフに現れるデータではありませんが、企業における人事部の役割について、日本起業と外資系企業の違いに言及しておきたいと思います。多くの外資系企業では、企業トップであるCEO、そして財務部門トップのCFOに続く第三の役割として、CHRO(Chief Human Resource Officer)が重要視されています。CHROとは、「最高人材責任者」であり、経営陣として経営に参画する権限を持ち、経営戦略に基づいた人材戦略を立案・実行するなど、成長に向けた役割責務を担います。

これまでの日本企業の多くでは、人事部というと、採用、配属、異動、評価、給与計算、労務管理などの"管理"の色合いが強くみられます。今後を見据えて、企業の成長を支える人事部が戦略的な役割をとれるようにしていくこと、そして能力開発施策を強化していくことは喫緊の課題であると考えます。

(北見幸子)

 

< 引用・参考資料>

平成30年度 労働経済の分析 
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/18/18-1.html

多様な働き方の進展と人材マネジメントのあり方に関する調査(2018年)
https://www.jil.go.jp/press/documents/20180911.pdf

 

このページの先頭へ

このページの先頭へ