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つながりを読む

日本も2050年までに実質ゼロへ!

2020年10月31日

やっと日本も脱炭素シフトに本格的に舵を切ったようですね!

この10月26日の臨時国会での所信表明演説で、管総理は「温室効果ガス排出量を2050年までに実質ゼロ」とする目標を宣言しました。

ちなみに、これまでの日本の目標は、「2030年の温室効果ガス排出量を2013年比で26%削減」、「2050年までに80%削減」、「今世紀後半のできるだけ早期に脱炭素社会を実現することを目指す」というものでした。「実質ゼロ」と明確に打ち出すのは今回が初めてです。

菅首相の所信表明演説の当該箇所を見てみましょう。


~~~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~


このたび、第99代内閣総理大臣に就任いたしました。新型コロナウイルスの感染拡大と戦後最大の経済の落ち込みという、国難のさなかにあって、国のかじ取りという、大変重い責任を担うこととなりました。

(中略)

菅政権では、成長戦略の柱に経済と環境の好循環を掲げて、グリーン社会の実現に最大限注力してまいります。

わが国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします。

もはや、温暖化への対応は経済成長の制約ではありません。積極的に温暖化対策を行うことが、産業構造や経済社会の変革をもたらし、大きな成長につながるという発想の転換が必要です。

鍵となるのは、次世代型太陽電池、カーボンリサイクルをはじめとした、革新的なイノベーションです。実用化を見据えた研究開発を加速度的に促進します。規制改革などの政策を総動員し、グリーン投資のさらなる普及を進めるとともに、脱炭素社会の実現に向けて、国と地方で検討を行う新たな場を創設するなど、総力を挙げて取り組みます。環境関連分野のデジタル化により、効率的、効果的にグリーン化を進めていきます。世界のグリーン産業をけん引し、経済と環境の好循環をつくり出してまいります。

省エネルギーを徹底し、再生可能エネルギーを最大限導入するとともに、安全最優先で原子力政策を進めることで、安定的なエネルギー供給を確立します。長年続けてきた石炭火力発電に対する政策を抜本的に転換します。


~~~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~


首相の所信表明を受けて、いくつもの団体から声明が出されています。たとえば;

●JCLP(気候変動への対応に積極的に取り組む150社以上が参加する企業団体の日本気候リーダーズ・パートナシップ)
歓迎の意を表する声明および「2030年再エネ比率50%」などを掲げることを求める「エネルギーミックスの見直しに向けた提言」を公表
https://japan-clp.jp/archives/6630
https://japan-clp.jp/wp-content/uploads/2020/10/7098c11edc0488955e1b41bc8762e890.pdf

●気候ネットワーク
「2030年目標を50%以上へ大幅引き上げを~2050年温室効果ガスネットゼロ表明を歓迎~」
https://www.kikonet.org/press-release/2020-10-26/Japan2050GHGsnetzer

●WWF
菅総理「2050年温室効果ガス排出量ゼロ」表明を歓迎する
~実現には、2030年の削減目標の大幅引き上げが必須~
https://www.wwf.or.jp/activities/statement/4454.html

●自然エネルギー財団
「日本政府の2050年カーボンニュートラル宣言について」
2030年までの45%削減こそが必要
https://www.renewable-ei.org/activities/reports/20201026.php

この自然エネルギー財団の声明には、
―――――――――
英国、ドイツ、フランスなど欧州各国、カナダ、ニュージーランドなど他の先進国は、昨年までに既にこの目標を決めている。日本においても、昨年6月策定の「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」の中で決定すべきものであった。
―――――――――
とあります。

私自身「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」の委員の1人として、「カーボンニュートラルを打ち出すべき」との主張が通らず、忸怩たる思いをしておりました。

[enviro-news 2667] 第4回パリ協定長期成長戦略懇談会、自分の発言内容と論点整理 (2018.12.22)にはこのように書いています。
https://www.es-inc.jp/library/mailnews/2018/libnews_id009797.html

~~~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~

最終提言報告書のとりまとめに向けて、私が認識している論点は以下の5点です。
(1)「野心的な長期目標」の実際
「野心的な長期目標が必要」とのことはどの委員も賛同していますが、その具体
的な内容についてはまったく議論されていません。「ゼロ」をめざすと名言でき
るのか、年限を示すことができるのか、それとも、そのあたりを相変わらずふわっ
としたまま、「野心的な目標が必要」というかけ声で終わるのか。

~~~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~

結局この長期成長戦略懇談会では、このような形で提言がまとまりました。
「最終到達点として「脱炭素社会」という「未来社会像」を設定し、それを野
心的に今世紀後半のできるだけ早期に実現していくことを目指す。それに向けて、
2050年までに80%の温室効果ガス排出削減という長期目標を掲げており、その実
現に向けて、大胆に取り組む」
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/parikyoutei/index.html

パリ協定長期成長戦略懇談会提言
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/parikyoutei/siryou1.pdf

私なりの解説をメールニュースで発信しました。
[enviro-news 2684] 「パリ協定長期成長戦略懇談会」提言までの5回の会合の振り返りと主な論点 (2019.04.03)
https://www.es-inc.jp/insight/2019/ist_id009907.html

[enviro-news 2685] 「パリ協定長期成長戦略懇談会」提言のエダヒロ解説<内容編>その1 (2019.04.04)
[enviro-news 2686] 「パリ協定長期成長戦略懇談会」提言のエダヒロ解説<内容編>その2 (2019.04.09)
[enviro-news 2687] 「パリ協定長期成長戦略懇談会」提言のエダヒロ解説<内容編>その3 (2019.04.09)
[enviro-news 2688] 「パリ協定長期成長戦略懇談会」提言のエダヒロ解説<内容編>その4 (2019.04.10)
https://www.es-inc.jp/insight/2019/ist_id009910.html
https://www.es-inc.jp/insight/2019/ist_id009913.html


●サルテナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」
日本の「カーボン実質ゼロ」宣言、世界から周回遅れ
http://www.alterna.co.jp/32842
菅首相が宣言した「2050年までにカーボン実質ゼロ」が、2015年の気候変動枠組条約締約国会議「パリ協定」で合意したものであって、同条約事務局によると、「2050年までにカーボン実質ゼロ」を宣言した国はすでに120カ国に上る、と書かれています。

菅首相の所信表明演説への各党代表質問のやりとりから、「温暖化ガスの排出量を2050年までに全体としてゼロにする方針について、来年11月の第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)までに議論をまとめて報告する」、「再生可能エネルギーのみならず原子力を含めてあらゆる選択肢を追求する」などと述べています。

また、各省の取り組みも前進しそうです。小泉進次郎環境相は、「国立公園内で再生可能エネルギーの発電所の設置を促す規制緩和をする」と表明しています。

洋上風力を増やすために、経済産業省と国土交通両省が再生可能エネルギーを優先活用するルールを作るなど民間が投資しやすい環境を整える動きも追い風を受けて進みそうです。「今後10年で全国30カ所への拡大をめざす」と報道されています。

諸外国はどうでしょうか?

日本で管総理が「2050年までにネットゼロ」を打ち出した2日後、10月28日には韓国の大統領が「2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルの実現を目指す」と表明しました。

EUでは2019年にすでに同様の宣言を出しており、スウェーデンは2045年までに実質ゼロ、オーストリアやアイスランドは2040年までに実質ゼロ、フィンランドは2035年までに実質ゼロの目標を掲げているとのこと。世界的には「日本もようやく」という見方になりますね。

また、9月22日に、中国が「2060年までに実質ゼロ」という目標を打ち出しています。中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席が国連総会一般討論のビデオ演説で明らかにしたもので、「CO2の排出量が30年までにピークを迎え、60年より前に実質ゼロを実現するよう努力する」と述べています。

この目標に向けて、中国ではさまざまな施策や方針が打ち出されています。10月27日に、中国の自動車専門家組織「中国自動車エンジニア学会」が発表した「省エネルギー・新エネルギー車技術ロードマップ2.0」では、中国政府は「2035年をめどに新車販売のすべてを環境対応車にする方向で検討」「50%を電気自動車(EV)を柱とする新エネルギー車とし、残りの50%を占めるガソリン車はすべてハイブリッド車(HV)にする」とのこと。

このロードマップは工業情報化省の指導を受けて作成しており、中国の自動車政策はこのロードマップに基づいて実施される見通しとされています。中国の「従来型のガソリン車などは製造・販売を停止する方針」は、世界の自動車業界に激震をもたらしていることと思います。

また、日本では、総理が宣言するだけでなく、国会でも「気候非常事態宣言」を決議しよう!という動きが本格化しています。

「気候非常事態宣言」は多くの国や自治体で宣言されており、日本でも宣言する自治体が増えています。これまでの宣言はイーズのこちらのページにまとまっています。
https://www.es-inc.jp/ced/

国会では、自民、公明、共産など超党派の議員連盟が28日に総会を開き、決議文案を決めたとのこと。臨時国会で、衆参両院全会一致での採択をめざすそうです。これも脱炭素シフトに向けての大きな後押しとなることでしょう。

また、私も参加する「気候非常事態ネットワーク」(CEN)が11月に設立されます。
これは、自治体の脱炭素の動きを支援しようという有識者や経営者のネットワークで、脱炭素実現に向けた行動計画の策定と実行を後押ししようとするものです。東京大学の山本良一名誉教授と、サラヤの更家悠介社長が発起人代表で、私も発起人に名を連ねています。

山本先生の呼びかけがこちらにあります。
http://www.forever-green.jp/works_b/cen-message_by_yamamoto/

11月18日に設立総会、25日に設立記念シンポジウムが開催されることになっています。
シンポジウムの詳細とお申し込みはこちらからどうぞ!
https://events.nikkei.co.jp/31424/


私が最初に温暖化に関する政府の委員会に入ったのは、2007~08年福田内閣時代の「地球温暖化問題に関する懇談会」でした。当時は、なんとか「2050年に排出半減」以上のビジョンを盛り込みたいと、「あるべき姿」=バックキャスティングが大事と主張し、「そんなことをしたら経済の足を引っ張る」と反対する産業界の方々と議論を戦わせたのでした。

最終的には、「60~80%削減」という野心的なビジョンが文言としては盛り込まれましたが、12年間、もっともっと実態を進められたのになあ!と思います。

12年後に「もっともっと進められたのになあ!」と言わずに済むように、しっかり頑張らなくてはと思います。

また、「地球温暖化問題に関する懇談会」の提言作成時には、異例のことですが、委員有志が国民への呼びかけ文のたたき台をつくりました。末吉竹二郎さんと私が中心になってとりまとめたことを昨日のことのように思い出します。そして、12年たった今も、まったく同じ呼びかけ文が書けそうです。最後に掲載します。


~~~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~


平成20年6月16日
地球温暖化問題に関する懇談会提言
~「低炭素社会・日本」をめざして~
https://www.env.go.jp/council/06earth/y060-78/mat02.pdf

(前略)

4.日本の決意
そのため、日本は2050年までの長期目標として、総理が表明されたように、現状から60~80%の削減を目指す

(中略)

8.国民への参加の呼びかけ
低炭素社会への転換は、国民が賛同し、参加しなければ実現できない。その第一歩として、低炭素社会の姿を共有することから始めたい。低炭素社会の理想像を思い描くと次のようになる。

国際社会の努力で炭素の排出もようやく地球の吸収力の範囲内に収まり、温暖化の脅威は事実上消散している。未来世代へ安心して地球を引き渡すことができる安堵感で満ちている。

人々の生活を見ると、地産地消が広がり、将来の食糧への不安もやわらいでいる。再生可能エネルギーが飛躍的に利用され、エネルギーの安全保障に関する心配も遠のいている。リサイクルが徹底的に実施され、住居も最高の省エネが実現され、生活空間も快適そのものである。どこでも電車・バス・LRTなどの公共交通や、化石燃料に頼らない自動車が走り、多くの人々が自転車を安全に利用している。

長い間苦労してきた日本の農村や漁村、山村にも活気がよみがえり、人々に笑顔が戻っている。地方と都会との間にもお金や人の交流が盛んだ。日本列島が本当に一体となったようである。

そして、世界にもかつてない連帯感が広がっている。文字通り宇宙船地球号の乗組員になったのである。

孫の世代に、「大変だったと思うけど、よくやってくれたね。ありがとう」と言ってもらえるか、「なぜ、わかっていたのにやってくれなかったの? 私たちより大切で優先すべきものって、何だったの?」と問いただされることになるのか。その選択肢は、いま私たち一人ひとりの手の中にある。

こうした理想を実現すべく、私たちは今こそ動くべきである。


~~~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~


さて、管総理の宣言した「2050年までに実質ゼロ」に向けて、何が論点・課題になってくるかについては、別途整理してお伝えしたいと思います。

 

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