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「パリ協定長期成長戦略懇談会」提言のエダヒロ解説<内容編>前編

2019年04月04日
「パリ協定長期成長戦略懇談会」提言のエダヒロ解説<内容編>前編

出典:首相官邸ホームページ 平成31年4月2日 パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略策定に向けた懇談会

http://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/actions/201904/02kondankai.html

実際の提言がどのようにとりまとめられているか、私なりに解説する<内容編>をお送りします。

27ページからなる「パリ協定長期成長戦略懇談会提言」の構成はこのようになっています。

4月2日、私も委員を務める「パリ協定長期成長戦略懇談会」の第5回が開催され、提言を安倍首相に手渡ししました。それを受けての首相のお話はこちらにあります。

首相官邸のウェブサイトでの会合のレポート

この長期戦略懇談会が設置された目的は、「G20議長国として、パリ協定に基づく長期戦略を策定するにあたり、その基本的な考え方を議論し、新たなビジョンを策定する」ことでした。

提言とそのポイントの資料はこちらにあります。

パリ協定長期成長戦略懇談会提言
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/parikyoutei/siryou1.pdf

パリ協定長期成長戦略懇談会提言のポイント
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/parikyoutei/dai5/siryou2.pdf

前号では、各回の自分の発言を振り返り、懇談会で論点となった点をいくつか挙げました。

・野心的な長期ビジョンをどこに定めるのか
・パリ協定の2度目標より厳しい1.5度目標をどう位置づけるのか
・日本国内の排出量削減と海外の排出量削減への貢献をどう考えるのか
・石炭火力をどう位置づけるのか(国内、海外への輸出)
・カーボンプライシングをどう位置づけるのか

そのほか、私が強調したポイントは、以下などです。

・地域にとっての成長戦略でもあること
・人々の暮らし、豊かさ、幸せの視点の重要性
・汎用化のイノベーションの重要性

(前号はこちらからお読みいただけます)
https://www.es-inc.jp/insight/2019/ist_id009907.html


「パリ協定長期成長戦略懇談会提言」の構成

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

はじめに
 1.長期戦略の策定の必要性
 2.成長戦略としての長期戦略(総理指示)
 3.本懇談会の検討経緯

第1章 気候変動に関わる最近の情勢及び変化
 1.気候変動の深刻化
 2.IPCC 「1.5℃特別報告書」
 3.金融等ビジネスにおける情勢の変化
 4.SDGsの採択

第2章 長期戦略の策定に当たっての視点
 1.世界の目標に貢献するものであること
 2.環境と成長の好循環の実現に向けたものであること
 3.野心的なビジョンであること
 4.望ましい社会像への移行を示すものであること
 5.スピード感を持って取り組むものであること
 6.世界に貢献・発信するものであること

第3章:長期戦略に盛り込むべき特に重要な要素
 1.野心的なビジョン
 2.非連続なイノベーションを実現させる環境と成長の好循環
 3.望ましい社会像
 4.世界の脱炭素化努力への貢献

第4章:各分野の将来像及び最終到達点に向けた視点
 Ⅰ.エネルギー
  1.全般
  2.エネルギー効率向上
  3.電力
   (i)総論
   (ii)再生可能エネルギー/蓄電池
   (iii)分散型エネルギーシステム 
   (iv)石炭火力発電等 
  4.水素
  5. CCS・CCU、カーボンリサイクル
 Ⅱ.産業
 Ⅲ.運輸
 Ⅳ.地域・くらし

第5章:分野横断的な対策・施策
 Ⅰ.イノベーション
  1.分野横断的なイノベーションの必要性
  2.実用化・普及のためのイノベーション
  3.政策の方向性
  4.科学的知見の充実
 Ⅱ.グリーン・ファイナンス
  1.グリーン・ファイナンスの重要性
  2.政策の方向性
 Ⅲ.ビジネス主導の国際展開、国際協力
  1.ビジネス主導の国際展開、国際協力の重要性
  2.政策の方向性
 Ⅳ.その他
  1.人材育成
   (i)人材育成の重要性 
   (ii)政策の方向性 
  2.カーボンプライシング
  3.適応策
  4.公正な移行
  5.進め方とレビュー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

では「エダヒロのひと言解説」をつけながら、ポイントだと私が思うところを見ていきます。

<はじめに>
 1.長期戦略の策定の必要性

~~~~~~~~~~提言からの引用~~~~~~~~~~~

「(パリ協定の)全ての締約国は、温室効果ガスについて低排出型の発展のための長期的な戦略(以下「長期戦略」という。)を策定するよう努めることが招請されている。日本は、G7伊勢志摩サミットにおいて、COP21決定に基づく2020年の期限に十分先立って提出することをコミットしている。

~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~

G7の中で、まだ長期戦略を出していないのはイタリアと日本だけです。G20の議長国として、「G20までには出さなくてはならない! しかも議長国として恥ずかしくないものを!」というのが本長期戦略懇談会が設置された理由でした。

ちなみに、他国の長期目標はこのようになっています。

ドイツ:80~95%削減(90年比)
フランス:75%削減 (ファクター4)(90年比)
英国:80%以上削減(90年比)
カナダ:80%削減(2005年比)
米国:80% 以上削減(2005年比)

詳細はこちらをどうぞ。「各国の長期戦略の概要について」(環境省)
https://www.env.go.jp/press/y0618-20/mat01.pdf

 2.成長戦略としての長期戦略(総理指示)

 3.本懇談会の検討経緯

~~~~~~~~~~提言からの引用~~~~~~~~~~~

本提言の内容が、広く国民に共有されるとともに、今後政府によって策定される長期戦略に反映されることを強く望むものである。

~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~

この提言は、戦略自体ではなく、政府が策定する長期戦略の基本的な枠組みになるものだ、ということです。

本提言を受けて、いくつかのNGOから声明が出されています。「この提言には具体政策が欠如している」という批判には、「具体政策はこれから政府がつくるんだけどなあ」と。

首相は提言を受け取ったあと、「関係大臣は本日の御提言を踏まえ、政府としての長期戦略をG20大阪サミットまでに決定すべく、その準備を加速してください」と述べています。

「政府としての長期戦略」がどのような形で具体的に打ち出されるのか、しっかり見守っていきましょう。

<第1章 気候変動に関わる最近の情勢及び変化> 
 1.気候変動の深刻化

 2.IPCC 「1.5℃特別報告書」

2018年10月に発表された、IPCC「1.5℃特別報告書」をしっかり位置づけていることは評価できます。この報告書が出る前に長期戦略を出している国は当然ながら同報告書に言及していませんが、日本はこの報告書も踏まえて、長期戦略を考えていく、という意思が伝わります。

ちなみに、このIPCC「1.5℃特別報告書」とはどのようなものなのでしょうか?

提言の2ページの脚注に、このように説明されています。

「国連気候変動枠組条約(UNFCCC)締約国会議(COP)の要請を受け、IPCC が作成し、2018 年10 月に公表された報告書。工業化以前の水準と比べて既に約 1.0℃(0.8~1.2℃)の気温上昇が引き起こされていること、現在のペースが進めば 2030~2052 年の間に工業化以前の水準と比べて 1.5℃上昇に到達する見込みがあること、2℃上昇よりも 1.5℃上昇に抑えた方が気候変動による負の影響は小さくなること、等が指摘されている」

 3.金融等ビジネスにおける情勢の変化

ここは本提言の大きな原動力であり、海外情勢に詳しい企業ならとっくの昔からわかっていたことですが、日本政府もそのような認識で動き始めたということは、国内企業にとっても大事なポイントですので、提言から引用しておきます。

~~~~~~~~~~提言からの引用~~~~~~~~~~~

(1)気候変動対策を巡って、これまでに経験したことのないような大きな変化が起きている。再生可能エネルギーのコスト低下によるエネルギー転換、そして温室効果ガスを排出しない「ゼロエミッション」を志向するビジネスと金融が特徴的な変化である。

(2)ESG投資 7など、気候変動を巡るビジネス界の動きが大きなうねりとなっている。民間企業など多くの当事者が、気候変動の問題に取り組む動きを見せている。世界的なESG投資は、2012年と比べて1000兆円以上増加し、またグリーンボンド発行量も50倍に拡大するなど、世界の資金の流れが大きく変わりつつある。日本においても、クリーンエネルギーへの新規投資額が、2012年以降大きく増えている。

(3)これからは、気候変動対策のための設備投資や、技術革新に必要な膨大な資金の獲得競争、さらにはそうした取組をポジティブに評価するESG投資の資金獲得競争が起きる。

(4)企業にとって気候変動対策の位置付けが変わってきたと言える。脱炭素に向けて速やかに移行していけるかどうかが企業の評価・価値を左右する可能性が高まっている。

(5)もはや気候変動対策は、企業にとってコストであること以上に、競争力の源泉である。

~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~

 4.SDGsの採択

ここには、国連の持続可能な開発目標(SDGs)にとって、「気候変動は他のSDGsの達成を左右しうる要素であるとも言える」と位置づけるとともに、私が大事だと発言してきた「幸せ」という観点も言及されています。引用します。

~~~~~~~~~~提言より引用~~~~~~~~~~~

(1)3の情勢変化に加えて、人々の「幸せ」の定義が変わりつつある時代でもある。持続可能性、人間性、社会性を大事にする暮らし・生き方・幸せの在り方が問われている。社会の進歩をどう測るか、我々は転換点にある。

~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~

実は、この長期戦略懇談会の委員に、と3省(経産省、環境省、外務省)からなる事務局の方から、お声がけをいただいたときに、「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略策定に向けた懇談会」という正式名称を聞いて、「成長戦略のための懇談会......従来型のGDP成長で測る経済成長戦略のためには、私はお役に立てないと思います」と申し上げたのでした。

環境問題の根底には飽くなき経済成長至上主義があり、経済成長を問い直し、規模の成長を続けるのではない「定常経済」へ切り替えていかなくてはならない、というのが私の考えだからです。

そのあたりの考え方や定常経済の説明、「経済成長について100人に聞く」コーナーなどはこちらにあります。
https://www.ishes.org/economic_growth/

「これから成長させるべきは、経済規模ではなく、人としてのあり方や人々のつながりに支えられた人々の幸せや暮らしの豊かさでしょう。地域の持続可能性でしょう。これまではGDPを大きな指標にしてきましたが、幸福度研究も進んでいますし、社会の進歩をどう測るかも変わっていく時代だと思っています」と申し上げたところ、「そういう話をしてもらうことを期待しています」。

今回の提言にそういった観点が入っていることを心強く思いながら、「今後の社会の進歩の測り方」など、具体的な政策にしていってほしいと強く願っています。

<第2章 長期戦略の策定に当たっての視点>

冒頭、この視点を出すにあたっての思いが述べられています。紹介します。

~~~~~~~~~提言からの引用~~~~~~~~~~

長期戦略は、国内外に日本政府のメッセージを発出するものであり、気候変動問題に取り組む日本としての本気度が問われるものである。これまでの常識や従来の延長線上にない、新たな方向に大きく舵を切る姿勢を示す必要がある。このため、第1章で挙げられた気候変動に関わる情勢及び変化を踏まえ,以下のような視点を持ってパリ協定に基づく長期戦略を策定すべきである。

~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~

気候変動問題への「日本の本気度」が伝わるか、「これまでの常識や従来の延長線上にない、新たな方向に大きく舵を切る姿勢」が示されているか、が本提言ならびに今後策定される政府の長期戦略の成否を測るリトマス紙となります。提言の内容は、このあと一緒に見ていきますが、みなさんはどう思われるでしょうか?

 1.世界の目標に貢献するものであること

ここで先ほどの「1.5℃特別報告書」の位置づけが述べられているところは、重要なポイントの1つです。

~~~~~~~~~提言からの引用~~~~~~~~~~

(1)パリ協定において世界の努力目標として1.5℃が掲げられているが、IPCC「1.5℃特別報告書」が発表されて以降、COPでもこれについて大きな関心が集まり、議論が行われている。これは世界全体で追求すべき極めて難易度の高いものではあるが、日本としても国際社会の一員として、パリ協定に掲げられたこの努力目標の実現にも貢献するため、長期戦略を策定し、その実施を通じて得た成果を共有することにより世界に貢献していくべきである。

~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~

「1.5℃目標の実現にも貢献するため、長期戦略を策定」するということを明記しており、世界的にも評価できるスタンスとなっていると思います。

 2.環境と成長の好循環の実現に向けたものであること

ここに、長期戦略の基本的な性格を見ることができます。引用します。

~~~~~~~~~提言からの引用~~~~~~~~~~

長期戦略は、こうした視点を中心に据え、ビジネス主導の環境と成長の好循環を実現するための非連続なイノベーションを起こすための具体的な仕組みや、ファイナンスの流れをイノベーションに向けるための手法、イノベーションの成果の国際的な普及の方策などを盛り込んだものとして策定する必要がある。

~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~

「イノベーション」、それも「非連続的なイノベーション」こそが、気候変動対策として、また環境と成長の好循環の実現の原動力だ、ということです。お金の流れも、イノベーションに向けて動かしていかねばならない、ということです。

この点については、2℃や1.5℃目標の達成は、それぐらい大変なことだ、という認識の現れでもありますが、イノベーションがテーマだった第3回で私が述べたように「イノベーションには3つある。日本では、先端イノベーション(ここでいう非連続的なイノベーション)だけが重視されるが、汎用化のためのイノベーション、誰ひとり取り残さないイノベーションも大事にしてほしい」ということも認識してもらえたらよかったなあと思います。

現在存在していない技術を生み出すイノベーションも大事ですが、すでに存在している技術をコストや使いやすさを工夫することで汎用化し、広く使えるようにするだけでも、大きく変えていけることがまだまだあると思うのです。

WWFジャパンの本提言を受けての声明にも同様の指摘があります。

「脱炭素達成の手段として、非連続的イノベーションに大きく依存しており、直近でできることを軽視している。これは問題を将来世代へ先送りすることに他ならない」
https://www.wwf.or.jp/activities/statement/3922.html

 3.野心的なビジョンであること

~~~~~~~~~提言からの引用~~~~~~~~~~

(1)このような好循環を実現しパリ協定の長期目標を達成するためには、まず国として、積み上げでない究極の「未来社会像」を「あるべき姿」として設定し、それに向かって挑戦することにより、あらゆる可能性を追求することが重要である。

(3)したがって、長期戦略は野心的なビジョンを位置付けるものでなければならない。

~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~

これまで日本政府は「積み上げ式」で、確実に実行できると考えられる目標を定めることが多く、他国に見られるように「(できるかどうかやってみないとわからないけど)野心的なビジョンや目標を出そう!」というやり方はとってきませんでした。

設定した目標は達成しなくてはならない、というのは日本政府や企業に強い、信頼できる価値観だと私は思っています。他方、達成可能な目標を設定する傾向が強く、思い切った目標は設定されにくいという面もあります。

今回の提言・長期戦略では、現在見通せている技術や展望だけではパリ協定の長期目標は達成できないとして、「究極のあるべき姿」を設定しよう、としています。具体的な目標ではなく、北極星のように方向性を示すビジョンをバックキャスティングで位置づける、ということだと理解しています。

ちなみに、日本では明確に区別されることの少なかった「ビジョン」「ゴール」「ターゲット」といった言葉とそれぞれの意味合いを、今後意識する必要があると思います。

経団連が3月19日に「パリ協定に基づくわが国の長期成長戦略に関する提言」を出しています。
http://www.keidanren.or.jp/policy/2019/022_honbun.pdf

この7ページに、「ターゲット」としての中期目標、「ビジョン」・「ゴール」としての長期目標」という項目があります。長くなりますが、引用します。

~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~

わが国は、パリ協定の採択に先立つ 2015 年 7 月、温室効果ガス排出量を 2030年度に 2013 年度比で 26.0%削減する中期目標(NDC)を策定し、国連に登録している。これは、S+3E のバランスを取った 2030 年度のエネルギーミックスや、経済的に利用可能な最良の技術(BAT)、さらには「経団連 低炭素社会実行計画」といった対策を最大限積み上げて策定した野心的な目標であり、官民挙げて全力で達成しなければならない、いわば国際公約と言うべきものである。

一方、2016 年5月に閣議決定された「地球温暖化対策計画」では、長期目標として、一定の条件の下で「2050 年までに 80%の温室効果ガスの排出削減を目指す」ことが掲げられている。この 2050 年の長期目標は、目指すべき方向性としての「ビジョン」・「ゴール」との位置づけであり、達成すべき「ターゲット」である 2030 年度の中期目標とは明確に書き分けられている。

2050 年は今から 31 年後である。今から 31 年前(1988年)の時点において、現在(2019年)の国内外における経済・社会・技術を十分見通せていなかったように、現在において 2050 年の絵姿を正確に見通すことは極めて困難である 。

長期の「ビジョン」・「ゴール」をあたかも「ターゲット」のように捉え、直線的に排出量上限を引き戻して(バックキャストして)、硬直的な進捗管理を行ってしまえば、温室効果ガスの大幅削減に不可欠となる非連続のイノベーションの芽を摘むことにもなりかねない。

そのため、今般策定する長期戦略においては、「民主導のイノベーションを通じた脱炭素化」といった目指すべき方向性としての「ビジョン」・「ゴール」を示し、そこへ向かう柔軟かつしなやかなアプローチを提唱することとし、中期目標の「ターゲット」とは明確に区別して扱うべきである。

~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~

日本の2030年に2013年比26%という中期目標(ターゲット)は国際公約だが、長期戦略で出すのは「目指すべき方向性としてのビジョン・ゴール」であり、達成すべき「ターゲット」とは書き分けられるべきものだ、という主張です。

将来の姿や数値についての議論の際に、「方向性」として述べているのか、「必達目標」として述べているのか、お互いに確認しないと、ボタンを掛け違ったまま議論する恐れが出てくるかもしれません。

 4.望ましい社会像への移行を示すものであること

「私たちの生き方」「生活の質」「少子高齢化でも心豊かな人生、強靱で活気ある地域」といった大事な点が含まれています。

~~~~~~~~~提言からの引用~~~~~~~~~~

(1)この戦略は、今世紀後半の長い旅の途中の節目という位置づけであり、さらに今世紀後半以降の未来も視野に入れた経済社会システム、人間の生き方の変革が究極の目標である。

(2)SDGsの考え方が浸透している中、脱炭素社会へ移行する際、社会・経済のシステムの大きな変化が予想されるが、この変化が目指す社会像は、生活の質にも気を配り、SDGs及び人間の安全保障の考え方にも整合的であるべきである。また、温室効果ガスの排出削減は、貧困、飢餓、水の確保、エネルギーアクセスといった、他のSDGsのゴール実現とトレードオフとなる可能性をはらんでいるため、これらを同時に達成する道筋を見出す必要がある。

(3)地域社会においては、日本が世界と共に自然と共生した持続的な成長を続け、少子高齢化が進行する国であっても心豊かな人生を送り、強靭で活気ある地域共同体が核となる、「地域循環共生圏」を創造することにより、SDGs実現にもつなげていく。同時にこの持続可能な国の在り方を世界に提示することにより、安定的な国際社会のロールモデルとなる。

~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~

 5.スピード感を持って取り組むものであること

ここも大事な点です。

~~~~~~~~~提言からの引用~~~~~~~~~~

(1)脱炭素化に向けた取組をできるだけ早く進めるべきである。特にインフラについては、一度導入・建設された場合において長期にわたってCO2排出に影響を与えることも踏まえ、「今」から行動する必要がある。

~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~

ここでの「インフラ」は、特にエネルギーインフラ(発電所、送電網など)でしょう。発電所は一度建設すると、通常、投資を回収するまでは操業を止められなくなり、数十年間は稼働することになります。

これは、「ロックイン」lock-in と呼ばれる現象です。lockは「鍵」ですから、「鍵をかけて閉じ込める」、将来変動する可能性のあるものを「固定してしまう」という意味です。

ロックイン効果は私たちも毎日のように経験しています。いったん携帯電話やスマホを買うと、たとえ不便があったり乗り換えたいなと思っても、当面は使い続けるでしょう?(なので、事業者はできるだけ、乗り換えコスト=スイッチングコストを下げよう、低く見せよう、と力を尽くします)

エネルギー問題を考えるときに、このロックインは非常に大事なポイントになります。上記の引用部分にあるように、「一度導入・建設された場合において長期にわたってCO2排出に影響を与える」ことになるからです。

目先のコストが安いからと石炭火力発電所を建設してしまうと、数十年間、大量のCO2を出すことになってしまう、いくら再エネが大事だと叫んでも、切り替えが進まない、ということです。

このロックイン効果は、IPCCでも重視されています。論文「CO2の長期大規模削減とロックイン問題」から引用します(読みやすさのため、改行を入れています)
https://criepi.denken.or.jp/jp/serc/periodicals/pdf/periodicals65_10.pdf

~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~

2.1 IPCC報告書における問題意識

国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書(IPCC,2014)では、「ロックイン」の語として100箇所以上の言及があり、その対象範囲はエネルギー供給インフラから民生、運輸、農林業まで多岐にわたる。

一例をあげると、耐用年数が長く投資額が大きいインフラは、その後のエネルギー消費や土地利用、人々の行動や経済活動のパターンを長年にわたり決定づけてしまうこと、さらには、一度成立するとその固定化された状況を維持し、変化にあらがう(他の技術を協力にロックアウトする)ことなどである。

それゆえ、これからインフラ構築を行い、かつエネルギー需要の伸び著しい新興国において、効率の悪いインフラ形成を避けるとともに、先進国では、既存インフラの積極的改修を行って、ロックインを極力抑制すべきとしている。

需要サイドでも、建物の構造設計、エネルギー運用計画、エネルギー利用機器においてロックインが懸念されるとしている。

~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~

提言のこの箇所で明示的には言及されていませんが、ここで述べられていることは、「じゃ、日本は石炭火力発電所の新設はどうするの? 他国への輸出はどうするの?」ということであり、「お金がかかるというが、今送電線に投資をすることの将来的なメリットをどう考えるの?」ということでもあると思います。(石炭火力発電についての議論はのちに)

 6.世界に貢献・発信するものであること

ここに、論点の1つとして挙げた「日本国内の排出量削減と海外の排出量削減への貢献をどう考えるのか」に関わる点が出てきます。

~~~~~~~~~提言からの引用~~~~~~~~~~

(1)長期戦略は、国内外に、気候変動問題に取り組む日本政府のメッセージを発出するものである。世界をリードするためには、「隗より始めよ」の故事のとおり、日本が率先垂範する必要がある。ビジネス展開の観点からも、このように国内での取組を意識的に進め、世界全体の持続的な成長を目指し、これまでの常識や従来の延長線上に無い、新たな方向に大きく舵を切る姿勢を示し、今後の国際的な潮流を牽引していく必要がある。

~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~

世界の二酸化炭素排出量(2015年)のデータを見ると、日本の排出量は世界全体の3.5%です。
https://www.jccca.org/chart/chart03_01.html

「3.5%の日本がどんなにがんばっても、たとえゼロにしても、世界全体ではまったく足りない」「日本は海外の削減に貢献する方が、世界全体の役に立つ」という論議が、主に産業界から出てきます。「日本のおかげで海外で削減できた分を日本の削減量に含めて考えればよい」という意見も強くあります。

「京都議定書」で設けられた「クリーン開発メカニズム(CDM)」は、先進国が途上国に技術や資金を提供して温室効果ガス削減プロジェクトなどをおこない、それによって得られた削減分を、先進国が「クレジット」として自国の削減目標達成にカウントできるというしくみです。

また、日本は「二国間クレジット制度(Joint Crediting Mechanism、JCM)」というしくみを進めています。これは、日本の持つすぐれた低炭素技術や製品、システム、サービス、インフラを途上国に提供することで、途上国の温室効果ガスの削減など持続可能な開発に貢献し、その成果を二国間で分けあう制度です。
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/jcm.html

こういった論議には、「日本はまず国内でしっかり削減しなくてはならない」という環境NGOや有識者からの反論が出てきます。海外削減に注力することで、国内対策がなおざりになるのではないか、という心配からです。

当然ながら、「国内削減も、海外貢献も、両方必要!」なのですが、今回の提言では、「「隗より始めよ」の故事のとおり、日本が率先垂範する必要がある」と明確に述べています。

WWFジャパンの声明にも、その点の評価と要望が述べられています。
https://www.wwf.or.jp/activities/statement/3922.html

~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~~

世界第5位の排出大国である日本が、国内での削減を、海外での排出量削減の貢献によって代替しようとすることは責任放棄に他ならない。日本の取り組みをもって海外での削減に貢献していくにしても、日本自身が脱炭素社会に向かっていなければ、貢献に説得力はない。その意味で、「日本が率先垂範する必要」が認識されている点は心強いが、具体的な行動として国内の2030年目標の改正に取り組むことが必要である。

~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~

さて、これで、

ーーーーーーーーー
はじめに
第1章 気候変動に関わる最近の情勢及び変化
第2章 長期戦略の策定に当たっての視点
ーーーーーーーーー

まで終わりました。

いよいよ次の章で「野心的なビジョン」の具体的な内容が出てきます。

第3章:長期戦略に盛り込むべき特に重要な要素

 1.野心的なビジョン

ここ、特に冒頭部分が今回の提言の最重要ポイントだと考えています。(1)~(3)まで1つずつ見ていきましょう。

今回の提言を日経新聞では「日本が排出する二酸化炭素(CO2)を2070年ごろまでに実質ゼロとする新たな目標をまとめた」と紹介しました。提言のどこにもそのようなことは書いていません。どういうことなのでしょうか? 

提言から引用します。

~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~

(1)最終到達点として「脱炭素社会」という「未来社会像」を設定し、それを野心的に今世紀後半のできるだけ早期に実現していくことを目指す。それに向けて、2050年までに80%の温室効果ガス排出削減という長期目標を掲げており、その実現に向けて、大胆に取り組む。

~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~

ここに書いてあるのは、

(1)「最終到達点」(バックキャスティングで考える「あるべき姿」としての「未来社会像」)は、「脱炭素社会」である

(2)その「脱炭素社会」を、今世紀後半のできるだけ早期に実現することをめざす

(3)そのために、すでに日本が掲げている「2050年までに80%の温室効果ガス排出削減」の実現に向けて取り組む

ということです。

鍵は「脱炭素社会」ですね!

この部分は提言書の8ページにあるのですが、実はその少し前、3ページにも「脱炭素社会」という言葉が登場しています。

~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~

国際社会はIPCC「1.5℃特別報告書」の指摘について懸念をもって留意するとともに、気候変動の脅威への国際的対応強化の必要性を共有しており、脱炭素社会に向けた議論の必要性が国際社会において広く共有されつつある。

~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~

ここでは「世界全体での脱炭素社会」について言及されていますが、この「脱炭素社会」という言葉には、注6がついていて、脚注に「温室効果ガスの人為的な排出量と吸収源による除去量との均衡(世界全体でのカーボンニュートラル)を達成すること」説明されています。

最終到達点としての「脱炭素社会」とは、人間による排出量が地球の吸収できる量を超えない社会、ということです。排出量をゼロにする「絶対ゼロ」は不可能ですが、地球が吸収できる量までしか排出しない、つまり、排出しても吸収してくれるわけですので、「実質ゼロ」です。「カーボンニュートラル」とは、「炭素中立」、つまりプラスマイナスゼロ、ということです。

今回の提言では、日本のビジョンを「脱炭素社会を今世紀後半のできるだけ早い時期に実現」としています。つまり、「実質ゼロ」を今世紀後半のできるだけ早い時期に、ということになります。

「今世紀後半のできるだけ早い時期」がいつなのか、という議論は懇談会ではしていませんが、おそらく、日経新聞は、「今世紀後半のできるだけ早い時期」は2070年頃だろう、と考えて、「2070年頃」という具体的な年限をつけたのはないかと思います。

[enviro-news 2684] で紹介したように、第5回の懇談会で、私はこの点について発言しました。再掲します。

~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~

野心的なビジョンは提言の8ページにありますが、先ほど座長からもご紹介いただきましたように、「今世紀後半のできるだけ早期に脱炭素社会を実現する」となっています。

日本人的なまじめさで、まずそれを言ってから、「そのために2050年に80%削減」と言っています。ただ、そうすると、そちらに重きがあるように聞こえてしまいます。「2050年80%削減」は、これまでも言ってきていらっしゃることですので、新鮮味がありません。多分欧米だったら順序を入れ替えて、「2050年までに80%削減をやります。そしてその先、今世紀後半のできるだけ早い時期に脱炭素社会を実現します」と言うのではないかと思うのです。

「脱炭素社会」というのは、3ページの注6に書いてありますが、「カーボンニュートラル」ということで、「実質ゼロ」ということです。

「実質ゼロを今世紀後半のできるだけ早い時期に」と言っている先進国はほかにはないと思います。ここは非常に先に進んでいるところです。

「実質ゼロ」ということは、地球が吸収してくれるマイナス量と私たちが出す排出量の合計、和がゼロになるということです。0(れい)になるということで、令和の時代の始まりにふさわしいビジョンではないかと思っています。

~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~

前号で紹介したように、他国の長期目標はこのようになっています。

ドイツ:80~95%削減(90年比)
フランス:75%削減 (ファクター4)(90年比)
英国:80%以上削減(90年比)
カナダ:80%削減(2005年比)
米国:80%以上削減(2005年比)

他の先進国と比べても、「実質ゼロ」という目標は、一歩先に進んでいるものと考えられます。提言を受け取られた安倍総理が、「昨年8月以来、有識者の皆様には、大変御熱心な御議論を頂き、本日、大変野心的な御提言を取りまとめていただいたこと、御礼を申し上げたいと思います」とおっしゃったように「野心的」なビジョンを打ち出せたのではないかと思っています。


以上が、「野心的なビジョン」部分の(1)でした。(2)と(3)はこのようになっています。

~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~

(2)こうした野心的なビジョンの実現に向けて、これまでの延長線上にない、非連続なイノベーションを通じ、環境と成長の好循環を実現し、温室効果ガスの国内での大幅削減を目指すとともに、世界全体の排出削減に最大限貢献し、経済成長を実現する。これは、パリ協定の目指す理念とも合致し、同協定の掲げる長期目標(世界全体の平均気温の上昇を工業化以前よりも2℃高い水準を十分下回るものに抑えるとともに、1.5℃高い水準までに制限するための努力を継続すること)の実現に向けた日本の貢献を示していく。

(3)このビジョンは、「あるべき姿」に向かってあらゆる選択肢を追求するものであり、現在見通せる対策や施策の積み上げの中期目標(ターゲット)とは性質が異なるものである。この高みに向かって、日本として、あらゆる可能性と道筋(脱炭素に向かう取組10)を追求していく決意を表明すべきである。ビジョンとプロセスを明確に分け、実効性の高い施策を着実に講じていかなければならない。

~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~

ここでは、以下の認識を意識したいと思います。

・この野心的なビジョンのためには「非連続的なイノベーション」しかないという意識が強いこと
・1.5℃目標の実現に向けて貢献していくということを明示していること
・「ビジョン」は、「ターゲット」や「プロセス」とは違うのだと、釘を刺していること

これらのポイントについては、解説と自分の考えを前号に書いていますので、こちらをご覧ください。

 2.非連続なイノベーションを実現させる環境と成長の好循環

~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~

(1)非連続なイノベーションを実現するためには、これまでとは異なる異次元の取組が必要である。

(2)そのため、水素、CCS・CCU、再生可能エネルギー、蓄電池などその鍵とな
る分野について、コスト、効率等の具体的な目標を掲げ、その目標実現のための課題、国内外での連携を含む推進体制等を明確にした総合的な戦略を策定し、大胆に政策・経営資源を投入するとともに、官民一体で、そして世界の叡智を結集し、実効性高く技術開発とその普及に努めるべきである。

(3)このようなイノベーションを促進するためには、ESG先進国となるよう、企業の気候変動に係る取組の「見える化」等を通じて、そうした取組に資金が循環する仕組みを構築していくことが重要である。

(4)また、環境と成長の好循環を実現するためには、供給側の改革だけでなく、国内外で脱炭素化と整合的な新たな需要を創出することも必要である。そのため、技術のイノベーションのみならず、生まれるイノベーションを市場化し、商業化する戦略、つまり受け止める側の市場、インフラ、制度の抜本的な見直しも重要である。国が、民間の取組を支援するために必要な政策・施策を打つことを明らかにすべきである。加えて、環境性能・省エネ性能の高い製品・技術の国際的な展開を通じて、世界の排出削減に貢献していくためのビジネス環境整備が必要である。

(5)こうした取組を通じて、非連続なイノベーションに挑戦する企業が世界から資金を集め、更なる投資と市場を獲得するという好循環が生まれる。この好循環は、気候変動問題を守りから攻めへと転換し、世界に脱炭素化と経済成長をもたらす好循環でもある。この好循環を、民間主導によりどんどん回転させるような、脱炭素化に向けた社会の姿への転換を駆動する仕組みを盛り込むべきである

~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~

「イノベーションを進めるしかない!」、そのためにどうする、という箇所です。
いくつか重要だと考えるポイントを紹介しましょう。

1つめに、政府が力を入れていこうとしている技術開発分野がわかります。
「水素、CCS・CCU、再生可能エネルギー、蓄電池など」です。

「CCS」とは、二酸化炭素の回収・地下貯留(Carbon Dioxide Capture and Storage)、「CCU」とは、 二酸化炭素の回収・利用(Carbon Dioxide Capture and Utilization)のことです。

近年、二酸化炭素を火力発電所などから回収して地下に埋めましょう、という「CCS」に対して、回収したCO2からプラスチックを製造するなど、利用しましょう、という「CCU」の議論や技術開発が盛んになっています。今後もウォッチしていただきたい分野の1つです。

たとえば、こちらに技術開発の分野を見ることができます。人工光合成や微細藻類を使ってバイオ燃料を開発するなどの研究が進められています。
https://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy_environment/jisedai_karyoku/pdf/002_02_01.pdf


2つめは、特に企業にとって重要なメッセージですが、「企業の気候変動に係る取組の「見える化」等を通じて、そうした取組に資金が循環する仕組みを構築していく」ということです。

すでに、CSR報告書や環境報告書、統合報告書での情報開示はもちろんのこと、CDPやSBTイニシアティブ、TCFD提言支持表明など、「企業の気候変動にかかわる取り組みの見える化」を進め、きちんと取り組みを進め、情報開示している企業に資金が集まる仕組みが、世界的に広がっています。

CSRはわかるけど、CDP? SBT?? TCFD??? 

ちょっとだけ説明しておきますね。それぞれ検索していただくと、詳細な説明や、どのような企業が加盟・宣言等しているか、見ていただけると思います。

・CDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト):気候変動が企業に与える経営リスクの観点から、世界の主要企業の二酸化炭素排出量や気候変動への取り組みに関する情報を質問書を用いて収集し、集まった回答を分析、評価し、発表しています。

・SBT(サイエンス・ベースド・ターゲット):産業革命時期比の気温上昇を2℃未満」にするというパリ協定の目標と整合するように、企業が気候科学(IPCC)に基づく削減シナリオと整合した削減目標を設定することを求めています。

・TCFD(気候関連財務情報の開示に関するタスクフォース):金融システムの安定化を図る国際的組織、金融安定理事会(FSB)が設立、低炭素社会へのスムーズな移行によって金融市場の安定化を図ることをめざして、企業などが気候変動がもたらす「リスク」及び「機会」の財務的影響を把握し、開示することを狙いとした提言を公表し、世界各国の金融・非金融事業者が提言支持を宣言し、取り組みを進めています。

いま、多くの企業で、「うちもそろそろやるべきか」「できるのか」「やるリスクとやらないリスクは何か」等の議論が行われているようです。

SBTやTCFDはともかく、どんな業種のどんな規模の企業でも、自社の気候変動に関わる情報(排出量の把握、体系的な取り組み、そのための組織や体制など)はしっかり開示していく必要があると思っています。


 3.望ましい社会像

~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~

(1)目指すべき脱炭素社会は、多くの人々が共感でき、将来に希望の持てる明るい社会でもあるべきである。

(2)特に、日本の地域は、少子高齢化といった課題を抱える一方で、多様な資源を有している。様々な課題を逆手に取り、イノベーションを実現、普及することにより、まずは地域レベルから、脱炭素化とSDGsの達成を目指すべきである。そのため、地域社会の担い手は、地域資源の価値を見出し、持続可能な形で活用することを通じて、自立・分散型社会を形成するとともに、広域的なネットワークも活用し、地域における環境・経済・社会の統合的向上を図る「地域循環共生圏」の創造に繋げるべきである。

~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~

ここに登場している「地域循環共生圏」とは、「第五次環境基本計画」(平成30年4月閣議決定)で新たに提唱されたもので、地域の活力を最大限に発揮し、持続可能な地域づくりを通じて、環境で地方を元気にしていこうというものです。

たとえば、こちらに環境省の説明があります。
http://www.env.go.jp/guide/budget/2019/19juten-sesakushu/038.pdf

各地域がその特性を生かした強みを発揮
→地域資源を活かし、自立・分散型の社会を形成
→地域の特性に応じて補完し、支え合う


 4.世界の脱炭素化努力への貢献

~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~

(1)日本は、世界全体を視野に入れた処方箋を提供する脱炭素ビジネス立国という将来像を掲げ、それに伴う技術、人、投資の集積地にすることを目指すべきである。

(2)そして、技術イノベーションや社会システムイノベーションを起こし、「課題解決先進国」として世界に共有し、誰一人取り残さない姿勢を示すことが大切である。

~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~

具体的な政策はこれから政府がつくることになっているので、こういった大事なポイントがどのように政策に落とし込まれるか、ぜひ注目していたいと思います!


以上、提言のいちばんの肝であると考える「第3章:長期戦略に盛り込むべき特に重要な要素」、とくに「野心的なビジョン」について紹介しました。

またまた長くなってしまったので、「第4章:各分野の将来像及び最終到達点に向けた視点」以下については次号にて!


前号でもお知らせしましたが、5月のイーズ主宰「未来共創フォーラム」異業種勉強会では、今回の「長期戦略懇談会の提言とその意味するところ」を、3省(経産省、環境省、外部省)が連合して務めた長期戦略懇談会の事務局の担当者をお招きして、じっくりお話を聞く予定です。

質疑応答やディスカションの時間もたっぷりとって進めますので、自社や自分たちの地域の長期戦略を考えてみる機会になればと願っています。1社・団体1回に限り、オブザーバー参加もできます。詳細はこちらにあります。

 

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