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2018年07月12日

「SDGsでまちづくり」~北海道・下川町のビジョンと取り組み (2018.07.12)

新しいあり方へ
 

2018年6月15日、内閣府から29の自治体が「SDGs未来都市」に選ばれたという結果が発表されました。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kankyo/teian/pdf/result01.pdf

選ばれたのは以下の29自治体です。

北海道,北海道札幌市,北海道ニセコ町,北海道下川町,宮城県東松島市,秋田県仙市山形県飯豊町,茨城県つくば市,神奈川県,神奈川県横浜市,神奈川県鎌倉市,富山県市,石川県珠洲市,石川県白山市,長野県,静岡県静岡市,静岡県浜松市,愛知県豊市,三重県志摩市,大阪府堺市,奈良県十津川村,岡山県岡山市,岡山県真庭市,広島県,山口県宇部市,徳島県上勝町,福岡県北九州市,長崎県壱岐市,熊本県小国町

2015年の国連の持続可能な開発目標(SDGs)採択を受けて、日本政府は、2016年5月に、関係行政機関相互の連携を図り、効果的に推進するために、内閣にSDGs推進本部を設置しました。本部長は内閣総理大臣、全国務大臣が部員となり、半年ごとに推進本部の会議を開催しています。

その推進本部で決定した「SDGs実施指針」には、ビジョンとして「持続可能で強靭、そして誰一人取り残さない経済・社会・環境の統合的向上が実現された未来への先駆者を目指す」とし、日本政府はSDGsの17の目標のうち日本の優先課題を8つ設定しています。
①あらゆる人々の活躍の推進
②健康・長寿の達成
③成長市場の創出、地域活性化、科学技術イノベーション
④持続可能で強靱な国土と質の高いインフラの整備
⑤省・再生可能エネルギー、気候変動対策、循環型社会
⑥生物多様性、森林、海洋等の環境の保全
⑦平和と安全・安心社会の実現
⑧SDGs実施推進の体制と手段

SDGs実施指針ではまた、SDGsの推進を通じて、企業・地方・社会を変革し、経済成長を実現するとともに世界に展開するため、日本のSDGsモデルの方向性として、以下の3つを示しています。
Ⅰ. SDGsと連動する「Society5.0」の推進
Ⅱ. SDGsを原動力とした地方創生、強靭かつ環境にやさしい魅力的なまちづくり
Ⅲ. SDGsの担い手として次世代・女性のエンパワーメント

日本では、人口減少、高齢化、特に地方の過疎化といった問題が山積しており、「地方創生」がキーワードの1つとなっています。そこで、地方創生に向けた自治体SDGs推進事業として、政府として、優れた取り組みを提案する自治体を公募し、SDGs未来都市として選定し、自治体SDGs推進関係省庁タスクフォースにより強力に支援することになっています。このSDGs未来都市として選定されたのが上記の29自治体なのです。

また、SDGs未来都市の中でも、自治体SDGsモデル都市をモデル事業として選定し、資金的に支援するとしており、上記の29自治体のうち、以下の10自治体は自治体SDGsモデル事業にも選ばれています。

北海道ニセコ町,北海道下川町,神奈川県,神奈川県横浜市,神奈川県鎌倉市,富山県富山市,岡山県真庭市,福岡県北九州市,長崎県壱岐市,熊本県小国町

29自治体がどのようなSDGsへの取り組みをもとに応募したのか、どのような取り組みが評価されて選ばれたのか、各自治体の提案書をこちらで読むことができます。

SDGs未来都市及び自治体SDGsモデル事業の選定について

SDGs推進本部でSDGs達成に資する優れた取り組みを行っている企業・団体等を表彰するジャパンSDGsアワードを創設し、2017年12月に第1回ジャパンSDGsアワードを発表しています。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sdgs/japan_sdgs_award_dai1/siryou1.pdf 

【SDGs推進本部長(内閣総理大臣)表彰】
北海道下川町

【SDGs推進副本部長(内閣官房長官)表彰】
特定非営利法人しんせい
パルシステム生活協同組合連合会
金沢工業大学

【SDGs推進副本部長(外務大臣)表彰】
サラヤ株式会社
住友化学株式会社

【特別賞「SDGsパートナーシップ賞」】
吉本興業株式会社
株式会社伊藤園
江東区立八名川小学校
国立大学法人岡山大学
公益財団法人ジョイセフ
福岡県北九州市


私が昨年度からまちづくりのお手伝いをさせてもらっている北海道・下川町は、このアワードでは総理大臣賞を受賞し、今回SDGs未来都市、モデル事業にも選定されている、日本のSDGs自治体トップランナーの1つです。

「第1回ジャパンSDGsアワード」受賞!北海道下川町の「SDGsを取込んだ"2030年における持続可能な地域社会ビジョン"づくり」 (2018.01.22) 

下川町は北海道の中央北部にある人口約3300人の町です。面積は644.2平方キロメートルと、東京都23区とほぼ同じ面積ですが、その約9割は森林で、林業と農業が基幹産業です。冬はマイナス30度にもなる豪雪地域で、レジェンド葛西選手をはじめ、これまでに数多くのスキージャンプ選手を輩出しています。

下川町はこれまでも、環境モデル都市、環境未来都市の選定を受け、積極的なまちづくりを進め、高い評価を得ています。近年は都市からの移住者も多く、そうでなかった場合に比べ、人口減少にも歯止めがかかっています。しかし、その歩みは最初から順調だったわけではありません。

1901年の入植後、農業、林業、鉱業のまちとして人口が増え、鉄道も開通し、1949年には「村」から「町」になりました。1960年の人口は1万5千人を超えていましたが、その後、基幹産業(農林鉱業)の衰退により人口は減少。鉄道も廃止され、さらに人口は急減していきました(現在は約3300人)。

これではいけない!このままではいけない!という町の人々のさまざまな創意工夫や汗をかいてのプロジェクトが実って、毎回お邪魔するのが楽しみな、わくわくする元気で素敵な町になったのです。

それでも下川町は、「進み続けないと衰退ループに入ってしまう」と、危機感を失うことなく、さらに積極的なまちづくりを進めようとしています。

具体的には、2017年と2018年の2カ年で、町の最上位計画である総合計画の策定を進めているのですが、この総合計画の策定にSDGsを取り入れることで、より良いまちづくりを進めていこうとしているのです。

2017年9月、下川町総合計画審議会に「SDGs 未来都市部会」を新設し、町民委員10人と職員からなる部会をベースに、私がプロセス設計とファシリテーションを担当する形で、2030年の下川町のありたい姿を描き、そのありたい姿を策定する作業を進めていきました。

具体的には、まず、現状や制約条件はすべて脇に置いて「そのときにどうなっていたいか」を考えるアプローチである「バックキャスティング」で、2030年のありたい町の姿(ビジョン)を描きます。

そして、さまざまな要因のつながりと相互作用を理解することで、真の変化を創り出すためのアプローチである「システム思考」を用いて、ありたい町の姿を実現するための好循環を考え、その好循環を実際に回すための具体的な打ち手や事業を考えていく、という作業を行いました。

2017年9月から2018年4月まで、部会は13回に及び、住民委員を中心に、町民を巻き込んだパブリックコメントを行って、具体的なありたい姿が策定されたのです。

【下川町】「2030年における下川町のありたい姿」を策定しました
http://www.town.shimokawa.hokkaido.jp/section/kankyoumirai/2018-0423_SDGs_vision.html
http://www.town.shimokawa.hokkaido.jp/section/kankyoumirai/files/01sdgs_vision.pdf

下川町では、「SDGsをまちづくり総合計画に取り入れるメリット」として以下の4つを挙げ、今後のまちづくりのツールとして活用していくとしています。
①17の目標から地域を見詰め直すことによる新たな課題の発見や気づき
②未来(ありたい姿)から現在を見て、その実現のための手を考え、打っていく良質なまちづくり
③さまざまな人々との連携による新たなまちづくりの仕組みづくり
④本町の魅力や将来性をSDGsの枠組みを使い国内外に発信。ブランド力を高め、移住者や交流・関係人口、企業、投資の呼び込み

今回の下川町のビジョンづくりの大きな特徴は、町民の部会委員が、自分たちで町民に説明して一緒にパブリックコメントを書くための会を催したり、実際にパブリックコメントを経て決まったありたい姿について説明する会を行うなど、「一部町民と職員がビジョンをつくる」という、よくあるやり方ではなく、できるだけ開かれたプロセスで進めたことです。

半年のプロセスの間には、町民委員がそれぞれ、「この場にいないが、町の未来にとって重要な人たちはだれか?」を考え、その人たちにどのような町になりたいかをヒアリングに行き、その結果を持ち寄ってさらに考えるという「宿題」も行いました。

また、夜の委員会には出席できない、子育て世代のお母さんたちに午前中に集まってもらって、まちづくりや現状の課題などについて声を聞く「女子会」も開催しましたし、町議さんたちとのSDGsとまちづくりの勉強会も3回も行いました。

このような丁寧なプロセスを経てつくられた下川町の7つの目標はこのようになっています。

(1)みんなで挑戦しつづけるまち
危機や困難に挑戦し続ける不屈の精神や多様な人々、価値観を受け入れる包容力、寛容性などの「下川らしさ」を体現するまち

(2)誰ひとり取り残されないまち
すべての人が可能性を拡げ続けられ、居場所と出番があり、健やかに生きがいを感じて暮らせるまち

(3)人も資源もお金も循環・持続するまち
人・自然資源(森林・水など)・お金などすべての永続的な循環・持続、農林業など産業のさらなる成長、食料、木材、エネルギーなどの地消地産により、自立・自律するまち

(4)みんなで思いやれる家族のようなまち
人とのつながりを大切に育み、お互いを思いやり、支え合って、安全で安心して住み続けられるまち

(5)引き継がれた文化や資源を尊重し、新しい価値を生みだすまち
古くても大切なものは守り、新しい価値を生み出す「※3温故起新」のまち

(6)世界から目標とされるまち
下川町のこれまでの取り組みを基盤に、さらに進化・深化させ、脱炭素社会の実現(パリ協定)や世界の持続可能な開発(SDGs)の実現に寄与するまち

(7)子どもたちの笑顔と未来世代の幸せを育むまち
子どもたちがいきいき伸び伸びと成長するよう、すべての未来世代のことを考え、地域全体で育むまち

発表資料には、それぞれの目標にSDGsの17目標のどれに主に対応しているかを示すロゴが張り付けられています。でも、SDGsの取り組みで重要なことは、17の小箱があるかのように、SDGsの17目標に自分たちの取り組みを分類してロゴを張ることではありません。

まず、町の地域の人たちが実感と主体性を持ってありたい姿を描くこと。そのときに、漏れている視点がないかを確認するために、SDGsの枠組みを用いること。17目標を個別ではなく、相互につながったものとして捉えること。こういったことが大事なのだと考えています。

たとえば、下川町は内陸部の町であるため、人々が海について意識することはふだんはあまりありません。そのため、SDGsの目標14(海に関する目標)に関して当初は意見があまり出ませんでした。

でも、森や自分たちの暮らしは海につながっているという、つながりに思いをはせることから、のちにはいろいろな意見が出てきました。このような、ふだんはあまり意識していない「つながり」に気づくことも、SDGsという枠組みを活用する1つの効用だと思います。

下川町では、上記のように、部会委員だけでなく、さまざまな立場の人々がそれぞれ「SDGsと自分」を考える機会を持つことができ(いまも進行中です!)、広がりを創り出しています。

下川町の町議会では、一般質問で複数の議員からSDGsに関する質問が出されました。また、中学校の定期試験でもSDGsに関する出題があったそうです。素敵ですね!


さて、私の主宰するイーズの異業種勉強会では、このような下川町の取り組みについて、下川町でSDGs・地方創生・環境未来都市担当をされている簑島豪さんをお招きして、SDGsを基盤としたまちづくりと企業との共創の可能性について学び、考えます。めったにない貴重な機会ですので、よろしければぜひご参加下さい。

残席少しです。異業種勉強会の会員以外の方も、ご参加いただける制度もありますので(有償)、下記からお申し込みください(1社・団体・1回限り)。お待ちしています!

第50回 持続可能な先進地域 北海道下川町から学び、SDGsで企業やセクターを超えた共創を考える(2018年7月20日(金)開催)


今年度は、下川町ではビジョンを実現するための具体的なプロジェクトを進めていくお手伝いをさせていただいています。とっても素敵なプロジェクトがいくつも生まれています!

また、今年度は、熊本県南小国町でも、

①ありたい姿をバックキャスティングで描く
②システム思考でつながりを見える化する
③好循環をつくり出すための打ち手を考え実行する

というホップ、ステップ、ジャンプの3つのステージをベースに、SDGsを枠組み
としたまちづくりのお手伝いを進めています。

また進捗や成果をお伝えできることを楽しみにしています!

 

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