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つながりを読む

「首相所信演説で気候変動に触れない日本」~現在、5つの自治体が気候非常事態宣言!

2019年12月18日

エルネオスというビジネス雑誌で『枝廣淳子の賢者に備えあり』というコラムを書かせていただいています。12月9日号に寄稿した「首相所信演説で気候変動に触れない日本」と題したコラムです。

許可を得て、ご紹介します。


~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~


エルネオス『枝廣淳子の賢者に備えあり』

「首相所信演説で気候変動に触れない日本」

前回、世界の多くの自治体が気候非常事態宣言を出しているのに、日本ではゼロ。「温暖化の現状と見通しにしっかり向き合い、住民の命と暮らしを守り、将来世代への責任を果たそうと、日本で最初に宣言を出すのはどの自治体でしょうか?」と結びました。

その後、9月25日に長崎県壱岐市が日本初の非常事態宣言を出し、10月4日には神奈川県鎌倉市議会も非常事態宣言を可決!

ほかにも、いくつかの学会などで気候非常事態宣言を出しています。より多くの自治体や団体が危機意識を共有し、取り組みを全力で進めてくれることを期待しています。

先日の台風19号は多くの被害をもたらしました。いまだに復旧できていない地域もあります。温暖化の進行に伴って、海水温が上昇することで、蒸発する水蒸気が増え、大気中で水蒸気が凝結する時の熱放出量が大きくなります。これが台風のエネルギーになりますので、温暖化の進行に伴って、台風が強烈になっていきます。

また、気温が1℃上昇するたびに、大気中の水蒸気量は7%増加します。温かい空気は多くの水蒸気を保つようになり、限界を超えた時に降る雨の量が大きくなります。これが豪雨の増えている理由にもなっています。

日本でも世界でも、記録的な高温や台風等の強大化、豪雨、大洪水などが毎年起きています。頻発する大規模な山火事や深刻化する干ばつなどに苦しんでいる国もあります。

世界的に、気候変動の影響が顕在化し、被害者や死者数も増大している現実を前に「気候変動」「温暖化」と言っている場合ではない、これは「気候危機」だ、という認識が広がっています。

国連のグテーレス事務総長も少し前から「気候危機」という言葉を使っており、欧米のメディアでも「気候危機」「気候非常事態」という用語が使われるようになりました。日本でも今年八月に日経新聞に「気候危機」という見出しが登場し、気候変動やSDGs(持続可能な開発目標)関連の場面などで使われるようになっています。

この「気候危機」に対処すべく、若者たちを中心とした気候ストライキ、気候マーチ(デモ行進)なども世界中で行われています。9月に行われた世界一斉の気候マーチには全世界で400万人が参加、日本でも5000人が街に繰り出し、緊急対策を訴えました。また、東京都に気候非常事態宣言を出してもらおう!という署名活動も展開されています。

このように気候変動の影響が顕在化し、人々が懸念を深め、若者たちが行動を起こし始めている時に、国のトップである安倍晋三首相はどのように考えているのでしょう?

10月4日の第200回国会での安倍内閣総理大臣の所信表明演説で、「温暖化」や「気候変動」にまったく言及がなかったことに強い違和感を覚えました。「これからも、安倍内閣は経済最優先です」とだけ強調し、経済活動から排出されるCO2など温室効果ガスがもたらす温暖化をどうしていくつもりか、考えていないかのようでした。

今年4月に提言書を首相に渡した「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略策定に向けた懇談会」(私も委員でした)の初回、安倍首相は冒頭の挨拶で、「もはや温暖化対策は、企業にとってコストではありません。競争力の源泉であります」と力を込めて発言していたのに......。

今回の所信表明演説で、環境問題に触れたのは、ただ1カ所、海洋プラスチックごみについてでした。もちろん海洋プラスチック汚染も大きな問題です。でも、いまや、英国、カナダ、フランスなど、自治体ばかりでなく、国家も気候非常事態宣言を出しているほどに気候変動への危機感は高まっています。

最近、気候変動は未来世代の健康に深刻な悪影響を与えるという研究結果も出ました。日本にとっても、首相が自ら発言し、取り組むべき大きな問題ではないでしょうか?


~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~


先日、エコプロ展で、SPEED研究会による特別セミナー「ゼロエミッション都市と気候非常事態宣言~日本で最初のCEDに関するシンポジウム」が開催され、私もパネルディスカッションのコーディネータとして参加しました。
https://www.catcorp.jp/speed/event.php

日本で最初の気候非常事態宣言を出された壱岐市の白川市長も登壇され、会場には「自分たちも検討している」という自治体の方々もおられました。

このシンポジウムの前々日に長野県白馬村が気候非常事態宣言を出し、当日には長野県も宣言を出しました!

白馬村には今年5月に気候変動と地域経済のテーマでのシンポジウムに参加させていただき、基調講演で「気候非常事態宣言をぜひ!」とお伝えしたことがひとつのきっかけになり、高校生たちが気候マーチをするなど、村にアピールしたことがつながったとうかがって、とてもうれしく心強く思いました。

「気候非常事態を宣言した日本の自治体」マップから、それぞれの宣言文をお読みいただけます。
https://www.es-inc.jp/ced/


2019年9月25日 長崎県壱岐市
https://www.city.iki.nagasaki.jp/soshiki/sdgs/6196.html

10月4日 神奈川県鎌倉市
https://www.city.kamakura.kanagawa.jp/gikai/documents/gikaigian0905.pdf

12月4日 長野県北安曇郡白馬村
https://www.vill.hakuba.lg.jp/material/files/group/2/hakuba_climate_emergency_declaration.pdf

12月6日 長野県
https://www.pref.nagano.lg.jp/ontai/documents/kikohijyojitaisengen.pdf


そして、まだマップにはアップされていませんが、12月12日に福岡県の大木町も気候非常事態宣言を出しました!
https://www.town.ooki.lg.jp/material/files/group/1/kikouhijyoujitaisenngen.pdf


もちろん、宣言だけでは何も変わりません。先日のシンポジウムでも「どう実現していくか」も大きな論点となりました。でも、宣言することは、問題をしっかりと認識し、これから進めていくという、決意表明です。市民・町民・村民の意識を高めていくうえでも、議会や事業者、NGOなどと連携をしながら進めていくうえでも、「大事な一歩」だと思うのです。

スペイン・マドリードでの国連気候変動枠組み条約第25回締約国会議(COP25)の会場で、ドイツのシンクタンク・ジャーマンウオッチが、「2018年、気象災害の被害が最もひどかった国は日本だった」という報告書を発表しました。たしかに、昨年の日本は西日本豪雨や猛暑などの気候災害に見舞われました。今年の日本も台風19号を筆頭に甚大な被害が出ています。そして、残念なことに、「これで終わり」ではないのです。

来年にはこのマップが宣言自治体で埋まりますように! 「宣言文のたたき台を見てください」というご要望があれば、いつでもどうぞ! できる限りお手伝いしたいと思います。

 

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