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希望の未来への招待状:持続可能で公正な経済へ
エダヒロのオススメ
環境関連
 

マーヤ ゲーペル (著)

枝廣 淳子 (日本語版序文)

三崎 和志 (翻訳), 大倉 茂 (翻訳), 府川 純一郎 (翻訳), 守 博紀 (翻訳)

大月書店

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日本の読者への招待状


マーヤ・ゲーペルさんの本がはじめて日本でも読めるようになること、本当にうれしく思います。マーヤは、サスティナビリティやシステム思考の研究者と実践家のグローバルなネットワークである「バラトン・グループ」のメンバーで、何度も一緒に合宿をし、いろいろな議論をしてきた仲間の一人です。最近のマーヤは、ドイツのテレビ番組やその他メディアにひっきりなしに出演し、まさに「ライジング・スター」として多忙な毎日を過ごしています。これまで二冊出版した著作はどちらもベストセラーとなりました。こうした背景に、ドイツにおける緑の党の躍進や欧州をリードするドイツの環境政策の立案において、彼女の言論が大きな影響を与えていることをドイツ在住の仲間が教えてくれました。バラトン・グループではじめて出会った頃は、まだキャリアも浅く無名でしたが、当初からその潜在可能性の片鱗を見せ、仲間たちからは尊敬と親しみを集める存在でした。二人の娘たちの出産をはさむなどもあって、グループの合宿には参加しない年もありましたが、参加した際にはつねにまわりの人たちを元気づける〝エネルギー・ボール〟のような明るく強くしなやかな人です。

マーヤは、数多くのサステナビリティのプロフェショナルのなかでもいち早く「environmental justice(環境正義)」の考え方を提唱し、広くメディア、政策意思決定者、市民たちに普及する活動を展開していきました。その後、この言葉は、バイデン米大統領の選挙公約にも謳われるほど、世界ではメインストリームの考え方となりました(残念ながら日本ではまだそれほど知られていませんが......)。特に最近の活動にはマーヤの教育にかける思いがあらわれています。二〇一九年高校生たちによる気候変動へのアクションを求める運動にいち早く賛同し、若者たちを応援する科学者たちのキャンペーンを立ち上げました。また、二〇二〇年のコロナ禍で学校の開校・休校が政治経済の調整弁のようにあつかわれて、家族や教育が犠牲になっている状況を痛烈に批判し、教育の本来の意義を社会に呼びかけています。これらは、人類に対する母親のような優しいまなざしをもちながら、政治経済の既存体制に対して凜と立ち向かう力強さが両立するマーヤらしいエピソードです。マーヤの提唱するのは、サスティナビリティの世代間公平性の側面だけにとどまりません。グローバル化する世界での持続可能な開発、プラネタリー・バウンダリー、生態系サービス、ウェルビーイングを最終目的とした経済への転換、社会経済システムのトランスフォーメーションといった、バラトン・グループでも議論を重ねてきたサスティナビリティの大事なポイントを、わかりやすく伝えることにも尽力しています。

そして、本書は、ドイツの環境政策や能力開発に大きなインパクトを与えた一冊目の著作『The Great Mindshift』(二〇一六年)につづく二冊目の本です。
「どうして、これだけ技術が発達しても問題は解決しないのだろう? はたしてさらなる技術開発が解決策なのだろうか?」
「市場にゆだねることが大事と言われてきたが、問題は大きくなっている。国家の役割とは? 市場の機能とは?」
「環境が悪化していくなかで、経済成長と豊かさの向上をどう考えたらよいのだろう?」
気候危機をはじめ悪化の一途をたどる地球環境を前に、このような問いを抱いている多くの方に、ぜひ本書を手に取っていただきたいと思います。マーヤはこう言います。「環境と社会をめぐる世界規模のさまざまな危機は、偶然の産物ではありません。それは、自分自身と自分の生きるこの星に私たちがどう接しているか、を示しています。この危機を乗り越えるには、経済システムを成り立たせているルールを意識する必要があります。ルールを認識してはじめて、それを変えることができます―そうすれば自由を取り戻せるのです」(二三〜二四頁)。
そして何よりも、マーヤの希望のメッセージを受け取ってください。「未来の多くの部分は、私たちの決断の結果なのです」(一六頁)。「私たちはみんな日々、私たちが世界に望む変化の一部をになうことができます。たとえこの変化が、はじめはまだ小さく、かすかに感じとれるだけのものだとしても、です」(一九一頁)。

私たちの誇る仲間、マーヤ・ゲーペルさんの著作が、どんな望ましい未来が可能か、また、どのようにして望ましい未来を私たち一人ひとりとその集合体としての組織や政府が創造していくことができるか、日本の読者の方々にとってのイマジネーションを広げるヒントとなれば本当にうれしいことです。

二〇二一年五月七日
枝廣淳子

 

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