ホーム > エダヒロの本棚 > ぶれない軸をつくる東洋思想の力

エダヒロの本棚

ぶれない軸をつくる東洋思想の力
著書
 

田口佳史(著)
枝廣淳子(著)

光文社新書

amazonで見る
 

(はじめにより)

「いけいけドンドン」の時代が終わり、これまで「絶対」だと信じてきた価値も揺らいでいる。何か大事なものを失ったのではないか、このままではいけないのではないかとの漠とした不安が頭をもたげては、むりやり見ないふりをして過ごしている毎日──。

この混迷の時代に、どうすれば、「今日もいい一日だった」と、充足感のある自分らしい人生を生きていけるのだろうか?──とまどい、模索する人々が増えている。

日本の子どもたちは幸せなのだろうか? 価値観が多様化した社会の中で、子どもたちをどのように育てればよいのだろうか? 日本の将来を切り拓いていく力を持った子どもたちが育っているのだろうか? 幸せで力のある人間に育てる方法がわからず、他人との比較や学校の成績といった狭い視野で、子どもの豊かな人生の芽を摘んでしまっている親も多いのではないか。

子ども時代を人生の「春」とすれば、「夏」は、20代~40代ぐらいだろうか。人生でも最もエネルギーに満ち満ちているこの時期、「人生100年時代」も念頭に置いた上で、どのように自己を鍛錬し、成長していけばよいのだろうか。

そして、40代後半から50代の「秋」。人生100年時代には、多くの人がここからあと50年生きていくことになる。この時期にしっかりと後半生の準備を進めるにはどうしたらよいのか。自分の軸をどのように持つことができるのか。

「冬」、60代~70代以降。いかにこの冬の時代の楽しさを味わいながら、「死」と向き合っていくことができるのか。

混迷の時代に、まわりの要望や時流に翻弄されることなく、自分らしく納得のいく人生を歩んでいくためには、自分なりの確固たる「軸」や「芯」が必要である。東洋思想は、そのような「軸」や「芯」を形成していく上で、大きな土台となり、刺激となり、教えとなる。

東洋思想とは、儒教や道教をはじめとする中国哲学やインド哲学、日本哲学など、アジアで生まれた思想だ。スティーブ・ジョブズが禅に傾倒していたことはよく知られている。また、近年シリコンバレーをはじめとする欧米企業では瞑想や禅をベースとしたトレーニングが盛んになっている。西洋近代思想の行き詰まりを打開する可能性を東洋思想に求める人が増えてきているのだ。そして、東洋思想には私たちの生き方の行き詰まりをも打開してくれる力がある。

 環境やエネルギー問題、地方創生に関わっている人間がなぜ東洋思想? と思われるかもしれない。

私が環境問題に取り組み始めたのは、20年以上も前のことだ。温暖化、生物多様性......と次々と地球環境問題が姿を現す状況に、「こうした〝問題〟は実は、『根本的な問題』の〝症状〟のひとつだ。こうした多くの問題を引き起こしているのは、有限の地球の上で無限の経済成長を求める現在の経済や社会の構造ではないか。幸せとは何か、地球の持続可能性を損なうことなくみんなが幸せになれる経済や社会とはどういうものかを考えずして、環境問題を解決することはできない」と思い至り、2011年に幸せ経済社会研究所を設立し、活動を始めた。

「あるべき経済や社会の姿とはどのようなものか」を考えることは、「私たちはどう生きるべきか」を考えることにもつながる。こうした問いへの答えを求めて、7年前から東洋思想の第一人者・田口佳史先生のもとで中国古典を学び始めた。この時代を幸せに生きていく知恵と真に持続可能な社会を築くためのヒントはここにある! という確かな手応えを感じつつ、勉強を重ねている。

 本書は、田口先生に私がさまざまな角度や切り口でお話をうかがい、「人生100年時代を幸せに生きる糧に」と一緒に編み上げたものである。

子ども時代は子ども時代の、青年期は青年期の、成人期は成人期の、そして今後多くの人々が人生の長い時間を過ごすことになる老成期には老成期の、課題と豊かな可能性がある。人生の春夏秋冬を、田口先生はどのように生きてきたのか? 東洋思想から得られるものは何か? その生き様と先生の語る東洋思想の真髄は誰にとっても有用な手引きとなると信じている。

 東洋思想・中国古典は、これまで、戦略論やリーダーシップ論など、経営者やリーダー向けに説かれることが多く、「それだけではもったいない」と思っていた。若者や子育て中の親、企業人や主婦、高齢者など、幅広い層の人々にとっても、この混迷と混乱の時代を、しなやかに強く凜々しく生きていくための教えやヒントがいっぱいあるからだ。本書が混迷の時代に生きていく一人ひとりの「軸」や「芯」の形成の一助となることを心から願っている。

 田口先生はよく、「愉快な人生」と言われる。そう、愉快な人生を送ることができたら、本当に幸せだろう。しかし、世の中は厳しく、時代は先が見えず、刹那的な「愉快な瞬間」はあっても、「愉快な人生」なんてあるのか、と思う人も多いかもしれない。でも本書を読んでいただければ、人生のどの段階からでも「その後の愉快な人生」をつくり出すことができるのだ! と思っていただけると思う。

しなやかに強く、軽やかに幸せな人生、愉快な人生に向けて一歩でも二歩でも進んでいただけたら、著者としてこれ以上うれしいことはない。

枝廣淳子

 

このページの先頭へ

このページの先頭へ