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エダヒロの本棚

笑顔の国、ツバルで考えたこと――ほんとうの危機と幸せとは
著書
 

枝廣 淳子 (著), 小林 誠 (著), 遠藤 秀一(写真) (著)
英治出版

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南太平洋に浮かぶ島国ツバル。「地球温暖化によって、世界で最初に沈みゆく悲劇の国」といったイメージを浮かべる人も多いこの国で、人々はどのような毎日を送っているのでしょうか。本当に「かわいそうな国」なのでしょうか・・・でも、実際に訪れて目にしたものは、日本人の何倍、何十倍とも思える輝く笑顔でした。メディアの情報だけではわからないツバルという国から教えてもらった「目に見えないほんとうに大事なもの」を、豊富なカラー写真とともにご紹介します。

おわりに

3月11日に起きた東日本大地震・津波と、そのあと発生した東京電力福島第一原子力発電所の事故は多くの被害をもたらし、日本中の人々に大きなショックを与える出来事でした。そのショックの多くは、これまでのメンタルモデル(意識・無意識の思い込みや前提)がゆさぶられるというものだったのではないでしょうか。
これまで当然と思っていたことが、実は当然ではなかった……。
これまで大事だと思っていたことが、実は大事ではなかった……。
これまで大事だと思っていなかったことが、実は大事だった……。
これまで仕事が忙しくて、アパートと職場の往復しかしていなかったけれど、今回のようないざというとき、地域に自分のことを知っていて心配してくれる人がいないのはとても怖い状況だと気がつきました、と知人が言っていました。

社会や経済のレベルでも、震災後に物流も生産も完全に麻痺状態に陥った状況から、在庫を持たずにコストを削減するカンバン方式などの「短期的な経済効率の最大化」が、今回のように何かあるともろい構造を創り出してきたことがわかります。知らず知らずのうちに、何かあってもしなやかに立ち直る「レジリアンス」(再起力)が日本社会のあちこちで、そして私たちの暮らしや生き方からも失われていたことが明らかになったのではないでしょうか。
と同時に、日本中はもちろん世界各地から義援金や支援が寄せられ、不便ななかでもお互いにつながり、助け合って生き抜いていこうというさまざまな取り組みが広がっています。震災後、結婚相談所が活況を呈しているそうです。各地で町内会活動もふたたび盛んになってきたと聞きます。今回の震災を契機に、いざというときに大事なレジリアンスをふたたび重視しようという動きが広がっているのではないでしょうか。

本当に大事なのは何なのか? 短期的にあるものの最大化を求めることが、中長期的に大事な別のものを損なっていないか? 全体のバランスをどうやってとったらよいのだろう? 多様性や冗長性はコストになるからと切り捨て、短期的な経済効率ばかりを重視してきた私たちの経済や社会の構造を、短期的に評価されないものも含めて、本当に大事なものを大事にするように、どのように変えていくことができるのか? ふたたび生まれつつあるレジリアンスを大切にする動きを、どうやって広げ、支えることができるか?

震災後、こういったことをぐるぐる考えている中で、必ず浮かんでくるのがツバルの人々の笑顔でした。ひとりあたりGDPではかったら日本よりもずっと低く、「発展途上国」に位置づけられるツバルですが、私たち日本が失ってしまった、そしてこれから取り戻さなくてはならない、創り出さなくてはならない「目に見えない大事なもの」がツバルにはまだたくさん存在しています。人々は近代化の波に洗われながらも、本当に大事なものを大事にしています。だから、しなやかな強さに裏打ちされた、輝くような笑顔で暮らしているのだと思うのです。
震災前から、ツバルから私たちが学ぶべきこと、ツバルを通して私たちが我が身を振り返って考えるべきことはたくさんあると思っていました。だから、この本を書きました。しかし今、震災後の日本をみたとき、大事なものを考える上での本書の意義はよりいっそう大きくなっているのではないかと思います。このタイミングで本書をみなさまにお届けできることをうれしく思い、一緒に本当に大事なことを考えていけたらと願っています。

本書は、ツバルでずっと活動・研究してきた遠藤さんと小林さんにいろいろ教えていただきながら書きました。ツバルの歴史や文化、暮らしについては小林誠さんが担当し、写真はすべて遠藤秀一さんの作品です。ツバルに関する内外の研究者の方々にもいろいろ教えていただきました。
そして、本当に大事なことをいろいろと教えてくれるツバルのみなさんにありがとう! これまでツバルと日本の友好関係を築いてこられた両国の関係者にも、この本を世に送り出してくれた英治出版の編集者・高野達成さんにも感謝しています。

またあの輝く笑顔に会いにツバルに行きたいな、そのときには日本の経験も交えて本当に大事なものの話をしたいな、と思っています。

2011年6月
枝廣 淳子

 

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