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エダヒロの本棚

私たちにたいせつな生物多様性のはなし
著書
 

枝廣 淳子 (著)
かんき出版

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今、地球誕生以来の「第六の大量絶滅」が猛スピードで進行しています。でも「ホッキョクグマが絶滅したらかわいそうだけど、私にどういう影響があるの?」と思う人も多いのでは? そこで本書では、生物多様性の本質と現状から、私たちにもできる保全のヒントまで、問題のすべてを豊富な図とイラストでやさしく解説して、生物多様性と私たちとのつながりをお伝えします。

はじめに

私は保育園時代、「アイアイ アイアイ おさるさんだよ♪」という歌が大好きでした。小学校にあがると、通学路の脇を流れる小川のそばを歩きながら、「めだかの学校は 川の中♪」と歌ったものでした。
ところがその後、遠い国のアイアイ(マダガスカル島固有種のサルで体調約40㎝ )も、私たちにとって身近なメダカも、このままでは絶滅してしまう「絶滅危惧種リスト」に載っていることを知ったとき、ひどくショックを受けました。私たちの子どもや孫たちは、「アイアイ」や「めだかの学校」を歌い続けることができるのでしょうか。

地球上には人間だけではなく、さまざまな生き物が生きていて、だからこそ、豊かな地球が成り立っています。近年、
「日本では絶滅してしまったトキが再び空を舞う姿を見ることができるようになった」
「絶滅したと考えられていたクニマスが見つかった」
といった希少生物に関するニュースが、テレビや新聞をにぎわせることがあります。
 こうしたニュースが大きく取り上げられるのは、「ある生き物が絶滅寸前の状態から引き返すことが、いかに難しいか」を示しています。そして、こういった「成功物語」の陰で、何百、何千という種類の生物が静かに絶滅しつつあるのです。
ところが、生物の絶滅について、私が一般の方々にお話しすると、
「ホッキョクグマが絶滅したらかわいそうだと思うけど、だからといって、私にどういう影響があるの?」
などとよく聞かれます。
たしかに、そう思う気持ちもわかります。「生物多様性がたいせつだ」と、最近よくいわれるようにはなりましたが、それが自分とどうつながっているのかが、なかなかわかりにくいのも事実です。
そこで本書は、そのような方々でも、生物多様性の重要性について理解していただけるよう、図やイラストを豊富に交えながら、できるかぎりわかりやすく説明しました。
「生物多様性とは何か?」
「生物多様性は私たちにどう関係しているのか?」
を説明するとともに、
「生物多様性をめぐる世界の動向」
「行政や企業、私たち個人の取り組み」
などの最新事情をご紹介し、その効果についても解説しています。

 世界は今、目先の効率だけを追求しているうちに、知らず知らずのうちに生物多様性を損ないつつあります。こうした事態は、想定外の「何か」が起きたとき、私たちの命をもゆるがす深刻な事態に陥る危険性をもはらんでいます。
昔、アイルランドで起きた「ジャガイモ飢饉」が、その典型例です。19世紀のアイルランドでは、高い収穫量を求めた結果、生物多様性を無視して、生産効率の良い1種類のジャガイモだけを集中して栽培するようになりました。
ところが、そのジャガイモが感染するウイルスが海外から入ってきたとたん、ジャガイモは全滅し、100万人が命を落とす事態になりました。
今の日本も似たような状況です。
江戸時代には、1つの田んぼにいくつもの種の稲を植えていたそうです。効率だけをみれば当然悪く、1坪当たりの収穫量は、今の3分の1以下だったといいます。しかし、効率の追求よりも、生物多様性のほうが、自分たちにとって大事なことを、江戸時代の人たちは経験的にわかっていて、あえて複数の種類の稲を植えていたのでしょう。
ところが、明治初期には4000種もの稲を植えていた日本はその後、「植えるなら収穫量の多いものを。消費者が好む味のものを」と、どんどん稲の種類を絞っていき、今植えられている稲は88種にまで減ったそうです。
しかもそのうち、わずか4種(コシヒカリとその子孫)が収穫量の3分の2近くを占めています。日本は、200年前のアイルランドの悲劇を「対岸の火事」とはいえない状況だと思います。

また本書は、世界の企業が生物多様性を守ることに真剣に取り組むようになってきた理由を、明らかにしています。日本企業もきちんと時代の動向を理解し、取り組みを進める必要があります。そのために、先進的な企業事例を多数ご紹介しています。

そして最後に、私たち1人ひとりが、生物多様性を守る担い手になれる、ということを、本書を通じて知っていただきたいと思います。
なぜなら、毎日の食べ物、野外活動やペットの飼育、自分が関わる企業の活動などを通じて、誰もが生物多様性の恩恵を受け、生物多様性に良い影響も悪い影響も与えているからです。
さらに、「政府がある地域を保護区に定めて、特定の種類の生き物を守る」だけでは、日本と世界の生物多様性を守れないことを、知っていただきたいと思います。

私たち自身や子ども・孫の将来世代の命や暮らしを守るために、そして日本企業にとって新しいチャンスとリスクが到来していることを理解するために、本書が読者の皆様のお役に立つことを願っています。

2011年7月
枝廣 淳子

 

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