ホーム > エダヒロの本棚 > なぜあの人の解決策はいつもうまくいくのか? ―小さな力で大きく動かす! システム...

エダヒロの本棚

なぜあの人の解決策はいつもうまくいくのか? ―小さな力で大きく動かす! システム思考の上手な使い方
 

本邦初!の本格的な、システム思考入門書。
日本には、ビジネス向けの「システムシンキング」の本はいくつかありますが、システム思考の基本的な考え方から、基礎的ツールの紹介と練習、個人やグループ、組織のさまざまな事例や、「学習する組織」での展開例も含めた入門書は、これが初めてです。
どこにも見られる構造の基本パターンである「システム原型」の紹介や、システムの構造を「小さな力で大きく動かせる介入点」である「レバレッジ・ポイント」についての手引きもあります。

あとがき

 枝廣がシステム思考と出会ったのは六年ほど前のこと、バラトングループという世界的なシステム思考の研究者・実践家のグループの合宿でした。出会った瞬間に、「これだ!」とわくわく興奮したことを今でも覚えています。「システム思考って、私もずっと大事だと考えていた『つながり』をベースとした考え方なんだ! 自分でも使いこなせるようになりたい。そして、日本のたくさんの方々に伝えたい!」と思ったその思いを、今回、東洋経済新報社の井坂康志氏のお力添えで、こうして多くの方々にお届けでき、とてもうれしく思っています。
 システム思考に出会い、勉強し、ある程度身につけてきた私は、それ以前に比べ、カッとしたり、落ち込んだり、自分を責めたり、人を責めたり、状況に無力感を感じたり、ということがなくなりました。自分もまわりもラクにしてくれるものだと実感しています。
 一方、小田は一九九〇年代中頃、当時勤めていたアメリカ系多国籍企業の長期事業戦略を策定する過程でシステム思考に出会い、活用しはじました。その後、長年勤めたその会社を退社して、「本当に自分がやりたいこと」を実現するための道を歩み始めました。そのきっかけとなったメッセージ『もし地球が一〇〇人の村だったら』は、システム思考の第一人者だったドネラ・メドウズが、システム思考的にものごとや状況を見る方法を一般の人々に伝えたいとの思いで綴ったエッセイの一編であったことをのちに知り、「つながり」を実感したのでした。
 枝廣の誘いで、システム思考の勉強会をはじめ、ずっと気にかかっていたこのシステム思考を本格的に研究し始めました。知れば知るほど「面白い!」「本質的にものごとを見るのに役立つ」と夢中になりました。そして、二〇〇五年四月に二人で有限会社チェンジ・エージェントを設立して、システム思考を基盤に、変革の担い手の育成に着手したのでした。
 システム思考は、何カ月もかけてコンピュータのシミュレーション・モデルをつくるシステム・ダイナミクスという本格的なものから、喫茶店の紙ナプキンの裏にぐるぐると要素のつながりで状況を描いてみるという簡単なレベルまで、どんな形でも実践し、使っていくことができます。
システム思考は、「ちょっと待てよ」といってくれるアプローチです。目の前の問題や解決策に飛びつくのではなく、「ちょっと待てよ。いま見えていないものも含め、全体の構造はどうなっているのだろう?」「ちょっと待てよ。これをやると、こちらの想定している以外の影響が出てくる可能性はないだろうか?」――そんなことをシステマティックに考えさせてくれるアプローチなのです。
小さい頃に、「中はどうなっているんだろう?」「どうして動くんだろう?」と思って、時計やおもちゃを分解したことはありませんか? 「構造を知りたい」という思いは、子どもにも私たちにもあります。モノの構造だけではなくて、状況や問題の構造を知ることは、知ること自体が楽しいし、おまけにより効果的な働きかけを考えられます。これがシステム思考の醍醐味です。眉間にしわをよせるのではなく、ぜひ楽しみながら、システム思考を知り、使っていただけたら、と思います(私たちのワークショップも笑い声が絶えません!)。
私たちの究極のビジョンは、「読み書き・そろばん・システム思考」といわれるぐらい(「システム思考」という言葉は知らなくても)だれでもごく自然に、「物事をつながりとして考える」「長期的な時間軸を持って、全体像をとらえようとする」社会をつくることです。みんながつながりや全体像を考えるようなったら、いまの社会が抱えているさまざまな問題も解決に向かうと信じているからです(ちなみに、システム思考の身に付いた人のことを、英語では「システム・シチズン」と呼び、米国やオランダなどでは小学生からシステム思考を身に付けるためのカリキュラムを考え、実施している教師のネットワークもあります)。
システム思考を日本で普及する活動を進める一方、世界の専門家と意見交換をするなかで、欧米よりも日本や東洋のほうがシステム思考になじみがあると実感するようになりました。日本には昔から「因果応報」「回り回って」「ツボ」などという言葉がありますが、これらはすべてシステム思考のエッセンスを言い表している言葉です。私たちの日常の暮らしや考え方のなかに、システム思考的なアプローチがごく自然にとけ込んでいるのです。ただ、ふだんは意識はしていません。そこで、本書で紹介したシンプルなツールを使うことによって、より意識的に「つながり思考」ができるようになり、本当の目的や幸せのために役立てることができるようになります。
 私たちのワークショップでは、「システム思考って何?」というまったくはじめての方でも、数時間後には時系列変化パターングラフやループ図が描けるようになります(実は、そう話すと、欧米の専門家はびっくりします!)。もっとも、ループ図が描くことはあくまでも手段です。目的は、システム思考の基本的な考え方や基本的なツールを身に付けることで、ものの見方や考え方が広がり、新しい気づきが得られることです。その一つのきっかけとして、本書が役に立つことを願っています。
 私たちは、企業に対して、システム思考の研修やシステム思考を基盤としたビジョン・戦略策定や共創型ダイアログなどのファシリテーション、学習する組織づくりをめざすプログラム開発やコンサルティングを行うほか、地域の活性化や業界の再生、まちづくり、個人の自己実現など、さまざまな場面で、システム思考の強みを活かした本質的な問題解決のお手伝いをしています。どのような場面でも、「しなやかな強さと、学び続け、進化し続ける力」を育みたいと思っています。
 私たち一人ひとりも、組織も、社会も、いらないストレスや回り道なしに、ごく自然に伸び伸びと持てる力を最大限に発揮しながら、本当の目的やあるべき姿を見つけ、実現していく――本書がその一助となれば、これ以上幸せなことはありません。

チェンジ・エージェント
枝廣淳子・小田理一郎

 

このページの先頭へ

このページの先頭へ