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エダヒロの本棚

ライオンボーイ
翻訳書
 

ジズー・コーダー (著)、枝廣 淳子(訳)
PHP研究所

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ネコ語の話せる少年が、誘拐された両親を追って旅に出る...旅で出会ったライオンとともに...一度読み始めたら本を置くことができない、冒険ファンタジーです。ルイーザ・ヤングが娘のイザベルにせがまれて、繰り返し枕元で語って聞かせた物語に、10歳になったイザベルがアイデアを加え、ふたりで楽しみながら作り上げました。楽しいお話の中に、わが子がこれからの人生を生きるうえで大切な生きる糧や知恵をそっと忍ばせた心の贈り物でもあるのです。

訳者あとがき

 「おやすみ」とふとんをかけてあげた子どもが、ふとんの下からパッチリと目を開けて「寝る前のお話をして」とせがんだら、どんなお話をしてあげたいと思うだろうか? 
ハラハラ・ドキドキはいいけど、怖くて気味が悪いだけのお話はダメ。寝られなくなっちゃうもの。「明日もつづきを聞かせてね!」と言ってくれるような、ワクワクして楽しいお話がいい。でも、ただその場だけおもしろおかしいお話じゃない。楽しいお話の中に、わが子がこれからの人生を生きるうえで大切な糧や知恵を、そっと忍ばせておきたい。
いつかお話は忘れてしまっても、つらいときや困ったときに心の支えになってくれるもの。迷っているときにそっと背中を押してくれるもの。無理せず確実に進んでいくためのコツ。自分らしく自分の人生を生きることの大切さ。争いや戦い、「自分さえよければ」という利己心の愚かさ。みんなで力を合わせることのすばらしさ。そして、地球は人間だけのものじゃないってこと。
『ライオンボーイ』は、いったん読み始めたら本を置くことができないという、正真正銘の冒険ファンタジーだけど、ただの冒険ファンタジーではない。ルイーザ・ヤングが当時四歳だった娘のイザベルにせがまれて、繰り返し枕元で語って聞かせた物語に、十歳になったイザベルがいろいろな要素を提案して、ふたりで楽しみながら作り上げたアドベンチャー物語なのだ。ジズー・コーダーというペンネームは、イザベルの飼っているトカゲにちなんでつけたそうだ。
主人公のチャーリーは、ロンドンに暮らしている少年だ。物語の舞台となる時代は、近未来。石油はとうの昔に枯渇してしまっている。多くの国を支配している「帝国」や、自分たちの利益のためには人々のことなどこれっぽっちも考えない巨大多国籍企業が世界を牛耳っているようだ。子どもたちはぜん息の蔓延に苦しんでいる。
チャーリーの母親はイギリス人、父親はガーナ人で、ふたりとも科学者だ。両親は画期的なぜん息の治療法を発見したのだが、それを知ったある組織の一味に誘拐され、行方不明になってしまう。チャーリーの唯一の秘密兵器はネコ語がしゃべれること。両親を救い出そうと旅に出たチャーリーは……?
 この『ライオンボーイ』の出版契約を結ぶために、英国の大手出版会社パフィンは約二億円を支払った。また、スティーブン・スピルバーグのハリウッド映画制作会社「ドリームワークス」が映画化の権利を買い取った。英国では二〇〇三年十月に出版されて大ヒット中、英国の各誌紙で絶賛されている。原書の発売前から、世界三四ヶ国で出版されることが決まっている本なんて、そうそうないに違いない。そして、日本にもこうしてお届けすることができて、とてもうれしい。
 このような華やかな旋風のごとき登場ぶりに、「ようやく、ハリー・ポッターをしのぐ作品が出てきた!」などとよく言われている。ハリポタの出版契約金と比べて『ライオンボーイ』はスゴイ、などと海外の書評欄でも大騒ぎである。
 でも、『ライオンボーイ』は、他の類書との比較など意味がないほどすばらしい本なのだ。
著者のルイーズはシングルマザーだが、元夫であるイザベルのお父さんは、慈善団体で働くガーナ人。『ライオンボーイ』は、アフリカ系の父親とイギリス人の母親を持つイザベルのためにつくり出した、愛と生きる喜びをこめたステキな本なのだから。そして、「クリスマスプレゼントは何がいい?」と聞かれたイザベルが「チャーリーのお話を本にして!」とお願いしたおかげで、私たちを含めて、世界中の子どもたち・大人たちもこの物語を読むことができるようになったのである。
 本書は母と娘の共著なのだけど、翻訳にあたってもやはり母が娘に協力してもらった。著者は「我が子に話してあげたいこと」を本にできて幸せであるように、私も「我が子に読んでほしい本」を訳すことができて幸せである。
うちの娘たちは、「毎月のお小遣いも図書券でちょうだい」「クリスマスはサンタさんに図書券を頼むの」「誕生日のプレゼントも図書券がいい」というほどの本の虫たちである。本翻訳書の読者第一号は、冒険ファンタジーものが大好きな上の娘であり、本翻訳書の書評第一号は、彼女の「うん、おもしろいね! つづきはいつ訳してくれるの?」という言葉だった。
 そして、読み手の視点から、私の翻訳をチェックしてくれたのだった。たとえば冒頭のチャーリーのお母さんが梯子から落ちた場面。私は「いたたた……」と訳したのだが、娘は「いたたたた……」にした方がいいと言い張る。このビミョーな違いを感じていただけるだろうか?
 本書は、三部作の第一作である。「チャーリーはいつ、両親を見つけられるか?」を知りたくて、子どもたちは小さな胸をドキドキさせることだろう。ルイーズにこっそり聞いてみたら……「二作目の中で両親が見つかる、ということは言えます。でもそこで……」と声をひそめてささやいた。「何かが起こるのです」。
 ああ、早く二作目、三作目を読みたい!

 最後に、翻訳上の質問に丁寧に答えて下さったルイーズさん、翻訳のお手伝いをして下さった小泉智行さん、トランネットの前田裕子さん亀井千雅さん、そして、編集者の木南勇二さんに心から感謝します。天野喜孝さんが描いてくださったカバーと本文イラスト、そしてデザイナーの川上成夫さんのおかげで、ますます素敵な本になりました。


二〇〇四年初春
 
枝廣淳子

 

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