エダヒロ・ライブラリー執筆・連載

第13回

「つながりの連鎖」を生きる

 

 近ごろよく耳にする「生物多様性」という言葉。何が問題なのかピンとこないな、という方も多いかもしれません。
 例えば、森の中に入ると、さまざまな植物や動物が生きていますが、生き物たちはバラバラに存在しているのではありません。さまざまなつながりを持っています。木に太陽の光が届くと、葉っぱが茂り、その葉っぱを毛虫や青虫が食べます。その毛虫や青虫を小鳥が食べ、その小鳥をオオタカなどの猛禽類が食べます。鳥の死骸を食べる昆虫もいれば、落ち葉などを分解する微生物もいます。そうしてできた栄養分で植物が育ちます。
 地球上には、数十億年という進化の過程の中で、多くの生物種が生まれてきました。お互いに「食べる・食べられる」という関係や、虫が花粉を運ぶなどの共生関係でつながり、支え合って生きているのです。この大きなつながりの網からはずれて存在している生物はありません。すべて何らかの形でつながっており、多様な生き物がいることが豊かな自然を織りなしているのです。この生命の豊かさを表す言葉が「生物多様性」です。
 多種多様な生物はお互いに影響を与えながら、自然全体のバランスをとっています。ですから、たった一種類の生物がいなくなっても、全体に影響が出てきます。私たち人間もひとつの生物種として大きな「つながりの連鎖」の中に生きています。多様な生物が存在しているおかげで、私たちは、さまざまな食料や産業に必要な原料を得ています。
 例えば、現在使われている薬の60%は、自然の産物からつくられたものだといわれます。まだ発見されていないものも含め、さまざまな生物が、がんをはじめとする多くの疾病に対する重要な薬を、いずれ提供してくれる可能性もあります。生物多様性が失われると、私たちの命や人間の生存そのものも脅かされるのです。
 ところが現在、生物多様性が危機に瀕しています。生息地の破壊や汚染、野生生物の過剰利用や外来種による在来種の駆逐、少数の種のみを栽培・繁殖するなどの原因が複合的にからみあって、通常の1000倍のスピードで種の絶滅が進んでいるといわれています。
 このままでは、生物多様性はますます劣化していってしまうでしょう。では私たちはいったいどうしたら、生物多様性を守るための取り組みができるのでしょうか?

経済活動にも生き物の視点を

 世界的な取り決めとしては、1992年の国連会議で採択された「生物多様性条約」があります。日本では条約に基づいて、1995年に最初の「生物多様性国家戦略」を策定。2007年11月には、第三次生物多様性国家戦略が策定されています。これ以降、生物多様性の保全が促進されるよう法体系が整備・改正され、それぞれの地域に固有の生態系を取り戻そうという動きが具体化しつつあります。
 CSR報告書・サステナビリティ・レポートなどで生物多様性に触れる企業が増えつつあるなど、企業の間でも、生物多様性への関心が広がっています。2010年に名古屋で生物多様性条約の第10回締約国会議(COP 10)が開催されることもあり、先進的な企業が「温暖化対策はずいぶん進めてきたが、次の大きな課題は何か?」と動き始めているのです。
 企業の取り組みの中では、生物多様性をいかに経済活動に反映させるかが大切な視点です。例えば、無秩序な森林伐採を行わないなどの基準を満たした「FSC認証」の木材や、「海のエコラベル」として知られる、環境に配慮した漁業による「MSC認証」の海産物の流通といった取り組みがいい例です。私たち消費者も、毎日手に取る商品が、生物多様性にどんな影響を与えているのか、これまでよりもっと注意してみる必要がありそうです。
「生物多様性」という言葉自体はまだ馴染みが薄く、その意味があまり理解されていませんが、1年半後に控えたCOP 10をひとつのきっかけに、企業、自治体、地域、そして私たち一人ひとりが、生物多様性についての理解を深め、具体的な活動につなげられるよう、強く期待しています。

2009年4月号

 

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