エダヒロ・ライブラリー執筆・連載

第6回

「もったいない」から広がる新しいライフスタイル

 

 1グループに、ひらめの骨せんべい一皿プレゼント!」
「ハズレなし抽選会1回! 1/5の確率で1000円分のお食事券があたる!」
「生ビール中、1人様につき1杯サービス」

 これは「あるもの」に対するサービスなのですが、何に対するサービスだと思いますか。実は飲食店にマイ箸を持参したお客さんへのサービスなのです。
 一日3食、1年に365日、たとえば70年間食べ続けたとして、私たちは7万6650回もの食事をしています。スプーンやナイフ・フォークの出番もありますが、相当な数のお箸のお世話になっています。現在日本で使われている割り箸は、年間250億膳といわれます。赤ちゃんからお年寄りまで平均して、ひとり年間200膳ぐらい使っている計算です。
 日本の間伐材や端材を使った割り箸ならまだしも、その95%は中国産といわれていて、森林伐採など環境保全上問題のある場合があります。また、原材料がどうであれ、一度だけ使ってポイ! ではあまりにももったいないですね。
 この「もったいない精神」やごみ削減を目指して、このところ「マイ箸」を持ち歩く人がずいぶん増えてきました。マイ箸もいろいろな種類が登場していますが、私が何年も前から使っているのは、首からも下げられる組み立て式で、オシャレで手にもしっとりなじんで使いやすいものです。マイ箸派が増えるにつれ、マイ箸を応援するお店も増えているのはとてもうれしいことです。
 数年前、赤坂の小料理屋さんに連れていってもらったときのことです。カウンター席で、ハンドバッグからマイ箸を出し、「割り箸はお返ししますね」という私に、女将さんが「どうしてマイ箸がいいの?」と尋ねるので、中国などの森林問題のこと、漂白剤などの危険性のこと、ゴミが増えてしまうことなどを話しました。
 すると女将さんは料理をしながら何か考えている様子でしたが、ぱっと顔を上げるとにこにこして、「じゃあ、私はこのお店で、マイ箸キープをやろうかしら」。ボトルキープならぬ、マイ箸キープです。その後、季節の変わり目にこのお店から届いた葉書には「マイ箸キープのサービスを始めたんですよ」と書き添えてありました。

「思い込み」を問い直そう

 割り箸など、日常の中で、つい当たり前のように使い捨てにしているものはほかにもいろいろあります。例えばお惣菜を買うときに入れてくれるプラスチックのトレイはどうしていますか。洗ってリサイクルに出した方がよいのか、洗う水や洗剤のことを考えると、そのまま捨てた方がよいのか迷いますよね。
 いま私の事務所では、お昼にお弁当を買いに行くときに、自分のお皿を持っていっています。環境の仕事をしている事務所ですし、毎月ゴミの量も計量していますから、お弁当の空箱が出ないようにと、あるときお皿を持ってトンカツのお弁当屋さんに買いにいったスタッフがいました。普通だったら仕切りの付いた黒いプラスチックの箱に詰めてくれるのを、「このお皿に入れてください」と言ったら、少し驚かれはしたものの、ちゃんと入れてくれたそうです。
 こうした試みは、みんなの「思い込み」を変えていくことにほかなりません。「外食では割り箸を使うもの」「お弁当は使い捨ての容器に入れるもの」と、お店の人も、お客さんも「そういうもの」だと思っている。でも、「そうじゃなくてもいいかもしれない」と思うと、身の回りから変えていけることがたくさんあることに気づきます。
「どうしてそのやり方でやっているのですか?」「別のやり方じゃダメですか?」と、素朴に問われてはじめて、「あれ、確かに『そういうものだ』と思っていたけど、そうでなくてもいいのかもしれない」と気づくことができます。小料理屋の女将さんもトンカツ屋さんも、きっとそうだったことでしょう。
 私たちはどういう思い込みや前提を持っているんだろう? それが現状に合わなくなっているとしたら、どうやって変えていけばいいだろう? こういったことを考えるのは、個人にとっても、会社や地域にとっても、そしてもちろん環境問題に取り組む上でも、とても大事なことだと思うのです。思い込みを捨てれば、もっと楽しくて環境負荷も少ないライフスタイルが見えてくるかもしれません。
 なお、私のマイ箸は「イーズの森のお守り」という名前で販売しています。よろしかったらぜひどうぞ!

2008年9月号

 

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