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エダヒロ・ライブラリーレスター・R・ブラウン

情報更新日:2010年06月04日

大豆の需要拡大、アマゾンの熱帯雨林を脅かす

 

                      レスター・R・ブラウン

今からおよそ3,000年前、中国東部で農民たちが大豆の栽培を始めた。1765年、北米に初めて大豆が植えられた。そして現在、米国の大豆耕作面積は小麦よりも広い。さらにブラジルでは、米国をはるかに凌ぐスピードで大豆栽培が拡大し、アマゾンの熱帯雨林をじわじわと侵食している。

米国に伝わってから2世紀近く、大豆はもの珍しい作物として細々と栽培されているにすぎなかった。その後、1950年代に欧州と日本が戦争から復興し、米国で経済成長の勢いが増すにしたがって、肉や牛乳、卵の需要が高まっていく。しかし、増える肉牛と乳牛を養えるような新たな牧草地はもうほとんどなかった。

そこで、牛肉や牛乳だけでなく、豚肉や家禽肉、卵の生産も拡大させようと、農家は穀物に頼るようになった。1950年時点で4,400万トンだった世界の食肉消費量はこのとき既に増加を始めており、2009年には6倍の2億8,000万トンに達することになる。

ここまで増えたのは、動物栄養学者によるある発見のおかげでもある。穀物4に対して大豆ミール1を配合すると、家畜や家禽が穀物を動物性タンパク質に変える効率が劇的に高まるというものだ。この発見により、20世紀半ば以降、大豆市場は急成長した。それは大豆が農業の表舞台に上るための言わば「切符」となり、大豆は世界の主要作物の一つとして、小麦や米、トウモロコシの仲間入りを果たすこととなった。

米国の大豆生産量は第二次世界大戦後に激増し、1960年までには、中国の生産量の3倍近くに達していた。1970年まで、米国は世界の大豆の3/4を生産し、事実上輸出量のすべてを占めていたことになる。急拡大した米国の大豆作付面積は、1995年までに小麦の作付面積を超えていた。
www.earthpolicy.org/index.php?/plan_b_updates/2009/update86のデータ参照)

【グラフ】米国の小麦と大豆の収穫面積(1950~2009)

1970年代半ばに世界の穀物価格と大豆価格は上昇し、米国は国内食料価格のインフレを抑えようと大豆の輸出を禁止した。当時世界でも主要な大豆輸入国だった日本は、すぐにほかの供給国を探し始めた。そして、このときブラジルは新たな輸出作物を探していた。この後のことは誰もが知る通り。2009年、ブラジルの大豆作付面積は全穀物の作付面積の合計を超えた。

ほぼ同じ時期に、大豆はアルゼンチンで足場を固め、どこよりも鮮やかに首位奪取をやってのけていた。現在、同国では穀物の2倍を超える土地で大豆が生産されている。アルゼンチンの大豆ほど、一つの作物が一国の農業を支配することは稀なことだ。米国とブラジル、アルゼンチンを合わせると世界の大豆生産量の優に4/5を生産しており、輸出量の90%を占める。

【グラフ】米国・ブラジル・アルゼンチンの大豆生産量(1985~2009)

20世紀最後の数十年間、日本は主要な大豆輸入国であり、年間500万トン近くを輸入していた。つい1995年まで中国は実質的に大豆の自給自足国で、年間の大豆生産量と消費量はともにざっと1,300万トンだった。

その後、この国では所得が増加して、13億の人口の多くが食物連鎖の階段を上り、より多くの肉や牛乳、卵、養殖魚を食べることができるようになった。このため、ついに需給バランスのダムは決壊した。2009年までに中国は5,500万トンの大豆を消費するようになっているが、そのうち4,100万トンを輸入して、急増する消費の75%をまかなっている。

【グラフ】中国の大豆輸入量と消費量(1964~2009)

現在、大豆の総輸出量の半分が、そもそも世界に大豆を広めた国、中国へと向かっている。中国の食肉消費量が米国の2倍にまで増えることを可能にしたのは、大豆ミールと穀物を混ぜた動物飼料だったのだ。

1950年以降、世界の大豆生産量は1,700万トンから2億5,000万トンにまで14倍以上増えた。それは世界の穀物生産量が4倍以下しか伸びなかったことと対照的である。米国では大豆はトウモロコシに次ぐ収穫量第二位の農作物であり、ブラジル、アルゼンチンではいずれも、大豆が専ら農業を支配している。

それでは、世界中のこの2億5,000万トンの大豆はどこに行くのだろう? その1割程度は豆腐、肉の代用品、醤油等の形で食料として直接消費される。圧搾されて主要な食用油となるものがほぼ2割、残りの、つまり収穫した約7割は最後は大豆ミールとなり、家畜や家禽の餌に供される。

つまり、大豆はどこにでもあるのにその多くは家畜や家禽から作られる製品の中に隠れていて、その原形が実際見えないのだ。世界中で収穫された大豆の大部分は、牛乳、卵、チーズ、鶏肉、ハム、牛肉、アイスクリームのような製品に姿を変え、最終的に冷蔵庫の中に納まっている。

世界で毎年ほぼ600万トンずつ需要を増やしている大豆であるが、その需要を満たすには難題が待ち受けている。大豆はマメ科の植物で、大気中の窒素を地中に固定する。したがって、施肥反応は窒素を大量に取り込む、例えばトウモロコシほど良くはない。しかも、大豆は窒素固定のために代謝エネルギーのかなりの部分を使ってしまうので、その分、種子形成に充てられる代謝エネルギーは減少している。こうしたことが大豆の収穫を増やすことを難しくしている。

実際、穀物の収穫量は大いに上がっているのに、大豆については科学者たちがこれまでその収穫量を上げることに成功した例はほとんどなかった。1950年以降、米国ではトウモロコシの収穫は4倍に増えているが、大豆は2倍がせいぜいであった。

米国のトウモロコシ作付面積は1950年から基本的には変っていない。一方大豆は5倍にまで面積を拡大している。農家は主に大豆の作付けを増やすことで収穫を増やしてきた。しかし、そこにはジレンマがある。増え続ける大豆需要を満たすのに、森が乾燥しきって火災が発生しやすくなるまで多くのアマゾンの熱帯雨林を伐採する以外に、どんな方法があるというのだろう?

今アマゾンは、ブラジルの食肉牛を増やそうとしている大豆生産者と牧畜業者双方によって熱帯雨林の伐採が進んでいる。牧畜業者が開墾し、数年間放牧に使っていた土地を大豆生産者が買い取ることも多い。土地を手放した牧畜業者はアマゾンの熱帯雨林をさらに奥深くへと分け入って行く。

アマゾンの熱帯雨林は、動植物の生物学的多様性が世界で最も豊かに凝縮されている地域のひとつを支えている。そこはまた、沿岸部から内陸部にまで降水を再循環させ、ブラジル内陸部の農業に必要な水を十分に確保している。さらにそこは炭素の巨大な倉庫でもある。この三つの役割がいずれもきわめて重要なことは明白である。

しかし、森林伐採が進むにつれて、地球全体に最も直接的な影響を及ぼすのが炭素の放出である。ブラジルの森林破壊が続くと、大量の炭素が大気中に放出され、気候変動に拍車がかかることになるだろう。

ブラジルは地球の炭素排出量を減らすことへの貢献策の一つとして、これまで森林伐採を2020年までに80%減らすことを論議してきた。しかし、残念なことに、もし大豆の消費量が増え続けるなら、より多くの土地を開墾したいという経済的な圧力によって、この目標達成は難しくなるだろう。

森林破壊はブラジルで起きているのだが、それに拍車をかけているのが、世界中で増えている食肉、牛乳、卵に対する需要である。端的に言うと、アマゾンの熱帯雨林を救えるかどうかは、今、世界の人口を早急に安定させ、大豆需要の伸びを抑制できるかどうかにかかっている。

それは、世界の豊かな人々にとっては、食物連鎖の階段を下り、牛肉の摂取を減らすことで、大豆需要の伸びを抑えることを意味している。エネルギーがそうであるように、食料について受け入れ可能な需給バランスを達成するということは、単に供給を増やすことよりも、むしろ需要の増大を抑制することなのである。

 

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