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エダヒロ・ライブラリーレスター・R・ブラウン

情報更新日:2008年02月25日

ボトル飲料水不買運動 ――水道水を見直す動きが活発に――

 

                         ジャネット・ラーセン

サンフランシスコからニューヨーク、パリに至るまで、市役所、高級レストラン、学校、宗教団体が、蛇口をひねれば出てくる水を選び、ボトル飲料水を「もういらない」と見放しつつある。1000倍ものお金を払って水道水と変わらないボトル飲料水を買うことに、人々はもはや納得できなくなっており、ボトル飲料水への反発が高まっているのだ。

米国内およそ1100の都市の代表が集まる全米市長会では、2007年6月の会議で、各市が供給する水道水の質の良さを訴えながら、一方では、皮肉にも、市職員や市の行事にボトル飲料水を購入していることについて議論が行われた。そして、サンフランシスコのギャビン・ニューサム市長、ソルトレークシティーのロッキー・アンダーソン市長、ミネアポリスのR・T・ライバック市長の提案による、ボトル飲料水が環境に与える影響の調査を求める決議案が可決された。

決議案には、「全米の市営水道システムは、きれいな飲用水を供給するために1年で430億ドルを費やしており、世界で最も優れた水道システムである」と特筆されている。

市長会では、力が及ばず、納税者の支払う税金が飲料水製造業者に流れることを妨げることはできなかったが、その目的に向けて動いている都市はますます増えている。 ロサンゼルスは1987年以来、市の予算でのボトル飲料水購入を制限しているが、今ではそのような姿勢に賛同する市が増えてきた。

2007年の終わりまでには、サンフランシスコ市の部局でもボトル飲料水の購入が禁止されるだろう。そうなれば、毎年50万ドルの資金が節約でき、温暖化ガスも削減される。また、セントルイスは2008年早々にも、市職員のためにボトル飲料水を購入することを禁止する構えだ。

企業の社会的責任を追及する米国監視機構(Corporate Accountability International:CAI)は10月に、「ボトルの外側を考えよう(Think Outsidethe Bottle)」というキャンペーンを始めたが、その際、ソルトレークシティーのアンダーソン市長はこう述べた。「私たちには、水道水というとてもおいしく安全な市の資源があるというのに、ボトル飲料水を購入し、それを利用することは、経済面からも環境面からも、まったくばかげた無責任なことである」。市長はまた、市の各部局やレストランにもボトル飲料水を買わないよう呼びかけた。

続いて11月、増加し続ける埋め立てゴミと膨れ上がる予算で窮地に立っていたシカゴ市議会は、画期的な対策を講じた。ボトル飲料水の消費に歯止めをかけるため、市内で販売されているボトル飲料水1本につき5セントの税金をかけたのだ。

同月、イリノイ州当局でも複数の部局で、州の予算を使ってボトル飲料水を購入することが禁止された。米国内の使用済みボトルの86%が、最後にはリサイクルされずにゴミになる状況を考えれば、ボトル飲料水から水道水への移行は、ゴミの軽減に役立つ。

ニューヨーク市は、市民に水道水の飲用を呼びかけている。同市の水道水は、自然保護区キャッツキル山脈一帯で自然にろ過されたものだ。ケンタッキー州ルイビル市の水道局でも、「純水道水」を詰めるためのペットボトルを市民に無料配布している。他にも多数の地方自治体が水道水を高く評価しており、ボトル飲料水の禁止を検討している。(自治体のリストとその詳細については
http://www.earthpolicy.org/Updates/2007/Update68_data.htmを参照のこと)

ペットボトル入りの飲料水が珍しかった数十年前なら、水道水利用促進キャンペーンなど異様なことに思えただろう。しかし今や、広く市場に出回ったボトル飲料水によって消費者の水道水離れが起きており、対抗策としてこうした試みが必要なのだ。

事実、最もよく売れている「アクアフィーナ」やコカ・コーラ社が出している「ダサーニ」をはじめとして、ボトル飲料水の4分の1以上が水道水を浄水しただけの水である。ペプシ社が7月に、アクアフィーナの水源が「水道水」であることを明示すると発表した時、ラベルに美しい山々や氷河が描かれているボトル飲料水が優れた商品だと信じ込んでいた人々は皆、ひどくショックを受けたに違いない。

水道水より品質検査の頻度も少なく、特別な水源ではない場合もあるというのに、ボトル飲料水の消費量は急増している。米国の年間消費量は、1976年には大人、子どもを含めて一人当たり7リットル程度以下だったが、約30年後の現在、米国人一人当たりが飲んでいるボトル飲料水は平均して110リットルに達している。

こうしたやり方で水分補給をすることに、米国人は年間150億ドル以上をかけている。ボトル飲料水の単価は1リットルあたり数十~百円(ブランド商品ならそれ以上)になるが、水道水なら直接家庭や職場で手に入り、1リットルで1円にも満たない。リットル100円ほどのガソリンに不満を漏らしている人なら、ボト
ル飲料水にそれ以上払っていることに疑問を持ち始めるかもしれない。

今や、好きな飲み物はボトル飲料水という米国人が多いとみえ、その売上高は年間10%増と飲料業界では最も急速に伸びている。牛乳やジュース、ビール、コーヒーや紅茶よりも多く、ボトル飲料水を飲んでいるのだ。産業アナリストは、ボトル飲料水が炭酸飲料を抜いてトップになる日もそう遠くはないと見ているが、水道水を見直す動きが活発になってきたことでその流れは変わるかもしれない。

エネルギー効率のよいインフラを通じて提供される水道水に比べ、ボトル飲料水は信じられないほど無駄の多い商品である。通常、ボトル飲料水には、石油を原料とした使い捨てのペットボトルが使われている。米国で使用される年間290億本の飲料水用ペットボトルを生産するためだけに、1,700万バレル以上に相当する原油が必要なのだ。

水詰め作業が終わったボトルははるか遠くまで輸送されることもある。ほぼ4分の1が外国の消費者の元に送られているのだ。ボトル飲料水に貼られたブランド名のラベルには外国の製造元の名前が載っているものがある。

環境問題の調査を行っているパシフィック・インスティテュートの試算をもとに、揚水、加工、運送、冷蔵に使われるエネルギー量を合計すると、米国で年間に消費されるボトル飲料水の化石燃料フットプリントは石油5,000万バレルを超える。これは300万台の車を1年間走らせるのに十分な量だ。もし、世界中の人間が米国人並みにボトル飲料水を消費することになれば、6,500億本近くのボトル飲料水が製造されることになり、そのエネルギー消費量は10億バレルを超える石油に相当する。

廃棄物の問題に加え、このような過大なエネルギー消費とそれがもたらす気候変動を憂慮して、ボトル飲料水をやめて水道水を利用しようとする団体が数多く出てきている。カナダ合同教(theUnited Church of Canada)は、道徳的な理由でボトル飲料水を買わない宗教団体の一つである。

また、バークレー学区内ではボトル飲料水が提供されないことになった。ナッシュビルのバース・ベリー&シムズ法律事務所では、毎週、3,000本もの空きボトルがたまる状況を問題視して、ボトル飲料水の買い置きをやめている。

ヨーロッパ諸国はこれまでずっと、一人当たりのボトル飲料水消費量で世界の上位を占めてきた。中でもイタリアは世界第一位で、イタリア人が2006年に飲んだボトル飲料水は一人当たり約205リットルである。国民一人当たりの消費量でイタリアに迫っているのがアラブ首長国連邦とメキシコで、フランス、ベルギー、ドイツ、スペインがそのあとに続く。

しかし、その西ヨーロッパにおいてさえボトル飲料水は勢いを失い始めている。由緒ある噴水で有名な都市ローマが水道水の普及に力を入れており、また、フローレンスの市議会、学校、そのほか役所関係では、市の水道水しか提供していない。英国では、財務省、環境食糧省が公的な行事でのボトル飲料水の提供をやめている。そしてスカンジナビアにおいては、環境意識が高まっていることからボトル飲料水の販売が低落に向かうとみられている。

ボトル飲料水「エビアン」の本場、フランスですら、ボトル飲料水の売れ行きが鈍ってきている。2005年にパリで行われた水道水利用促進キャンペーンの中で、水道局は市民に繰り返し利用できるガラス製の水差しを配布した。パリ市長バートランド・デラノアは、現在、公的行事に飲み物としてもっぱら水道水を出しており、他にもそうするよう呼びかけている。2004年、2005年と、フランスでのボトル飲料水の売上総額は下がっている。もっとも、2006年には再び増加しているが。

ボトル飲料水の不買運動が加速していけば、やがて売り上げにブレーキがかかるようになるかもしれない。世界的には、10億人以上もの人間が安全な水を確保できていないのだ。この状況を考えれば、世界で毎年ボトル飲料水のために費やされている1000億ドルという金額を、世界中に安全な公共水道施設をつくり維持するために使った方が、どんなにか益のある使い方となることだろう。

 

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