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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2009年06月17日

日本の中期目標について(2009.06.17)

温暖化
 

なぞなぞ:「いないと来て、いると来ないもの、な〜んだ?」

答え:エダヒロのメールニュース。

日本に戻ったら、メールニュースを書く時間が見つけられなくなってしまいまし
た……。(_ _;;;


<内容>

■麻生首相、日本の中期目標を発表

■発表された中期目標について考えること

■スウェーデンの主要新聞は、日本の中期目標をこう伝えた

■中期目標を日本のNGOはどう見ているか

■グリーン革命に乗り遅れる日本(飯田哲也氏 環境エネルギー政策研究所所長)

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■麻生首相、日本の中期目標を発表

6月10日、麻生首相は官邸で記者会見し、2020年までの日本の温室効果ガス排出削減の中期目標を「05年比15%減」とする方針を正式に発表しました。

「05年比15%減」は、選択肢の議論をしていたときの基準年1990年比にすると8%減となります。日本は1990年から2005年の間に、排出量を7%以上増やしちゃっているからです。

麻生内閣総理大臣の記者会見のようすは、こちらにインターネットテレビでの映像と、スピーチ&質疑応答のテキストが載っています。
http://www.kantei.go.jp/jp/asospeech/2009/06/10kaiken.html


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■発表された中期目標について考えること

今回の発表について、いろいろ考えるところがありますが、大きく3つ書きます。

(1) 目標設定が科学に基づいていない
(科学ベースではなく、相対的に立ち位置を決めるという政治)

欧米の政治家のスピーチの多くには、「IPCCでは」「科学によると」という前提の上に、自分たちはどうする、という説明があります。科学をベースに政治や政策を考えているのですね。

日本の政治(政治家)は、科学などぶれない軸をもたず、対人関係や距離感で政治や政策を考えるんだなあ、とよく思います。絶対的な基準や軸を持つのではなく、相対的なのですね。「米国がそう出るなら日本はこう出そう」「民主党がそう出すなら、自民党はこう出そう」などなど……。

今回の麻生総理の中期目標を発表するスピーチにも、「IPCC」という言葉は一度も出てこなかったし、「科学」という単語も、以下の2箇所だけで、「温暖化の科学がどうなっているのか」「科学が何を要請しているのか」、しっかり認識した上での判断とは思えないなあ、、、と。

「私は日本の中期目標を決断するのに先立って、専門家に経済的な影響も含め、総合的、科学的に分析をしていただきました。」

「科学の要請に応えるためには、この中期目標では小さ過ぎるという意見があるかもしれません。今ある技術だけでは、2050年60%から80%削減に向けて直線的な経路を歩むことは困難です。長期目標を達成するためには、まだ見えていない革新的技術の開発と普及が必要となります。」

「今回は産業界の求める4%増と、NGOの求める25%減の間を取った。どちらにも不満が残る形になるよう決定した」という声も聞かれました。ケンカ両成敗じゃないのですから、「間を取る」という発想ではなく、温暖化を止めるというそもそもの目的に照らして「どうあるべきか」で判断すべきものですよね?

(2) 基準年を1990年から2005年に変えて数字を大きく見せようとしている

太りすぎのAさんとBさんが「お互い、ダイエットして体重を落とそう」と話し合い、Aさんは8kg、Bさんは6kg、減らす約束をしました。

Aさんは実際に8kgぐらい減量しました。一方、Bさんは、減らすどころか逆に7kg以上増えてしまいました。

久しぶりに会った2人は、「目標の体重までまだまだ遠いから、もっと減らす約束をしよう」と相談しました。

Aさんは、「元の体重から20kg減らすよ」と約束しました。すでに8kgぐらい減らしていますから、あと13kg減らすことになります。

Bさんは、「元の体重から8kg減らそう」と考えました。最初の約束で、元の体重から6kg減らすことを約束していましたから、追加で2kgしか減らさないということです。

実際には、最初の約束の6kg減のはずが7kg以上増えてしまっているBさんは、「元の体重じゃなくて、いまの体重から考えれば、元の体重から8kg減らす分と7kg増えている分を足すことになるから、15kg減らすことになる」と思いました。

そこでBさんはAさんに対して、「キミの目標の13kgより、ボクの目標の15kgの方が多いから、ボクの方が偉いんだよ。どうだ、すごいだろう!」といばりました。

……??? 何だかヘンだと思いませんか?


麻生総理は中期目標の発表で、「今回、私が決断した日本の目標は、国際的に見てもヨーロッパの2005年比13%減や、アメリカ、オバマ政権の14%減といった欧米の中期目標を上回るものだと思っております」と胸を張っていらっしゃいました。。。

実際の数字を専門家に確認したので、詳しくお伝えしますと、

○日本は、第一約束期間は90年比6%削減を約束しているが、05年には7.7%増加している。今回は2020年には05年から15%削減と言った。

○EU15は、第一約束期間は90年比8%削減を約束し、05年までに2%削減した(EU27では05年までに8%削減)。

2020年にはEU27として90年比20%削減(各国が相応の努力をした場合は90年比30%削減)と言っている。すでに減らした分があるので、05年でいえば13%削減となる。

○米国は、第一約束期間は90年比7%削減を約束したが、京都議定書を批准せず枠組みに参加しなかった。実際には05年までに14%増加した。今回は、2020年には05年から14%削減するとオバマ大統領が言っている。(下院で審議されているワックスマン・マーキー法では2020年には05年から20%削減、30年には05年から42%、50年には83%の削減が提案されている)

(3) 今回発表された目標の数字は、

・温暖化を止めるというそもそもの目的に対しても
・そのための2050年の長期目標に対しても
・資源・エネルギー制約の時代に向けて日本の社会や経済の構造を変えていくという日本のサバイバルのためにも
・途上国や米国を巻き込んで今後の国際体制をつくっていく上でも

小さすぎる、と私は考えています。地球益・日本の国益から考えても、足をひっぱりそうです。年末のCOP15に向けて、目標の積み上げも含め、もっと国全体で議論をしていかなくては、と思っています。

今回総理が発表したから、決定・オシマイ!ではないのです〜。

今回発表した目標以下に変更することはできないでしょうけど、目標の引き上げは問題ありませんから。世論が変われば、または、政権が変われば、そういう可能性も出てくることと思います。(そのように動かしていきましょう!)


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■スウェーデンの主要新聞は、日本の中期目標をこう伝えた

スウェーデンの高見幸子さんに6月10日の「ヨテボリポステン紙」の朝刊の記事の内容を教えてもらいました。

http://www.gp.se/gp/jsp/Crosslink.jsp?d=130&a=500432


日本の地球温暖化防止のメッセージは薄い

日本は2020年比15%削減を発表した。いろいろな方面から厳しい批判を浴びている。

インド、中国を先頭に発展途上国は、90年比で、2020年までに40%削減することを要求している。日本の発表は、90年比に換算すると8%となり、京都議定書より2%目標が増えたことを意味するEUは、90年比20%削減、世界も削減を支持するなら30%とするとしている。

日本の目標値が低いことへの批判が当然のように出ている。日本は世界で5番目に大きいCO2排出国であるため日本の地球温暖化政策の意味は重要である。明瞭で、志の高い、工業先進国の目標がないと発展途上国がついてこないことが危惧される。

他のメディアでも、「スウェーデンでは日本にあまりやる気がないことは察していたが、ここまでひどいと思っていなかったようで、ショックな発表だったと載っています。2050年に60〜80%削減と言っておきながら、2020年にこんなに低いのでは……」とのこと。


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■中期目標を日本のNGOはどう見ているか

○気候ネットワークのプレスリリース
日本の「8%削減」中期目標 このままでは国際社会から孤立する
http://www.kikonet.org/research/archive/mtt/pr20090610.pdf

○環境エネルギー政策研究所(ISEP)のプレスリリース
政府の地球温暖化対策の中期目標に対する意見
http://www.isep.or.jp/press/090610isep_midtermtarget_press.pdf

ISEPのプレスリリース文から、見出しと、最後の部分を引用します。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

・我が国の温室効果ガスの中期目標(2020年)に関し、大前提が欠けている
・エネルギー経済のマクロモデルで「経済への悪影響」を比較することは「科学的」ではない
・公平性と限界削減費用
・2005年基準という姑息な印象操作は止めよ
・グローバル社会の中で国家の意思を示せ
・「裸の王様」(無政策)ではどのような水準も達成できない

排出量取引制度、自然エネルギーの爆発的普及、炭素税などを先行して取り組んでいるEUはもちろん、オバマ政権に変わった米国も下院委員会を通過したMaxman-Marykey法案が成立すれば、最大限、1990 年比28%削減が可能との評価もある。2月に成立したグリーン刺激策も、すでに大きな効果をあげつつある。

他方、日本は、何ら実効的な政策もないままで、数字遊びのような中期目標を掲げても、それこそ何も進展しなかった「京都の二の舞」を繰り返すだけではないか。いかなる中期目標を掲げるにせよ、確実に削減し、21世紀の環境エネルギー革命を実現する「実効的政策の実現化」は、待ったなしである。

具体的には、
1. 「石炭凍結」と「石炭段階的廃止」
2. 排出量取引制度導入の前倒しと温暖化対策税導入の政治決定
3. 自然エネルギーの野心的目標とFIT の前面導入など効果的支援制度導入
4. 温暖化対策と整合するエネルギー市場の抜本改革


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■グリーン革命に乗り遅れる日本(飯田哲也氏 環境エネルギー政策研究所所長)

飯田さんがとてもわかりやすく問題を示してくれているので、「マル激トーク・オン・ディマンド 第427回(2009年06月13日)」の紹介文を紹介します。
http://www.videonews.com/

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

グリーン革命に乗り遅れる日本
ゲスト:飯田哲也氏(環境エネルギー政策研究所所長)

「低炭素革命で世界をリードする」。10日、麻生首相が、日本の温室効果ガスの2020年までの削減目標を05年比で15%減とすることを発表した。麻生首相はこれが野心的な目標と考えたと見えて、「野心的」、「決断」などの言葉を連発したが、世界からは冷ややかな反応しか返ってこなかった。ちょうど国連気候変動枠組み条約の特別作業部会が開かれているボンでは、麻生首相を先のブッシュ大統領に擬した似顔絵とともに、世界の潮流から大きくずれた日本の削減目標を批判するコメントが相次いで出された。

省エネ世界一などと喧伝している日本だが、実は1990年と比較して温室効果ガスが9.2%も増加している。そのため、「05年比15%削減」を、1990年の排出量と比較した数値にすると「8%削減」としかならない。京都議定書の削減義務は、2013年までに90年比6%削減なので、今回の中期目標はその後8年をかけてもう2%だけ削減する意思を表明したにすぎない。ちなみにIPCCは、地球温暖化を抑えるためには2050年までに世界全体のCO2排出量を1990年比で半減する必要があり、そのためには先進国は2020年までに25〜40%削減しなければならないと試算している。40%削減に対して、日本は8%は余りにもかけ離れた数字だった。

地球温暖化問題に長年取り組んでいるNGO環境エネルギー政策研究所所長の飯田哲也氏は、今回発表された数字は、「嘘で塗り固めた不作為」であると酷評する。そもそも政府もメディアも05年比の数字を発表しているが、国際的な中期目標は1990年の排出量を基準に決められている。削減努力を「何もやってきていない日本」(飯田氏)にとって、05年比にした方が目標の低さを誤魔化しやすいため、恣意的な数字を出しているに過ぎない。

しかし、日本の目標がアメリカやEUと比べて遙かに深刻なことは、単にその数値が低いことではないと飯田氏は言う。日本は「ただの数字遊びをしているだけで、削減するための具体的な政策が何もない」ことが、最大の問題だと言うのだ。

麻生首相は、日本の目標はアメリカの目標値を上回っていると胸を張った。確かにアメリカはブッシュ大統領が京都議定書から離脱して以降、温室効果ガス削減の努力を何もしてこなかったために、数値的には低い目標しか掲げられていない。しかし、オバマ大統領が就任して以来、アメリカは矢継ぎ早にグリーン・ニューディールと呼ばれる施策を打ち、一気に遅れを取り戻している。既にGDPの0.5%を投入するグリーン景気刺激策を09年2月に成立させているほか、再生可能エネルギーの買い取り義務付けやスマート・グリッドなどを盛り込んだ600ページにも及ぶワックスマン・マーキー法が4月に議会に提出されている。

飯田氏は、アメリカが目標値を実現する具体的な手段を持っているのに対し、日本は政策手段も道筋もないまま、数字だけ出しているに過ぎないと指摘する。言うまでもないが、EUは既に排出量取引市場を創設し、ドイツやスペインを筆頭に、再生可能エネルギーでは世界のトップをひた走っている。どうやら、日本はグリーン革命で完全に世界から取り残されてしまったようだ。

なぜ、日本はグリーン革命に踏み切ることができないのか。飯田氏は、経済界に地球温暖化についての共通認識がなく、政治もイニシアチブを取れていないことに、原因は尽きると言い切る。特に、発電から送電までを独占し続ける日本の電力会社は、原子力にしがみついたまま、世界のダイナミックな変化に全く対応できていないというのだ。

しかし、それよりも更に重大な問題を日本は抱えていると飯田氏は言う。それは、日本がEU諸国やオバマ政権のように、世界の最先端で提案された知的蓄積を、自国の政策に活かす仕組みを持っていないことだ。官僚が省益だけを考え、独占企業が自分達の利益だけを考えて、政策を主張する。日本の政策はそれをつぎはぎにしたものでしかないため、国際的な知の蓄積が全く反映されないというのだ。

世界がグリーン革命に向けて猛スピードで走り始める中、日本はどこまで取り残されてしまったのか。遅れを取り戻すための処方箋はあるのか。飯田氏とともに議論した。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ふー。やっと書けました〜。

今日は参議院の「国際・地球温暖化問題に関する調査会」に、参考人として呼ばれています。「低炭素社会の実現と環境分野での日本のリーダーシップに向けて」というお題で、「どうして日本の取り組みが進んでいないのか」、自分の考えをお伝えしてこようと思っています。

 

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