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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2006年08月31日

サステナブル・フード・ラボ(2006.08.31)

 
こちらは出張は出張でも、2ヶ月前の米国出張時のおみやげです。(^^; [No.1217] の「米国出張の所感」で、以下のように書きました。 http://www.es-inc.jp/lib/archives/060706_073029.html 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 また、サステナビリティ研究所を訪問したときにも同様の感想を持ちました。ここは、ドネラ・メドウウズさんの立ち上げた研究所で、ひとつのプロジェクトとして、2年ほどまえから「ワールド・フード・ラボ」という、世界の大手の食品会社や小売業をつないで、食品の生産・流通を変えていこうという動きを始めています。 これについては、また詳しく紹介できれば、と思いますが、もともとはアメリカとヨーロッパの企業とのコラボレーションで始まりました。米国の流通業界でいえば、現在の参加企業で食品の流通全体の70%を占めるほど、大きな動きとなりつつあります。 その話を聞いていたとき、「日本からの参加者は一社もないですが、中国では動きが始まっています」とのこと。この9月には、中国に大きなミッションを送り込んで(政府系の研究機関が中国側のホスト)実際のプロセスを始めるそうです。 これは中国人から、「自分たちもやりたい」と言ってきたので、いっしょに組んで始めているとのこと。このように、「何とかしなきゃいけない」対象としての中国ではなくて、このような問題に自分たちで取り組もうとしている人たちがとても増えている中国を感じたのでした。 中国には日本の10倍の人口がいますから、その気になれば、いろいろな活動にたくさんかかわることができるのだろうなあ、と思います。。。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 このときにもらってきた「フード・ラボ」の取り組みと、この秋の中国へのミッションについての情報を、実践和訳チームのメンバーに訳してもらいましたので、お届けします。 「ぜひ日本からの参加者にもきてほしい」と言付かっています。食品や流通業界の方、グローバルな動きに参加しませんか? 少なくともようすを見にいったり、情報をもらえるようにしておいたほうがよいのではないかなと思います。 参加希望やお問い合わせは、英語で、サステナビリティ研究所の担当者 Hal Hamilton へ直接どうぞ。 hhamilton@sustainer.org そのまえに日本語で相談してみたい、というご要望がありましたら(英語のサポートはできませんが、内容面でしたら)、チェンジ・エージェントの小田まで。 (info@change-agent.jp) 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 サステナブル・フード・ラボ  【将来目標】  サステナブル・フード・ラボ(SFL)は、企業、一般市民のリーダーによるプロジェクト組織で、世界が現在必要とする食糧をまかなうだけの農業や食糧供給を確保し、さらに将来の需要に備えて世界の食糧供給能力を増強することを目指しています。 SFLの目的は、次のことの実現に向けて食糧や農業システムの革新を促すことです。 ・農業や食糧供給が、環境の回復力を損なわず生産者や企業にとっても経済的に成り立つものであること ・世界中の誰もが、栄養価のある食糧を手ごろな価格で入手できること ・消費者が、畑から食卓までの、環境や社会に広くかかわる食糧システムの仕組みをより深く理解すること 【メンバー】 SFLのメンバーは米国、欧州、中南米の70余りの企業や団体の代表で構成され、その分野は農業、製造業、食サービス業、小売業のほか、社会問題や環境問題に影響力をもつNGO、公共部門などにわたっています。 SFLはユニークなアプローチをとっているので、民間、公共双方のメンバーが、たとえ競争関係にあっても、これまでにはなかった協力関係を築くことができるのです。中国、オーストラリア、ニュージーランドなど他の地域からも次々に新たなメンバーがSFLに加わっています。 【戦略】 SFLではレバレッジポイントの中でも以下のテーマに焦点をあてて実験プロジェクトを行います。 ・食糧システムの規準、規格、測定基準、評価方法の改善 ・透明性を高め、環境の回復度を向上させ、中小農家の収入増をもたらすようなサプライチェーン ・持続可能な方式で生産された品物への需要を高めるような公共部門における購入慣行の制度化と広報活動 企業から参加しているSFLメンバーはこうしたプロジェクトに参加することで新しいマーケットに参入したり、ビジネスリスクを抑えたりすることができ、自社のブランド価値や企業文化を社会的責任を反映したものへと進化させることができます。 市民社会や公的部門から参加しているメンバーは、環境、社会、経済の面でサステナブルであることが生産物を売買する際に重要な要素となることを目指して、この実験的プロジェクトの展開に参加します。こういうユニークな協力関係を通し、すべてのメンバーがSFLのネットワークを生かして、企業競争を生むようなより大きな政治的枠組みを作り出すチャンスを手にするのです。 SFLに各方面から集まる人たちの強いリーダーシップによって、世界各地で行われるSFLの実験プロジェクトは、それをモデルとする新たなプロジェクトを生み出し、それがさらに大規模なものへと発展します。こうして、格段に進化した農業と食糧システムが世界の主流となる基礎が作られていきます。 【活動予定】 SFLは2006年および2007年にかけて、いくつかのプロジェクトを共同で進めるほか、次のような計画を実施します。こうしたプログラムへの参加を通して、メンバーは個人的にも組織としてもさらに優れたリーダーシップ能力を身につけることができるでしょう。 ・中国、ドミニカ共和国、欧州への研修旅行 ・プロジェクト別の会議およびロンドンとローマで開催されるSFLの全体会議 ・「サステナブルな食を目指す企業連合」と他のプロジェクトチームによる定例会 ・徹底したリーダーシップ養成コースを含むワークショップとリトリート 注)リトリート:自然のなかで共に過ごすプログラム SFLはUプロセス方式でプロジェクトに取り組みます。Uプロセス方式というのは、さまざまな視点に立つリーダーたちが相互信頼と理解のもとに協力して画期的な革新を生み出す、そういうことを可能にする最新の社会工学的手法です。 食糧システムに対し異なる認識を持つ人々が集まって、新しい発想を提案しながら、ありきたりではない生産的なやり方で課題に挑戦するユニークな場、それがSFLだと多くのメンバーが語っています。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 中国における持続可能な食のサプライチェーンを考える 各国からさまざまな関係者が集合し、将来の共同作業を討議 期間:2006年10月23日〜11月1日 注)サプライチェーン:生産から消費に至る一連の食の流れのこと。 中国でのこの10日間にわたるリーダー研修会は、食糧システムのリーダーたちが共に学び、将来の共同作業についてそのデザイン作りを始めるためのものです。 40名の出席者のほぼ半分は中国、ほかは海外からの参加者です。その顔ぶれは企業や政府関係者、一般市民。ここで生まれた新しい人間関係や理念が、将来共同で持続可能な食のサプライチェーンを実現してゆく上で、その基盤を形作ることでしょう。 このリーダー研修会では、自然環境を保護し、体に良い安全な食料を消費者に提供しながら、農家の利益を増やすような食のサプライチェーン作りのことが主に討議されます。中国では、農産物を古くからある地元の市場に直接出荷する生産者が多いのですが、最近では大規模なスーパーマーケットの系列店に出荷する、近代的なサプライチェーンに組み込まれた生産者が増加しています。 しかし、こうした変化にもかかわらず、農家の所得は都会のレベルに追いついてはいません。同じような状況は世界各地で見られます。今回の研修会には多くの国々から食糧システムのリーダーたちが参加し、それぞれの体験談と共に次のような問題が話し合われることになっています。 ・中国やその他の国々で農産物の市場構造に変化が起きているとき、自営農家がその機会を上手く捉えるために取るべき重要なステップとは? ・市場関係者が消費者の需要の変化に関する情報を速やかに共有し、そして, サプライチェーンのすべての段階でエネルギーの投入量を少なく環境への負荷も小さくしながら、安全かつ健康的で質の高い多様な食料の供給を確保するための望ましい方策とは? ・多国籍企業から大小さまざまな地元企業にいたるまで、企業が持続可能で安定した食のシステムを積極的に推し進めてゆく上で必要なこととは? ・さまざまな規制や公共投資、知的財産や不動産の権利に関するルール作りなどを含めて、持続可能で公平な食のサプライチェーンの展開を支援するために政府に望まれる役割とは? ・共同体制を実効性のある形に育てることを含めて、持続可能な食のサプライチェーンの改善を支援する農業組合やNGOの役割とは? ・中国やその他の国の食のシステムが、相互に影響を及ぼし依存関係を保ちながら発展するための最も望ましい方法とは? 中国が将来どのように発展してゆくのか、これは世界全体にとって重要なことです。というのは、中国は巨大で食の問題を考える上で戦略的に重要な国であるだけでなく、発展を続ける中国の姿から、他の諸国が直面している課題とチャンスの縮図が見えてくるからです。 この研修会では、中国や海外からの参加者にはお互いの眼で確認し学習し合う機会が与えられるほか、以前には考えもつかなかった革新的なアイデアを思いついたり、またさまざまな分野での共同作業を計画するなど、多くのことをする場が提供されるでしょう。 それには例えば、サプライチェーンのモデル作りや自営農家のための基盤整備事業、食の確保のための仕様作り、商品の標準化、公共政策策定などの作業が含まれることでしょう。 スタディーツアーの最後に意見交換を行い、新しいアイデアを練った後に、学習した主なポイントをレポートにまとめます。それにはこのプロジェクトの参加者が個人およびグループとして学んだ内容が盛り込まれます。 この研修で用いられるユニークな社会工学的アプローチにより、技術革新の実用化の可能性が最大限に高まるでしょう。研修の開催中は中国語、英語、フランス語、スペイン語の通訳が用意されています。 リーダー研修は2006年10月23日から9〜10日間の日程で開催されます。 1.海外からの参加者は、中国の歴史と現状の問題点や課題について、じっくりと実地体験できる北京での日帰りスタディーツアーにオプションで参加できます。 2.参加者は全員、北京での1日研修に参加し、持続可能なサプライチェーンについての知識や経験を共有し、安徽省でのスタディーツアーに備えます。 3.安徽省では4日間にわたり、同時進行で3つのスタディーツアーが行われ、中国の食糧・農業の現状についてじっくり理解を深めます。 4.最後の4日間で、スタディーツアーの感想を語り合い、食糧システムの課題とチャンスについての理解を共にし、自然の中で休息をとり、今後共同で行う活動内容を明らかにします。 【研修の成果】 ・大企業や国際的に重要なNGOなどを含め、部門の枠や国境を超えて、リーダー同士の新たな協力関係や知識がはぐくまれ、持続可能なサプライチェーンに向けての国際的なコラボレーションの可能性が生まれます。 ・外国のリーダーたちが中国の現状について理解を深めることで、リーダー間での合意やイニシアティブが可能になります。 ・これから取り組むことになるイニシアティブについて少なくともひとつ、具体的な計画が立案されます。このイニシアティブは、SFLの他メンバーと共同で、基準や規格、政策展開など、具体的なサプライチェーンの革新を行うものとなるでしょう。 ・マスコミ発表や公式報告書は中国の関係者と世界中の主要な団体向けに発表されます。また研修の成果についてはインターネットで公開し、200ものSFLに関係する組織とリーダーたちにメールで伝えます。 ・全参加者はメーリングリスト、隔月ニュースレター、および相互ウェブプラットフォームなどの、SFLの電子コミュニケーションネットワークに登録されます。 (翻訳担当: 古谷明世 酒井靖一 小林紀子) 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 「レバレッジ・ポイント」や「Uプロセス」といった言葉が出ていますが、これらは、システム思考のアプローチといえます。サステナビリティ研究所はドネラ・メドウズさんが作ったので、広く全体像を把握し、そのなかで小さな力で大きく変えられる介入を考えていく、そして、そのプロセス自体を参加者の学習や進化につなげる、というシステム思考がすべての活動の土台や背景になっています。 このフード・ラボは、実際にシステム思考を土台に進めている大きなプロジェクトのひとつとして、とても関心を持って見守っています。 日本でも、食育や食の安全、フードマイレージ、トレーサビリティなど、食や流通をめぐる意識や関心が高まっています。ぜひグローバルな動きにもつながって、お互いに深め合い、刺激し合って進めたら、と願っています。
 

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