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エダヒロの本棚

アニマルウェルフェアとは何か――倫理的消費と食の安全
著書
 

枝廣淳子(著)

岩波書店(岩波ブックレット)

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アニマルウェルフェアは「動物たちは生まれてから死ぬまで、その動物本来の行動をとることができ、幸福(well-being)な状態でなければならない」という考えを背景として欧米で誕生しました。「動物福祉」と訳されることもありますが、最近ではカタカナのまま使われることが増えています。

例えば、日本では、ほとんどの採卵鶏(卵を産むために飼育されている鶏)は、「バタリーケージ」と呼ばれるおよそB5サイズほど大きさの檻に閉じ込められたまま一生を過ごします。また、豚肉用の子豚を産むための母豚の多くも、妊娠ストールとよばれる檻の中で身動きが取れない状態に置かれています。

アニマルウェルフェアは、こうした近代畜産の現場で、家畜をできるだけ自然に近い形で飼育しよう、という取り組みですが、日本は欧米と比べると取り組みが遅れているのが現状です。

家畜のウェルフェアに対する消費者の意識や関心が高まり、アニマルウェルフェア対応の卵や肉類などを提供する農家や企業が増えていく日が一日も早く来るためにーーぜひこのブックレットをお役立てください。

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「おわりに」から、一部を引用します。

「アニマルウェルフェアの波が来てますよ! ほんとにね、すごく強く」――2018年5月、取材で訪れていたスウェーデン・ストックホルムで、この国第2位の市場シェアを誇る流通小売大手・アックスフード社の環境・社会持続可能性担当部長の女性が力強く言った。

「牛肉の消費量は少しずつ減っていて、代わりに急上昇なのが植物性タンパク質。年に40%の勢いで売上が伸びてます。豆腐をはじめ、さまざまな植物性タンパク質の食材が登場していて、お肉の代わりに購入されています。理由ですか? 牛肉の生産は温室効果ガスを大量に排出することが知られているので、温暖化への意識と、あとは、健康意識ですね」。

「特に若い女性のベジタリアン率は高いですよ。かつては自分らしさを規定するのは『どういう音楽を聴いているか』だったけど、今では『何を食べるか』がアイデンティティになっています。

『フレキシタリアン』って聞いたことあります? フレキシブルという単語を使った造語です。厳密なベジタリアンではないけれど、植物性タンパク質を食べる方がよいと思って、お肉をめったに食べない、という人たちです。魚は食べるとか、赤身の肉は食べないけど鶏肉は食べるとか。すごく増えています。

肉食に関しては、特に女性が気にしていますね。教育のおかげもあるでしょうし、若者に影響力のあるユーチューバーがそういうメッセージを出しているんです。だから、15歳の女の子が『お肉は食べたくない』と言い出す。すると、家族もフレキシタリアンになっていく。ティーンエイジャーが家族に大きな影響を与えているんですよ」

(中略)

「スウェーデンの人たちは、デンマークで生産された豚肉は安くても買わない人が多いのよ。デンマークの豚は尻尾をちょん切られて飼われていることを知っているから」――取材後に、自宅の近くのスーパー(アックスフードとは別の系列)に買い物に寄ったとき、今回の取材のコーディネートをしてくれた高見幸子さんが教えてくれた。スウェーデン在住歴40年の高見さんは、環境と教育の分野で日本とスウェーデンをつなぐ大事な役割を果たしておられる。

「スウェーデンの基準がいちばん高いことはみんな知っているから、ほら、たくさんのお肉のパッケージに『スウェーデン産』って書いてあるでしょう? それがウリになるのよ」。たしかに、「スウェーデン産」の表示が多い。スウェーデン人の友人アランも「値段が倍だったとしても、デンマーク産よりスウェーデン産を買う」と言っていたなあ。

「卵は? 私、アニマルウェルフェアの勉強をしてから、日本のスーパーではバタリーケージ以外の卵を見つけるのが難しくて、卵を食べるのやめているのですけど」と聞くと、卵の棚に連れて行ってくれた。

「どれもケージフリーよ。スウェーデンでは、卵に関してはコープが消費者を教育したの。かつては、バタリーケージが普通だったからね。コープでは、バタリーケージで飼われている鶏と、放牧されている鶏の飼われているようすを比べられるよう、写真で示してね、消費者に卵を選ばせたの。そして、企業努力で値段の差もなくしたのよ。

(中略)

スウェーデンの国営テレビでは、アニマルウェルフェア配慮がない農場では、動物たちがどんなにひどい飼われ方をしているかという番組をよく流しているから、人々は意識して選ぶようになっている。オピニオンリーダーやメディアが働きかけて消費者の意識を変え、消費者の要望に応じてスーパーが変わっていくという好循環が生まれて、状況は大きく変わっていったの」

企業の担当者の話からも、スーパーの店先でも、家庭の主婦の実感からも、スウェーデンがアニマルウェルフェアの観点を大事にし、それを販売や購入の実際に反映していることが強く伝わってくる。

「それに引き換え、日本の現状はあまりにも遅れている......」と考え込む私に、高見さんはこう言った。

「スウェーデンだって、最初からそうだったわけじゃないのよ。スウェーデンの状況を大きく変えた女性がいるの」

(後略)

 

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