サン=テグジュペリの『星の王子さま』には「本当に大切なものは目には見えないんだよ」という言葉が登場します。本当にそのとおりです! 本当に大切なものは目で見ることはできないし、ましてや測ることなんてできません。
他方、経営や品質管理などの分野では「測定できないものは管理できない」とも言われます。確かにそうなのでしょう。自分たちの取り組みが良い方向に向かっているのか、変化の速度は十分なのかなど、測らずに知ることはできないでしょう。本当に大切なものは見えないし測れないけれど、なんとか工夫して少しでも見える化し、測ろうとすることで、そうでない場合よりも先に進むことができると思います。
「見える化」という言葉もずいぶん定着してきたようですが、最初は1980年代にトヨタなど製造業で「問題点を現場で誰でも見て分かるようにする」という可視化の概念が生まれ、その後「見える化」という表現が使われるようになりました。現在では経営をはじめ幅広い分野で使用されています。
私たちの暮らしや経済は、食料や水、原材料の供給、気候の調整など自然(生物多様性)のさまざまな恵みによって支えられています。1998年に英科学誌Natureに発表された論文では、こうした自然の恵みを「生態系サービス」と位置づけ「全世界の生態系サービスの価値は年間33兆ドル」とその価値を「見える化」しました。当時の世界全体のGDP(国内総生産)を上回る金額だったのです! 「見える化」したことで、過小評価されていた生態系サービスの重要性に政府や企業が気づき、生物多様性の保全に向かって大きく進み始めたのです。
問題が見えず、どのくらい深刻かもわからないと、行動や変化の必要性も感じず、状況がどんどん悪化してしまうかもしれません。そこで人々に意識・理解してもらい、行動してもらうための「見える化」の重要性に注目が集まっています。私は地方創生に関わる中で、GDPに代表される経済的側面だけではなく、環境的側面・社会的側面も測るお手伝いをしています。測定方法の開発が進み、「見える化」による問題解決や改善事例も多く出てきています。
意識と行動を変えるための「見える化」―みなさんは何を「見える化」したいですか?