エダヒロ・ライブラリー執筆・連載

2021年01月21日

「信用金庫に期待すること」
ー信用金庫新聞より

 

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※ご了解をいただき、全文を掲載いたします
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「信用金庫に期待すること」
 

お金の流れを変えること
 
 若い頃、10年ほど同時通訳の仕事をしていた。医学の専門ではなかったが、何度か代打で(?)駆り出されて、心臓病関係の通訳をしたことがある。冠状動脈の疾患がたくさんあることをそのとき知った。いろいろな理由で、血液が行くべきところへ行かなくなってしまうと病気になるのだ。ひどい場合には血液が届かなくなった部位は壊死してしまう。
 
 治療は、カテーテルでバルーンやステントを入れて血管を広げたり、削ったり、またはバイパス手術で血管を新たに作ったりする。そうして、必要なところに血液が流れるようになると、患者さんは元気になるのだ。
 
 お金は社会や経済の血液だ。だから、望ましいほうへお金を動かしていく金融の役割は非常に大きい。社会や地球の持続可能性を損なう事業や産業を壊死させ、幸せな未来を創り出す事業や産業を活性化することができるのだ(逆に、幸せな未来を創り出す事業や産業を壊死させ、社会や地球の持続可能性を損なう事業や産業を活性化してしまうこともできてしまう)。
 
 私はよく「買い物は投票だ」と消費者に伝える。市民側からの環境への取り組みとして、グリーン購入(環境のことを考えて買い物をする)が有効だからだ。グリーン購入は、「買い物とは投票である」という消費者のパワーを自覚して、環境に優しい企業や商品をそのパワーで応援しよう、というものである。「消費行動」を通じて、企業を「持続可能な社会」に向けてプッシュしていくのだ。
 
 グリーン購入のもうひとつの大切な側面は「お金の流れを変えること」であると考える。現在の経済・社会の大半においては(それが良いことかどうか価値判断は別として)、「お金がモノをいう」仕組みになっている。だから、お金の流れを変える必要があるのだ。ガン細胞にどんどん血液で養分を補給しながら、抗ガン剤を注射するのではなく、ガン細胞には血液を流さない。壊死させる。そして、良性の細胞にどんどん血液を流して、その成長を促すことが肝要である。
 
 「お金の流れ」は、いろいろなレベルや次元で考えることができる。これまでA社の商品を買っていたが、B社のものに変える。海外に流れているお金(エネルギーや食糧など)の少しでも、国内での流れに置き換えていく、などなど。
 
地方の危機は日本の危機

 日本の現状を考えたときに、最も変えるべきお金の流れは、「それぞれの地域で小さく回り、地域にとどまるお金の流れにする」ことだと考えている。
 
 私はもともと環境活動を展開していたが、この数年間は島根県海士町、北海道下川町、熊本県南小国町、徳島県上勝町など、何カ所かの地域に関わって、持続可能で幸せな地域づくりのお手伝いをさせていただいている。「未来は地域にしかない」と強く思っているからだ。
 
 地方経済の疲弊や人口流出・減少は、地方に住む人々だけの問題ではない。日本には現在、人口3万人未満の自治体が954あるが(平成27年国勢調査)、その人口を合計しても、日本の総人口の約8%にすぎない。しかし、これらの自治体の面積を合わせると、日本全体の約48%になる。つまり、日本の面積の半分近くをわずか8%の住民が支えてくれているのだ。
 
 これらの地方で地域経済が回らなくなると、ますます人口流出・減少に拍車が掛かり、無人地帯が広がっていくことになるだろう。そうなると、日本の国土を保全することすらおぼつかなくなってしまう。地方の危機は日本の危機なのである。持続可能な地域にしていくためには、地域内で経済をしっかり循環させる必要がある。
 
漏れバケツモデル
 
 その重要性を分かりやすく伝えてくれるのが、「漏れバケツ」モデルである。これは英国のロンドンに本部のあるシンクタンクNew Economics Foundation(NEF)が打ち出したものである。

 地域を「バケツ」だと考えてほしい。地域にお金を引っ張ってくるということは、そのバケツの中に水を注ぎ込むことに例えることができる。しかし、せっかくお金が入っても、地域からその大部分が出て行ってしまっている、つまりバケツに穴がたくさん空いているのが現状だ。バケツに水をいくら入れても流れ出てしまい、水はたまらない。では、どうするべきか? 

 もちろん「バケツの穴をふさぐ」ことだ。バケツの穴をふさげば、残る水の量は増える。そうしたら、そんなに頑張って水を注ぎ込まなくても済むかもしれない。
 
 地域経済も同じだ。これまでは、「どうやって地域にお金を持ってくるか」ばかりに目が向いていて、「どうしたら地域から出ていくお金を減らせるのか」は、あまり考えられてこなかった。しかし実は「地域からのお金の流出を減らす」こと、つまり、「一度地域に入ったお金を、どれだけ地域内で循環して長くとどまるようにさせるか」が大切なのだ。

 
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 具体的に計算をしてみよう。A町は、人々が地元経済のことをあまり考えず、安いから、便利だから、という理由で、隣町にあるショッピングセンターや、インターネット通販などで買い物をすることが多く、使うお金の20%しか地元に残らないとする。この町に、1万円のお金が入ったとき、残るのは2,000円だ。その2,000円を受け取った人・事業者もその20%を地元で使う。すると、地元には400円が残る。こうして計算を繰り返すと、当初の1万円が町全体には1万2500円ほどの価値を生み出すことが分かる。
 
 B町は、人々ができるだけ地元で購入・調達するようにしている。使うお金の80%が地元に残るとしよう。先ほどと同じ計算をすると、外部から入った1万円が最終的に生み出す価値は、約5万円になる。このシンプルな計算から、「いったん地域に入ったお金をできるだけ地域の中で回していくこと」が、いかに大事なことなのかが分かる。
 
 地域経済の完全な自給自足や孤立を目指しているわけではない。「100%の自給自足」など不可能であり、望ましくもない。しかし、地方への交付金や補助金が減っていく時代に、地元経済が外部に依存している割合を下げることは、地域のレジリエンス(しなやかな強さ)につながる。外部に翻弄されない強さが生まれ、自分たちの足で立つことができるようになる。そうしてはじめて、ある程度自立した地域同士が相互に交換・交流するという、安全・安心な豊かさを創り出すことができるだろう。
 
買い物以外のお金の流れ
 
 先に、消費者に対して「買い物は投票」と伝えていると述べたが、ある意味、見えやすく分かりやすい買い物以外にも、重要なお金の流れがある。生活者からいえば、「貯蓄」だ。自分が金融機関に預けたお金がどのように使われているか、によって、地球や社会の持続可能性を支援できる一方、破壊しているかもしれないのだ。こちらは、見えにくく分かりにくいお金の流れと言えよう。しかし、「どこに預けようかな?」という貯蓄行動も、「どこの株を買おうかな?」という投資行動も、一人ひとりが選択できる。企業や自治体の調達も同様である。
 
 近代経済学は、人間を「安いモノを買う」存在として位置付けている。しかし「安くはないけど、環境に優しいモノを買う」人が増えている。このような消費行動は、現在主流の経済学では説明がつかない。同様に「利回り」だけではない尺度で、貯蓄先を選ぶ人が増えている。ESG投資の主流化がそのことを示している。
 
地元経済をしっかり回すためのローカル・インベストメント
 
 世界では、「ローカル・インベストメント」が大きな潮流となりつつある。地域の住民が自分たちのお金を地元の経済に投資すれば、利子やリターンを得ながら、自分の地域の経済を元気づけることができる。「地元の農作物を地元で食べよう」という地産地消と同じような考えで、「地元のお金を地元に投資をしよう!」という取り組みだ。地域の住民が地元の小規模ビジネスに投資することで、自分たちの生活に必要な店舗や企業を支援するという、市民の手による新しい資本主義の形でもある。
 
 域外や海外で事業をしている企業の株式や社債を買ったり、域外に投融資をする銀行や郵便局に預金したりするのとは違って、地元に投資したお金は地元経済にとどまる。投資の資金を地域から流出させない、地域経済の「漏れ穴」をふさぐ取り組みでもあるのだ。
 
 地元の企業への融資や支援を手厚く行っている信用金庫に預金することも、ローカル・インベストメントである。「この事業・企業を応援したい」と、投融資先を選ぶことはできないが、自分のお金を地元の小規模事業や企業への投融資に役立てることができる。
 
 全国信用金庫協会のホームぺージを見ると、「信用金庫は、地域の方々が利用者・会員となって互いに地域の繁栄を図る相互扶助を目的とした協同組織の金融機関で、主な取引先は中小企業や個人です。利益第一主義ではなく、会員すなわち地域社会の利益が優先されます。さらに、営業地域は一定の地域に限定されており、お預かりした資金はその地域の発展に生かされている」と説明している。信用金庫は、まさに漏れバケツをふさぐ取り組みを資金的に支援できる立ち位置にいるのだ。
 

好循環の地域づくりに向けた信用金庫への期待
 
 近年、都市銀行や地方銀行、信用金庫、信用組合の預貸率の低下が問題視されている。集めた預金をあまり貸し出していないとすると、せっかく生活者が地元の信用金庫に預金しても、そのお金の地域経済への貢献度合いは小さくなってしまう。
 
 地方では、人口減少に加えて都市部への人口流出もあって、実際にフィールドで事業を構想し、立ち上げるプレーヤーが絶対的に足りない状況だ。信用金庫は、「良い事業があればお金を貸します」だけでなく、「お金を貸したくなる良い事業を作る」ところにも切り込んでいかなくてはならない。
 
 これまでも「地域の活性化は、信用金庫の社会的使命である」として、資金の貸し出しだけではなく、創業支援等の起業家の育成、ビジネスマッチング等による新たな販路の獲得、地元経営者のネットワークの強化などにも力を入れていることは既知のとおりである。
 
 その実効性をしっかり測りながら、より効果的な経済活性化の支援や取り組みを進め、小規模であっても多様な事業者からなる地元経済の生態系を形成していく原動力となってほしい。
 
 今後は特に、地域版の「グリーン・ニューディール」や「グリーン・リカバリー」に力を入れてほしい。これらはコロナ禍からの経済の立て直しを気候変動をはじめとする環境対策への投資を通じて行っていこうという世界的な動きだ。地域でも、再エネや省エネ、温暖化の影響に対する備えなどへの投資がまだまだ必要である。地球と地域の持続可能性に役立ちながら、雇用や経済の活性化を推進することができる、まさに「未来への投資」である。
 
 同時に、クラウドファンディングやソーシャル・レンディングなど、社会価値のための資金調達の手段も多様化している今だからこそ、信用金庫がさまざまなプレーヤーのグループをまとめたり支援したりして、地域に資する社会経済活動を下支えできるはずだ。
 
 持続可能で元気な地元経済があってこそ、信用金庫も繁栄でき、地域の幸福度向上に資することができる。信用金庫にもそこで働く人々にも、「これまでどおり」の枠組みを超えていく勇気と行動力を期待している。

<プロフィール>
枝廣淳子(えだひろじゅんこ)
『不都合な真実』(アル・ゴア氏著)の翻訳をはじめ、地域経済や環境問題に関する活動を通じて「伝えること、つなげること」で変化を創り、しなやかに強く、幸せな未来の共創をめざす。地方創生事業にアドバイザーとして関わるなど、多くの自治体や企業において合意形成の場づくりやファシリテーターを務めている。東京大学大学院教育心理学専攻修士課程修了。

 

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