エダヒロ・ライブラリー執筆・連載

2018年11月08日

海洋プラスチック汚染とは何かー21世紀最悪の環境問題の一つ、深刻化するその状況(上)

 

出典:岩波書店「世界」別冊 no.914 2018年11月号


はじめに

 8月17日、「プラスチック資源循環戦略小委員会」(以下、「プラ戦略小委」)での議論が始まった。環境省の中央環境審議会循環型社会部会の下に設けられた小委員会である。

 世界的に大きな問題となっている海洋プラスチック汚染に対処するため、この6月に開催された主要7カ国(G7)首脳会議で「海洋プラスチック憲章」が採択された。「2030年までにすべてのプラスチックを再利用や回収可能なものにする」という方針を掲げたものだが、日本は米国とともに署名せず、内外から大きな批判が向けられた。

 日本は来年6月に大阪で開催される20カ国・地域(G20)首脳会議の議長国を務めることになっている。日本はプラごみに対する包括的な規制がなく、数値目標も持たず、後ろ向きだというと批判に対応するだけでなく、G20で海洋プラスチック汚染の議論をリードするため、日本ならではの考え方を示し、野心的なビジョンを策定することが期待されている。そのための小委員会だ(と筆者は理解している)。

 しかし、第1回の会合では、「日本もレジ袋の店頭回収などをしていて遅れているわけではない」「経済界も3R(リデュース、リユース、リサイクル)に取り組んでいる」等の産業界からの声にも見られるように、この問題に対して日本が大きくこれまでのやり方や政策を大きく変える必要性があるという認識が共有されていない印象を受けた。最近欧州の専門家に詳しい状況を取材したが、日本では一般の消費者にもこの問題の現状と深刻度が十分に伝わっていない。

 そもそも、海洋プラスチック汚染とはどのような問題なのか。なぜ世界各国は急に危機意識を高め、規制などの対策を進めているのか。本稿では、取材や研究発表、国連環境計画(UNEP)のレポートなどをもとに、世界での海洋プラスチック汚染問題の現状と原因、環境・社会・経済への影響を説明し、この問題をめぐって広く信じられている「5つの誤解」を解き明かす。さらに、世界各国・地域や日本の行っている取り組みを紹介するとともに、「イノベーションと競争力の源泉としての海洋プラスチック汚染問題」の位置づけを提案し、今後の日本での議論の一助となればと考えている。

1.海洋プラスチック汚染とはどのような問題なのか

 海洋プラスチック汚染は、世界規模で起こっている環境問題であり、私たちの健康や産業・経済に関わる問題である。

 今日、世界全体の海洋ごみのうち、最大の割合を占めているのがプラスチックである。その正確な量はわからないものの、海域によっては、「外洋に蓄積しているごみのうち99.9%がプラスチックである」との報告もあるほどだ。合成物質であるプラスチックが海洋環境に蓄積し続けるにつれて、環境や社会、経済への有害な影響も増大しつつある。しかし、その影響の全体像は私たちにはまだわかっていない。

 海洋は、どの政府も管轄していない公海を有する「地球上で最大の共有財産」でもある。したがって、海洋プラスチック汚染に効果的に対処するためには、地球規模で海洋を管理・統治することが必要となってくる。つまり、海洋プラスチック汚染問題とは、国際政治の問題でもある。

 

1-1 プラスチックの由来

 世界で最初に合成ポリマーからプラスチックが創り出されたのは1907年のことだった。以降、プラスチックは私たちの暮らしを大きく変えることになる。そもそも、プラスチックはなぜ創り出されたのだろうか?

 その歴史を振り返ったとき、「実は、環境保護のためだった」という側面もあることを知ると驚くかもしれない。プラスチックが創り出された理由は主に2つあるという。一つは、野生動物の保護である。従来、象牙やウミガメの甲羅が装飾品などの材料として使われていたものをプラスチック材料で代用することで、ゾウやウミガメなどをできるだけ殺さずにすむ、というものだ。もう一つは、どのみち廃棄物になるしかなかった製油所からの副産物を取り出して、プラスチックペレットとして利用し、経済的な価値に転換するという、廃棄物の有効活用である。

 第二次世界大戦後、プラスチックは中流階級の台頭とともに「文化的な民主化」のシンボルとなった。1940~50年代にかけて急速に大量生産が進んだプラスチックは、社会の発展を支えてきたともいえる。

 その誕生からほんの数十年しか経っていないというのに、私たちはごく日常的に「プラスチックを使って捨て」ている。プラスチック製品の素材となるプラスチックペレットの生産量は、1950年には年に150万トンだったのが、現在では年に3億トンを超えており、年平均約4%増えてきた計算だ。この計算には、繊維製品のための合成繊維(3720万トン)や自動車用タイヤ向けの合成ゴム(640万トン)は入っていない(1)。現在、プラスチックは世界の石油生産量の約4%を毎年使っており、プラスチック製造のためのエネルギーとして別に世界の石油生産量の約4%ほどが使われているという(2)。

 今日、プラスチックは、食べ物の生産や貯蔵、衣服、住居の断熱材・カーペットまで、私たちが毎日接するほぼすべてのものに存在している。今やプラスチックは私たちの生活や環境中のどこにでも見られるものであるため、「人新世」(地質学的に新しい人類の時代に突入しているという考え方)のひとつのマーカーであると考える科学者もいるほどだ。

 もっとも、プラスチックの使用状況は地域によって異なる。たとえば、北米や西欧では、プラスチック製品の一人あたりの消費量は2005年には平均100kgだったのが2015年には140kgに増えたと考えられている。日本を除くアジア諸国では、その数字はずっと低く、2005年には20kgで、2015年には36kgだ。アフリカではさらに低く、2015年の一人あたりの消費量は16kgだった(3)。

 プラスチックが極めて有用で、革命的とさえいえる素材であることは否定できない。そして言うまでもないが、プラスチックは自然の中には存在しない。人間が創り出したものである。

 プラスチックは軽量で耐久性があり、曲げたり打ち延ばしたりすることができ、安価に生産できる。そして、プラスチックに添加剤を混ぜることで、プラスチックは私たちの望む特定の特性を持つようになる(添加剤はプラスチック製品の全重量の半分に及ぶ場合もあるという)。添加剤のおかげで、プラスチックは驚くほど「何にでも使える」素材となっているのだ。たとえば、ビスフェノールAとフタル酸エステルを添加することで、「水に強く、燃えにくい」プラスチックができる。

 しかしながら、プラスチックをこれほどまでに特別で有用な素材にしているその特性のゆえに、プラスチックは自然に還ることができない。プラごみの大きな問題の一つは、「完全に分解されることはない」というものだ。より細かく砕かれていっても、消えることはない。たとえ、肉眼では見えなくなったとしても、環境中に残り続けるのである。その結果、これまでに生産されたプラスチックのほぼすべてが――埋立場であれ、海の中であれ――今でも存在し続けているのだ。もちろん、焼却すれば話は別だが、プラスチックの焼却は、適切な技術と条件が整っていなければ極めて危険である。廃棄物の焼却に関連した呼吸器疾患から、毎年約27万人が死亡しているという報告もある。特に途上国では、廃棄物が増え続け、焼却などの違法な廃棄物管理が広がっていると強く懸念されている。

 「私たちは今、プラスチックの不適切な管理による世界的な悲劇に直面している」と欧州委員会は述べている。見境のなく過剰に生産・消費され、不十分な廃棄物管理によって捨てられているプラスチックは、21世紀の最悪の環境問題の一つである。プラスチックは、漁業や観光業、海運業といった業界だけではなく、生態系や人間の幸福にも悪影響を及ぼしていることがわかっている。



(1) Primary Microplastics in the Oceans
(2) Plastics Europe (2015)
(3) The Compelling Facts About Plastics 2009

 

1-2  プラスチックの蓄積量

 海洋を汚染しているプラスチックは実際にどれほどの量なのだろうか? その答えはまだわかっていない。現時点でわかっていることは、海洋プラスチック汚染はグローバルな問題であること、そして、年を追って悪化している、ということだ。

 ガイヤー(カリフォルニア大学教授)らの研究によると、原材料としてのプラスチック樹脂および繊維の世界全体の生産量は、1950年の200万トンから2015年には3.8億トンに増加している。2015年までに生産されたバージンプラスチックの総量は83億トンで、一次プラスチック廃棄物および二次(リサイクル)プラスチック廃棄物の累積量は63億トンと推定されている。ガイヤーらは「このうち、12%が焼却され、約9%がリサイクルされ、79%にあたる約49億トンは廃棄され、埋立地や自然環境中に蓄積している」と述べている(4)。

 そして、現在の生産と廃棄物管理の趨勢が続くとしたら、2050年までに、約120億トンのプラごみが埋立地か自然環境に存在するようになるだろうと推計している。そうなった暁には、プラスチック業界は世界全体の石油消費量の20%を使うことになる。

 UNEPの2018年のレポートによると、現在では世界全体で毎年1~5兆枚のレジ袋が使われているという。5兆枚とすると、1分ごとに1,000万枚のレジ袋が使い捨てられている計算だ。これらのレジ袋をつなぎ合わせると、毎時地球を7回覆う面積に達するという。膨大な量のプラスチック製品を私たちは使い捨て、膨大な量のプラスチックごみを出し続けているのである。

 それは、海洋汚染にもつながっている。2017年に国際自然保護連合(IUCN)が出したレポートによると、毎年950万トンものプラスチックごみが新たに海へと流出しているという。



(4) Production, use, and fate of all plastics ever made (Roland Geyer,* Jenna R. Jambeck, Kara Lavender Law)

 

1-3 海洋プラスチック汚染の発生源

 海洋に存在するプラスチックは、いったいどこから来ているのだろうか? 陸上から海に入るプラスチックもあれば、海洋起源のものもある。多くの研究者が「すべての海洋プラスチック汚染のうち、80%ほどはもともとは陸上にあったプラスチックだ」と考えている。

 陸上のプラごみが海洋に入るルートは主に次のものである。

  1. 下水や豪雨時の雨水が処理されずに海に流入し、下水などに含まれているプラスチック汚染が海洋に入る
  2. 沿岸地にある埋立地から、プラスチック汚染が海に流出
  3. 道路上のゴミが排水管に入り、海に流出する
  4. 海水浴客や釣り人などが残したプラごみ
  5. 工業生産プロセスからのプラスチック素材が不適切に廃棄され、海に流出する

 他方、海における海洋プラスチック汚染源は

  1. 漁網や漁具が波にさらわれたり捨てられたりして、海中に残る
  2. ボート利用者が捨てたごみなど
  3. 大型クルーズ船からの汚水・ごみ
  4. 輸送船からの汚水・ごみ

などである。

 洪水や津波、台風などによっても、陸上にあるプラスチックやプラごみが海洋に流出する。これも海洋プラスチック汚染の大きな発生源となる。洪水や台風などの事象は、気候変動の影響でその頻度を増すと考えられており、今後の海洋プラスチック汚染のさらに大きな排出源となる可能性がある。

 2010年に陸上から海洋に流出させたプラスチックごみを調べ、「世界で最もプラスチックごみを生み出している国・上位20国」を計算したジャムベック(ジョージア大学教授)らによると、上位3カ国は、中国(年間353万トン)、インドネシア(129万トン)、フィリピン(75万トン)だった。ベトナム(73万トン)、スリランカ(64万トン)、タイ(41万トン)、マレーシア(37万トン)、北朝鮮(12万トン)といった他のアジア諸国もこのリストに含まれている。また先進国では唯一、米国(11万トン)が20位となっている。ちなみに、日本は30位で6万トンだった。

 2016年の世界経済フォーラムの報告書では、「2050年までに海洋中に存在するプラスチックの量は、重量ベースで魚の量を超える」との予測が示されている。

 

1-4 マイクロプラスチック

 海洋に達したプラごみはその大きさによって、生態系や野生生物、人間の健康に与える影響が異なる。目に見える大きさのプラごみが注目を集めやすいが、「マイクロプラスチック」と呼ばれる5mm以下の極小プラスチックも海洋プラスチック汚染の大きな原因となっている。

 マイクロプラスチックには、もともと5mm以下のプラスチックとして製造された「一次マイクロプラスチック」と、もともとは5mm以上の大きさのプラスチックだったものが、破砕や劣化によって細かく砕けた結果、5mm以下になった「二次マイクロプラスチック」に分けることができる。いずれも海水よりも重いので、海底に蓄積すると考えられている。

 実は、私たちは毎日のように一次マイクロプラスチック入りの製品を使っている。たとえば、洗顔剤やボディソープなどでよくある「スクラブ」がそれだ。1gあたり平均数千個のマイクロプラスチック(マイクロビーズとも呼ぶ)が入っているという。スクラブ洗顔剤で顔を洗うたびに、多くのマイクロプラスチックが排水口へと流れ出しているのだ。そして、排水処理施設では完全に取り除くことはできず、現時点ではその大部分が海へ流れ込んでいると考えられている。

 また、大きなプラスチック製品が製造時や使用時にこすれてマイクロプラスチックが発生することもある。よくあるのは、走行中の自動車のタイヤの摩耗、そして、洗濯時の合成繊維の剥がれ落ちだ。ポリエステル、ポリエチレン、アクリル、エラステインといった合成繊維は、世界の繊維消費量の60%以上を占めているという。そういった衣類を洗濯するたびに、合成繊維が剥がれ落ちて下水に入り、最終的には海に達していると考えられている。洗濯機でポリエステルのフリースを1枚洗うたびに、114,000〜2,283,000本の繊維が水路に直接放出されているという研究結果もある。私たちが日常使う洗濯機からもマイクロプラスチック汚染が生み出されているのだ。

 あるモデルを使って計算した研究者の報告によると、海洋への一次マイクロプラスチックの流出は、世界全体で、年に150万トンと推計されている。この数字は、世界人口ひとりあたり212gに匹敵する。

 ガイヤーらの計算によると、一次マイクロプラスチックのほとんど(98%)が陸上での活動から発生している。そのうち、最大の発生源は、合成繊維の洗濯(63%)と走行中の自動車タイヤの摩耗(28%)だ。

 一方、海洋にある大きなプラスチックも、波の衝撃や紫外線の影響を受けて、砕けたり分解してマイクロプラスチックになっていく(二次マイクロプラスチック)。魚やウミガメがプラスチックを餌と勘違いして噛み砕くことによってもプラスチックは細かくなっていく。したがって、海洋プラスチック汚染は連続線であること忘れてはならない。今日の大きめのプラスチックは必ずや分解され、明日のマイクロプラスチックになるのだ。

 マイクロプラスチックは、極小であるが自然環境にとって大きな脅威となっている。なぜなら、マイクロプラスチックの一つ一つが、外来種を媒介・移動させたり、水中の化学的汚染物質を吸収したりするからだ。そして、さまざまな野生生物が簡単に飲み込んでしまうからである。

 マイクロプラスチックを取り込んだ魚を人間が食べた場合、人体への影響はあるのだろうか? 現時点では確固たる結論は出されておらず、研究が進められている。プラスチック自体は人体には無害であっても、マイクロプラスチックは有害物を吸着しやすいため、魚の体内で有害物が濃縮され、その害が人体に及ぶ可能性を指摘する声は少なくない。

 

1-5 分布と最終的な行方

 プラスチックは地球上のあらゆる海洋生態系に入り込んでいる。いったん海洋に入ると、プラスチックはそこから数千kmも移動する可能性がある。世界には「亜熱帯環流」と呼ばれている大きな海流のループが5つあるが、海洋を漂流するプラごみは、これらの海流の大きなループに入ると、渦に巻かれながら次第にループの内側へと運ばれていく。そうして、おびただしい量のプラごみがたまり続ける場所ができる。

 5つのループの中でも最大のものが、太平洋の米国カリフォルニアの沖合にある「巨大な太平洋ごみ海域」(Great Pacific Garbage Patch)で、日本では「太平洋ごみベルト」と紹介されることがあるが、「ベルト」よりも「渦」のイメージが近いように思う。この海域は160万㎢の面積にわたってプラごみに覆われている。日本が4つ、すっぽり入るほどの面積だ。ここのプラごみの量をモデル計算した研究によると、以前の推計値の4~16倍にあたる79,000トンであるという。

 また、地中海やベンガル湾、南シナ海、メキシコ湾といった場所でも、亜熱帯環流と同レベルのプラスチック濃度が見いだされている。北極でさえ、その海氷にマイクロプラスチックが存在していることが判明している。

 海洋プラスチック汚染を数量化する取り組みのほとんどは、海面に浮いているプラスチックを対象としている。しかし、マリアナ海溝のような人間が知る最も深い部分も含め、海のあらゆる深さにプラスチック汚染が存在している。その種類や形状、密度や大きさにかかわらず、海洋に流入したプラスチックのうち、最終的に海底に到達するものは70%にもなるという研究結果もある。海底や沿岸部の堆積物と一体化した相当量の合成繊維も発見されている。しかしながら、深海に堆積しているプラスチックの総量はまだわかっていない。

 そして、2018年2月にFrontiers in Marine Science誌に発表された論文で、マイクロプラスチックは大西洋の600mまでの深さにいる深海魚の体内にも蓄積していることが明らかにされた。アイルランド国立大学の研究グループが北大西洋の深海魚233尾を調べたところ、全体の73%からマイクロプラスチックが見つかったのだ。たとえば、体長4、5センチの魚の胃の内容物から13個のマイクロプラスチックが見つかった。そのほとんどが青や黒の繊維で、50ミクロンほどの微小なものもあったという。

 

2.海洋プラスチック汚染をめぐる5つの誤解

 海洋プラスチック汚染は非常に複雑な問題であり、社会・環境・経済に対して大きな影響をもたらしている。効果的にこの問題に取り組み、より良い解決策に向かって取り組むためには、情報を正しく理解することが不可欠である。

 プラスチックの大量生産が始まったのは1940~50年代だった。海鳥の胃袋からプラスチックごみが発見されたという最初の研究が出されたのは1969年だ。その数年後の1972年には、サルガッソー海の西側の海面にプラスチックペレットが集まったものが漂流しているという研究が発表されている。

 しかし、多くの人々の注目を集めたのは、1997年に、「巨大な太平洋ごみ海域」が"発見"されたときだった。海洋プラスチック汚染についての研究が盛んになってきたのはこの十数年のことなのだ。

 さまざまな研究者が伝える努力をしているにもかかわらず、問題が複雑であることと、短期間に知識量がうなぎ登りに増えてきたことがあいまって、海洋プラスチック汚染を巡る多くの誤解がある。最もよく見られる5つの誤解を取り上げよう。
 

① 「海にプラスチックの島が浮かんでいる」

 「太平洋のどこかにレジ袋やプラスチック袋の大きな島が浮かんでいて、その大きさは米国テキサス州よりも大きいらしい」という話をよく聞く。「そのプラスチック島は固まっているので、動物がその上を歩き回ることができる」という話も聞く。しかし、これはまったくの間違いである。実際には、「プラスチック島」とったものは存在していない。

 

②「海でプラスチックが集まっているところを一掃すれば、海洋プラスチック汚染はなくなる」

 海洋プラスチック汚染は海底から海面までのあらゆる深さに存在しており、魚やウミガメ、クジラといった海洋生物の胃袋の中にさえ蓄積している。目に見えるものは、漁網やペットボトルなどだが、最も多く存在しているのは、5mm以下のマイクロプラスチックである。つまり、肉眼で見えるものも見えないものも含め、数百万トンものプラスチックが海洋に散在しているのが現実であって、一掃することは不可能とは言わないまでも、非常に難しい。

 この現実を踏まえて、「プラスチックの島」と言わずに、「プラスチックのスモッグ」と言おうという動きもある。

 

③ 「海洋プラスチック汚染の原因は、プラスチック業界、クルーズ船、漁業だ」

 確かに、プラスチック業界や漁業、クルーズ船は海洋プラスチック汚染の大きな原因の1つとなっている。しかし、原因はそれだけではない。多くのプラスチックが海洋に流出するのは、廃棄物管理システムの不全や、私たち自身の使い捨て行動のせいでもあるのだ。

 国際的な研究によると、世界中の海岸でいちばんよく見られるプラスチックは、タバコの吸い殻、ペットボトルとそのキャップ、食品の包装材、ビニール袋やレジ袋、プラスチックのフタ、ストロー、攪拌用スティック、発泡スチロールの持ち帰り容器である。こういった馴染みのある日用品が海岸にあるのは、多くの場合、ごみの捨て方がまずいためである。つまり、私たちひとりひとりが海洋プラスチック汚染の問題に手を貸しているのだ。

 

④「生分解性プラスチックは、海洋に優しい代替材料である」

 「生分解性プラスチック」は、自然に分解し、害を与えることなく環境から消えていくことができる、と聞けば、海洋プラスチック汚染に対する完璧な答えだと思うかもしれないが、実際にはそれほど簡単な話ではない。

 生分解性プラスチックに関して、国連環境計画のレポート(2018年)では、「現在の科学的証拠を見る と、"生分解性"とラベルのついたプラスチック製品を用いても、海洋に流入するプラスチックの量や、海洋環境へのその物理的・化学的な影響のリスクを大きく減らすことにはならない」と結論づけている。同レポートでは、「プラスチックの完全な生分解が起こる条件は、海洋環境ではほとんど存在していない」としているのだ。

 そして、生分解性プラスチックは、問題を悪化させる可能性すらある。「プラスチックが生分解性かどうかに関する認識は、ごみ捨て行動に影響を与える可能性がある」ことを示唆する研究結果があるからだ。もらったレジ袋に「このレジ袋は生分解性である」と書いてあれば、不適切に捨てられる可能性が高くなる。本当の問題は、私たちがプラスチック製品をどう使うか、使い捨てプラスチック製品を多用するライフスタイルをどうするかである。これは生分解性プラスチックでは解決できない。

 

⑤「リサイクルさえすれば、プラスチック汚染の問題は解決できる」

 金属やプラスチック、ガラス、生ゴごみの有機物など、使わなくなったものを分別し、リサイクルすることは、必要かつ大事なことである。しかし、毎日世界中で生産され、消費されているプラスチックの量は、今日のリサイクルシステムが対応できる量を大きく超えている。実際、現在リサイクルされているプラスチックは全体の9%しかないのだ。

 「プラスチックのリサイクルは、その最終的な廃棄を遅らせるだけ」と指摘する研究者もいる。さらに、プラスチックによって、特性や化学成分がさまざまに異なるため、すべてのプラスチックを同じやり方でリサイクルできるわけではない。「異なる種類のプラスチックをリサイクルしようとすると、技術的にも経済的にも価値の低い再生プラスチックができるだけ」という指摘もある。

 次回は、海洋プラスチック汚染の影響の大きさと、それに対処しようとする世界の取り組みを紹介し、日本のとるべき対応について考えてみたい。

(以下、次号につづく)

 

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