エダヒロ・ライブラリー執筆・連載

2018年04月25日

エネ情勢懇の二つの意義(2018年4月23日掲載)

 

2050年視点での長期的なエネルギー政策の方向性を検討する「エネルギー情勢懇談会」が10日に終了しました。世耕弘成経産相への提言としてとりまとめ、エネルギー基本計画づくりに反映されることになります。メディアは提言のポイントを「再エネの主力電源化」「原子力は実用段階にある脱炭素化の選択肢」「可能な限り原発依存度は低減」と報道しています。

原発の位置付けをめぐっては「福島第1原発事故を経験した日本として、可能な限り依存度を低減するとの方針を堅持する」とした資源エネルギー庁の草案と、それを支持する私に対し、「それではパリ協定は守れない」「原発産業は始めたら100年やめられないのだ」「低減を打ち出すような産業では人材育成もできなくなる」など産業界の委員の意見がぶつかり、事務局預かりとなりました。ただ、産業界の委員も私も同様に強調したのは「政府は原発の課題から逃げてはだめだ」ということです。原発や核廃棄物をどうするのかしっかり議論しなければ、いつまでも思考停止状態から抜けられません。大変難しい課題ですが、50年に向けて目をつぶり続けることはできないと強く思います。

原発の位置付けに注目が集まっていますが、私は今回の提言の大きな意義は別のところにあると思っています。それは50年のエネルギーシナリオ策定に向けた大きな方向性が二つ打ち出されたことです。

一つは「複線型シナリオと科学的レビューメカニズム」です。従来のエネルギー政策は「未来はこうなるべきだ」という決め打ちの像を描き、その実現のための施策を実施するという形で進められてきました。情勢懇では14名もの内外有識者のヒアリングを通して「未来は不確実であり、現時点での予測に基づいて進んでいくことは危険だ」という認識を共有しました。そこで複線型のシナリオを描き、科学的にレビューしつつ、状況変化や技術進歩に応じて柔軟にゴールや打ち手を変更していくメカニズムを設けることを提言に盛り込みました。

もう一つは「分散型エネルギーシステム」を明確に位置付けたことです。これまでは「少数の発電所が無数のユーザーに電力を供給」でしたが再エネやデジタル技術の進歩によって「無数の発電所が無数のユーザーに電力を供給」になっていき、熱や輸送エネルギーも加わります。地産地消型の地域エネルギーシステムの重要性も訴えてきたので大変心強く思っています。                                   

 

このページの先頭へ

このページの先頭へ