エダヒロ・ライブラリー執筆・連載

2011年12月09日

メンタルモデルを問い直す (2011年12月1日掲載)

 

 2年ほど前からマラソンを始めました。奥が深くて面白いです。10月末には第1回大阪マラソンでフルマラソンを走ってきました。

 フルマラソンを何度も走っている人がこのようなことを書いていました。「毎回30kmを越えるとガクッとペースダウンしてしまう。7割まではよいのだが」。
 この方がある時100キロマラソンに挑戦したそうです。「いつもの30kmの壁でもペースは落ちず、走り続けられた。ところが70km地点でダメになってしまった」。

 面白いと思いませんか? この方はきっと「自分は残り3割になったらダメになる」というメンタルモデルを持っていたのでしょう。

 メンタルモデルとは、「○○とはこういうものだ」という、意識・無意識の前提や思い込みのこと。だれもがさまざまなものに対してそれぞれのメンタルモデルを持っていますし、組織にもあります。社会があるメンタルモデルを共有している場合は「社会通念」と呼ばれます。

 マラソンの例のように、私たちが無意識のうちに抱いているメンタルモデルが知らず知らずのうちに自分の足をひっぱっていることがよくあります。
 また「○○は~であるはずだ」という思い込みから、現実をありのままに見ることが難しくなる場合もあります。

 私たちが翻訳した『学習する組織』に面白いエピソードが載っています。
 20~30年前のこと、米国の自動車メーカーの重役たちが、躍進する日本の自動車づくりの秘密を求めて、初めて日本の自動車工場の見学へ行ったそうです。帰ってきて言うには、「本物の工場は見せてもらえなかった。どの工場にも在庫が全くなかった。私は三〇年近く製造業に携わってきたからわかるが、あれは本物の工場じゃない。私たちの視察用にこしらえた芝居に決まっている」。
 こうして、この重役たちは、日本車の成功要因の一つである「ジャスト・イン・タイム」システムを見せてもらいながらも、自分たちに警鐘を鳴らすものは何ひとつ見えなかった、という話です。

 個人でも組織でも社会でも、そのメンタルモデルは「現実認識」に影響を与え、「潜在能力」の発揮を阻む可能性があります。企業の組織改革のお手伝いをしていても、変革のいちばんの壁は、社員や経営者が無意識のうちに抱いている「うちの会社はこういうものだ」というメンタルモデルであることがよくあります。

 変化が激しく「これまで通り」が通用しにくいこれからの時代、個人も組織も、いかに自らをしばっているメンタルモデルに気づき、ゆるめ、必要があれば変えていけるか(時間はかかりますが、気づき、変えていくための手法もあります)が、これからの生き残りと成功の鍵を握っていると考えています。

 

このページの先頭へ

このページの先頭へ