エダヒロ・ライブラリー執筆・連載

第24回

ゆるめる――加速する時代を生きる知恵

 

 いつも何かに追われている気がする」「何をやっていても心から楽しめない」――こんなふうに感じることがありませんか? もしそうなら、いつもネジを巻いてないと気がすまない「ゆるめられない病」にかかっているのかもしれません。
 現代は、言ってみれば「加速する時代」です。地域からお祭りが消え(お祭りに参加したって、何の儲けにもならないでしょう?)、メールやケータイのおかげで、せっかくの休日も、平日と同じように仕事が押し寄せるようになり、ゆるめることができなくなった心は疲れ切って、荒れたりすさんだりしています。
 そうして、狭い範囲で短期的にしか物事が考えられなくなってくると、わかりやすい単一の基準ですべてを判断するようになっていきます。物事を「儲かるか、儲からないか」だけで考え、買い物も「安いか、安くないか」だけで選んでしまう。
 こうして、大事なことや長期的なことを十分に考えられなくなってくると、自分自身と地球とのつながりに思いを馳せたり、未来世代のことを考えたりすることもできなくなります。これが、温暖化をはじめとする地球環境問題が深刻化している根本的な原因だと私は考えています。
 自分と地球とのつながりを感じたり、未来世代に思いを馳せたりすることができれば、地球を傷つけるようなことはしないはずです。しかし、今はそのつながりが切れてしまっているため、自分が何をやっても地球にはまるで何の影響も及ぼさないかのように、各国も私たち一人ひとりも自分の好きなように振る舞ったり、経済を無限に成長させようとしたりしています。その結果、人間は地球が吸収できる量の2倍以上の二酸化炭素を出すようになり、温暖化が進んでいるのです。
 では、どうすれば大事なことを考えたり感じたりする時間を生み出し、自分もラクに生きていくことができ、地球への悪影響も減らしていけるのでしょう? 加速するのをやめて、ゆるめることです。スピードを上げ続けるのではなく、スピードを落とす時間をときどき持つのです。
 それは、いつものんびりしているということではありません。集中度を上げて効率よく仕事をする時間と、ゆるめる時間のメリハリをつけ、人生の手綱を自分で握るということなのです。

しなやかな強さを持とう

 ゆるめることは、しなやかな強さをつくり出す大事なことなのです。竹を考えてみてください。強い風が吹いたり、重い雪が降り積もったりしたとき、竹はしなることで折れるのを防ぎます。そして、風が行き過ぎ、雪が落ちれば、また元に戻ります。もし竹が一瞬もゆるめることなく、硬直して立っていたら、強い風や重い雪にポキンと折れてしまうでしょう。竹は自らをゆるめることを知っているのです。
 私たちにとっても同じことです。竹のようなしなやかな強さを持っているかどうか――これは、ますます変化が激しくなる時代を生きていくうえでの大切なサバイバル・スキルなのです。常に張り詰めた状態で走り続けるのではなく、ときにはゆるめて、しなる――そのメリハリを自分でつける力が、生きることをラクにし、何があっても生きていける力をつくり出します。
 ゆるめることができるようになると、心が動くようになります。そして、大事なものとのつながりに思いを馳せたり、ゆっくり考えたり試してみたり、短期的な結果よりも長期的に大事なことを重視できるようになります。そうすれば、温暖化をはじめとする環境問題も解決に向かうと私は信じています。
 世の中のペースはすぐにはゆるむことはないでしょう。ますます加速する可能性があります。だからこそ、自分なりの「ゆるめるためのスキル」を身につけておいてください。それは自己防衛のためでもあり、地球を守るためでもあるのです。
 毎日の暮らしの中で、ちょっとしたきっかけでできる「自分をゆるめるヒント」を55挙げた本をご紹介して、私からの最後のメッセージとしたいと思います。もしよかったら手にとっていただき、自分なりの「ゆるめるヒント」をぜひ探してみてください。
 2年間連載させていただきました。読んで下さって、ありがとうございました。またどこかでお目にかかれることを楽しみにしています。
 
 『地球とわたしをゆるめる暮らし』
(Slow down, enjoy more)(大和書房)

 

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