エダヒロ・ライブラリー執筆・連載

第22回

ネットワークが世界を変える「つながりの時代」

 

 「わらしべ長者」の話を聞いたことがあるでしょうか。1本のワラしか持っていなかった貧しい人が、人と出会うごとに自分の持っている物を相手の持ち物と交換し、それを繰り返すうちに、とうとう最後にはお屋敷を手に入れて裕福に暮らした、というおとぎ話です。
 振り返ってみると、私にとっての「わらしべ」は、1998年にワールドウォッチジャパンに出した1枚のはがきだったのではないか、と思っています。ワールドウォッチジャパンとは、世界的に有名な環境シンクタンクである、米国のワールドウォッチ研究所を日本でサポートしている組織です。そのはがきをきっかけに、当時の所長だったレスター・ブラウン氏の通訳をすることになり、おかげで通訳者・翻訳者としての活動が広がり、そこで知ったことや聞いたことを元に、たくさんの情報発信をするようになり、講演をしたり本を書いたり、小さな会社とNGOを立ち上げて多くの同志と活動を広げ、今日につながっている、そんな気がするのです。
 10年前と今の自分の活動の変化を考えると、10年後にはきっとまた違ったことをしているのだろうなあと思います。どこで何をしているか見当もつきませんが、ひとつだけ確かなことがあります。それは、10年前とは全く違う現在の活動に連れてきてくれた、「壮大なるご縁の網の目」にこれからも支えられ、「人とのつながり」というネットワークをさらに広げながら、いろいろな方々に手を引かれて進んでいくだろう、ということです。

あなたの大事な「わらしべ」とは?

「人脈」というとちょっとギラギラしたにおいがするかもしれませんが、「パーソナルなネットワーク」や「人とのつながりの広がり」を意識して大事にできるかどうかで、未来や活動の広がり方がだいぶ違うのだろうなと思います。
 誰だって一人で生きているわけではありません。必ず誰かのおかげで、新しいことを知ったり、新しいチャンスを得たりしています。そういう意味では、誰もが大なり小なり「つながり効果」のお世話になっているのです。でもふだんは、それほど意識していないのではないでしょうか。私も以前はそうでした。
「ネットワーク」を意識し始めたのは、今から10年ほど前に環境メールニュースの無料配信を始めたときです。通訳や取材で知った、さまざまな情報や学びを「おすそ分け」したいと、知人や友人にメールで送り始めたのが最初でした。
「おすそ分け」のつもりで始めたのに、さまざまなコメントや情報が戻ってくるようになり、そこから講演や執筆の依頼を次々といただくようになって、びっくりしたものです。メールニュースに集まってくる情報から学んだことをメールニュースに書くと、さらに多くの情報や考え方などが集まってくる――思ってもいなかった好循環の真ん中に自分がいることに気づいたのです。そうするなかで、環境問題のさまざまな分野の第一人者や専門家、地域や組織での実践家に出会うようになりました。
 ネットワークとは、自分を変え、高め、広げてくれるだけではありません。グローバルなレベルでも、草の根レベルでも、「ネットワークが世界を変える」という実感がひしひしと強まっています。人々が思いを重ね、インターネットの力を活用し、国境を超えたつながりをつくり出し、望ましい社会や未来に向かっていくうねりが、まさに今、生み出されつつあります。私たちは「つながりの時代」に生きているのです。
 2009年には、こうした私の実感を、さまざまな理論や事例、具体的なノウハウで裏打ちしてくれる『NQ―ネットワーク指数』という本を翻訳出版する機会に恵まれましたが、これもネットワークのおかげです!
 あなたにはどのようなネットワークや人脈があるでしょうか? そのネットワークは、活発に活動していて、あなたを支えてくれているでしょうか? どうすれば、さらに効果的なネットワークや人脈を築き、仕事や人生に活かしていくことができるのでしょうか?
 どんな仕事についている人であっても、どんな思いを持っている人でも、さまざまな人とのつながりを一度たな卸しして、大事な「わらしべ」をもう一度握り直してみませんか。

2010年1月号

 

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