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エダヒロ・ライブラリー講演・対談

温暖化防止を"自分事"として意識・行動にむすびつけるために

全国地球温暖化防止活動推進センター主催 JCCCA10周年シンポジウム パネルディスカッション(2010.03.11)
2010年03月11日
団体主催
講演
 

○問題点・意識と行動の乖離

私は、「変えるための伝える活動」と「変えることを広げる活動」に長い間携わってきました。もともと心理学を学んでいましたので、心理学的なアプローチも含めて取り組んできたように思います。
今、大事なことは、時代が大きく変わって「意識啓発」の時代は終わったという認識です。これからは「意識啓発」ではなく、いかに「行動の変化につなげていくか」であると考えています。

ここで[意識があるか、ないか]を縦軸に置き、[行動しているか、していないか]を横軸に置いて、縦軸と横軸の組み合わせでできるマトリックスで考えたいと思います。この中では「意識があって、行動している」という枠に入る層が理想的となります。温暖化防止の活動でも「意識があって、行動している」人が理想的といえます。問題となるのは「意識もしない、行動もしない」枠にいる人たちです。この人達はいわゆる「困った層」と考えられています。 

これまでは、この「困った層」の意識を高めることに重点を置き、「意識して、行動している」理想の人たちへ近づけていくことを目標にしていました。「温暖化は問題、なぜこのような問題になるのか、何をしたら良いのか」というような意識啓発を中心にした活動が多かったのです。私自身もそのような活動をしてきましたが、ある時から実際には「意識は高いが、行動はしていない」人たちが非常に増えていることに気づき始めました。これまで、意識を高めれば行動すると割と単純に考えていましたが、そうではないのではないかと思い始めています。

○解決策

それでは、「意識は高いが、行動はしていない」層に対してどのように働き掛ければ良いのでしょうか。行動につながるような意識啓発を行うためにはどうすれば良いのでしょうか。単純な情報提供ではなく、例えば心理学的、もしくはマーケティング的アプローチを踏まえた情報提供の方法が一つの解決策になってくると思います。

もう一つの解決策は、「意識があってもなくても行動したくなる、もしくは、しないと損する仕組みを作っていく」ということです。例えば、「炭素に価格をつける」という方法があります。「炭素をたくさん出す人はたくさんお金を払いなさい」ということです。それが炭素税という形でも、排出量取引という形でも、炭素に価格がつけば、温暖化が起こっていない、起こってもかまわないと考えている人たちでも、損得勘定が入ってくることで行動は変わってくるのです。

○温暖化防止の「行動」を広げるためには

温暖化防止の行動は、スローガンによる意識啓発が中心であったことからわかるように、いってみれば根性論で進めてきたように思います。「解かるまで繰り返す、解からないのは相手が悪い」という考えに基づいているようです。それで伝わる人も中にはいるのですが、それだけでは多くの人になかなか拡がっていかないと思います。

大切なのは、「意識があってもなくても行動する」仕組みを作っていくこと、それと同時に、価値観や行動が実際に変わっていくような意識啓発を行うことだと考えています。先程述べたように、マーケティングやコミュニケーションの理論を「環境面での行動変容」に実践していく必要があります。これまで温暖化のさまざまな会議は、温暖化科学者をはじめ自然科学を専門とする研究者が主力メンバーでしたが、これからは人の行動をいかに変えるかという観点で、心理学者や社会学者、マーケティングやコミュニケーションの専門家がもっと入ってくるべきだと思っています。

私がこれまでいろいろ取り組んできたなかで重要視しているのは、「本質的に大事なことをわかりやすく伝える」ということに加え、「未来を考える補助線を引く」、言い換えれば「やっている自分をイメージできる手段や方法」を提供するということです。普通、ほとんどの人は現在もしくは極めて近い将来のことしか考えようとはしません。しかし、「このまま行くとどうなるでしょうか」というように、「補助線」を引いてあげると、やはりそういう将来は嫌だなと思う人がたくさん現れてきます。そのような「補助線」を引くといったサポートが重要であると考えています。

○広げるための戦略

これまでとは違う価値観や行動を始めること、例えば、「温暖化を防止しよう、もしくはそういう行動をとろう」ということは、「イノベーション」という言葉で表現できます。「イノベーション」とは新しい考え方とか、新しい技術や製品ですが、新しい考えやモノは、どうやって拡がるのでしょうか。爆発的に拡がるものもあれば、せっかく創り上げて投入しても鳴かず飛ばずで終わってしまうものもたくさんあります。

広げるための戦略には「イノベーション普及理論」(『イノベーション普及理論』1962年エレベット・ロジャーズ)が参考になります。イノベーションの普及率を縦軸に置き、イノベーションの拡がる時間を横軸に置いてグラフを描くと、S字曲線、あるいは成長曲線といわれる曲線となります。

この曲線からわかるように、何かを普及しようと始めても、最初はなかなか拡がりません。言い換えるとなかなか離陸できませんが、うまく「離陸期」を過ぎると急激に拡がっていきます。この「イノベーション導入曲線」を早期にそして急勾配で立ち上げるためには何が必要かも、この理論で説明されています。

最初に何が必要か。まず、新しい考え方の持ち主や新しい製品を作る人が必要です。でも、それだけでは、世の中に新しい考え方や製品は拡がりません。それをわかりやすく伝える人が必要になります。その人たちが、要するにこういうことなんだよ、こういうプラスがあるんだよ、ということを上手く伝えて初めて、社会のなかでもフットワークの軽い人たちが、それではやってみようと始めるのです。

例えばマイ箸が流行した頃、マイバックが始まった頃を考えても、最初から試してみる人が少数いて、その人たちの様子を見てから社会の主流派はついていく――だいたいはこのように拡がっていくと考えられています。しかし、残念なことに、世の中はこれだけではなくて、何と言われようと新しいことは嫌だという保守派もいます。また、お前が言うことはやらないぞというひねくれ者もいます。このような構造の中で、私たち温暖化の防止活動を推進する人たちはどのように伝えるのが効果的なのでしょうか。

大事なのは、自分が今伝えようとしている相手は、どの段階にいるのかを知ることです。知らない人に知らせるための伝え方だけでは十分ではありません。既に知っている人たちに「こういうものがありますよ」と伝えても意味がありません。それを採り入れようと思ってもらうための伝え方が必要になってきます。「この段階にいる人をこちらの段階に連れていくためにはどのように伝えるか」ということを、私たち伝える側が考えていく必要があるのです。

人はどういうときに行動を変えるのでしょうか。行動の変化が起こる条件を述べた「ギルマンの方程式」が役に立ちます。まず、従来のものよりも新しいもの、例えばガソリン車に乗るよりもハイブリッド車に乗る方が良いと思わないと人は行動を変えません。加えて、その時に変化のためのコストが余りにも大きいと人は行動を変えません。

従って、私たち変化をサポートする立場としては、古いやり方よりも新しいやり方が良いことを伝えると同時に、新しいやり方に変えるのはそんなに大変ではない、ということを効果的に上手に伝えていくことが大事です。

○コミュニケーションを考える軸

イノベーションをできるだけ速く普及するためには、次の五つの要因が重要であるといわれています。

【普及を速くする五つの要因】
●相対的な利点(の認識)
●わかりやすさ(理解しやすさ、導入しやすさ)
●試しやすさ
●観測しやすさ(効果の見やすさ)
●両立しやすさ(価値観や自己の変革を要するものは受け入れにくい)
新しいことを伝えたい立場にいる人たちは、これらの要因を意識し、上手に行動変容を促すコミュニケーションすることが大事になります。

これまでは、企業もNGOも「良いことをやっていればわかってもらえる」と考える場合が多かったのですが、そうではなくて、何を誰に伝えるのか、それをしっかりと考えて戦略を作っていくことが重要となります。これからは、一方通行で伝えるのではなく、伝えたことに対してアンケートをとったりフィードバックをもらうことから更に進めて、共に創るという意味での「共創」に向かっていく考え方が大切です。

どのようにすれば、市民、企業、あるいは行政という役割を超えてみんなで共に創っていくことができるのでしょうか。みんなで創っていく場合、消費者もしくは生活者の果たす役割が非常に重要だと考えています。
ヨーロッパの国ではGDPは増えているが、CO2は減っているといわれています。つまり、ヨーロッパの国ではGDPとCO2のデカップリングができているという言い方もできます。

ただし、気をつけなければならないことがあります。デンマークの研究者が述べていますが、デンマーク国内だけをみるとGDPとCO2のデカップリングができているが、海外から輸入したものもカウントするとデンマークのCO2は減っていないという研究があるとのことです。現在CO2は生産するところでカウントしています。

例えば、中国などの国外で生産すればするほどデンマークのCO2の排出量は減るわけです。従って、生産でカウントするのではなく消費でカウントするように変えていくことが望ましいという考えが出てきています。どこで作っているかに係らず使う人たちのところでカウントする。その場合、日本の企業にとってはプラスになるでしょう。

鉄を1トン作るのに一番効率的なのは、日本の企業だからです。生産時のCO2の排出量が少なければ、それを世界の消費者が求めるようになります。今は便宜上生産地でカウントされていますが、本当は消費側でカウントされるべきものであるし、そのようになってくると思います。その時「生産者側はGDPとCO2のデカップリングをして、消費者や生活者側は幸せとCO2のデカップリングをする」そのような時代になると思っています。

現在、スマートグリッドに関する話で賑わっていますが、送電線がスマートになるだけではなくて、私たち消費者ができるだけ少ないCO2で最大の幸せを得る「スマートコンシューマー」へと変わっていく必要があると思います。その意味でも生活者、消費者は、どのような立場にたつのか、どのような立場で考えるのか、これから非常に重要だと思うのです。

 

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