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エダヒロ・ライブラリー講演・対談

資源・環境・温暖化問題に関する潮流と生協に期待すること

コープこうべ労働組合中央委員会 基調講演 (2009.11.16)
2009年11月16日
団体主催
講演
 

○変化する社会に必要とされなくなれば、存続できない

事業体や企業は社会が必要とする限り存在できます。しかし社会が必要とするものは時代によって変わります。ですから企業が存続するためには、今やることをしっかりやりつつも、少し先を見てこれからどんな時代になり、人々のニーズはどう変わるのか、社会は何を求めるようになるのか、そして企業はそれにどう応えていくのかを考えないといけないのです。そうでなければ社会から不要とされ存続できなくなってしまいます。

そこでこれからどんな時代に突入していくのか、資源や温暖化の話を中心に紹介していきます。

○地球温暖化は症状の一つに過ぎない

地球温暖化の問題が世界的に注目されています。今後も今までどおりに石炭や石油を使いたいだけ使い、高い経済成長を目指す世界が続いたら、2100年には平均気温がおよそ2〜6度上昇(1950年比)することがシミュレーションから分かります。

来年は国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15、コペンハーゲン会議)を控えており、日本でも鳩山元首相が「2020年までに温室効果ガスを1990年比25%削減する」という中期目標を表明しています。ところが実際の二酸化炭素の量は減るどころか増える一方です。京都議定書では温室効果ガスは6種類決められており、日本ではその95%が二酸化炭素なので、温暖化を止めるには二酸化炭素を減らそうという話になるわけです。しかし、問題は温暖化だけではないのです。

生物多様性の問題もその一つです。地球上にはたくさんの生物が生きていますが、環境の変化によって通常の1000倍のスピードで生き物が絶滅しています。例えば世界ではミツバチが300億羽もいなくなったと言われています。カリフォルニアのアーモンドの産地では、今まで農家の人は広大な畑にミツバチを放ってアーモンドの花を受粉させていましたが、ミツバチがいないので人を雇ってアーモンドの花を受粉させていると聞きました。

またエネルギーの問題も深刻です。毎日の暮らしは電気や石油などのエネルギーがなければ成り立ちません。私たちはそのエネルギーの大部分を石炭・石油などの化石燃料に頼っていますが、石油の生産量には限界があることが分かってきました。石油の生産量がある時点でピークに達し、その後は減っていくという問題です。この「ある時点」を「ピークオイル」と呼びますが、それがいつなのかが世界中で議論されています。ピークオイル以降も新興国を中心に石油の需要は伸び続けるため、需給バランスが崩れ、価格が上がります。企業の事業費の中で石油の占める割合が高い企業にとっては大きな打撃となるでしょう。このピークオイルは2012〜14年という説が有力と言われています。

エネルギーの問題は食糧問題にもつながっています。大量生産される今日の食糧は石油なしでは作れないからです。トラクターの燃料、温室用のエネルギー、化学肥料も石油をベースに作られており、1カロリーの食糧を作るのに10キロカロリーの化石燃料をベースとしたエネルギーが必要になります。これが今日の食糧の現状です。しかも日本の食糧自給率は40%以下、残りの60%以上はさらに大量の輸送エネルギーを使って輸入しています。石油がたくさんある時代はこの構図も成り立ちますが、ピークオイルに達すると、食品の価格も上昇し、世界に飢えが広がり、先進国でも深刻な食糧問題が起こる可能性もあります。

このようにいろんな問題が起こりつつあるのですが、温暖化もそれ自体が「問題」なのではなく、より根本的な問題の一つの「症状」に過ぎないのです。問題の根本を考えずに応急処置をしているだけでは間に合いません。では、「根本的な問題」とは何でしょうか。

○人間は母なる大地の大きすぎる子供

大事なのは、地球の大きさが決まっているということです。当たり前のことですが、地球ができた46億年前から地球は少しも大きくなっていません。太陽の光だけは外から来ますが、地球が食糧や資源、エネルギーを供給できる量には限りがあり、その絶対量は変わりません。

地球の歴史に比べると人間の歴史はとても短いのですが、科学技術の発達で地球に与える人間の影響は急激に大きくなり、今や地球の限界よりも大きくなっています。

○地球1・4個分の人間生活

地球生態系の中で、人間の活動が資源利用や汚染物質排出などによって、地球の環境容量にどのくらいの付加をかけているのかを示したものを「エコロジカルフットプリント」といいます。「フットプリント」は「足跡」のことです。地球は一定の時間において、一定のものを再生産する能力があり、それが地球一つ分という分量です。ところが今の人間生活を支えるためには地球「1・4個分」必要だというのが最新のデータです。それでも今の状態が成り立っているのは、過去の遺産を食い潰し、未来に対して前借りをすることで「限界以上」のレベルを可能にしているということです。

この行き過ぎた状態をいつまでも続けられるはずがありません。これを「地球1個分」の範囲に戻そうとする反作用が、温暖化の問題や生物多様性、食糧、エネルギー問題を引き起こしているのだと私は考えます。この「根本的な問題」を解決しない限り、温暖化の問題やエネルギー問題が解決できたとしても別の問題が必ず起こります。

○そもそもどうあるべきなのか

ところで課題解決の考え方には二つあります。
ひとつはフォアキャスティングといって現状立脚型です。今できることは何かを考え、その積み重ねの範囲内で考えられる目標を立てるというものです。

もうひとつは、今できるかできないかは一旦脇におき、どういう姿になりたいか、本来あるべき姿は何かを考えて目標を立て、現実を振り返って間を埋めていく方策を考えるという方法です。これをバックキャスティングといいます。えてして前者を採用しがちになりますが、温暖化などについて言えば未来が現在の延長線上にないと考えられる以上、後者の考え方が大切になってくるのではないでしょうか。

○二酸化炭素は〔地球が吸収する量 > 人間が出す量〕に

どうすれば温暖化は止まるのでしょうか。

バックキャスティングの考え方で考えてみます。地球には森林や海など大気中の二酸化炭素を吸収する力があります。一方で人間は経済活動で二酸化炭素を大気中に出しています。ですから人間が大気中に出す二酸化炭素の量が、地球が吸収する量以下になればいいわけです。

森林は毎年9億トン(炭素トン、以下同)、海は22億トンの合計31億トンを吸収します。ところが人間が化石燃料を燃やして大気中に出す二酸化炭素の量は72億トンだという報告があります。実に倍以上です。吸収されない二酸化炭素は大気中にとどまり温暖化を進めます。温暖化を止めるためには31億トン以下にするしかないのです。そのためには世界全体で60から80%減らす必要がありますが、発展途上国は今から人口も経済も大きくなりますから、先進国はそれ以上減らさなければなりません。できるかできないか、どうやるかにかかわらずそうしないと温暖化は止まらないのです。

○企業も個人も「将来どうありたいのか」が大切

企業も同じです。できるかどうか分からないことを言っても仕方がないという人もいるでしょう。しかし生協としてこれからどうするのかを考えるときに、今のいろんな制約の中でできることを考えることも必要ですが、それだけでは大きい目標にはたどりつきません。すぐにできないことはたくさんありますが、どうありたいかを考えることなしに、日々やらなきゃいけないことをしているだけでは大きな変革にはつながらないのです。

これは個人についてもいえることです。理想的な自分になるためには、5年後10年後、もしくは退職するときどういう人間になっていたいか考え、そこから今日何をしようと考えることが大切です。

○今日の「不都合な真実」

リーマンショック以来の世界的な不景気の中にあって、経営者の中には、「今の苦しい状況はなんとかやり過ごせる、がんばってしのげばいつかまた元に戻る」と考える人が半分くらいいます。しかし、どうしてこうなったのかということを考えると、その願望は叶いません。これが今日の不都合な真実です。

福井元日銀総裁は昨今の金融危機について「地球環境のエネルギー資源の限界を市場は初めて察知した。そのとたんにそれまでの経済の動きに急ブレーキをかけた」と言っています。地球上の資源はお金さえあればいくらでも得られる、二酸化炭素をいくら出しても構わないというわけにはいかないということです。地球には絶対的限界があり、その中で新しい均衡をどう見つけるかで揺らいでいる状態なのです。この絶対的な限界の中で持続可能な社会を作っていかないといけないのです。

○持続可能な人間社会のために

これからの時代、経済や企業が持続可能であるために大事なのは環境と経済の両立です。そのためには環境という視点で事業やプロセスや製品を見直すということ、そしてそれをマーケティングに活かし、新しい顧客を得る、または売り上げを伸ばすということです。このどちらかをやらないと事業体として続けていくことが難しくなります。

さらに、今さまざまな社会企業家が社会で起きている問題を、ビジネスを通じて解決することに取り組んでいます。生協として、今の社会の問題は何で、事業を通じて解決するにはどんなビジネスモデルが可能かを考えることが大切です。

実際にある新しいビジネスモデルを紹介します。「table for two」ということをやっている会社があります。社員食堂でヘルシーメニューに20円上乗せして提供し、その上乗せした分をアフリカの子供の給食代にするというものです。一度の食事でメタボと貧困の両方を一緒に解決しようというビジネスです。

これからは貧困問題、環境問題、少子高齢化問題など、社会に起きている問題を解決するために、本業を通じてどんな解決策を提供できるのかが企業に問われる時代です。

○温暖化に加担しない食べ方

これからの時代に必要とされるのは、私たちの毎日の生活を、地球が許容できる範囲に戻すということです。そのためには次のような問題を考える必要があります。

食べ物の中には「温暖化に加担する食べ物」があります。石油燃料を大量に使って工業的に生産された農作物、たとえば温室で作られた旬ではないものや、化学肥料を大量に使って作られたものがそれに当たります。また、肉もたくさんのエネルギーを必要とします。例えば牛肉の場合、1キロの牛肉を作るのに7キロの穀物をえさとして与える必要があるからです。牛肉を食べる回数を減らすだけでも「温暖化に加担しない食べ方」ができるでしょう。それに加え、できるだけ加工しないもの、地元で作られたもの、そして簡易包装のものを選ぶことでもそれが可能です。  

コープの組合員は環境に意識の高い方も多いでしょう。その方たちに、「コープが考える温暖化に加担しない食べ方」を提案するというのも事業を通じて社会問題を解決する一つになるのではないでしょうか。

○カーシェアリングが広がっている

何で移動するか、それによって二酸化炭素排出量が変わります。車の二酸化炭素排出量は鉄道の約10倍です。また最近の若い人たちの間ではカーシェアリングが広がりつつあります。カーシェアリングとはレンタカーをより使いやすくしたもので登録しておけば必要なときに1時間単位で車を利用できます。東京の山手線では、どの駅でもカーシェアリングを利用できます。その方が車を所有することによる維持費と比較して経済的でもあるのです。

○使うエネルギーの量と質

私たちは生活の中でさまざまなエネルギーを使っていますが、省エネ家電に変えるだけで苦労せずに二酸化炭素の排出量を減らすことができます。たとえば、白熱灯から蛍光灯に変えるだけで電気代は5分の一、寿命は10倍です。でも値段も10倍なので、多くの人は買うのをためらいます。しかし、電気代が安いので6カ月目でコストは逆転し、1日6時間使うとして最後まで使えば9千円の得になります。さらにLED電球となると消費電力は10分の一、寿命は40倍です。

また最近の省エネタイプの冷蔵庫は10年前の機種と比べて消費電力は約四分の一になっています。しかし冷蔵庫といえば10万円を超える物であるだけにそう簡単に買い替えようという気にはなりにくいものでもあります。そこで江戸川区のNGOが面白い取り組みをしています。省エネタイプの冷蔵庫への買い替えに対して安くなる電気代の5年分を無利子で融資するのです。電気代が安くなった分を5年間返済していくことで、借り手は新しい冷蔵庫が手に入り、同時に二酸化炭素の削減にもつながるというわけです。

○日本のエネルギー事情

使うエネルギーの質ということでは、いかに化石燃料を脱却して自然エネルギーに変えるかということです。日本で使われる電力は二酸化炭素をたくさん出す石炭、天然ガス、石炭からの発電で全体の75%を占めています。 

一方、北欧の国スウェーデンでは、暖房にほとんどバイオ燃料が使われています。これは何もスウェーデンの人たちが環境に対して特別意識が高いというわけではありません。一番安いエネルギーがバイオ燃料なので結果として利用が増えているのです。政府が二酸化炭素をたくさん出すエネルギーの価格に税金という下駄を履かせた結果なのです。  

日本の場合エネルギー税というものはありますが、二酸化炭素をたくさん出す石炭が一番安くなっています。家庭でいくら省エネに取り組んでも発電所が石炭を使っていて場意味がありません。これが日本の現状であり、政策的に変えないといつまでたっても二酸化炭素の量は減りません。

○「温暖化チョコレート」?

アメリカのスーパーで「温暖化チョコレート」というものを見つけました。アメリカ人は一日に133ポンドの二酸化炭素を出すそうですが、このチョコレートを買うことで森林を植えるプロジェクトにお金を回すことができます。二酸化炭素はどうしても出してしまうものだから、二酸化炭素を吸収する木を植えてこれを相殺するのです。これを「カーボンオフセット」といいます。こうした消費者の「罪悪感」を減らしてあげるといったビジネスもヒントになるのではないでしょうか。

○幸せの最大化

環境問題に取り組むということは、我慢することではありません。幸せを諦めたり人生の満足感を犠牲にする必要はないのです。むしろこの問題をきっかけに何が本当の幸せなのかを問い直すことで、幸せや満足を大きく増進してくれるチャンスだと思います。

必要なことは幸せや満足につながっている二酸化炭素と、それ以外を区別して減らしていくことです。たとえば、誰もいないところでついている電灯、テレビ、24時間営業のコンビニの前で同じものを売っている自販機などが言えるでしょう。

今の日本のように「快適すぎる快適さ」「行き過ぎた便利さ」が横行している社会では、実際にほとんど誰の幸せを犠牲にすることなく二酸化炭素の量を大きく減らすことができます。大事なのは、「幸せにつながっている二酸化炭素」か「幸せにつながっていない二酸化炭素」を区別することです。

〔幸せ/CO2〕の最大化に貢献できる事業体は生き残れると考えます。生協や組合員のみんなが、未来に向かって〔幸せ/CO2〕を最大化することを事業の一つの目標にすることもできるのではないでしょうか。決して簡単なことではありませんが、是非チャレンジしていっていただきたいと思います。

 

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