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エダヒロ・ライブラリー講演・対談

「 エコイノベショーンで世界を変えよう!」

(財)日立環境財団 平成20年度 環境NPO助成事業の報告会における基調講演(2007.12.01)
2007年12月01日
団体主催
講演
 

皆さん、こんにちは。ご紹介いただきました枝廣です。今日は、「エコイノベショーンで世界を変えよう!」というタイトルで、お話をさせていただくことになっています。

エコイノベショーンとか、世界を変えようということで、話を聞こうと集まってくださっている方々が、たくさんいらっしゃっていること、わくわくします。多分、こういう場所ではない所で、「世界を変えよう!」なんていうと、「なに、この人?」という顔をされるかもしれませんが、今日いらしている皆さんはきっと同じように思って来てくださっているのだと思います。50分ほどの時間ですが、私がいつも考えていることをお話ししていきたいと思います。

最初に、皆さんそれぞれ、考えみてください。自分がいま、社会にないものをつくり出したい、もしくは、あるものでも社会に広げたいと思っているものは、どういうものなのか?

日立環境財団から助成を受けていらっしゃる団体や、は助成を申請しようとしていらっしゃる団体の方々も多いと思うので、何かしらきっと、つくり出そう、もしくは広げたいものがあるのだと思います。

もし、そんなに具体的じゃないけど、という方でも、具体的に「これをやりたい、広げたい」と言えなくても、「これを変えたい」「これを何とかしたい」と思っていらっしゃることがきっとあることでしょう。何も変える必要がないと思っているとしたら、きっとこういう会にはいらっしゃらないと思いますので!

ほんとは意見交換したんですけど、今日は時間がないので、お一人お一人のなかで、ちょっとそれを考えてみてください。「これだ」と思うのがあったらぜひ、どこかにちょっとメモをしておいてください。それを念頭に置いて、私の話を聞いていただけたら、と思います。

こんな短いあいだじゃ書ききれないというぐらいたくさん、思い浮かべられる方もいらっしゃると思うし、何年来、「これをとにかくつくり出したい」「これを広げたい」と思って活動されている方もいらっしゃるかもしれません。それぞれ、何をお書きになったか、何を思っていらっしゃるか違うと思いますが、この部屋のなかの全員がきっと、何かしらをつくり出したい、何かを変えたいと思って、イノベショーンを創り出そう、広げようと思っていらっしゃるのだと思います。

もうすでに活動されている団体の方も、これから何か始めようとされている方も、何も変えなくてよかったら、そのほうが楽ですよね。でも、きっといろんな苦労--組織運営の苦労、みんなにわかってもらう苦労、物事を変えていくときの苦労などいろいろな苦労--をされても、やはりエコイノベショーンを何とか創り出し、広げたいと思っていらっしゃるのでしょう。

それはなぜだろう?ということを、ぜひ考えてみてください。それぞれきっと、何らかの原動力というか、問題意識というか、「根本的になぜ私はこれをやっているのだろう?」「なぜ私たちはこれをやっているのだろう?」というのが、きっとあるのだと思うのです。

私の場合はいま、主に温暖化を中心に活動をしています。アル・ゴアさんの翻訳をさせていただいたこともきっかけになっていますし、いま日本がある意味、"温暖化ブーム"であることもあって、温暖化という切り口で活動していますが、私の原動力のひとつは、このようなIPCCの温度上昇の予測です。

これから地球の気温がどう上昇するかには、これほど幅があるのです。そうしたときに、やっぱり100年後の人たちにこんな高い気温の世界を残したくない。できるだけこれを下げたい、少しでもその害を減らしたいと、強く思います。「どうしたらいいのだろう?」「そのために私には何ができるのだろう? 私たちの
組織は何ができるのだろう?」--そんなふうに考えています。

温暖化のことで言うと、ご存じの方も多いと思いますが、温暖化が起こっている理由は、簡単に数字で説明することができます。いま私たち人間は、化石燃料を燃やすことで、1年間に72億トンの二酸化炭素を大気中に出しています。そして、地球が自然の力で吸収することができまるのは、森林が9億トン、海洋が22億トンといわれています。地球は合計31億トンは吸収できるのです。でも、私たちが出しているのはその倍以上、72億トンです。ですからどんどんとたまってしまう。それが温暖化を引き起こしています。

ここでもたくさんのエコイノベショーンを考えることができます。いうまでもなく、私たちがすべきことは、現在の排出量72億トンを31億トン以下に減らすことです。そのために何ができるか? たくさん考えることができるでしょう。

森林を増やすという活動をされている方もたくさんいらっしゃいます。その目的はいろいろだと思いますが、温暖化や二酸化炭素という観点から言えば、森林の吸収を増やそうという活動でもありますよね。

二酸化炭素の排出量はどうやって考えるか? このような式で表せます。

        GDP エネルギー   CO2 
CO2= 人口×---×-----×-----  
        人口   GDP   エネルギー

これは日本という国でもいいしい、地域で考えてもいいし、企業や組織で考えることもできます。そこにいる人の数と、一人当たりのGDP、つまり、私たち一人ずつの生活を支えるのに、どれぐらいのモノやエネルギーがいるかということですね、それから、ある単位のGDPを生み出すためにどれぐらいのエネルギー
が必要か、そして、ある単位のエネルギーを使ったときに、どれぐらいの二酸化炭素が出るか。この4つの項の積が二酸化炭素排出量になります。

いま日本でも、企業でもNPOでも、一生懸命温暖化に取り組んでいるところはたくさんありますよね。そういったところが、この式のどの項に取り組んでいるのかを考えてみることができます。

たとえば、風車を立てよう。ソーラーパネルを設置しよう。ソーラー発電技術を開発しよう。こういった動きがたくさんありますね。もしくは地熱を利用しよう。バイオマスを使おう。これは、いちばん右にある項への取り組みです。同じエネルギーを使ったときに出す二酸化炭素を減らそうということですね。自然エネル
ギーへの転換などの取り組みがここに含まれます。

それから、多くの企業が取り組んでいるのが、その左にある項で、同じGDPをつくるのに必要なエネルギーを減らそうという取り組みです。たとえば、省エネをする。エネルギー効率を上げる。資源生産性を上げる。つまり、同じ量のエネルギーや資源からつくり出せるものが多くなれば、同じ単位のGDPを生み出すのに必要なエネルギーを減らすことができます。

「経済のサービス化」といわれる取り組みもここに入ります。モノを売るのではなくて、サービスを売りましょう、というものです。そうすれば、GDPは増えても、物質にまつわるエネルギー消費量は増やさずにすみます。

日立環境財団の助成は、「環境と経済」「環境と科学技術」の2本柱でやっていらっしゃいますが、いま説明した2つの項は、科学技術にかかわるところです。日本の企業も日本の政府も、世界各国がそうなのですが、ここに力を入れています。ここは、実はとてもやりやすいところなのです。

なぜやりやすいかと言うと、価値観を変えなくてもいいからです。これまでどおりの価値観で、しかし効率よくなれば、そしてエネルギーが転換できればよいからです。考え方や生き方を変えなくても、二酸化炭素を減らせるだろうという考え方です。

日本は人口が減りはじめていますから、「人口」という項も心配いりません。つまり、4つの項のうち、3つは増えていないか、減っているというのに、それでも二酸化炭素排出量は増えています。4つの項目のうち3つがいい方向に向かっているのに、増えているのはなぜでしょう? それはここ、一人当たりのGDP
が伸び続けているからです。ここが恐らく、日立環境財団の助成のもうひとつの柱である「環境と経済」にかかわってくるところでしょう。もしくは、「環境と文化」「環境と価値観」ですね。何が本当の幸せなの?というところです。

私が共同代表を務めているジャパン・フォー・サステナビリティも、助成をいただいて研究をひとつさせていただきましたので、ちょっとその紹介をします。そのときに、枠組みとして、この環境問題をどういうふうに解決したらいいかという枠組みのひとつをご紹介します。

これは、エイモリー・ロビンス、ハンター・ロビンス、ポール・ホーケンという人たちが一緒につくった「自然資本主義」という考え方です。本が出ています。日本語の書名は『自然資本の経済』です。ここでは、4つの柱でやり方で変えていく必要がある、としています。

まず1つは、先ほどと同じポイントですが、「資源生産性を大きく改善しましょう」というものです。同じ量の資源からたくさんのモノをつくれるように、効率よくやっていきましょう、と。もう1つは、バイオミミクリといって、自然のやり方を学びましょう、というものです。JFSではこれを研究のテーマとしましたので、あとでこれについてご紹介します。

3番目は、経済をサービス化していきましょう、ということです。サービス経済をつくっていく。モノではなくてサービス、機能を売る。そういった経済に変えていこう、と。そして最後は、自然資本に再投資をしましょう、ということです。それが二酸化炭素の吸収源であれ、たとえば材木を生み出す自然の力であれ、自
然の生産性をもっと高めていこう。私たちはこの4つを進めていかなければならない、というのがこの大きな枠組みです。

この4本の柱のうちの1つ、バイオミミクリを、私たちJFSで取り上げ、助成をしていただきました。「バイオミミクリ」ってすごく言いにくいし、片仮名で「何のこっちゃ?」という感じだと思います......。「バイオ」というのは、バイオ燃料とかいわれているように、生物とか命とかいう意味です。「ミミクリ」というのは英語でmimicry、まねするという意味です。だから、バイオミミクリとは、「生物のまねをしましょう」ということです。日本語だと「生物模倣」など言いますが、難しい感じになってしまうので、私たちは片仮名のまま使っています。

地球上に生命が生まれてから、ずっと自然淘汰されて生き残ってきた生物は、やはりそれなりの素晴らしい知恵を持っているし、生きるすべを持っています。生物は――人間も生物ですが......人間以外の生物は、ほかの生物と上手に調和をして生きていく、そういった知恵を持っています。この自然の知恵に学んで、それを私たちの、たとえば産業活動や経済活動に活かしていこう。これがバイオミミクリという学問です。

日本でも、昔から自然に学ぶという考え方はありましたが、バイオミミクリというひとつの学問になったのはアメリカでのことでした。90年代から研究されています。各地で研究されていて、日本にも研究者はいますが、内外での情報共有などがあまりできていませんでしたし、これまでは「知る人ぞ知る」分野でした。

JFSはもともと、情報を伝えることを使命としている体なので、バイオミミクリに関する情報を集約して、日本の人にもわかりやすく伝え、そして日本で研究している人たちの情報も集めて、世界にも伝えていこうと考え、プロジェクトをおこなうことにしたのです。

バイオミミクリには、どのような研究があるのでしょう?今日は2つだけですが、ご紹介しましょう。

1つはハスの葉っぱです。ご覧になったことがあるかどうかわかりませんが、ハスの葉っぱって、いつもきれいなんですね。泥もほこりもついていない。バイオミミクリを研究している人は、「ハスの葉っぱは、洗剤も使っていないし、ごしごし洗ったりもしなのに、なぜいつもきれいなのだろう? その秘密は何だろう?」
と研究しました。

その結果、葉っぱの表面に小さな突起がたくさんあることがわかりました。それらが粗い表面をつくるので、雨が降ったときに、雨粒がコロコロコロと転がるんですね。そのときに汚れをくっつけて転がって落ちていくのです。つまり、葉っぱ自体が、雨が降るだけで自動的にきれいになるような構造になっている。なので洗う必要がない。

バイオミミクリでは、なぜ生物がそんな素晴らしいのだろう?というのを研究したあと、それを私たちの工業や経済のなかに活かせないかと研究します。

ハスの葉っぱからヒントを得て、実際に開発されたものがあります。ドイツの会社ですが、雨と重力だけを使って汚れを落とす「洗剤のいらない建物の外壁」を開発しました。つまり、ハスの葉っぱの表面と同じような表面にすれば、雨が降ればコロコロと同じように転がって、汚れがつかない。ですから洗剤もいらないし、洗う手間もいらないという外壁ができたのです。

もうひとつの例は、オウムガイという貝です。生きた化石といわれていますが、これだけ長い間生き残れるということは、それだけいろいろな秘密があるのでしょうね。

オウムガイの貝殻のらせんは、とても独特な形です。調べてみると、この形が最も摩擦や抵抗が少ないのだそうです。ですから、動くときの力があまりいらないのでしょうね。オウムガイは、長年かかって、そのような形状の貝殻を発達させてきたのでしょう。

オウムガイは何でこんなに長生きしているんだろう。あの貝殻の形は、どうしてああなんだろう? そうか、摩擦や抵抗がいちばん少ないんだ。そういうことがバイオミミクリの研究でわかって、それを実用化した例があります。

アメリカの会社ですが、この形をまねて扇風機の羽根を開発したそうです。つまり、摩擦や抵抗がいちばん少ない形の扇風機の羽根です。この羽根にしたところ、エネルギーも騒音も大きく下げることができたそうです。

バイオミミクリってとっても面白いです。JFSのウェブサイトに日本語でも載っているので、ぜひ見てください。新幹線はなぜ、あれほどの高速で走ってもあまり騒音が出ないのでしょうか? そのヒミツもある動物にまねたことなのです。(どの動物にまねたかは、サイトを見てのお楽しみ!)

そんな研究やストーリーををたくさん集めて、事例集を作りました。カテゴリー別に整理したものと、日本の研究者にインタビューしたレポートを作りました。最後に助成をいただいた締めくくりとして、バイオミミクリ・フォーラムを行いました。そのときの講義録も読めるようになっています。助成をいただいたおかげで、バイオミミクリについて、世界と日本の研究を集約して、活かしていただけるような形にまとめてお伝えすることができました。ウェブはこちらです。
http://www.japanfs.org/ja/biomimicry/index.html

以上、JFSが助成をいただいたプロジェクトの簡単なご紹介でした。

(中略)

確かに技術のイノベショーンは大事です。たとえば白熱灯じゃなくて省エネ型電球に替えただけで、同じように電気を使っていても二酸化炭素は減るわけです。技術の革新はとても大事です。

でもほかにも、もうひとつ大事なのは、社会的なイノベショーンです。つまりそれは、政治や政策のイノベショーンであり、経済の仕組みのイノベショーンであり、そして文化のイノベショーンでもあります。これもとても大事だと思います。

技術は見えやすいし、これまでの価値観を変えなくてもいいので、皆さんやりやすいと思います。でも、これからもっと本当に必要になってくるのは社会的イノベショーン、もしくはこの組み合わせ、つまり技術と社会のイノベショーンの組み合わせではないかと思っています。

この写真は、私が参加をしている活動のひとつの「100万人のキャンドルナイト」です。もうじき冬至なのでまたやりますが、冬至と夏至の夜に2時間電気を消して、ロウソクの明かりでスローな夜を送りましょう。それだけの働きかけです。

「100万人の」とつけたのは、それを始めるとき、私たち幹事は、「いつか100万人ぐらいやってくれたらいいね」と思ったのですね。ところがふたを開けてみたら、最初の年に500万人参加をしてくれたそうです。環境省と毎日新聞が調べてくれたのですが。いま参加者は、800万とも900万ともいわれています。全国でいろいろなイベントが行われ、多くの施設が消灯してくれます。キャンドルナイトは、ひとつの「社会的イノベショーン」だと思っています。

「2時間電気を消したって、省エネにはならないじゃないか」などと言われることもありますが、私たちはそれよりも、立ち止まる時間、ちょっと振り返る時間、考え直す時間を提供したくて、やっているのですね。そういった意味で、文化的イノベショーンだと思うのです。こういう社会的・文化的イノベーションって、これまであまり考えられてきませんでしたが、とても大事です。

温暖化でもほかの環境問題でも、環境以外の問題でも、何か物事を変えようと思ったときに、少なくとも3つ必要なことがあると、私は思っています。

ひとつは「意識啓発」。たとえば皆さんに温暖化のことを知ってもらう。何をすればいいかわかってもらう。これはいま、環境省もとても力を入れているし、日本ではとても進んでいるところです。もうひとつは「技術開発」です。たとえば、同じように使っても省エネ型の冷蔵庫などですね。

もうひとつ大事なのは、「行動をしたくなる仕組み」です。望ましい行動をしたくなる、開発された技術を使いたくなるような仕組みです。日本はここがとても弱い。ですから、たとえばソーラーパネルの太陽光発電の技術は世界一なのに、設置容量はドイツに抜かされています。それは技術がないからでも意識が低いからでもなく、「広げるための仕組み」がないからです。

この「広げるための仕組み」は、社会的イノベーションです。技術イノベーションがあって、それを広げるための社会的イノベーションがあって、はじめて実際に社会の中で使われ、広がっていくのです。

日本の政府は、この仕組みを作るのが弱いから、私たちがつくっていかないといけない。働きかけていかないといけない。ヨーロッパで環境が進んでいるドイツにしてもスウェーデンにしても、この仕組みづくりがとても上手です。ですから、特に日本では、イノベーションといってもこの社会的なイノベーションに切り込
んでいく必要があると思っています。

イノベショーンについて大事なことがいくつかあると考えているので、その話をしていこうと思っています。
まず、「役に立つものをつくる」というのが大事ですね。イノベショーンって新しいものをつくるということですが、新しければいいかと言うと、そうじゃなくて、新しくかつ役に立つものでないと、やってもしょうがないわけです。

もうひとつは、「イノベショーンを広げる」ことが大事。たとえば技術でも社会の仕組みでも、新しいライフスタイルでも、あるイノベーションができるということと、それが広がるというのは別物なのです。できていても広がらない限り、効果を生み出しません。

ですから、役に立つものをつくって、しかもそれを広げるという2段階が、イノベショーンについては必要だと思っています。2段階とも同じ人がやる必要があるかどうかは別ですが、この2段階がないと、イノベショーンが社会の役に立つことができません。

まず最初の、本当に役に立つものをつくり出す。そのために何が必要か。2つのことをお話ししたいと思います。

ひとつはビジョンを描くことです。このイノベショーンができたら、どういう世界になったらよいと思っているの? どういう世界にしたいから、どういうイノベーションが必要なの? 

ビジョンを描くということでバックキャスティングの話をよくしますが、現状からスタートして「いまあれができる」「これができない」と考えるのではなくて、そもそもどうありたいの? そもそも何が理想像なの? というところを先につくって、そこから振り返って現状に足りないところを埋めていく。これがバックキャスティング型のビジョンのつくり方です。

恐らく、助成を受けていらっしゃる団体の皆さんも、「いまこれができる、あれができる」というよりも、「こういう社会にしたい」「こういう地域にしたい」「そのときに、いま自分たちは何ができるだろう?」という考え方をされているところが多いのではないでしょうか? バックキャスティング型で考えられているんだと思います。

本当は、国もこういったふうに考える必要があります。いま何ができる、という現状の延長線上で6%、「できる」「できない」という話をしているんじゃなくて、そもそも31億トンしか吸収できないのに72億トン出しているわけだから、70%減らさなきゃいけないというのは、物理的な厳然たる事実ですよね。

なので、「いつできる」とか「どうやってやる」というのはまず脇に置いておいて、まず「70%減らす」というあるべき最終目標を掲げて、そこからいまを見たときに、「じゃあまず何をやっていきましょう」と考えていくべきです。国だけではなく、地域もそうですし、企業もそうですし、NGOでもそうです。

私もNGOを運営しているのでよく思うのですが、NGOの運営そのものも同じ考え方だと思います。「いまの自分たちに何ができる」「この問題があるから、これはできない」--日々そういうことはたくんさんありますが、でも、「私たちの組織は何をつくり出したくてやっているの?」「30年後にこの国やこの地域
をどういうふうにしたくて、この活動を立ち上げたの?」--その思いがとても大事になることがよくあるのだと思うのです。

もうひとつ、ビジョンと並んで大事なことは「全体像を把握する」ことです。私がいま力を入れているシステム思考という考え方です。私たちは問題があると、自分の見える範囲で問題の原因を考えますよね。そして、自分の見える範囲で、解決策を考え、その解決策に飛びつきますよね。

しかし、それが本質的な解決ではないことがよくあります。見えている解決策に飛びつく前に、「この問題は何につながっているんだろう? その先は何につながっているのだろう?」と、つながりをたどって全体像を見ることができれば、別の本質的な解決策が考えられるでしょう。このつながりをたどって、できるだ
け全体像を見る--これがシステム思考のアプローチです--が、いまとても大事になっています。

たとえば、いまこのアプトーチを欠いているために問題を起こしそうなのがバイオ燃料です。バイオ燃料はとても大事なものですし、皆さんのなかでも活動されている団体があると思いますが、単に温暖化対策、ガソリンの価格対策でバイオ燃料を世界中が大量に使うことになると、いろいろな問題が出てきます。

たとえば、食べ物の値段が上がっていく。いまそうなっていますね。レスター・ブラウンによると、100リットルのタンクをバイオ燃料で満タンにすると、1人が1年分食べる穀物を使ってしまうといいます。

ですから、お金持ちの自動車の燃料を環境にやさしくするために、貧しい人がますます飢えるという別の問題が起きてしまう。もしくはブラジルあたりでは、いま輸出用のバイオ燃料を大量につくるために、熱帯雨林を切り開いて大豆やサトウキビを植えている。そうすると砂漠化が進んだり、生態系が破壊されたり、やはり別の問題が起きる。それだけではなく、熱帯雨林というのは、二酸化炭素吸収源として重要な役割を果たしているのに。それを切ってしまっては、吸収量が減ってしまいます。ですから、温暖化対策のためのバイオ燃料だったはずだったのに、逆に温暖化を悪化させてしまう危険性があるのです。

ですから、いま、政府や商社がやろうとしているような、「とにかくバイオ燃料だ」「大量に輸入しろ」ではなくて、日本でバイオ燃料をやるとしたら、どういうやり方が必要なのかを考える必要があります。たとえば間伐材とか建設廃材とか、稲わらとかごみとか、そういった日本にあって不要なものでバイオ燃料をつ
くればいい。日本にもそういう取り組みはあるのですが、主流派に応援されていないので、まだまだ小さい。私たちも応援していかないといけないですね。

私たちが何かをやれば、必ず何かに影響を与えます。私たちは、良かれと思ってやっても、良かれだけではない影響がある可能性もあります。これは、NGO、NPOが活動するときに、もちろん企業もそうですが、考えなくてはならないことです。「知りませんでした」「想定外でした」と言うわけにはいかない。つな
がりは必ずあるのですから。

私たち、エコイノベショーンをやりたい人たちは、その問題があったときに、問題に正攻法で直接ぶつかっていくだけではなく、それが何につながっているのか?そして、一見離れているけど、ここを押せば、小さい力で、実はひっくり返せるというレバレッジ・ポイントはどこなのだろう? そんなことをぜひ考えていき
たいなと思います。

もうひとつ、エコイノベショーンに関して、私自身のことでも思っていることを話します。いまは、エコイノベショーンの種に事欠かない時代です。やらなきゃいけないことはいっぱいあるし、できることはいっぱいあるし、環境は問題だと社会が認識し始めているから、あれもやってほしい、これも重要じゃないか、とあちこちから要請や要望などがいっぱい皆さんのとこに来ると思います。

そういう時代こそ、私たちは気をつけないといけない。つまり、こういう時代には、何をやっても役に立つんだと思います。でも、だからこそ、「本当に自分は何をやるべきか」を考えなくてはいけない。

自分にしても、自分の組織にしても、時間もエネルギーも限られているはずです。その限られたエネルギーや時間をどこに投下するのが、いちばん社会の役に立つのか? いちばん自分たちがやりたいことにつながるのか?--それを考え、ときには人々のお願いや依頼を断ってでも、守り抜く必要がある。そう私は思っています。

いろいろなことをやってほしい。これもいいんじゃないか、あれも役に立つんじゃないか--いろんなことをみんなが言う時代になっている。それだけ関心が高いのはうれしいですが、NGOやNPOは人々の依頼を満たすためにあるわけではなく、自分たちがやりたいことをやるために組織をつくったはずですよね。

なので、それをやって本当にどれぐらい役に立つのか? そしてそれは自分たちの特性や持ち味とどれぐらいマッチしているのか? それをいつも吟味しながら活動を選んでいかないと、あっちもやり、こっちもやりしているうちに、薄まっていってしまう。そして何がやりたいんだかわからなくなってしまう。いま活動
への追い風が吹いているからこそ、そういった危険性が出てきているなと思うのです。

もうひとつ、最後に「広がる」という話をしておしまいにしようと思います。
新しい考えや技術がどうやって広がるか--「イノベショーン普及理論」が参考になります。

『イノベーションの普及』 エベレット・ロジャーズ (著)  翔泳社
http://www.amazon.co.jp/dp/4798113336?tag=junkoedahiro-22

新しい考えや技術などは、最初なかなか離陸しない。それで離陸してから浸透するというものですが、どうやって離陸させるかというのが、いちばん大事なところですね。私たちNGOでやっていても、普及期まで来たら、ほっといてもいいわけです。どうやって普及させるか。最初の離陸をさせるか。

よく思うのですが、これが大事、これを広めたい、これを伝えたい。でも、その熱い思いだけではつながらない、伝わらない、続かないと思います。どうやったら広がるのか。広がる構造をどうやってつくり出せばいいか。それは私たち広げたい人が、戦略的に考える必要があります。ただむやみやたらと、みんなに言えば広がるかというと、そういうものでない。

イノベショーンはどうやって広がるか? まず最初につくる人がいます。「これがいいよ」もしくは「こういう技術をつくったよ」。ただ、最初につくり出す人は、コミュニケーションがあまり上手でないことが多く、特に研究者とか思想家はそうですが、それを通訳する人が必要なんですね。

「この人が言っているのはこういうことなんだよね」「こういうふうに役に立つんだよ」「要するにこういうことなんだよ」――このように推進してくれる人がいて、それで社会のなかでもフットワークの軽い、アーリー・アダプターと、マーケティングで呼ぶ最初に動く人たちがやってみる。その様子を見ていて「ああ、大丈夫そうだ」と社会の主流派は最後に動きます。

なので、皆さんがもしいま何か広げたいと思っているのであれば、いま自分はどこにいて、どこにアプローチしなきゃいけないか。それを考える必要があります。最初から社会の主流派を説得しようとしても、おそらく難しいことが多いでしょう。社会のなかでも動きやすい人は誰か。そういう人たちに伝えてくれる人はどこにいるのか。そういったことを考えて、戦略的にアプローチする必要がある。

しかも、世の中はそれだけでなく、保守派という、「新しいことはいや」と言う人たちもいるし、ひねくれ者という、「あんたがやることはいや」と言う人たちもいるわけです。こういうなかで、こういうひねくれ者とか保守派につかまってしまわないで--つかまると時間がかかってしまうだけなので--、自分のこの「広げる道筋」をどうやってつくっていくか。これを考える必要があります。

これは何でもそうですが、人が「知らない状態」では行動の起こしようがないですよね。たとえば皆さんが、お勧めしたいある環境技術やエコ・ライフスタイルがあっても、人々がその重要性を知らなければしょうがない。

でも、知っているだけでもだめです。環境に関しては、情報はほとんど誰でも知っていると思います。知っているだけでも動きません。知っているだけではなくて、興味や関心を持たせる。ここで多分、調べ始めるでしょう。それが自分にとって必要だと理解する。そのうえで、行動することを決めて、やっと行動します。

ですから、何かを買うとか、何かのやり方を変えるとか、ライフスタイルを変えるとか、結構複雑なこの道のりの歩まないと、人々は変わらないんです。ですから、いま自分の伝えたい相手はどこにいるのか。どの相手をどの次のフェーズに連れていきたいのか。それによってコミュニケーションのやり方がすべて違います。

知らない人に知らせるためのコミュニケーションと、興味を持っている人に必要だと感じさせるコミュニケーションと、「よし、やろう」と思っている人に本当にやらせるためのコミュニケーションと、みんな戦略・戦術が違うのです。このあたりは、伝える人が考えていく必要があります。

だいたい、環境をやっている人は(企業もそうですが)、「いいことをやっていれば伝わるだろう」とか、「大変だということを言えば、わかってくれるだろう」と思いがちですが、そんなに甘いものではありません。

誰に何を伝えたいのか。そのときに、本当に伝えるにはどうしたらいいのか。それを考えていく必要があります。ですから、環境をやっている人たちは、私も含めて、マーケティングをもっと勉強しないといいけないと、常々思っています。

環境について語るときにも、「理性に訴えるアプローチ」の仕方と、「これはお得ですよ」という「経済感覚へのアプローチ」の仕方と、幸せやつながりを大事にする「幸せ感へのアプローチ」という、少なくとも3種類のアプローチがあると思っています。

企業の男性にお話するときは、私はだいたい1番目のアプローチを前面に出します。お金を動かしている人たちに話をするときには2番のアプローチを増やします。市民や特に女性に話をするときは3番のアプローチを前面に出します。これは全部必要なのですが、やはり誰をどういうふうに動したいと思っているかによって、話の仕方や話の内容も変えていく必要があると思っています。

あとでちょっと考えていただければと思いますが、いま皆さんは、どういう目的で、どういう相手に、どのようなチャンネル、媒体を使って、どういう方法でコミュニケーションしているのでしょうか? そして、伝わったかどうかをどうやって測っているのでしょうか? あとでちょっと振り返ってみてください。そのうえで、今後変えていきたいとしたら、変えていけるとしたら、何をどういうふうに変えられるだろうか?

エコイノベショーンというと、つくり出すところが大事だと思うのですが、それででもやっぱり、それを伝えていかない限り、それが広がっていかない限り、残念ながら、あまり社会の役に立たない。

ですから、こういう環境財団の助成を受けて、そこで発表会をする。もしくはお互いにホームページでいろんな情報を出し合っていく。JFSもそのお役に立てれてればと思いますが、そういった形で広げることも一緒にやっていきたいなと思います。

アル・ゴアさんが「温暖化はチャンスだ」と言っています。「温暖化はCrisis=危機だ。危機とはは、「危険」と「機会」という漢字を書く。なので、危険ではあるけれど、チャンスでもあるんだ」と。私もほんとにそう思います。

いまのように時代が動かざるを得なくなったとき、単に目の前の問題だけではなくて、これまでもずっと困っていたこと、これまで不都合だったことを含めて、大きく変えられるチャンスなのだと思うのです。たとえば社会の仕組みにしても、経済の仕組みにしても、地域のことにしても、教育にしても、何でもそうですね。

ですから、いまこそこのエコイノベショーンを技術的にも社会的にも広げていくことで、大きな変化をつくり出せるじゃないかと、私自身はわくわくしています。

私の話は以上です。ありがとうございました。

 

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