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エダヒロ・ライブラリー講演・対談

【対談】「新しいビジョンはどんなものか、そしてどんな未来を望むのか」

セヴァン・スズキ&枝廣淳子対談 −「地球家族物語:自然とのつながり、保ってますか? ~二十二歳の環境活動家・セヴァンが贈るメッセージ~」明治学院大学にて(2002.11.29)
2002年11月29日
対談
教育・研究機関主催
 
枝廣: ご紹介ありがとうございます。実はこのツアーでセヴァンさんに会うのは4回目です。それまでの3回は通訳としてご一緒していたので、人の質問を通訳する役割だったのですが、今日やっと自分の聞きたいことが聞けるということで、とても嬉しく思っています。 3週間にわたる日本でのツアーは、かなりあちこち歩かれてお疲れだと思います。このツアーも最後のところに差し掛かっているということで、まず、今回の日本のツアーで日本にどんな印象を持たれたのか、なにが一番印象的だったのか、何をカナダに日本からもって帰られるのかを教えてくれますか? セヴァン: 日本に来るまで、これほど豊かな自然がまだ日本に残っているなんて知らなかったんです。たくさんの森、そして美しい山々、そしてほかにはないほどきれいな海を見てとても感動しました。 でも、それと同時に、熊本県の美しい農村地帯で、コンクリートで固められた川を目にして、驚きました。そんな風景は見たことなかったんです。すごくショックを受けました。子どもたちはどうやってあの川で遊ぶんでしょう? 町や都市はとてもきれいなんですが、その川には多くのゴミが捨てられていました。 私がお会いしたたくさんの環境グループの方々から、そのようなごみがどこから来ているのか、という写真を見せてもらいました。日本にこれほどのゴミがあるなんて、信じられません! こうしたゴミは私たちの生活のちょっとした便利さから生み出されていると思うのです。 例えば、割り箸です。日本では、毎日5500万膳の割り箸が1回使われただけで捨てられています。自然の美しさ、そして自然を大切にする気持ちの一方で、ちょっとした便利さからゴミが生み出されている、というギャップに驚かされました。 枝廣: セヴァンさんの12歳のときのスピーチ、私も読ませていただいて、自分のネットワークで配信させてもらったことがあるんですが、12歳から、実際は9歳からかもしれませんが、環境への取り組みを始めたということだと、世界でも最年少の環境活動家で、世界最長の活動歴を持っているのがセヴァンさんじゃないかなって思うんですが、この10年間ずっとやっていらした間ずっと、自分にとって一番大切だったもの、そして今のセヴァンにとって一番大切なものは何でしょう? セヴァン: 今日はとても疲れてるんです。3週間続けてきたツアーの最終段階なので。いつもはもっと元気なんですけど。どうして元気がないかっていうと、私は多くの時間を戸外や自然の中で過ごすのが好きだから。だからこそ、このようにお話をしています。自然というのはパワーと元気の源だからです。 私がこのように皆さんの前でお話しできるのは、私が幸運にもアマゾンや、生まれ故郷であるカナダのブリティッシュ・コロンビアで様々な自然体験をすることができ、そしてその美しい環境に触れることができたからです。 そして、このような体験をする権利や機会は、すべての人に与えられるべきだと感じたからなんです。 大事なことは、自然界の存在を忘れてはいけないということです。森、山、海、これらはすべて人間のパワーの源なのです。それを忘れてはいけないと思います。 枝廣: 今セヴァンがいったこと、ほんとにそうだと思うんですね。わたしも環境活動をしていますけれども、やっぱり小さい時に私は田舎に育って、そこで泥まみれになって遊んだ、その経験が自分の原点にあると思うし、今同世代で環境をいろいろやっている人に聞いてみると、やはり小さい時のそういう時の体験が原動力になっている方が多い。 そう思うと、セヴァンと同じように、今の子どもたちが自然のなかで遊ばなくなっていることは心配だと思います。 セヴァンは10年くらいにわたってずっと活動していますよね。自然からのパワーをもらいながらやってきたのだと思いますが、でも、時には、例えば、一生懸命訴えてるのに聞いてくれないとか、わかってくれないとか、思った通りにいかない、そういうような「めげたり」とか「くじけたり」とかいうことがあるのかな、と思います。 そんな時、何を支えにして、何をもって立ち直ってもう1回やろうっていうように、自分を元気づけてきているのでしょうか? 多分活動していると同じように思う人たちがいると思うんですね。その時のセヴァンの乗り越え方のコツみたいなものがあったら、ちょっと聞きたいな。 セヴァン: こうした大きな問題に圧倒されそうになった時--環境問題というのは世界規模の、そして非常に大きな問題ですから--ちょっと気が滅入った時、いつも、誰かとてもインスピレーションを与えてくれる人に出会うんです。 そういう人たちに、とても力づけられます。本当にその問題に関心を寄せて、状況を変えることができるんだ、という例を示してくれるような人。そういった人たちに出会って、励まされます。 いろんなことを知れば知るほど、そしてこうした活動に関われば関わるほど、問題の深刻さを痛感します。でも、同時に、世界中どこにだって自分たちの住んでいる地域、都市、国、そして世界をよくしようと努力している人々がいるんだ、って実感するんです。 この会場にいらっしゃる皆さんの身近にも、少なくとも一人は、すごいなぁって尊敬する人、住んでいる地域を良くしようと頑張っている人がいると思います。そういった人たちが、私たちに元気を分けてくれます。そういう人たちを見つけること。そして、そういう人たちは、どこにでもいるんです。 それから私は、ちょっと気落ちしたようなときには、ゆっくりと海岸や森の中を歩きます。 枝廣: 今、セヴァンが言ったように、そういうふうに一生懸命やっている人がどこにでもいるっていうことは、私も本当に日々感じます。例えば、自治体の人とか、企業の人とか、市民団体とか、全く個人で頑張っている人とか、ほんとに元気をもらえます。 私はもうすでに何人も、セヴァンのスピーチに元気をもらって活動を始めたっていう人に会っているので、セヴァンも人から元気をもらっているんだろうし、セヴァンもみんなに元気をあげてくれてるんだろうな、と思います。 それで、12歳のときにスピーチをしたセヴァンは、子どもの立場から、大人に重要なメッセージを突きつけたという立場でした。今22歳で、大人になりつつあるわけですから、今度は未来の世代からメッセージを突きつけられる立場ですよね? じゃ、今度セヴァンの10年後はどうでしょう? 10年後セヴァンは何をやっているでしょう?  10年後世界はどうなっているでしょう? 地球はどんなになっているでしょう? セヴァン: 私が10年後どうなっているか、という質問に答えられるかどうかわかりません。1年後のことすらわからないんですから。 でも、こうした時の移り変わりは面白いですね。12歳の子供から、今22歳になって、10年先のことを考えている。そして10年後には32歳になって、おそらく自分の子どももいるでしょうね。 子どもを持つということは、真剣に未来に目をやり、将来のことを考え始める1つのきっかけになると思います。私の子どもの時のスピーチがどうしてあんなに力強く人々に訴えかけたかというと、それを聞いていた人たちが、子を持つ親であったからだと思います。「親である」ということが、物事が良い方向に進み始め、そして人々も地域ともっと良い関係を築けるように変わっていくきっかけになると思います。 なぜなら、親は子どものことをとても大切に思っていますから。 そして、時がたって親になれば、私の子どもたちにも、私が幸運にも持てたようなすばらしい子ども時代を経験してほしいと思って、これからも努力していくでしょうね。子どものことを考えるというのは長期的な視点ですよね。それが私たちのこれまでのライフスタイルを変えるきっかけになるだろうと思います。全然答えになっていませんね。 枝廣: 来年のこともわからないというのに、10年後のことも聞いてしまいましたけど、さらに、疲れているセヴァンには申し訳ないんですが、ぜひ聞きたいことがあります。 今日本でも、各地でいろいろなレベルで、いろいろな所で、いろいろな活動が広がっているんですね。このときによく人々が考えるのは、ここでの今目の前にある問題を解決するには、これをやんなきゃいけない、ということ。例えば「この自然を守るためにダムをストップさせないといけない」とかそういうことはわかるんだけど、それを続けていったとき、「究極の、最終的なビジョンは何なんだろう?」  例えば、「どういう状況になったときに、もうこういう環境活動をしなくてすむようになるんだろう?」「私たちがすべての今の問題を解決したら、どういう世界になっていて、特に人間と人間、それから人間と地球との関係はどんな形になってるんだろう?」......そういうことを考える時期が来るような気がします。 もちろん、そのビジョンを描くというのは非常にエネルギーがいるので、今のセヴァンには酷かもしれませんが、「もし、すべての問題が解決して、すべて理想的な状況になったら、こんな世界になっているんじゃないかな、こんな人間関係になっているんじゃないかな」というそのかけらでもいいので、ちょっと教えてください。 セヴァン: これはとても難しい問いかけですね。これは私たちがお互いに話し合っていかなくちゃいけない、またお互いに問いかけていかなくちゃいけない質問ですね。「新しいビジョンはどんなものか、そしてどんな未来を望むのか」ということを。 これを考えるときに大切なのは、「現在の私たちの社会やシステムは、けっこう最近できたものなのだ」ということを念頭に入れておくことです。私たちは、方法は1つしかない、経済活動だけが成功への唯一の道筋なのだと教え込まれています。 でも、歴史を振り返れば、また世界中のさまざまな文化に目を向ければ、さまざまなビジョンがあることがわかると思います。 経済の形、政府の行政の仕組み、地域社会のあり方も、多種多様です。私たちは、私たちの将来のビジョンはどういったものか、ということを問うていかなければなりません。 人間は知性的で、創造性に富み、柔軟性があり、変われるものなんだってことを忘れてはいけません。何をするにしても、道は1つではない、いろんなやり方があると思うんです。これまでの人類の歴史上で起こってきた変化は、とても前向きなものだったと思います。 私の"至近な"ビジョンは、そうした問いかけをしていくこと、そして一緒に考え、問い直し、あらゆる可能性を考えていきたい、ということです。それから、それぞれの方法で、それそれの生活の中で、そのビジョンに向かって進み始めていくんです。 こうした大きな問題を話すより、日常のちょっとした習慣を変えることのほうが難しいことがあります。私たちは大きな変化を起こすことを考えていますが、私は小さいことから始めよう、といいたいのです。 わたしが、今回のツアーを通していい続けてきたのは、「割り箸から始めよう」ということです。ここにいる皆さんが全員、自分の箸を持ち歩けば、割り箸の数はかなり減らせると思います。ここでの「割り箸」は象徴的なことです。これは単に氷山の一角ですから。 これは、まさに枝廣さんがいわれた、量から質への転換を意味する象徴的なことだと思います。 私は、自分の箸を持ち歩いて、それで食事をいただくのが大好きなんです。これは、箸を一回使って捨ててしまうよりずっと豊かなことだと思います。 最初の一歩、たとえそれが小さな一歩でも、踏み出すことはいちばん難しいところだと思います。でも、私が提案したいのは、まず割り箸から始めましょう、ということです。 枝廣: セヴァンさんはね、マイ箸を持ち歩いてるんですよ。日本のあちこちで、自分のバッグからマイ箸を出して、それを使って、主催者の方に感動されていました。日本に来て、割り箸にすぐ気が付いてマイ箸を持つようになった、ということだと思います。 おっしゃっていたように、これは私自身でもよくいうのですが、価値観を変えるというとすごく大きな問題になっちゃう。「価値観ってどうやって変えるんだろう? 何なんだろう?」っていうふうになっちゃう。 でも、私たちが環境に影響を与えているのは、価値観とか考え方ではないんですよね。私たちが何をやるか、何をやらないか、その行動が環境に影響を与えているのであって、価値観はその結果として変わるかもしれないけど、やっぱり、マイ箸でもいいし、それから歯磨きのとき蛇口を閉めるっていうそれだけでもいいかもしれない。 価値観を変えるとかあまり大きなことを考えなくても、行動を変えることで、実際に今日からすぐに環境に対する影響を少しでも減らすことが出来るんじゃないかな、と思います。 さてもう一つ今の、量から質へということで、一つだけつけ加えておくと、さっきセヴァンがいろんなビジョンがあるっていっていましたけど、実は日本にはそういう量ではなくて質を大切にするという昔からの生き方があります。 例えば、京都の老舗では、長男には店を継がせるけれども、次男以下には店はつがせないというところがあります。つまり、お店を増やさないんですね。一軒のお店を長男がずっと継いでいく。次男以下は外に働きに出る、ということで「のれんわけ」しない。お店の数を増やさない。自分たちの商売はこの大きさでいいんだと、そして質を保ってずっと商売をしている、という老舗が京都にはいくつもあります。 皆さんもよくご存知かもしれません。江戸時代は、そういう量的な成長は全然しないで、でも持続可能な形で住んでいました。そういう歴史が日本にはある。たぶん、そういうのをもう一度見直して、昔に戻れというのではなくて、そこでの大切だったことを今に生かすことが出来るんじゃないかなと思います。 多分、これは日本で特にそう思うんですけど、景気がずっと悪いせいでですね、これまで高度成長期にはわき目も振らず追い立てられて、GNP何%だとか、成長が一番だとか、お金儲けするんだとか、それでこうわっとやってきたのが、景気が悪くなったせいもあって、今日本のあちこちで、「本当に大切なのは何だろう? 自分が本当にほしいのは何だろう?」という問い直しが広がっているように私には感じられます。 多分その問い直しは、「じゃあ自分の責任は何だろう?」という、ゼヴァンのいっているROR(責任の認識)にもつながっていくと思うんですね。それが日本に広がっていて、だからきっと皆さんも来て下さっている。その辺は、他の国、例えばカナダとか他の国ではどうなんでしょう。「本当に大切なのは何だろう?」という問い直しやRORに対する認識が広がっているんでしょうか? セヴァン: 確かに変化は起こっていると思います。でも地域の草の根レベルで起こっているという感じです。でもそうした動きはなかなか目に見えないものなのです。 例えば、ブッシュ大統領のようには、目立っていないのです。RORのキャンペーンが始まってからたった3ヶ月しかたっていませんが、その反響から皆さんがご自分の責任を果たそうとしている心構えが見て取れます。 枝廣: 「本当に大切なのは何だろう」と考えて、自分の責任を考えて引き受けていくということを考えると、私もこれはいい時代になっていくんじゃないかなって思います。 地球環境の現状を見ると、まだまだ悪化の方向に向かっているのですが、人々が今だいぶ変わってきているような、変わり始めているような気が私にはします。その責任のとり方とか、問い直しの答えをそれぞれの皆さんの本業で、企業人だったら企業で、学生だったら学生として、教師だったら先生として、主婦だったら主婦として家庭で、それを形にしていく。 それは多分、とても楽しいことだし、前向きなことだと思います。さっきセヴァンも「ポジティブ」という言葉を使っていましたが、私はよく「環境問題って暗いのにどうしてそんな楽しそうに活動しているの?」といわれます。 でも私にとっては、とても楽しいんですね。これまでと違って、本当に何が大切なのかな?と考えて、それを自分の仕事や人々のやり取りで形にしていけるということは、とても嬉しいことだと思います。 で、最後にセヴァンに聞きたいこと。 今回、ツアーの一番最後ということなので、これが最後の質問になるかもしれませんが、ここに来て下さっている皆さん、そしてこれまでツアーを応援してくれた、もしくは、これからセヴァンのことを知っていく日本の人たちへのメッセージをお願いします。 セヴァン: 2つのことをお話したいと思います。これは、私がツアー当初から提案していたことで、ツアー最終日の今もこの2つのことが大事だと思っています。 1つ目は「できるだけ外に出て、できるだけ自然と触れ合おう」ということ。 2つ目は「食について考え直そう」ということです。食べ物を通して、皆さんを取り囲む環境が皆さんの身体の一部となるからです。好もうと好まざると、食べ物を介して、私たちは環境そのものなのですから。 この2つのことが、私たちが自然界とつながり直し、そして、すべての議論に通じる様々な疑問を投げかける方法なんだ、ということがわかっていただけると思います。 最後に、私はこれからもいろんな人たちに、ぜひ立ち上がって、どんどん関わりを持ち、問いかけをするよう、働きかけていってほしい、と思っています。皆さんもご自分の住んでいらっしゃる地域で、関心のある問題にどんどん関わってください。自分の経験からいいますと、こうした関わりというのは私の人生の中で、とても感動的で刺激的なことでした。 私はこんなに多くの人が私の話を聞くために足を運んでくださったことにとても驚き、またとても嬉しく思っています。今日こうして来てくださったのは、皆さんがすでに行動を始め、問いかけを始めていらっしゃる証拠だと思います。これが最初の一歩なのです。こうした関わりをこれからも続けてください。 枝廣: ありがとうございます。今、セヴァンが2点目であげた「食べ物から」というのは本当に重要なところですね。 例えば、私はときどき、「昨日の夕食は何を食べましたか?」と絵を描いてもらって、それぞれに「その材料はどこから来たのか、国旗を立てて下さい」というのをやるんです。 そうするとご飯ぐらいにしか日本の旗が立たなかったりするんですよね。鰹節のカツオだって今は日本産ではないし、味噌とか豆腐とかは日本食だっていうけど、その大豆はほとんど海外からきてるんですよね。そうしたのを見ただけでも、自分と地球環境のつながりが見えると思う。 それと、例えば、遺伝子組み換え反対をやっている人たちがよく言うのは"You are what you eat."(あなたは、あなたの食べたものからできているんだよ)。確かに、その髪の毛一本に至るまで、私たちは食べたものからつくられてるわけで、そのへんのことを通して、いろいろ考えていくことはとても大切だな、と思います。 今セヴァンが最後にいっていたように、皆さんがここに来てくださったのは、関心がある、意識をお持ちだ、ということだと思います。ぜひ、もっと情報を手に入れるとか、今日のことを誰かに話してみるとか、前から気にかかっていたことを少し声に出していってみるとか、何らかの形で活動として続けていって下さればいいなと思います。 そして、10年後とはいいません、もっと早くぜひまたセヴァンに、日本に来てもらって、日本でのRORがいろいろなレベルで今始まっている、セヴァンの呼びかけに答える形で始まっているので、それの活動も一緒につなげながら進めることができたらな、というふうに思います。では、対談はここまでにしたいと思います。どうもありがとうございました。
 

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