先日、教鞭を執っている大学院大学至善館で、面白いイベントがありました。
Japan Meets Latin
Harnessing Eastern Philosophy for Global Business
ラテンアメリカ(主にメキシコ)の方々向けに、東洋思想のエッセンスを伝えさせていただき、「どうして日本の人や会社はこう振る舞うのだろう?」という素朴な疑問に対して、"見えないDNA"としての東洋思想から読み解くーー面白いチャレンジでした!
学生など若い人々だけでなく、メキシコの産業界のベテランやメキシコ大使館からの参加もあり、いろいろな意見交換で盛り上がりました。
冒頭10分ぐらいで、簡単に自分と自分の教えている東洋思想の紹介をしました。日本語訳でお届けします。
~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~
みなさん、こんばんは。本日はお越しいただき、ありがとうございます。
今日は、日本からの視点として、東洋思想が日本社会やビジネスにどのような影響を与えているのか、そしてそれがラテン文化とどのように響き合う可能性があるのかについてお話しできることを、大変光栄に思います。
私はここ、大学院大学至善館で、主に次の3つの科目を教えています。
* システム思考
* 持続可能性への挑戦
* 東洋思想
少しだけ私の背景をご紹介します。
私は30年以上にわたり、環境や持続可能性の問題に取り組んできました。
講演、執筆、翻訳、政府委員会のアドバイザー、企業コンサルティング、地方自治体の支援など、さまざまな形で活動しています。
その中で、現代の西洋的な思考や価値観――たとえば、短期志向や終わりのない経済成長の追求といった考え方が、地球、社会、そして人間の幸福を損なってきたのではないかと感じるようになりました。
そこで私は、人間とは何か、自然とは何か、経済や社会はどうあるべきかなどについて、別の考え方や世界観を探し始めました。
東洋思想が重要な示唆を与えてくれるのではないかと思うようになり、2011年頃から本格的に東洋思想の研究を始めました。
日本における東洋思想は、一つの単独の思想ではありません。そこには、神道、儒教、仏教、道教など、さまざまな伝統が含まれています。これらの思想は何世紀にもわたって互いに影響し合い、日本の文化や社会規範を形づくってきました。
私の授業では、主に中国古典思想を中心に取り上げています。とくに、儒教、老子などです。これらの思想は、2000年以上にわたって東アジアに大きな影響を与え、現在の日本の価値観や行動様式、制度にも深く影響しています。
ここで、東洋思想の中でも特に重要だと私が考えている3つの原則をご紹介します。
第一は 「Inter-being」(相互存在)です。
すべてのものはつながっています。完全に独立して存在しているものは、何一つありません。そして、人間、自然、社会は一つの生きたシステムを形づくっている、という考え方です。
第二は 「Harmony」(調和)です。対立ではなく、補完しあう関係です。
現実とは、陰と陽のように、違いが共存する動的なバランスだと考えます。
第三は 「Enoughness」(足るを知る)です。
何が十分であるかを知ること。幸福とは、無限に蓄積することではなく、十分であること、そして、適切な規模であることではないでしょうか。
これらの3つの原則は、近代西洋とはかなり異なる世界観を示しています。
単純化して言えば、西洋的な思考と東洋的な思考には、次のような違いがあります。
西洋の思考は、個人中心で、分析的、競争志向、コントロールと成長を志向する傾向があります。一方、東洋の思考は、関係性が中心にあり、全体論的、協働志向で、バランスと共生を志向する傾向があります。
もちろん、実際の世界はもっと複雑ですが、この対比は前提となる世界観の違いを理解する助けになります。
こうした哲学的背景は、日本社会にも表れていると考えています。
まず、「アイデンティティは関係的」です。つまり、人は自分を、役割や関係性を通じて定義する傾向があります。また、調和が重視されます。人々は、できるだけ露骨な対立を避けようとします。さらに、義務や責任が強調されます。これは儒教倫理の影響だと考えています。コミュニケーションも、明確な言葉よりも、共有された文脈に基づくことが多くあります(ハイコンテキスト)。
言ってみれば、個人よりも関係が先に来る社会と言うことができるかもしれません。
同じパターンは、多くの(とくに伝統的な)日本企業にも見られます。
雇用関係は長期的で、しばしば家族的な関係に近いものになります。意思決定は、「根回し」や「稟議」といったプロセスを通じて、合意形成によって行われます。また、強い「長期志向」があります。短期的な利益よりも、継続性や持続性が重視されます。企業は単なる経済主体ではなく、「コミュニティ」として捉えられることもよくあります。
これらの特徴は、(少なくとも部分的には)東洋思想の価値観を反映しているのではないかと考えます。
つまり、日本社会や日本企業は、「東洋思想を体現化している」とも言えるかもしれません。そうした認識の上で、海外の方々が、日本を理解するためには、特にビジネスの場面では、次の4つの鍵が重要だと考えます。
* 関係性
* 調和
* 長期志向
* 全体性
です。
これらを理解しないと、日本人や日本企業の行動や意思決定はしばしば不可解に見えるかもしれません。
最後に、ラテンアメリカの文化には、東洋思想と共鳴する価値観が多いのではないかと感じています。
たとえば
* 家族やコミュニティの重視
* 自然との近さ
* 日常生活における精神性
* 関係的なアイデンティティ
などです。
こうした共通の志向があるため、みなさんのようにラテン文化圏に通じている方々は、日本社会や日本企業を理解する上で自然な橋渡しを見つけやすいのではないかと思います。
今日は、東洋思想は単なる抽象的な思想ではなく、日本社会やビジネスを形づくる生きた基盤であるということをお話ししました。「見えないDNA」と呼んでもよいかもしれません。
そして、ラテン文化と東洋文化の間には意味部会共鳴が存在するのではないかと思っています。
こうした関係性を重視する価値観を理解することで、文化を越えたより深い理解とより良い協働が生まれることを願っています。ありがとうございました。
~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~
そのあとの質疑応答・ディスカションのセッション、そのあとの懇親会でも、「なぜ日本の会社では意思決定にとても時間がかかるのか」など、いろいろな問いをもらいました。いろいろ考えながら答えながら、「たとえば、日本人は失敗や不確実性を回避する傾向が強いと言われるけれども、これも実は東洋思想的な背景から考えることができる」と思いました。
東洋思想には、「人は関係の中で存在する」というような考え方があります。人間は「関係的存在」なのです。西洋の「独立的自己」に対して、「相互協調的自己」という言い方もします。
独立的自己観を持つ西洋では、失敗は個人の経験であり、学習の機会として、あくまで個人的なものとして捉えるのに対し、相互協調的自己観を有する日本人は、失敗は関係に影響をもたらすので、社会的評価につながると認識する傾向があると言われています。
そのため、個人の失敗は単なる個人の問題ではなく、しばしば「周囲に迷惑をかける」「組織の評価を下げる」ので申し訳ない、という形で把握されます。つまり、失敗は単なる個人の技術的問題ではなく、社会関係の問題として感じられやすいのです。
そして、「人は関係の中で存在する」という考え方は東洋だけのものではありません。
来週の幸せ研読書会で取り上げるアフリカの「ウブントゥ」という思想・価値観も、「人は他者との関係の中で人間になる」と、「関係的存在」として人間をとらえています。
この本を読んだり、この概念を調べていて、西洋の「独立的自己」に対する「相互協調的自己」という意味で、東洋思想と共鳴する部分がとても多くてびっくりしました。
読書会では、ウブントゥについてわかりやすく解説した後、「西洋の自己観」「東洋の自己観」「アフリカの自己観」を比べながら、考えを深めていきたいと考えています。
アフリカの「ウブントゥ」に関心のある方も、それは聴いたこともないけれど、持続可能な未来に向けて「自分とは何か」「人間とは何か」というメンタルモデルが鍵をにぎっているのでは、と考えている方も、ぜひ一緒に考えてみましょう!
幸せ研読書会
https://www.ishes.org/news/2026/inws_id003723.html
日 時:2026年3月17日(火)18:30~20:30(開場18:15)
会 場:オンライン(Zoom使用予定)申し込みされた方にURLをご案内いたします
課題書:『ウブントゥ 自分も人も幸せにする「アフリカ流14の知恵」』(著:ムンギ・エンゴマニ)
参加費:1回 2,200円(税込)
お申し込み:こちらからどうぞ(外部サイトへ移動します)
https://peatix.com/event/4885837/view