ホーム > 環境メールニュース > 新刊が出ました!『社会の価値の測り方─「見える化」で地域を豊かにする』

エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2026年01月22日

新刊が出ました!『社会の価値の測り方─「見える化」で地域を豊かにする』

大切なこと
新しいあり方へ
 

本日、新しい岩波新書が刊行されました!

『社会の価値の測り方─「見える化」で地域を豊かにする

『地元経済を創りなおす―分析・診断・対策』と『好循環のまちづくり!』につづく、岩波新書3部作の3作目となります。

地元経済を見える化することで創りなおし、環境や社会・幸福度の側面からまちづくりの好循環をデザインし、最後に、つくり出した価値を見える化して、さらに進んでいこう! 広げていこう!という構成です。

目次と「はじめに」をご紹介します。今日から書店にも並んでいると思いますので、ぜひお手にとっていただけたらうれしいです。

<目次>

はじめに

第1章 環境負荷を「見える化」する
 1 大阪送風機製作所の1年間――主力製品の環境負荷を測ってみる
 2 ライフサイクルアセスメント(LCA)とは
 3 企業や地域のLCA実践例

第2章 地域経済を「見える化」する
 1 地域経済の実態を知る――産業連関表を使う
 2 気仙沼市の挑戦――震災復興後の持続可能性を考える

第3章 掛け合わせることで価値が広がる
 1 経済と環境と社会をつなぐ――廃棄物産業連関表を使う
 2 さまざまな「見える化」指標を知ろう
 3 「見える化」が生んだ応用事例

第4章 社会的価値を「見える化」する
 1 変化の連鎖をデザインする――「変化の理論(TOC)」を使う
 2 社会的価値を金銭換算する――SROI(社会的投資収益率)を使う
 3 わが町らしい「幸福度」を測る

おわりに

~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~

はじめに

◆星の王子さま

サン=テグジュペリの『星の王子さま』は、「本当に大切なものは、目には見えないんだよ」と言いました。本当にそのとおりです! 本当に大切なものは、目で見ることはできないし、ましてや測るなんて、とてもじゃないけどできません。

他方、経営や品質管理、組織運営などの分野では、「測定できないものは管理できない」と言う言葉がよく引用されます。確かにそうなのでしょう。自分たちの取り組みや努力が、良い方向に向かっているのかどうか、その変化の速度は十分なのか、など、測らずに知ることは難しいでしょうから。

私たちは熱海の本拠地で、ブルーカーボンの取り組みを進めています。藻場を再生することで、海の豊かさを取り戻すとともに、CO2の吸収・貯留によって、温暖化対策にも寄与する、という取り組みです。

試行錯誤しながらいろいろ取り組んでいますが、なにせ海の中の話です。上からのぞいても見えません。現状はどうなっているのか? 取り組みによって海藻・海草は増えているのか? 減っているのか? 

それがわからないと、取り組みの効果測定も次への改善も生まれません。やはり、どうやって海の中の状態を「見える化」するのか、変化を測定するのか、が鍵を握っているのです(実際にそのための調査・測定方法の開発も進めています)。

『星の王子さま』の言葉のように、「本当に大切なものは見えないし、測れない」けれども、そのものが測れなくても、なんとか工夫して、少しでも見える化し、測ろうとすることで、そうでない場合よりも先に進むことができるのも真実なのだと思います。

◆「見える化」という概念の歴史

いま「見える化」という言葉を使いましたが、この言葉もずいぶん定着してきたように思います。調べてみると、

1980年代:トヨタなど製造業で、「問題点を現場で誰でも見て分かるようにする」=可視化の概念が定着。

1990年代末~2000年代初頭:製造・IT・経営分野で「見える化」という日本語表現が登場し始める。

2004年~2006年ごろ:ビジネス誌や経営書で取り上げられ、流行語的に広まる。

現在:経営・教育・自治体・人的資本など幅広い分野で使用される言葉に。

という発展の歴史があるようです。

近年は、不安定で不透明な時代だからこそ、多様な見方や多元的な考え方が大事になってきています。それぞれをしっかり見ていこう、それぞれがどうつながっているかも見ていこう、という認識・関心が高まっていると感じています。

◆行動を変えるために「見える化」を!

特に、問題が見えず、どのくらい深刻かもわからないと、行動や変化の必要性も感じず、気づかないうちに、状況がどんどん悪化してしまうかもしれません。そこで、人々に意識してもらう、理解してもらう、行動してもらうために、「見える化」して、データや指標で示すことの重要性に注目が集まっています。

その一例が「生態系サービス」という考え方です。ふだんは当然のこととしてあまり意識していませんが、私たちの暮らしは、食料や水、原材料の供給、気候の調整など、自然(生物多様性)から得られるさまざまな恵みによって支えられています。

この「さまざまな恵み」は、生態系が提供してくれている人間へのサービスなのであるとして、あるときから、「生態系サービス」と名付けられ、「供給サービス」「調整サービス」「文的化サービス」「基盤サービス」の4つに分類されました。

・供給サービス:食料、水、原材料、エネルギー資源など、人間が生きていく上で欠かせない基本的な資源の生産や供給を担う。

・調整サービス:気候調節や洪水防止、水質浄化、授粉など、自然現象を調節し環境リスクを軽減する。

・文化的サービス:レクリエーション、景観、精神的・宗教的な価値など、豊かな文化や幸福など物質的ではない恩恵を与える。

・基盤サービス:栄養循環や土壌形成、光合成など、全ての生態系サービスの基盤となっている。

これまでの「自然の恵み」というおおざっぱなくくりで、それほど意識していなかったものを「見える化」したともいえます。そして、この生態系の価値を測り、数値化したのが生態経済学者のロバート・コスタンザ教授です。

1997年に、イギリスの科学雑誌『Nature』に発表した論文『世界の生態系サービスと自然資本の価値』で、全世界の生態系サービスの価値を初めて体系的に試算し、当時の米ドル換算で年間33兆ドル(2007年のドル換算で44兆ドル相当)もの貢献があると推算しました。当時の世界全体のGDPを上回る金額だったのです! 

こうして「見える化」し、「測定」したことで、それまであまり注目もされず、過小評価されていた生態系サービス、そしてその基盤である自然(生物多様性)の価値がどれほど大きいものであったかを伝えることができました。

ここから、政府や企業が生物多様性の保全に向かって大きく進み始めたのだと思います。ちなみに、2014年には2011年の新しいデータを使い生態系サービスの価値を改めて試算、生態系サービスの推定価値は、年間125兆ドル(2007年の米ドル換算)という結果が出ています。

私は20年以上前から、バラトングループという持続可能性の専門家のグローバルなネットワークに属しているのですが、コスタンザ教授もメンバーのひとりです。

バラトングループの生態系の専門家たちと話していたときに、私は「自然は自然として大事なのであって、金銭換算するなんて、自然に対して失礼じゃない?」と言ったことがあります。

そのとき彼らは憮然とした表情で、「自分たち生態系の専門家は、何十年も前から、自然が壊れつつある、このままではだめだ、自然を守ろう、とずっと叫んできた。だが、だれも耳を傾けなかったじゃないか。だから、経済学者や企業の経営者が理解できる言葉で伝えなくてはならないと、あえて、金銭換算したんだ。それがすべてでもないし、自然そのものの価値はもっと大きく深いということは承知の上だ」と。

問題とその深刻さを共有し、解決に向けての進捗を次の取り組みにフィードバックするためにも、たとえ完璧ではないにしろ、「見える化」と「測定」が重要なのだ、と今は私も心から信じています。

◆何を「見える化」すべきか?

世界にせよ、地域にせよ、組織にせよ、持続可能であるためには、「持続可能性の3本柱」と呼ばれる「環境」「社会」「経済」がそれぞれ持続可能である必要があります。SDGsの17目標も、この3つの領域が重なったものとして示すことができます。

私はこれに「幸福」(ウェルビーイング)を付け加えたいと思います。健全な環境と社会と経済があってこそ、幸福があるのではないか、ウェル(佳き)ビーイング(存在)であれるのではないか、と思うのです。

近年、GDPに代表される「経済的側面」だけではなく、「環境的側面」「社会的側面」を測る手法の研究開発が進み、「見える化」「測定」とそれによる問題解決や改善の事例がたくさん出てきています。「経済的側面」も、国全体の話だけでなく、「自分たちの地域」の経済的側面もわかりやすく見える化できるようになってきました。

◆本書の位置づけと構成

本書は、最新の研究を取り入れ、同時に自分たちの現場での実践を紹介しながら、「見える化」と「測定」、それによる問題解決や改善の実例と可能性を紹介します。

第1章が環境、第2章が地域経済、第3章は環境と経済の「見える化」の掛け合わせという新しい分野の紹介、第4章が社会的価値、という構成です。それぞれ、見える化の重要性と手法の説明や留意点、実際の事例、世界的な動向などを説明していきます。ご興味のある章から読んでいただければと思います。

人間にとって「環境」「社会」「経済」そして「幸福(ウェルビーイング)」が大事である限り、これからもこういった手法や事例はどんどん進展していくことでしょう。

「見える化」して「測って」こそ、よりよい方向に進んでいける!というこのわくわくする手法と取り組みの今の状況と「何ができるようになっているのか」をお届けできること、とてもうれしく思っています!

本書は枝廣淳子が主著者として全体を担当し、第1章、第2章、第3章をグループ会社であるグリーンガーディアンの小野雄也・小野あかりが、第2章の一部、第4章を私が主宰する幸せ経済社会研究所研究員の新津尚子が専門家としてサポートしました。

これからも各地でいろいろな組織・方々と手法を進化させながら、実際に「望ましい変化」を創り出す取り組みを進めていきます!

~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~

さまざまな研究が進んでおり、これまで「測れない」と思われていた環境、社会、経済的な指標やウェルビーイングも測定ができるようになってきました。

すべてがパーフェクトに測れるわけではないとしても、「測ること、見える化することで進んでいける!」力はとても大きい!と思っています。このパワーをみなさんのそれぞれの活動に使っていただけたら、これ以上うれしいことはありません。

『社会の価値の測り方─「見える化」で地域を豊かにする』

\ ぜひご登録ください! /

枝廣淳子の環境メールニュース(不定期・無料) 登録/解除はこちら

25年以上にわたり国内外の環境情報や知見を
提供し続けている『枝廣淳子の環境メールニュース』

 

このページの先頭へ

このページの先頭へ