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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2023年08月14日

『学習する学校』から、教育について考えるためのきっかけ

大切なこと
 

夏休み、いかがお過ごしでしょうか。台風が近づいている地域のみなさん、どうぞお気をつけて。

外からのメールや連絡が入ってこなくなる時期だからこそ、じっくり本を読んだり調べ物をしたりしたい!と、この夏はこの本を読んでいます。

『学習する学校――子ども・教員・親・地域で未来の学びを創造する』(著:ピーター・センゲ他)

システム思考を基盤とする「学習する組織」の5つのディシプリンを「学校」に適用し、「学習のための機関は「学習する組織」としてデザインされ、運営することができる」という、考え方や具体的なやり方、事例などがいっぱい詰まった本です。

900ページ近い書籍であるうえ、読み流す本でもないため、1日約100ページずつ読んでいます(^^;)。

今日読んだところから、「教育」について改めて考えてみたい箇所をご紹介したいと思います。

ポピュラー教育の教育者・マイルズ・ホートンは、「教育には二つのタイプがある」と言っているそうです。

「一つは、人々を現行のシステムに役立つよう奴隷化する教育であり、もう一つは人々を解放し、彼らに自分の人生について自分で決定を下す力を与え、社会を変革するためのシールとしての知識を獲得させる教育である」。

自分が受けてきた教育はどうだったのだろう? 現在の日本の教育は? どう思われますか?

同書から、抜粋・引用して大事だと思うポイントをお伝えします。(読みやすさのため、改行を入れてあります)

~~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~

「ポピュラー教育」という言葉は、1960年代から70年代にかけてラテンアメリカで起きた「エデュカシオン・ポピュラール」という運動に由来する。この運動は、今は亡きブラジルの教育者パウロ・フレイレという世界的に知られた提唱者を通して、北米にも影響を及ぼした。パウロ・フレィレは、世界各地で20世紀最大の教育思想家の一人と考えられているが、北米ではあまり知られていない。

ポピュラー教育という用語の意味は「人民のための教育」であり、よく誤解される「人気のある教育」ではない。英国をはじめ世界各地で非公式の教育として知られるポピュラー教育は、迫害された、あるいは抑圧された人々の集団が政治的な自覚をもち、コミュニティをつくり、彼らの社会的条件を変革する行動を起こす環境や機会を創り出すという明白な目的をもつ。

それは、すべての人の幸せのために働くこと、一人ひとりがもつユニークな価値と尊厳を尊重すること、対話、平等と正義、民主制、自らの生に影響を及ぼす問題に能動的に関与する、といった諸原則を基本理念とする。

ポピュラー教育は、権力のない人を同化させ適応させて現状を強化維持しようとする、公式に制度化された学校教育の外で、それとはまったく対照的なものを提供する。

~~~~~~~~~~~~~~~~

批判教育学の実践と理論は、知識がもつ社会的構造に隠された動機を目に見えるものにする。 知識は、常に組織やコミュニティや学校の中にある権力関係から生まれる声によって、特定の目的をもって、生み出され、配給される。

特に学校は決して中立的なものではなく、自由な空間でもない。学校は、内部または外部の政治的対立には関係ない、という素振りを見せることもある。しかし、学校は常に学校を取り巻く政治的な構造によって形づくられる。他の組織と同様に、学校もまた、意見、価値観、前提、知識の構成と供給(何が教えられるべきかを誰が決めるか)、教室での実践(どう教えられるべきかを誰が決めるか)、そして教職員、生徒及び外のコミュニティの人の相互関係(誰が決めるかを誰が決めるか)について争いが続いている場なのだ。批判教育学を通してものを見ることは、なぜある生徒や学校が成功し、他の者は難しい事態を乗り越えるために苦しまなくてはならないのかについて考える助けとなる。

批判教育学は、変革教育学とも呼ばれる。これはパウロ・フレイレの仕事から生まれ、ポピュラー教育の諸原則を教室と学校に当てはめようとしたものだ。フレイレは伝達型の教育学を批判した。彼はそれを「銀行コンセプト」と呼び、専門家が受け身の生徒に銀行に金を預けるように知識を入れ込み、生徒は自分が世界を変革できるという希望をもつことなく、ただありのままに受け入れるよう教えられている、と批判した。

フレイレは、文字が読めることが民主制にとって重要だと信じ、子どもにも大人にも「文字を読む」能力が「世界を読む」能力と密接に結びついている、と感じていた。 彼の初期の研究の中で、フレイレと彼のチームのメンバーは、貧困で非識字の村人たちに出会い、彼らの生活や彼らの希望に関する会合に関わった。ここでの対話を通して、村人は一般的な言葉から読み方を学びはじめた。しかし、さらに重要だったのは、村人が自分の生活や生活条件が絶対的なものではなく、社会的につくられたものだったこと、彼らが沈黙を続けることは、無力な立場をいっそう無力にすることを理解しはじめたことだ。村人たちが、自分たちに世界を変える力があると気づいてから、彼らが文章を文字通りに読む能力を獲得するまでには、わずか30時間しかかからなかった。

~~~~~~~~~~~~~

パウロ・フレイレとマイルズ・ホートンは(トマス・ジェファーソンやベンジャミン・フランクリンがそうだったように)革命的人物というレッテルを貼られることが多い。彼らにとって、教育はそれ自身が目的ではなかったし、単に仕事に就くための手段でもなかった。彼らは、学校を政治的な場と見なし、より堅固な民主的社会とよりよい未来に向かって人々に十分な情報を与え政治参加をさせるためのもの、あるいはそうした政治的関与から遠ざけるものと考えた。

フレイレは言う。「人間化のための教育とは、そこを通ることで、男も女も、この世界における自分の存在について意識的になる道である。人々がこうした能力を発達させ、自分のニーズと同様、他者のニーズや願望をも考慮に入れて行動し思考する道である」

~~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~

「人間化のための教育」と、「非人間化のための教育」・・・考えさせられますね。

そして、この本を読みながら、改めて「システム思考」の重要性を痛感しています。大学院大学至善館でも、企業向けの研修でも、システム思考を教えていますが、この本に教室や教育におけるシステム思考の事例がいっぱいあるように、重要なのは、単なる「思考法の1つを知るため」の勉強ではなく、仕事や人生に「使ってナンボ」「それによって変えたいものが変わってこそ」なのだと思います。

システム思考は習ったことがないという(ほとんどの)みなさんに、できるだけわかりやすく、読みやすく、と書いた入門書はこちらです。

『なぜあの人の解決策はいつもうまくいくのか?―小さな力で大きく動かす!システム思考の上手な使い方』

入門書で基本的な考え方やツールはわかったけど、それを使ってどのように変化を創り出していけばよいのか?という、実践ステージ向けには、変化の担い手のためのスキルアップ講座「システム思考をベースに変化の理論をつくる」をお薦めしています。

10月28日(土)~29日(日)@熱海
変化の担い手のためのスキルアップ講座「システム思考をベースに変化の理論をつくる」
1日目(10月28日):13:00~17:00
2日目(10月29日):9:00~17:00
https://mirai-sozo.work/topics/012689.html

そして、基礎編の続編も!というリクエストにお応えして、「中級編」も開催します。システム思考の基礎をある程度身につけた方を対象に、「システム原型」や「12のレバレッジポイント」、「メンタルモデル」などを学んでいただくセミナーです。

9月2日(土)~3日(日)「システム思考中級編」@熱海
変化の担い手のためのスキルアップ講座「システム思考中級編」
https://mirai-sozo.work/topics/012651.html

これまでシステム思考のセミナーや変化の理論(TOC)のセミナーなどを受講された方など、ぜひどうぞ! 独学でも「基本的なところはある程度わかっていると思う」という方も、最初におさらいしてから中級編に入りますので!(ご心配ならお問い合わせください) 

また、『なぜあの人の解決策はいつもうまくいくのか?』を読んだ上で、10回のループ図ノック(ループ図を描く練習)を受けられた方も、参加いただけますので、ぜひどうぞ(まだ間に合います!)

システム思考のループ図をモノにするための「ループ図ノック」はこちらからどうぞ。
https://www.es-inc.jp/seminar/smn_loop-diagram.html

最後に、『学習する学校』から。

~~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~

「人間の潜在的可能性は、人生のどの時点でも、動かしがたい固定したものではない」ことを証明する研究が増えている。神経科学の中で比較的新しい分野である「神経可塑性」の研究は、人間の脳は柔軟な適応性をもち、人生全体を通して新たな神経経路を常に再生し続ける能力をもつことを示唆する。神経可塑性は、思考や行為における何らかの新しい習慣に対して注意を向けることで、刺激を受けて発達することもわかっている。

~~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~

システム思考は、多くの方にとって「新しい」ものかもしれません(学んでみるとそうではないことがわかりますが)

この夏、「新しい思考」に注意を向け、神経可塑性を発達させてみませんか?

 

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