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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2023年07月31日

有益な水素と有害な水素の見分け方

エネルギー危機
温暖化
 

前回取り上げた「水素」について、いつも先進的な取り組みを紹介してくれるウェブサイト「Triple Pundit」から、編集部の許可をいただき、大事なポイントを日本語でお届けします。EUの「グリーン水素」の定義やシエラクラブのスタンスなど、大変参考になります。

~~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~

Hydrogen: Harmful or Helpful in the Clean Energy Transition?
水素:クリーンエネルギーへの移行において有害? 有益?
https://www.triplepundit.com/story/2023/green-hydrogen-clean-energy-transition/770476

◎ライフサイクル分析を考慮して水素の種類を評価すること

水素の生産の出発点として、石炭の代わりにメタンを使用するとしても、ライフサイクル分析をすれば、そのシステムには多くの欠陥があることがわかります。ライフサイクル分析のアプローチを考慮することで、より有益な全体像が見えてきます。化石燃料を掘削し、それを加工し、メタンCH4を燃焼して、C(炭素)またはCO2(二酸化炭素)とH2(水素)に分ける場所まで輸送するために、何が必要かを考えなくてはなりません。

米国エネルギー情報局によると、工業的に水素を製造するためのメタンの主な供給源は天然ガスです。メタンは埋立地から回収することもできますが、掘削や石油、ガスなどの他の炭化水素と一緒に掘削する方が一般的です。

では、天然ガスはどのようにして手に入れるのでしょうか? 主に掘削やフラッキング(シェールの水圧破砕)によって得られます。フラッキングは大量の排水を生み出し、その過程でメタンが漏れ出し(地球温暖化につながる)、有害な大気汚染物質が放出され、騒音が発生します。

イェール公衆衛生大学院が指摘するように、「このようなガスや石油の操業は、動植物の生息地の喪失、種の減少、移動の妨げ、土地の劣化につながることが研究で示されています。また、人間の健康リスクにも関連しています。これらの操業と住宅地の距離が近ければ近いほど、妊婦の健康上の問題やがん発症率、入院、喘息などが増えることが報告されています。フラッキング関連の操業の中には、低所得者層のコミュニティの近くに立地し、環境的・社会的不公正を悪化させているものもあります」

メタンは二酸化炭素よりもさらに強力な温室効果ガスです。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によれば、メタンは20年間でCO2よりも86倍もの温室効果を持ちます。メタンガスは、坑井の掘削、坑井のフラッキング、取り出されたガスがパイプラインに圧縮される時、パイプラインによる輸送時、坑井が塞がれたり放棄されたりした後などに漏出します。

◎「グレー水素」のために水蒸気メタン改質を使用することは、環境正義の無視である

化石燃料の掘削によって最も影響を受けるのは、貧しい有色人種の人々です。化石燃料採取現場の近くに住む人々は、がんなどの疾病の発生率が高いのです。私たちは、メタンのような化石燃料を使って、水素のような低炭素の燃料を作るということを続けたいのでしょうか?

◎「グリーン水素」の経済性

グリーン水素は、水を水素と酸素に分解するプロセスである電解に、再生可能な電力を使用することで作り出されます。電解装置はテクノロジーです。歴史を見ても、テクノロジーは私たちがより良い方法を発見するにつれて、指数関数的とは言わないまでも、格段に向上し続けています。20年前、フロッピーディスクの容量は1.44メガバイトでしたが、今ではiPhoneで撮影した写真はそれ以上のメモリを使うことすら可能です。太陽電池も、この20年間で格段に良くなり、安くなっています。だからこそ、水からグリーン水素を生産するための実際のグリーン・テクノロジー(電解装置)に投資する価値があるのです。

電解には大量のクリーンエネルギーが必要なため、欧州連合(EU)はグリーン水素が他の電力需要と競合しないように、新設された再生可能エネルギー発電所からの電力で作ることを義務づけています。

具体的には、EUはグリーン水素を次のように定義しています。「新たに建設された再生可能エネルギー発電設備から電力を得て、水を電解することで生産された水素。敷地内に、太陽光発電所や風力発電所を有する電解プラントは認められるが、送電網から電力を得るプラントは、水素プラントが稼働する36カ月前までに建設された近隣の電源から再生可能電力を購入する必要がある。また、時間単位で水素の量と再生可能エネルギーの電力量を一致させる必要がある」

グリーン水素製造の経済性を考えるもうひとつの方法は、2020年に化石燃料は5.9兆ドル、つまり1分ごとにおよそ1100万ドルの補助金を受け取っていたという、国際通貨基金(IMF)の新しい分析を考慮に入れることです。つまり、メタンを使って水素を製造するコストは、実はコストの全額ではないということです。実際に、天然ガスの47%、石炭の99%は、真のコストの半分以下の価格で販売されているのです。

水素の製造方法が重要なのです。よい知らせとして、米国のエネルギー省の水素・燃料電池技術局は、CO2実質ゼロの炭素経路によって、2026年までにキログラムあたり2ドル、2031年までにキログラムあたり1ドルで、水素を製造できる技術の開発に注力しています。この目標は、10年以内にクリーンな水素のコストを80%削減し、1キログラムあたり1ドルにするという「水素エネルギー・アースショット」の目標をサポートするものです。

さらに、2022年に成立したインフレ抑制法により、1キログラムあたり3ドルの生産税額控除が導入され、電解装置で製造されるグリーン水素の競争力が高まり、グリーン水素のコスト低減につながるイノベーションが促進されます。これは、ソーラーパネルと同様です。実際、S&Pグローバル・コモディティ・インサイトの2022年のモデリングによると、「ジョー・バイデン大統領が導入した最大3ドル/キログラムの生産税額控除(PTC)が実施されていれば、この12ヶ月間の取引日の半分以上で、米国メキシコ湾岸の産業ハブで生産されたグリーン水素は、化石ガスから作られたグレー水素より安くなっていただろう」とリチャージ・ニュースは報じています。

◎クリーンエネルギー経済において水素をどこで使用し、どの種類の水素を使用するべきか?

気候変動に対処するために何をすべきか、化石燃料産業ではなく、環境保護団体に目を向けてみましょう。気候変動に対処するために最優先ですべきことは、排出削減です。たとえば、シエラクラブなどは、再生可能エネルギーを動力源とする電解によって生産されたグリーン水素の使用のみを支持しています。ただし、グリーン水素であっても、注意点があります。

ひとつ重要な点は、グリーンなエネルギー源からのものかどうかに関わらず、水素が大気下層に存在することで、大気中のメタンが分解されなくなる、ということです。メタンは強力な温室効果ガスです。シエラクラブは加えて、グリーン水素が良いアイデアであるためには、以下の追加条件を満たすこと、としています。

・グリーン水素が有望な解決策となるのは、クリーンな電力に直接頼ることができない用途に限られる。(例えば、水素燃料電池車ではなく電気自動車など)

・グリーン水素は、汚染や化石燃料の使用を増加させるような施設の建設を正当化するために使用されるべきではない。(石油産業ではなく、地球全体に利益をもたらすことが必要)

・グリーン水素を使用する場合は、技術が利用可能になった時点で、100%グリーン水素に切り替えることを目標とすべき。燃料のほとんどが採掘されたガスであるにもかかわらず、ごく一部の水素が含まれていることを理由に「持続可能」と銘打つプロジェクトを支援すべきではない(繰り返しになるが、最悪の気候変動を緩和するためには、化石燃料の使用を止める必要がある)

◎「低炭素水素」という言葉を耳にした際に考慮すべき問い:

・あなたが読んでいるコンテンツの費用は誰が負担しているのか?

・そのシンクタンや講演者のスポンサーは誰か?

・そのシンクタンクはどこから資金を得て、どのように使っているかを公表しているか?

・ある特定の技術を推進する経済的なインセンティブは何か?

・そのプロジェクトやその潜在的な害について、会話から取り残されているのは誰か、考慮されていないのは誰か?

・そのシンクタンクは、先住民、有色人種、女性、障害者など、通常取り残されがちな人々に相談しているか?

・どのような政策やインセンティブが、グリーン水素をより安価にし、イノベーションを促進するのに役立つか?

・クリーンエネルギーの技術革新を支持する議員は誰か? 汚染者を支持する議員は誰か?

・このプロジェクトは既存の化石燃料インフラの使用を長引かせるか?
  (「天然ガス」やメタン用の既存のインフラは、数パーセント以上の濃度の水素を受け入れることはできないため、関連する排出を大幅に減少することなく、メタンの使用を長引かせる可能性があります。加えて、水素に対応できる特殊なインフラの建設に関わるコストを考えると、大規模な導管網よりも、鉄鋼生産用などのように、オンサイトでの生産・使用ができるようなやり方に向かうかもしれません。水素は鉄を脆くするため、輸送が難しくなる可能性があります)

◎注目すべきグリーン水素企業
再生可能エネルギーによる電気分解でグリーン水素を製造している企業をいくつか紹介します:
Plug Power
ITM Power
Nel Hydrogen
Sunfire
Enapter
Hydrogen Pro
Ecolectro
Electric Hydrogen

(以上)

 

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