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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2022年01月22日

「成功するビジョンの描き方」(2022.01.22)

大切なこと
新しいあり方へ
 

今日は京都に来ています。日本青年会議所の京都会議にゲスト講師として招かれ、午前中のワークショップと、午後のメインフォーラム「ビジョンが織りなす未来共創フォーラム」でお話をさせていただく予定です(動画配信もあるようです)
https://2022kyoto.hp.peraichi.com/

日本JCとのおつきあいは1998年から。最初は通訳者として、その後、環境問題についての講演デビューをさせてもらったのも富山JCでした。また、中小企業向けのISO14001(エコアクション21)を数百社に導入するお手伝いをさせてもらったり、全国各地のJCに講演に呼んでもらったり、形を変えながらつづいていること、うれしく思います。

今年は、日本JCがサポートしながら各地のJCが「まちのビジョン」をつくっていくお手伝いをします。全国各地のJCが核となって数百の市町村のビジョンづくりを行うという、世界にも例がない壮大な取り組みです!

公益社団法人日本青年会議所の広報誌「We Believe」の新年号で、日本JCの中島会頭と対談させていただきました。快諾を得て、ご紹介します。


~~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~


「成功する『ビジョン』の描き方」

人が集い、笑顔溢れる、豊かな未来型地域社会――。実現のカギは、「ビジョン」にあった。
「持続可能社会」のエキスパート枝廣淳子氏が、人とまちを幸せにする秘訣を語る。


●「ビジョン」とは北極星 皆で未来を目指すもの

[中島]
本年度、公益社団法人日本青年会議所第71代会頭に就任しました中島土(なかしま つち)です。今年、私たちが掲げるのは、「持続可能な地域づくり」です。「まちにより良い変化をもたらし、愛が溢れる国をつくる」。そのためには「ぶれないビジョン」が必要です。

枝廣先生は「持続可能性」や「地域社会創生」に長年取り組まれてきました。単なるお題目で終わらない、生きた「ビジョン」はどうつくるべきか。お智慧と忌憧ないご意見をお願いいたします!

[枝廣]
JCさんはSDGsという言葉が登場する以前から、「もったいない運動」を世界に向けて発信されるなど、活発な活動をされてきました。私も通訳として世界会議などに参加し感銘を受けてきたんです。今年度、そのJCさんと「まちづくり」でご一緒できる。とても嬉しいです。

[中島]
ありがとうございます。まず基本から押さえていきたいです。そもそもなぜ、「ビジョン」が必要なのか。自治体によってはすでに立派なまちづくり「総合計画」を策定しています。そこであえてJCが市民の皆さんと「ビジョン」を考える必要がどうしてあるのか。

[枝廣]
「ビジョン」とは喩えるならば闇夜の「北極星」です。それを目指しチームが進むからこそ、険しい道や砂漠も迷わないで済む。

たしかにどの自治体も、中長期目標や計画などは策定しています。でもそこに10年、20年先に「こうありたい」と心から願う未来図は描かれているでしょうか。

[中島]
たしかに「まち・ひと・しごと創生」の文脈の中で国からお金が下り、「策定せねば」と義務感から生まれた計画もありそうです。

[枝廣]
コンサルに丸投げだったり、市民のアイデアコンテストとして盛り上がったり......。でも、つくって終わりでは本末転倒です。

本来の「ビジョン」とは、そこからすべての活動が始まる起点・原動力であるべきなんです。

[中島]
「ビジョン」はゴールではなく、あくまでスタート地点だと。

[枝廣]
ええ、日本は「失われた20年、30年」と言われています。

[中島]
失われっぱなしです(苦笑)。

[枝廣]
なぜ失われ続けているのか。何が失われているのか。それは「ビジョン」なんです。「どういう日本にしたいのか」「どんな社会を次世代に託したいのか」、それが見えないまま、場当たり的に対処し続けてきた結果が、今の日本です。

[中島]
災害や新型コロナウイルス感染症など早急に対処すべき課題もありますが、同時に50年先の未来も描かないといけないのですね。

[枝廣]
例えば1970年代の石油危機の時、日本は天然ガスを増やす政策にシフトチェンジしました。でもそこに「ビジョン」はあったでしょうか。半世紀後の未来(つまり現在)、こういう国であってほしいという夢・目標・ビジョンは語られつくしたでしょうか。

原発依存が東日本大震災でどうなったか、石油依存が原油高で今どんな影響を及ぼしているか......。それを見れば「ビジョン」が欠けていたことは明らかです。

一方、同じ石油危機を境に、国のあり方を大きく変えた国もあります。デンマークは当時日本と同程度の化石燃料依存度でしたが、30年後の未来を見据えて再生可能エネルギー開発に取り組みました。「できっこない」という声を聴きながらも国として「ピジョン」を堂々と掲げたんです。

現在、デンマークの消費電力の再生可能エネルギー比率は5割以上。環境先進国として世界を大きくリードするまでになっています。


●ビジョンは"未来"から考える 「バックキャスティング」手法

[中島]
「ビジョン」の重要性は分かりました。ただ具体的にどうつくればいいのか分からないという声も多く聞きます。

[枝廣]
その点は心配無用です。「ビジョン」策定ノウハウはすでにありますし、私もご協力いたします。

好例もあります。アメリカのシアトルでは約半年かけて市民約200人が、まちの「共有ビジョン」を考えました。そして生まれたのが、「サステナブル・シアトル」。環境・教育・仕事など多様な局面で「持続可能」を目指したんです。

ただ環境問題などは達成度が見えにくい。そこで彼らはビジョンの可視化を目指しました。指標の一つとなったのがサケの遡上です。「環境破壊で生物多様性が失われた川に、再びサケに戻ってきてもらいたい」。実に具体的な目標を掲げたんです。

[中島]
ああ、それはとても分かりやすい。共感も得やすい指標です。

[枝廣]
専門家外の一般市民も直感的に理解でき、夢も持てますよね。

[中島]
ワクワクしますね。「未来のあるべき姿」から逆算して今を考える、まさに先生の提唱されている「バックキャスティング」(backcasting)手法ですよね。

[枝廣]
いわば「未来を起点」にする発想です。ちなみにその反対は「現在を起点」とする「フォアキャスティング」(forecasting)手法。「今自分たちには何が足りていないのか」「何ならできそうか」など、現状の課題から将来を考えます。

例えば、「少子化対策に、家族世帯を呼び込もう」「高齢化対策に働き手を呼び込もう」という意見もあります。でもその先にワクワクする未来は待っているでしょうか。「ビジョン」を考える際は、「できる・できない」は脇に置き、「自分はどんなまちに暮らしたいのか」をクリアに想像すべきなんです。

[中島]
義務感からの外発的動機では人は動けません。心から湧き出る夢という内発的動機こそが、「ビジョン」をつくりあげるのですね。

[枝廣]
その通りです。「ビジョン」に必要なのは、具体的なノウハウ以上に、熱い情熱・魂なんです。

[中島]
それを聞いて安心しました。何しろJCという組織には、熱意が溢れていますからね(笑)。

[枝廣]
存じております(笑)。だから期待しているのです。実務能力があり、さらに地域への熱い思いもある。その二つを有する組織は、なかなか稀有な存在なんですよ。

[中島]
現在、日本青年会議所のLOM数は684。約3万の経済人が、全国で同時多発的にまちのビジョンをつくります。この規模感はちょっと珍しくありませんか?

[枝廣]
世界的にも聞いたことがありません。これまでの環境対策事例は、圧倒的に海外からのものが多かったんですよ。そこに今回、JCが新風を吹き込むわけです。日本初の大規模「持続可能社会」の取り組みは興味深いですね。

[中島]
今年度の取り組みは世界会議で紹介するつもりです。

[枝廣]
「まちづくり」ビジョンの策定プロセスのフォーマット化ですね。ガイドマップをつくり、多言語に訳して世界中のまちに使ってもらえれば本当に嬉しいことです。


●VUCAの時代のビジョナリー経営人を目指す

[中島]
我々JCが気を付けるべき点はありますでしょうか。

[枝廣]
強いて言えば、JCは単年度制ですが、「まちづくり」には継続が重要だということでしょうか。一年ごとに多様な立場を経験できる仕組みは素晴らしいですが、外部の人間にとって「トップが変わるとゼロに戻る」では困ります。「ビジョン」自体は変化してもいいんです。でも組織の姿勢は変わらないでほしい。腰を据えて、じっくり地域社会に取り組む覚悟が問われているのかもしれません。

[中島]
JCには「不連続の中の連続」という言葉があります。いわば「串刺しのビジョン」を持ち、長く地域と歩んでいきたいですね。

[枝廣]
そのためにも"石に刻む"如く不動の「ビジョン」をつくるのではなく、"粘土に刻むビジョン"を意識してはどうでしょう。

今はVUCA(ブーカ)の時代と言われています。昔に比べ、世の中は〈変動性〉〈不確実性〉〈複雑性〉〈暖昧性〉が増しています。一度決めたことも、半年後には時代遅れになることも。マネジメント分野では、「アジャイル(敏捷)」が求められ、製品開発では、長時間かけての完成品より、まずプロトタイプのリリースを求められる。事業者と消費者が共に改良していく方法が最適化しつつあります。

「ビジョン」も同じ。「ビジョン」は完成品より、皆で考える過程こそが重要だったりするんです。

「buy in」という言葉があります。事業では途中参加者よりも、決定プロセスに最初からコミットしていた人のほうが、積極的に関わり続ける確率が高いんです。

つまりトップが「これがビジョンです。やってください」と提示するより、最初から市民と一緒に喧々囂々(けんけんごうごう)と議論するほうが、末永く協力し合えるわけです。

[中島]
日本の組織はトップダウン型が多かったですが、これからは押し付け型ではなく、皆が自分事として考えていくべきですね。

[枝廣]
昭和の「リーダーシップ」は、「俺についてこい」型でしたよね。強烈なカリスマ性を持つトップが、ピラミッドの大多数を率いていく心強さはありました。

でも不確実性が増す世界では、どんなに能力が高くても、たった一人で意思決定をするのは、ハイリスクすぎます。未来型リーダーシップは、「コーディネーター」的な才能を持つ人ではないでしょうか。

[中島]
多様な人々の意見を聞き入れ、その才能を引き出しまとめていく役割ですね。それこそ先生も熱海に移住され、地元の方と藻場の再生を目指し活動されています。

[枝廣]
コロナ禍以降、全国で移住者も増えています。代々の地元民と、都会からの移住組との間に、意見や意識の軋礫も生まれています。声が大きく行動力もある都会組に、押されたと感じる地元勢もいるでしょう。そうした各々の温度差も、コーディネーター役のJCが調整できるのではないでしょうか。

[中島]
「まちづくり」を通じて、より地域から必要とされる唯一無二の組織に進化していきたいですね。

[枝廣]
本当に多くの地域が今ギリギリの状態で、最後のチャンスを迎えています。高齢化が進み、地元から若者も消え、笛を吹いても動ける人が少なくなっています。熱意があり、事業運営ができる人材は喉から手が出るほど欲しいんです。若手経済人が「ビジョン」をベースに全国で一斉に活動を展開することで、「もう一度頑張ろう」と思ってくれる人もいるでしょう。

[中島]
私たちJCの願いは「幸せを生み出し続ける装置」になることです。その意味では、思考する「シンクタンク」ではなく、自らの足で行動する「ドゥタンク」でありたい。そして一番の理想は、いずれJCのような組織がなくても、「幸せ」が自律・自走していける地域社会を目指すことです。

[枝廣]
「ここに暮らせば幸せだ」と、〈人・もの・情報・お金〉などが勝手に集まってくる「幸せの好循環」が生まれれば万々歳です。

[中島]
また、その経験を通じて、メンバー自身も「ビジョナリー経営者」としてさらに成長してほしい。

[枝廣]
「自分は誰のために生き、何のためにJC活動をしているか」、迷う人もいるでしょう。でも、「ビジョン」を目指し活動した経験は、必ずやJC卒業後の人生に豊かな恵みをもたらしてくれるはずです。

[中島]
今後ともぜひ、よろしくお願いいたします。共に豊かな日本を目指していきましょう。


~~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~


『好循環のまちづくり!』(岩波新書)に紹介しているプロセスを進めていきます。

これまで1つ1つの町のお手伝いをしてきました。数百のまちのビジョンづくりのサポートを同時並行で行うのは私にとっても大きなチャレンジです。日本JCの担当委員会の方々と一緒に、壮大な社会実験を進めていこうと思いますので、乞うご期待! また進捗や成果などをお伝えできればと思っています。

 

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