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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2022年01月16日

「ホップ・ステップ・ジャンプ!」のまちづくり(2022.01.16)

新しいあり方へ
 

「2021年を振り返って~持続可能性に関わるアンケート」、ぜひみなさんの2022年の注目!を教えてください。メールニュースでも取り上げていきたいと思います。
https://forms.gle/wdC2ciZ5fj1gjZ9M9

スタッフ募集のお知らせです。
2020年9月に立ち上げた株式会社未来創造部は、2021年6月に大企業から転職してくれた素晴らしいスタッフとともに活動を広げてきました。このたび、さらなる展開のため、もう1人仲間となってくれるスタッフを募集します。熱海で一緒に持続可能な社会のために働いてくれる方、お待ちしています!(土日に勤務できる方を優先させていただきます)

株式会社未来創造部 スタッフ募集のお知らせ
https://mirai-sozo.work/topics/011240.html


さて、私は、これまでいろいろな地域のまちづくりのお手伝いをしてきました。昨年4月に、そのエッセンスをまとめた新書『好循環のまちづくり!』を刊行しました。

『好循環のまちづくり!』枝廣淳子・著(岩波新書)

本書のキーポイントであるまちづくりの3つのステップ、「ホップ・ステップ・ジャンプ!」のをお伝えしたいと思います。

いろいろな地域の取り組みを見ていると、これが「問題」だ、だからこの「対策」をとる、というレベルの反応が非常に多いことに気がつきます。「スーパーの撤退」が問題だ、「空き家の増加」が問題だ、「だから、こうしよう」といった具合です。まちづくりだけでなく、企業などの組織でも同じかも知れないですね。

でも、「目の前の問題」は、問題の症状であることが多いのです。症状だけを見て、「何をしたら良いか?」を考えるやり方は、多くの場合、対症療法になってしまい、その取り組みが新たな問題を生んでしまうこともあります。

では、どうしたらよいのでしょうか? すぐに問題の解決策を考えたくなってしまう衝動を少し我慢して、まず全体像をじっくりと考える必要があります。

そのために考えることは2つ。「そもそもどういう姿にしたいのか」、そして「なぜ今そうなっていないのか、その構造がどうなっているか」です。その上で、いよいよ具体的なプロジェクトを考えます。そのプロセスが「ホップ・ステップ・ジャンプ!」の3つのステップです。

<ステップ1 ホップ:バックキャスティングで未来の望ましい町の姿を描く>

まずはビジョンづくりです。ビジョンを設定すると、自分たちが目指している方向に向かって進み続けているのか、それとも少しずれてきてしまっているのかがわかり、ブレずに進んでいくことができるようになります。

ビジョンをつくる際には、「ありたい姿」を描くことから始めるバックキャスティングのアプローチをとることで、大きな変化を創り出すことができるようになります。そのために、まず将来のある時点を考えます。

例えば、「SDGsに沿ってのビジョン」であれば、「(SDGsの目標年である)2030年」と定めます。そして、2030年の理想の姿・ありたい姿を自由に想像します。「2030年にはこんなふうになっていたらいいな」「こんなまちだったらいいな」と思いつくことを、ポストイットにどんどん書いていきます。こうして、そのまちオリジナルのビジョンをまとめていくのです。

さらに、「みんなでビジョンを描く」という意味での「共有ビジョン」であることも大切な点です。ビジョンという成果物だけでなく、ビジョンを描くプロセスも「共有」するということです。

まちには様々な考え方の人がいます。だからこそ、みんなが同じ北極星を見つめ、自分たちの間にある小さな違いを乗り越えていくことが必要になってきます。共有ビジョンはこの「北極星」として役に立つのです。そのために、共有ビジョンを描くメンバーは性別や年代、地区、業種など、できるだけまちのいろいろなグループを代表する方々に集まってもらいます。

私が最初にビジョンづくりのお手伝いをしたのは、日本の"地方創生のモデル"と言われる島根県隠岐郡の海士町です。本土からフェリーで3時間ほど、隠岐諸島の1つである中ノ島にある海士町は、人口約2350人、農業と漁業の盛んな町です。

成功事例といわれる海士町にも課題がありました。それは「世代交代」です。そこで海士町では、まちづくりを進めていける次世代の仲間づくりをめざして、住民参加型会議を立ち上げることにしたのでした。それが、2015年3月に立ち上げられた「明日の海士をつくる会」(通称:あすあま)です。

あすあまメンバーをどのように募集したのでしょうか? 「20~40歳代の男女で、戦略を策定するだけでなく自ら成し遂げたいという強い思いをもつ者」という条件を設け、町内及び役場内に募集をかけました。年齢制限がついているのは、次世代のまちづくりにつなげるためです。商工会青年部や役場の若手から手が挙がり、民間からのメンバーが11名、漁業・農業・飲食・建設建築・教育・福祉など、幅広い分野から参加があり、行政からも総務・産業・建設・福祉・教育など、さまざまな部署から9名、計20名が集まりました。

<ステップ2 ステップ:システム思考で構造を見える化する>

「システム思考」とは、「物事は様々な要素がつながってできている」という考え方です。世の中には私たちの目に見えるものもあれば、見えないものもあります。見えているところだけを見て、対策を打っても、うまくいきません。見えているのは「氷山の一角」であって、その下には、表面からは見えないさまざまな要素がつながって構造を作っているからです。

どうすればさまざまな要素のつながりを見える化できるのでしょうか。システム思考では、ループ図を描きます。

ループ図は因果関係のある要素を図示するものです。例えば「農業の元気がなくなると、耕作放棄地が増える。すると、守ってきた原風景がだめになってしまう。そうすると、それを求めてくる観光客が減ってしまい、観光業の収入が減る。すると、町の財政が悪化してしまう。そうすると、農業支援に回せるお金が減る」といったストーリーからもループ図は作れます。

このストーリーの中で、増えたり減ったりするもの、つまり「変数」を取り出します。上の例では「農業の元気」「耕作放棄地」「原風景」「観光客」「観光業の収入」「町の財政の健全度」「農業支援に回せるお金」が変数です。次にこれらの変数を、原因の変数から、その結果の変数へと、因果関係を矢印でつないでいくのです。このようにして、まちの現在までのパターンをつくりだしている構造を考えていきます。

ループ図が役に立つのは、目の前だけを見ているのではなく、広く深く、まちの状況を考えられるようになるからです。そうすることで、「問題」だと思っていた目の前のものが、じつは問題の症状に過ぎなかった、ということがわかるかもしれません。これまで考えてきた範囲を超えて、広く考えることで、まったく異なる対策が有効であるとわかるかもしれません。

<ステップ3 まちづくりのジャンプ:プロジェクトを考え実行する>

いよいよ、プロジェクトを考え、実行していく段階です。どんなに素晴らしいビジョンを創っても、どんなに広く深く、まちの構造を分析しても、行動しないことには、何も変わりません。

海士町では、「明日の海士をつくる会(あすあま)」が、ありたいまちの姿とループ図による分析にもとづき、「あすあまチャレンジプラン」をつくりました。町役場は、それをもとに、「海士町創生総合戦略」を策定しました。海士町役場では、この総合戦略に従って様々な取り組みを進めています。

また、あすあまのメンバー一人ひとりも「このビジョンに向けて自分は何をやるか」を宣言しました。あすあま委員の委嘱期間終了後も、あすあまメンバーたちは折に触れて集まり、自分のプロジェクトの進捗を報告したり、お互いに相談をしたりしています。

私も海士町を訪問したときに、そのような集まりに参加させてもらいました。みんなで苦労して作ったループ図を真ん中に置いて車座になって座り、「これまで自分たちの取り組みは、この構造のどこを、どのぐらい変えてきたのだろうか」「取り組む中で新たにわかってきた構造は何か」「今後どのようなことを進める必要があるか」など、メンバーが熱心に話し合っていた様子が印象的でした。

漁協から参加していたメンバーは、ループ図の「海士に眠る地域資源の活用」のポイントに働きかけをすべく、漁業でこれまで使われてこなかった資源の活用を進めています。定置網にかかる魚のうち、こぶりだったりして市場に出せない「はねもの」も食べよう!と新しい加工プロジェクトに取り組んでいます。

小さなアジを一口サイズの干物に加工にしたり、海士町の玄関口であるフェリー乗り場に併設されたレストランで、こぶりなアジフライを提供してもらったり、これまで活用されていなかったほかの海産物もアヒージョなどの缶詰にするなど、さまざまな取り組みを進め、商品化も進んでいます。


このように、共有ビジョンづくり(ホップ)と構造の把握(ステップ)を経て実行されるプロジェクト(ジャンプ)は、その地域の将来のビジョンと独自の構造を踏まえたものであり、もはや症状への対処療法ではありません。

同じ方向を目指す取り組みは有機的に結びつき、より大きな変化を作り出すことが可能になります。システム思考を元にしたまちづくりの「ホップ・ステップ・ジャンプ!」が、お住いの地域のまちづくりの参考になることを願っています。

より詳細な進め方やコツ、事例などにご興味があれば、お役に立てると思います。
『好循環のまちづくり!』枝廣淳子・著(岩波新書)

あと3つ、ご案内です。ご関心と合うものがあったらぜひご一緒に!

1月17日 幸せ経済社会研究所 オンライン読書会
『Humankind 希望の歴史 上・下 人類が善き未来をつくるための18章』を読む

「人間の本質は善である」とのメッセージが込められた本書は、発売されるなりオランダ本国だけで25万部のベストセラーを記録。世界46カ国で翻訳が決まった。「わたしの人間観を、一新してくれた本」としてユヴァル・ノア・ハラリが推薦し、ニューヨーカーやエコノミストはじめ欧米メディアから絶賛を浴びる。

という世界的ベストセラーで、私は人類学者の辻信一さんに教えてもらって読みましたが、たしかにすごい! 心理学で学んできた「人間は放っておくとひどいことをするものだ」ということを"証明"する数々の実験が、実は信用ならないものであったことを次々と明らかにしていく下りは探偵小説を読んでいるようでした。

そして、共感力が大事!と言われているにもかかわらず、「より良い世界はより多くの共感から始まるわけではない。むしろ共感はわたしたちの寛大さを損なう」と著者が言う理由と証拠とは? 上下巻全部読むのは大変!という方にもエッセンスをお届けします。


1月18日 変革リーダーズセミナー「東洋思想からの学び:リーダーとしての自分を磨く(「貞観政要」編)」

昨年からこのセミナーの準備を進めてきましたが、「貞観政要」は本当に面白い! 唐の太宗という優れたリーダーと臣下のイキイキとしたやりとりから、リーダーとしてのあり方をいろいろ考えさせてくれます。全巻だと膨大な分量がありますが、「リーダーの心得」「諫言を求め、受け容れる」「人の見極めと、どういう人間を周りに置くべきか」の3つに絞って、エッセンスをお伝えし、内省を深めていきます。3時間半で「貞観政要」を自分の力にしましょう!

1月27日 異業種勉強会「2022年・年初に考える~これからの時代をどう生き抜くのか」

オンライン開催です。パートナー企業以外の方も、お試し参加ができますので、一緒に2022年を展望し、必要なアンテナを張り、勉強を進めるきっかけとしてご活用いただければと思います。

 

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