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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2020年03月12日

平時にはできないレジリエンス・チェックを(2020.03.12)

大切なこと
 

3月11日という特別な日のタイミングだからこそ、コロナウィルスの影響が内外で急速に広がっているこの時だからこそ、5年前のちょうどこの時期に世に送り出したこの本のメッセージを送りたいと思います。

『レジリエンスとは何か~何があっても折れないこころ、暮らし、地域、社会をつくる』

「レジリエンス」とは、強い風にも重い雪にも、ぽきっと折れることなく、しなってまた元の姿に戻る竹のように、「何かあっても立ち直れる力」のこと。私はよく「しなやかな強さ」と訳します。

レジリエンスの入門書である本書では、もともと生態系と心理学の分野で発展してきたレジリエンスの考え方や、そこから教育、防災や地域づくり、温暖化対策など、さまざまな分野で広がる取り組みをみていき、人生と暮らしのレジリエンスを高めるための考え方を紹介します。

先の見えない激動の時代をたくましく、しなやかに強く生き抜いていくためには、ひとり一人も家庭も、組織も、地域も社会も、レジリエンスの強化を考え、実行していくことがとても大事です。

持続可能性と幸せにつながるレジリエンスを高めるために、本書がお役に立つことを心から願っています。

本書の序章からの抜粋をご紹介し、ジリエンスを創り出す要素についても紹介したいと思います。


~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~


「序章 レジリエンスとは何か」より

(前略)

大震災は、短期的な経済効率だけでなく、中長期的に何かがあったときにも「それでもしなやかに強く立ち直れる強さ」も重視し、暮らしや企業経営、社会づくりに組み込んでいかなくてはならない、ということを私たちに教えてくれたのだと思います。

●世界で高まる「レジリエンス」への関心と取り組み

そして、そういった関心は日本だけのものではありません。実は、世界ではしばらく前から「レジリエンス」への関心が高まり、多くの研究者がこの分野での活動を進めているのです。レジリエンスをテーマとした国際学会や国際機関の会議なども数多く開催されています(残念ながら、こういった会議には日本からの参加者はほとんどいません)。

●世界が「レジリエンス」に注目する理由

なぜここへ来て、レジリエンスの重要性が声高に訴えられるようになってきたのでしょうか? 

それは、世界がますます不安定になり、かつ不確実性が高まってきているためです。

(中略)

世界のグローバル化が進む現在、経済にせよ、環境問題にせよ、そのリスクは一国の内部にとどまるものではなく、また個々に対処できるものではありません。このようなリスクは、それ自体多くの要素が複雑に絡み合ってできているため、従来型の「このリスク→この解決法」という、1対1の枠組みでは捉えきれなくなっているのです。だからこそ、システムとして全体を考え(システム思考)、単発の解決策ではなく、「レジリエンスが必要だ」ということなのです。

●「レジリエンス」とは何か?

それほど大事になってきた、この時代の要請とも言える「レジリエンス」とは何なのでしょうか?

「レジリエンス」はもともと、「反発性」「弾力性」を示す物理の用語です。ここから、「外からの力が加わっても、また元の姿に戻れる力」という意味で使われるようになりました。

レジリエンスの定義は、一義的に定まったものはなく、本書で見ていくように、それぞれの分野でもいくつかの定義がありますが、共通しているのは「外的な衝撃に耐え、それ自身の機能や構造を失わない力」ということです。

強い風にしなって元の姿に戻る竹、山火事のあとの生態系の回復、愛する人との死別を乗り越えてたくましく生きてゆく人、大恐慌が起こっても石油の輸入が途絶えても大きな影響を受けずに持続する暮らしや地域など、さまざまな「レジリエンスがある姿」を、「レジリエンスがない姿」と対比して想像することができるでしょう。

●何が「レジリエンス」を作り出すのか

レジリエンスの構成要因についても、さまざまな研究が行われています。

世界経済フォーラムの「グローバルリスク報告書2013 年版」では、「レジリエンスとは、構造安定性、冗長性、人材・資源の豊かさ、反応力、復活力の5つの要因で構成されている」とし、この5つの要因を国家の5つのサブシステム(経済、環境、ガバナンス、インフラ、社会)ごとに見ていくことで、「国家のレジリエンス」の診断やモニタリングができると述べています。

一般的に、生態系などの分野でレジリエンスの要素としてよく挙げられるのは、「多様性」「モジュール性」「密接なフィードバック」です。一つずつ説明しましょう。

「多様性」がレジリエンスを創り出すというのはわかりやすいでしょう。たとえば、震災などで数日間停電しても、ガスや薪や太陽光発電など多様なエネルギー源が使える状況なら、それほど困らないでしょう。

自分のアイデンティティが「○○会社の××部長」だけだったら、会社が倒産したり失職・左遷したりすると、ぽきっと折れてしまうかもしれませんが、「夫であり、父親でもあり、地元の少年野球チームのコーチでもあり、同窓会の仲間のひとりでもあり......」とさまざまな「自分」を持っていれば、「どれか一つがうまくいかなくても、全体が倒れてしまうことはない」強さを持つことができます。

「モジュール性」とは、ふだんは全体とゆるやかにつながっていても、いざというときには、自分たちを全体から切り離して、自分たちだけで成り立つようになっているかどうか、ということです。経済のグローバル化が進み、世界の反対側で起こったことが、グローバルなつながりの網の目を経て、自分たちにも大きな影響を与える時代です。

その中で、たとえば、「地球の裏側で発生した金融危機の影響で、円やドル、ユーロが使えなくなっても、何らかの非常事態が発生して食料やエネルギーの輸入が途絶えても、うちの地域には地域通貨があるし、暮らしに必要な食料やエネルギーの地域内自給力も高いので、何とか回していける」という地域は、モジュール性が高く、レジリエンスに富んでいると考えられます。

「密接なフィードバック」とは、システムのある部分に起こる変化を、他の部分が感じて反応する速さと強さのことです。「変化が起きつつある」という情報が伝わる、つまり、フィードバックが来るのに時間がかかったり、場合によっては、フィードバックが来なかったり、間違っていたりすると、手を打つべきタイミングに気がつかなかったり、必要な対応をすることができず、外的な衝撃がやってきたときには手遅れになっていて、大きな被害を受けてしまうかもしれません。

●重要性を増すレジリエンスの考え方と取り組み

激化する気候変動の影響、いつ何時起きてもおかしくない大震災や金融危機、エネルギー危機、一方で、人口が減少し、高齢化が進み、膨大な財政赤字を抱え、人と人とのつながりや絆がどんどん弱くなっている地域や社会――。

こういった状況では、政府や「だれか」に頼って危機を切り抜けようとするやり方はうまくいきません。そうではなく、一人ひとりが、それぞれの家庭が、それぞれの企業や組織が、それぞれの地域や社会が、「外的な衝撃に襲われても、ぽきっと折れることなく、しなやかに強く立ち直れる力」を身につけておくことが大切です。今後ますます、レジリエンスの考え方を理解し、レジリエンスを強化するための具体的な取り組みを進めていくことが重要になってくるでしょう。

次章から、さまざまな分野でのレジリエンスの考え方や内外の取り組みを紹介していきます。「しなやかな強さ」というレジリエンス概念の"両親"ともいえる「生態系」と「心理学」の分野から説明をしていきますが、どうぞご自分の関心のある分野から読み進めて下さい。


~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~


この本では、そのあと、以下のさまざまな分野におけるレジリエンスを説明し、高める方法について考えています。

第1章 生態系のレジリエンス
第2章 折れないこころをつくる~レジリエンスの心理学
第3章 折れない子どもをつくる教育~レジリエンスを高める教育
第4章 折れない子どもを育てる~家庭で高めるレジリエンス
第5章 温暖化にも折れない暮らしをつくる
第6章 災害にも折れない暮らし・地域をつくる
第7章 折れない自治体や都市をつくる
第8章 何があっても折れない地域をつくる
第9章 何があっても折れない暮らしをつくる


この本を書いたとき、これほど強力な感染症が世界規模で広がるということは考えていませんでした。でも、そういう事態だからこそ、レジリエンスが大事になってきます。そして、その必要性を多くの人が認識しやすい状況でもあります。

ウィルスの広がりを抑えるため、さまざまな人やモノ、お金の行き来がしづらくなっている今だからこそ、「レジリエンス・チェック」ができます。

・外とのやりとりができなくなって、最初に困るのはどこなのか? どのくらい困るのか? 

・非常時の代替策をどのように作っておけばよいのか?
 
・どういう兆しをきっかけに非常時対応を発動すればよいのか? 

・中長期的なレジリエンスより短期的な効率性を優先しがちですが、どこまでなら短期的な効率性に目をつぶって、中長期的なレジリエンスを守った方が良いのか? 

・ふだんから、地域や家庭のレジリエンスを高めておくには、どうしたらよいのか?

・レジリエンスをつくり出す3つの要素を、どのようにまちづくりや組織、家庭に盛り込んでおくことができるのか?


残念ながら、大震災もこうした感染症の広がりも、これからも起こってしまうでしょう。自分も、地域も、社会も、世界も、「起こってほしくないから、起こらないと信じる」よりも、「起こってほしくないけど、起こる可能性があるとしたら、手を打っておく」ようになっていくとよいなあ!と思います。

 

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