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2019年03月30日

「就職を考える○○さんへ~未来は地域にしかない」 (2019.03.30)

大切なこと
 

山陽新聞の「提言」というコーナーに、3月23日に寄稿させていただきました。フェイスブックでも多くの方に「シェア」していただいているようで、うれしく思います。短いものですので、ぜひお目通しいただけたらうれしいです。

新聞記事はこちらにあります。

~~~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~

就職を考える○○さんへ

○○さんへ。お便り拝見。もう就職を考える年齢なのですね!

自分は地元に残りたいのに、ご両親が「田舎には将来がないから、都会に出て行って就職しろ」と譲らないとのこと、東京と地方の両方で活動している私はどう思うか? とのご質問ですね。

私はねえ、「未来は地域にしかない」と思っているんですよ。心から。

今は東京も元気ですよ。五輪までは建設業もサービス業も好況で、人手不足がハンパない。地方から見たら「東京は潤っているなー、あそこに行けば将来も安泰だろう」と思えるのでしょうね。

でもね、東京都も2030年には人口が減り始める。45年には東京都民の3割が高齢者です。東京の高齢化の急激さは地方の比じゃないですよ。これまで地方から東京に移住した大量の若者たちも高齢化していきます。

11年から40年の間に65歳以上の高齢者がどのくらい増加するかを調べてみると、高齢化率の高い秋田県や高知県ではたったの千人であるのに対して、東京都では128万3千人も増えて、40年には400万人になります。130万人近くもの増加にどう対応していくのでしょう?

そして、東京都の生産年齢人口は11年から16年の間に約2万3千人減っている。つまり、東京都は「人口は増えているが、生産年齢人口は減少し、高齢者が急増する」という状況なのです。

しかも、これまではビジネスや働く人のためのまちづくりをしてきましたからね、医療機関や介護施設も足りないし、在宅サービスも整っていない。近隣や地域の支援もあてにできません。

今後、大都市部では、医療や介護といった社会保障費が増大し、高齢者も暮らしやすい町に転換するコストも莫大にかかるでしょう。労働人口が減れば、税収も減るかもしれない。すると、大都市部に住み続ける人は、負担増とサービス低下に直面? それを嫌って、地方への移住者や移転企業が増えれば、残る人の負担はますます大きくなります。最悪の場合、かつて同様の状況下で100万人規模で人が出て行ったニューヨーク市のように、大量の東京脱出が始まるかも?

不確実で不安定なこの時代に幸せな人生を送るためには、何があってもつぶれずにしなやかに立ち直れる力(レジリエンスといいます)が大事。去年9月に全道ブラックアウトが起こったとき、私はたまたま北海道の下川町という小さな町にいました。町の人々は声を掛け合って安否を確認し、ガス炊飯器のあるおうちが炊き出しをして、オール電化で途方に暮れている人たちに配っていました。いただいたおにぎりを頬張りながら、被災するんだったら大東京ではなく、地方の町がいい! と思いましたよ。平時だって、地方なら家庭菜園や田んぼを借りて、自分たちの食べ物を作れる。助け合えるご近所さんもいる。これがこれからの幸せの鍵じゃないかなあ?

ご両親の助言はこの40年間の経験からのものでしょう。でも、あなたが生きていく次の40年間は、これまでとは大きく違うものになる。「どういう時代に生きていくのか」をしっかり考えてね。がんばってね! 

                            枝廣淳子

~~~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~~

上記の「2011年から2040年の間に、秋田県や高知県では1000人ぐらいしか高齢者が増えないのに対して、東京都で増える高齢者数は128万を超える!」というデータについて、さらに詳しく解説記事を書きました。(こちらの解説ではより現在に近い、2015年との比較を行いました)

~~~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~~

「データを読む」コーナー
2015年から2045年の間に約110万人も増加!? 東京都で深刻な高齢者の増加

日本が高齢化社会であることはよく知られています。しかし、高齢問題には、「高齢化率」と、「高齢者数の増加」の2つの側面があることはあまり知られていません。

高齢化率が高いのは主に地方ですが、高齢者数の増加が深刻なのは都市部、特に東京都では今後非常に深刻になり得る問題です。そして、この2つは性質が異なる社会問題を生み出します。

今回の「データを読む」では、両者の特徴の比較を通して、都市部の高齢化問題の特徴を紹介します。

○地方で深刻な高齢化率の上昇

高齢化に関するニュースでよく耳にするのは「高齢化率」です。これは、全体の人口の何%が高齢者かを表す数字です。例えば、現在最も高齢化が進んでいる秋田県の65歳以上の高齢化率は35.6%(2017年)です。2045年には秋田県の高齢化率は50.1%まで上昇すると推計されています。人口の半数が高齢者というのは、それだけ高齢者を支える人が少ないということですから、大変な状況です。

それに対して、東京都の2017の高齢化率は23%、2045年の高齢化率の30.7%と推計されています。東京の2045年の高齢化率(30.7%)は、秋田県の2017年の高齢化率(35.6%)を下回るなど、東京では高齢化問題は大した影響はないように感じるかもしれません(「そうではない」ことを、次の「都市部で深刻な高齢者数の増加」で説明します)。

表1は高齢化率が高い都道府県と低い都道府県をまとめたものです。高齢化率が高い秋田県、高知県、島根県に対して、高齢化率が低い都道府県の中には、東京都のほか、神奈川県、千葉県、埼玉県と東京都と隣接している都道府県が含まれています。表1からも高齢化率の問題は地方でより深刻であることがわかります。
(表は、こちら。https://www.es-inc.jp/graphs/2019/grh_id009892.html

○都市部で深刻な高齢者数の増加

次に「高齢者数の増加」をみてみましょう。表2は、表1と同じ都道府県について、65歳以上の高齢者の人口を2015年と2045年の推計結果の順番に並べたものです。一番右側の「増加数」という列は、2045年から2015年を引き算した結果です。この列を見ると、30年の間にどれくらい高齢者の数が増えるのか(あるいは減るのか)がわかります。

秋田県では2015年から2045年の間に高齢者の人数が45,000人減少します。これは、高齢化率は高いものの、県全体の人口が減少していくために生じています。人口の増減は、人口規模と増加率の両方によって決まります。

例えば、秋田県の2045年の人口は60万2,000人と推計されています。表1の2017年時点の人口は99万6,000人ですから、40万人近く減少するということです。このように人口規模が小さくなってくると、高齢化率が上昇しても、高齢者の人口はあまり増えないのです。

もちろん、全体的な人口減少や高齢化率の高さも、大きな問題です。ただし、高齢者数という点に焦点をあわせると、高齢化率が高い多くの地方では、今後は高齢者の数はそれほど増えることなく、間もなく減少に転じます。

問題は都市部です。

東京都では2045年には2015年と比べて110万1000人も高齢者人口が増えると予測されているのです。神奈川でも約75万人も増加する見込みです。これは東京や神奈川の人口そのものの規模が大きいことが原因です。

2045年の東京都の人口は1,360万7,000人と推計されており、表1の2017年の人口(1,372万4,000人)とあまり変化はありません(東京都の人口のピークは2030年ごろだと考えられており、その後減少に転じます)。人口そのものが大きいために、高齢化率が少し上昇しただけでも、高齢者数は大きく増えてしまうのです。

ここから、首都圏が抱える高齢化問題は、高齢化率の上昇よりも、「高齢者数の増加」の問題であることがわかります。もちろん東京都なども対策に乗り出しています。しかし、30年の間に110万人も高齢者人口が増えるという急増に対して、医療施設や介護サービス、高齢者用の住宅などの十分な準備が間に合わないおそれがあります。

いま20歳の人は2045年には46歳、30歳の人は56歳ですから、これは「遠い未来の話」ではありません。こうしたデータをもとに、国や都道府県が対策を行うことも重要ですが、私たちひとりひとりも「もしかしたら、将来的に東京で老後を迎えるよりも、地方に移住することも考えてもよいかもしれない」など、将来の計画を立てることができます。その結果、2045年の人口構造は、推計とは異なるものになるかもしれません。

推計データはいわば「このままの未来」を描いたものに過ぎません。「望ましい未来」を描くことができるのは、私たち一人ひとりなのです。

(枝廣淳子・新津尚子)

 

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