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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2016年07月23日

地域と都市と学生が連携して「こども食堂」に挑戦!(2016.07.23)

新しいあり方へ
 

東京都市大学環境学部で、研究室をもってゼミ活動をはじめて1年ちょっとになります。「社会を変えながら、社会を変えられる人を育てる」をキャッチフレーズに、さまざまな取り組みをしてきました。

研究室のウェブサイト

昨年9月に、熊本県の山奥にある集落を訪問してゼミ活動を行ったようすはこちらにあります。

限界集落のトップランナー、再エネをとっかかりに「幸せ実感日本一の集落」へ!

6月22日、このようなこれまでの取り組みをベースに、エダヒロ研のゼミ生、水増集落、東京・世田谷区で活動されている方々との一緒に、1日限定の「こども食堂」を開催しました。

当日の写真はこちらに。元気な野菜たち、笑顔の子どもたちをぜひ見てください~。

チョット長くなりますが、会のようすをお伝えし、最後に自分の問題意識や今後に向けての考えを伝えたいと思います。

●開催の背景

日本でも格差の拡大が社会問題となっています。特にこども(17歳以下)の相対的貧困率は16.3%、なんと6人に1人のこどもが貧困の状態にあります。こどもの貧困と孤食の問題解決を目的とした「こども食堂」が首都圏を中心に全国各地で開設されています。

こども食堂――こどもたちに暖かい食事と居場所を提供する取り組み

イーズの本拠地である東京都世田谷区内でも、いくつものこども食堂が展開されており、さらなる開設を望む声も多く寄せられています。こども食堂がそのミッションを果たし、地域のこどもの居場所となっていくためには、今後さまざまな支援やネットワークづくりが必要になります。

一方、地方では人口減少と高齢化が進み、集落や農業の維持など危機的な状況を迎えています。枝廣研究室が2015年から研究活動を行っている熊本県上益城郡山都町島木の水増集落も、10世帯18人、平均年齢72歳という、いわゆる"限界集落"の一つです。水増集落についてはこちらをご覧ください。

しかし、地方には都市にないものもたくさんあります。おいしい空気や水はもちろんのこと、お米や新鮮な野菜、栄養満点の大豆、そしてそれらを生産する人たちのあたたかさや、その土地に根ざした歴史や文化などは、都市の人たちにとってはなかなか手に入れることのできない"宝物"です。

「水増のお米や野菜を都会のこどもたちにもいっぱい食べてほしい」――そんな水増集落の皆さんの思いを都市につなぐ取り組みとして、世田谷区のこども食堂実践者のご協力を得て、水増の食材によるこども食堂を開催しました。世田谷区でも今後こども食堂を広げていきたいとのことで、今回はまずは多くの人にこども食堂を知ってもらい、体験してもらうことを目的にしました。

●こども食堂~準備、当日

今年の1月から研究室で企画と準備を進めてきました。担当の学生たちは、世田谷区や他の地域で開催されているこども食堂に何度か参加し、実際に体験しながら、企画を考えました。当日はゼミ生のほぼ全員が参加し、役割分担に従って、運営をしてくれました。

今回の開催にあたっては、世田谷区ですでにこども食堂を実施されている「NPO法人せたがや福祉サポートセンター」のお力をお借りしました。事前の相談から何度も打ち合わせや見学を重ねて当日を迎えました。
http://setagaya-npolink.jp/

調理は同じく区内で活動する「おとこの台所」チームの男性陣にお願いしたところ、快く引き受けてくださり、1カ月前からメニューやレシピの考案に取りかかり、50人分の食事をつくっていただきました。

「おとこの台所」とは、家に引きこもりがちの、リタイアした男性の「たまり場」をつくろうと平成14年に4名で世田谷で始まった活動で、現在は、世田谷区内の9カ所で300人を超えるメンバーが(最初は包丁もエプロンも初めて!という方も多いそうですが)お揃いのエプロンで料理を通して、居場所づくり・仲間づくりをされています。
http://dai.seta-odk.com/wp/

また、当日ははるか熊本から、水増集落の方々など10人が「久しぶりの東京です」と元気な笑顔で、飛行機で飛んできてくれました。前日も熊本は集中豪雨に見舞われ、大変な中、それでも上京してくださいました。

さっそく、集落の皆さんや学生も調理チームに加わります。水増チームは、煮豆や煮つけのほか、その場で水増の大豆をつかった豆乳シフォンケーキもつくってくださいました。

調理チームの作業と並行して、16時にまずは「おとな食堂」がオープン。メディアの方などを対象に、主催者の挨拶と水増の紹介。水増の食材を使った数々の料理やシフォンケーキなどに舌鼓を打ちながら、話が弾みます。

そのうち、ひとり、ふたりと子どもたちがやってきます。受付係や会場係の学生も忙しくなってきます。今回の会場は、大人数が参加でき、調理室も整っている世田谷区のキャロットタワーという大きなビルの中で行いました。

関係者のSNSなどでの案内や世田谷区内の掲示板などを見て、「子ども食堂って、初めて聞いたけど、楽しそう!」と参加してくれた親子が多かったようです。全部で25人ものこども、21人の親が参加してくれました。

17:30頃、食事の用意が整い、主催者の思いをお話ししました。また、学生から水増集落への義援金が手渡されました。4月に熊本を襲った地震は水増集落にも被害を及ぼし、1棟が全壊、もう1棟が半壊してしまいました。

学生たちは、お世話になった集落の方々を少しでも支援したいと、6月初旬に開催された大学の学園祭で、水増集落から送ってもらったお米や野菜などを販売し、寄付金を集めました。10万円ほどの支援金をお渡しすることができました。

そして、水増集落の方からの食材の紹介、男の台所チームからのメニューの紹介。みんなで記念撮影し、いよいよ「いただきます!」。「おいしい!」とあちこちから声が上がります。メニューをご紹介しましょう!

<メニュー>

・竹の子とグリーンピースの炊き込みご飯(水増のお米は「日本の棚田百選」にも選出されました!)

・野菜たっぷりの豚肉味噌煮(九州地方料理・水増の幻の大豆、八天狗の味噌を使用)

・生野菜のアンチョビ・マヨネーズソース(熊本の新鮮な野菜で!)

・八天狗の豆乳スープ

・卵焼き(水増の平飼い卵で)

・ジャーマン・パンケーキ(水増のジャガイモを使って)

・鶏汁(水増の伝統料理)

・ワラビの煮つけ

・八天狗の坐禅豆

・八天狗豆乳をつかったシフォンケーキと手作りブルーベリージャム

食べ終わったこどもたちは、学生のお兄さん、お姉さんたちと、ゲームやトランプなどに夢中になっていました。その間、お母さんたちもゆっくりおしゃべりしながら食事ができます。水増の方々も交えて、「この味付け、どうやっているのですか?」など、あちこちで話が弾んでいました。

最後に、駆けつけてくださって、一緒に食卓を囲んでくれた世田谷区の保坂区長も感想などをお話ししてくれました。アンケートを書いてもらい、こどもたちとお母さんたちは解散。みんなで片づけをして、終了。学生たちと水増集落のみなさんは、近くのお店で交流会を開き、久しぶりの親交を楽しみました。

参加者、そして今回一緒にこの会を作り上げてくれたたみなさんの感想です。

○参加いただいたお母さま方からの感想

・お料理もおいしくて、こどもも全部食べていました。納豆がスーパーに売っているのとは違い、噛みごたえがあって、本当においしかったです。

・野菜たっぷりの料理を子どもに食べさせることができてよかったです。

・お料理も大変おいしくいただきました。こどもの楽しめるゲームや遊びがあったのがとてもありがたかったです。そのおかげで普通ゆっくり食事ができない親たちも、味わってゆっくりお食事ができました。毎週開催してほしいくらい。

・今まで卵焼きを食べられなかったうちの子が初めて食べて「おいしい!!」と喜んでました。おもちゃまでいただいて本当にありがとうございます。こういう交流会がまたあったら参加させていただきたいです。山菜や煮物などうちで作れない味でどれもおいしかったです。

・食事の味が特にごぼうとお豆!!ごぼうはスーパーと全く違って、昔ながらの土くさいおいしい味がしました。ぜひとも子どもたちと一緒にお泊りに行ってみたいと心より思いました。

○水増集落の荒木さん

私たち、70歳以上の平均年齢ですが、あと4、5年みんなで頑張ろう、こどもたちや孫たちが帰ってくる、そして都会から皆さんが来られるような村をつくっていきたいなという気持ちでおります。ぜひ一度、遊びに来てください。

○NPO法人せたがや福祉サポートセンター代表の光岡明子さん

世田谷の子ども食堂と熊本の水増集落、そしてそこを繋ぐ東京都市大という3者それぞれが初めての試みでしたが、初めてとは思えない程和気あいあいとした会になった事が印象的でした。

思いや目的は一緒で、これからますます大事なのは「住みやすく人と人との関係を大切にするまちづくり」だと、実感できました。 今回の試みがきっかけとなり、3者がそれぞれに持つ強みを共有して交流がさらに進み、課題解決や目的達成の連携ができる」ことを期待します。

思った以上に親子連れが多く嬉しかったです! 学生さんたちもしっかり子どもたちのお相手をしてくれて嬉しかったです。水増の方達の暖かさにも感激しました。お料理も上手でぜひ現地へ子どもたちと伺いたいなと思いを強くしました。

枝廣先生と水増の方達が取り組んでいることは、世田谷で取り組んでいることと根っこは同じだと思います。これから、世田谷で子ども食堂はますます広がって行くはずです。今後もご一緒できることは一杯ありそうです!

○「おとこの台所」グループ代表の名取順一さん

メンバーから、「定例会では味わえない貴重な体験ができ大変楽しかった」「沢山の方々に喜んでいただき疲れも吹っ飛んだ」「今回初めて参加したが、またあれば是非参加したい」との感想をもらっています。

都市と地方との交流が大事であり、今回の狙いは良かったと思います。子供達に新鮮な農産物を食べてもらうのは最高だと思います。集落の方とも料理をしながら話ができて、その人柄が素晴らしく、機会があれば是非訪れてみたいと感じました。

「おとこの台所」グループでは今年の初めから社会福祉協議会・地域活動団体・区内大学生・個人的賛同者等と協力して3か所で開設する準備を進めております。

7月19日には社協の施設「南烏山ふれあいの家」を借用して烏山にオープンした後、同様の形式で松原・野沢と第二・第三の開設を予定しております。「こども食堂」については、いろいろな考え方・取り組姿勢があることと思いますが、出来るだけ数多く開設され、あちこちで子供達の楽しそうな笑顔を見られることを心より祈っています。

●問題意識と今後へ

今回は、従来の都市-地方の概念にありがちな「都市が地方を支援する」関係性ではなく、「地方が都市を支援する」新たな形を模索する、地方創生の実験的な取り組みとして行いました。

これまでの地方と都市との関係は、地方から見ると、「テイク・アンド・テイク」が多かったように思います。「補助金ください、交付金ください。支援がなければやっていけません」という具合です。実際に地方交付金がなければ、地域は経済的に成り立ちませんから、実際にそういう側面は強いのだと思います。

しかし、その「テイク・アンド・テイク」の関係性から、「テイク・アンド・ギブ」も少し出てきました。たとえば、今多くの自治体が「ふるさと納税」のしくみを活用して、「ふるさと納税してくれたら、地域の特産品などを送ります」として、資金を集めています。「与えてくれたら出す」です。

今回の水増集落の取り組みは、「ギブ」だけです。「水増の豊かな農作物を東京のこどもたち、皆さんに食べていただきたい」。「よかったら、そのうち遊びに来てくださいね」と添えるだけです。通常は与えられる対象である限界集落であっても、「テイク」から入らないこの関係性は非常に大事ではないかと思っています。

海士町をはじめ、いくつかの地域にかかわり、地方創生のお手伝いをしたり、そういった取り組みを取材している中で、地方創生の取り組みがうまくいっている地域には、いくつかの共通点があると感じています。

その1つは、「頼るのではなく、自分たちで立つ」気概と取り組み。そのために、食やエネルギーなどを含め、いろいろな意味での外部依存度を下げていくこと。

おそらくその結果でもあるのでしょう、自分たちの取り組みや地域に誇りと主体性を持っていることも共通点の1つです。「自分たちの手綱は自分で握っている、自分たちで決めていくんだ」と。水増も、まさにそういう地域ではないかと思います。

今後を考えたときに、私の最大の問題意識は「東京創生」です。いまは地方の疲弊や消滅が問題視されていますが、今後は都市の問題のほうが大きくなるでしょう。東京は、おそらく、2020年の東京オリンピックまでは何とかもつでしょう。しかし、2020年後の盛り上がった後の落ち込みは大きくなるでしょうし、人口の高齢化も、地方に比べると、すさまじい勢いで進むことが予測されています。

東京をはじめとする都市をどうやって持たせるのか、再生するのか、創生するのかーーこれは非常に重要な課題です。首都圏に住む私たちは、現在地方創生がうまくいっている地域や、素晴らしい取り組みをしている田舎から学んでいかねばなりません。

また、今回は、平均年齢72歳の集落の方々から、定年退職後のおとこの台所チーム、子育て世代のお母さんたち、学生たち、そして、小学生や幼稚園・保育園のこどもたちまで、世代を超えた共創の場となりました。このような多世代共創の場をどのように作っていけるか、続けていけるかも考えていくべき課題だと思います。

今回は1回限りとしての開催でしたが、さっそく、「これを機に、世田谷のこどもたちが、夏休みに水増に遊びに行けたらいいね」「おとこの台所チームが、食材を探しに水増にいけたらいいね」などと、次の展開につながりそうな会話が広がっていてうれしく思いました。

エダヒロ研究室でも今回の取り組みを、横展開可能な形にして伝えることで、他の大学と他の地域、他の都市と他の地域など、いろいろなつながりづくりを通して、あちこちの地域を応援していけたらと思っています。

 

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