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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2014年10月19日

変容型シナリオ・プランニング:南アでの活用事例~日本で学べる機会のご案内

 

システム思考や学習する組織などの企業研修を行っているチェンジ・エージェントのウェブサイトに、「シナリオ・プランニングで組織のレジリエンスを高める」というコラムが掲載されています。
http://change-agent.jp/news/archives/000666.html

「シナリオ・プランニングってなに?」という方にも、「最近、ときどき聞く言葉だなあ」という方にも、シェルの取り組みの部分を引用してご紹介しましょう。

~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~

長寿企業になるためにシェルが取り入れた「シナリオ・プランニング」

シェルが、レジリエンスを高めるために行った取り組みが、「シナリオ・プランニング」です。1970年頃、長寿企業になるための秘訣を探して研究調査を行いました。その結果、まずわかったのは多くの大企業の平均寿命は30年ほどでしかなく、中小企業はさらに短いことです。そして、多くの企業は、事業環境の大きな変化にきわめてもろいこともわかりました。

永く存続する企業を築くために環境変化に対して柔軟な思考や発想で適応する能力は重要ですが、実際には多くの経営者やマネージャーたちはそれをもちあわせていませんでした。

人々が世の中のことを見て、考え、行動する際の思考の枠組みをメンタル・モデルと呼びますが、多くのマネージャーたちは次のように見る傾向が強いのです。「効率を重視すれば結果を出せる」「標準化をすることによって質が高まり結果につながる」「企業は人々の集まるコミュニティではなく、利益を生み出すマシーンである」などです。

メンタル・モデルは部分的には現実にあっていますが、全体像や大局の中で常にあっているものではありません。実際に経営者やマネージャーの判断や行動の前提には、「未来に起こることは今までの延長線上にある」という考えが強く根付いているため、後になって「想定外」といわれるできごとが起こったときに、企業の存続を危うくする事態が多いことがわかりました。

シェル社の課題は、いかに経営者やマネージャーたちのメンタル・モデルを広げるか、つまり、想像力をましてさまざまなリスクや機会を想定事項に組み入れるかについて考えるかでした。その目的に適した手法が「シナリオ・プランニング」だったのです。

~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~

石油業界は、その後、石油ショックに見舞われましたが、このシナリオ・プランニングを行っていたシェルは、当時7社あった石油メジャーの中で6~7番目に過ぎなかった存在から、一気にトップグループに躍り出たのでした。

このとき、シェルのシナリオ・プランニングのチームで活躍していたアダム・カヘン氏は、その後、この手法をさまざまな事例に展開し、手法自体も発展させていきました。アダム・カヘンの取り組みの中でも最もよく知られているのは、南アでの「アパルトヘイト後の未来づくり」です。

これは本当にすばらしい取り組みで、国際レベルから地域レベルまで、さまざまなレベルで「さまざまな人々が立場や考え方の違いを乗り越えて、未来を創り出す」うえでのお手本のひとつです。

チェンジ・エージェントの資料から、ご紹介しましょう。

~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~

南アフリカでのシナリオ手法活用事例

アパルトヘイト政策時代の末期、南アフリカは、異なる意見を持つ多様な利害関係者が個々の違いを乗り越え、共に未来を描き、創っていくという困難な作業を成し遂げる必要に迫られていました。

1990年、当時のデ・クラーク大統領が27年間にわたる牢獄生活からネルソン・マンデラ氏を釈放、反体制派グループの合法化を宣言したことで、南アフリカの状況は大きく変わりはじめていたのです。

それはすなわち、少数派である白人与党と、多数派である黒人の反体制派が、血みどろの歴史を超えて、共に未来を創っていく入り口に立ったということです。

しかし、白人と黒人の数十年にわたる暴力的対立の歴史、黒人政党間や黒人と白人の間での見方の違い、そして白人政権から黒人政権への移行という誰も経験したことがないチャレンジであることから、平和的な政権移行は至難の業であると考えられていました。

その最中に実施されたのが、シェルの若手シナリオ・プランナーであったアダム・カヘン氏が関わった、南アフリカ再建のための「モン・フレール」・シナリオ・プロジェクトです。

プロジェクトの参加者は、主要な黒人政党、白人ビジネス・コミュニティや大学関係者など南アフリカの縮図ともいえる22名でした。多様な関係者が異なる仮説や価値観、目標を持つ場合、全員が参加型のプロセスに沿って、自ら解決策を生み出し、実行していくことが大切ですが、プロジェクトは、まさにそれを体現していました。

シナリオ作成のプロセスは、小グループで今後10年間に南アフリカで起こりうるストーリーをブレーンストーミングすることから始まりました。このプロセスでは、「起こって欲しい」という願望を主観的に描くのではなく、あくまで「起こりうる」ということを客観的に出していきます。

結果として生まれた30のストーリーは集約され、9つのストーリーへと絞られ後、社会、政治、経済、国際というテーマ毎にサブグループで討議され、最終的に4つのシナリオへと集約されていきました。

各シナリオは、「南アフリカの政権移行はどう進むのか、そして国は再出発することに成功するのか」ということについて、共通の質問を提起しながら、それぞれ異なる答えを出していました。そして、4つのシナリオのうち、3つのシナリオは避けるべき未来、そして残る1つが皆が望む、創り出したい未来を示すものとなりました。

【南アフリカの4つのシナリオ】
○ダチョウ:
穴に頭を突っ込んで何も見ないようにするダチョウのように、国民の支持を得ていない白人政府が多数派である黒人との交渉を避け続ける

○足の悪いアヒル:
任期最後の年で政策遂行能力を欠いた大統領のことを足の悪いアヒル(レイム・ダック)と呼ぶように、憲法を制定する過程において、政府がすべての人の要望に応えようとするため、力が弱まってしまい、政権移行が長引き、結局誰も満足できない状態となる

○イカロス:
蝋でつくった翼で空高く舞い上がるが太陽に近づきすぎて、蝋が溶けて墜落してしまうギリシア神話のイカロスのように、憲法の制定により自由を得た黒人政府が、国民から支持され、高貴な意図をもって政権に就くものの、維持ができない巨大な公共投資に乗り出し、経済を崩壊に導く

○フラミンゴの飛行:
みなで一緒に低く飛び立ち、やがて大空へと舞い上がるフラミンゴの群れのように、すべての重要な基本的要素が適切に配置されることで、社会の全員がゆっくりと、共に立ち上がり、政権移行が成功する

できあがったシナリオは、雑誌への折り込み、漫画やビデオ、マスメディアなどで紹介され、参加メンバーたちよる全国100以上のワークショップなどを通じて計画的に国民に周知されることによって、至る所で議論の対象となっていきました。

例えば、デ・クラーク大統領はシナリオに触発される形で「私はダチョウではない」と発言を残しました。また、当初、マンデラ氏が率いる政党のリーダーたちは、南アフリカの経済状況について、「国は富んでおり、単純に資金を裕福な白人から貧しい黒人へ再分配することが必要」と考えていましたが、「イカロス」シナリオの存在が、彼らに自らの思考を変化させる機会を提供し、将来起こりうる経済的大惨事を回避する助けとなりました。紆余曲折を経ながらも、南アフリカはフラミンゴの飛行を実現させていったのです。

シナリオ作成のプロセスでは、意見の異なる多様な参加者が共に時間を過ごし、南アフリカがおかれた状況についての全体像や未来について対話を続けていきました。このプロセスを通じて、参加者は自らのメンタルモデルを真摯に見つめて、より良い未来像を探求していくことができました。

南アフリカでのシナリオの目的は、現在何が起こっていて、将来何が起こりうるかを理解するだけでなく、未来に影響を与え、改善するためのシナリオ作成でした。つまり、未来への「適応」ではなく、望ましい未来の「創造」に目を向けたシナリオ活用といえるでしょう。

南アフリカの事例は、多様なステークホルダーの中から、深い使命感に燃えたリーダーが集い、対話とシナリオ手法を通じて、現実と未来に深く向き合っていくことで、未来に大きな影響を与えうることを示してくれます。

参考:アダム・カヘン著『手ごわい問題は、対話で解決する』
   アダム・カヘン著『Transformative Scenario Planning』(Berrett-Koehler Publishers, Inc.)


~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~


アダム・カヘン著『手ごわい問題は、対話で解決する』は、対話力の勉強会でも取り上げて勉強しました。「立場や考えの違いを超えて共創する」とはどういうことなのか、事例とともに、その枠組みや留意点も整理してあり、とても参考になる本だと思います。
https://www.amazon.co.jp/dp/4990329848?tag=junkoedahiro-22

アダム・カヘンは、シェルでのシナリオ・プランニングのように、「複数の不確実な未来のシナリオを描き、それぞれに適応する戦略を見出したのち、どのようなシナリオが起こっても対応できる統合的な戦略を遂行する」ものを、「適応型シナリオ・プランニング」と呼んでいます。その前提は、「外的環境に関する未来は変えられないし、選べない」というものです。

それに対して、南アの事例のようなシナリオ・プランニングを「変容型シナリオ・プランニング」と呼んでいます。そこでの前提は、「変えられない環境がある一方で、十分な利害関係者のチームを構成すれば、利害関係者たちの協働によって、未来を変えたり、選ぶことが可能である」というものです。

南アの4つのシナリオの紹介をしましたが、「そのどれが起こっても対応できるようにしておこう」というのではなく、利害関係者たちの協働によって、「どのシナリオは避け、どのシナリオが生じる可能性を高めるか」に影響を及ぼし、まさに未来を共創する形で、アパルトヘイト後の南アの平和的移行は成し遂げられたのです。

私もあちこちの地域や組織の「未来づくり」のお手伝いをしている中でも、こういった手法をもっと学びたい、実践できるようになりたいと思っています。同じように思われる方も多いのではないでしょうか。

「変容型シナリオ・プランニング」では、「シナリオ手法」「対話」「Uプロセス」など複数の有効な手法を組み合わせることによって、それぞれの手法のメリットと統合したメリットを創り出します。

来月、アダム・カヘン氏が来日し、この「変容型シナリオ・プランニング」を学べる機会を設けてくれますので、ご案内します。私も参加します。アダムと会うのは久しぶりですが、とっても楽しみです!よかったらぜひご一緒に。

~~~~~~~~~~~~ここからご案内~~~~~~~~~~~~~~

「トランスフォーマティブ・シナリオ・プランニング ~行き詰まりを乗り越え、共創する未来へ!~」

日程
2014年11月6日(木)10:00~21:00
2014年11月7日(金)09:00~20:00 (20:30-22:30 懇親会)
2014年11月8日(土)09:00~16:30
※3日間集中セミナー(通い形式)

会場
東京・表参道(「こどもの城研修室 9F 」表参道駅 徒歩8分)
※懇親会会場はワークショップ会場の周辺を予定しています

定員
50名程度(本申込み先着順)
※ご入金後の受講票の発行をもって本申込とさせていただきます

対象
・企業の経営者・経営企画などに携わる方
・官公庁で企画や戦略策定などに携わる方
・社会や環境課題に取り組むNPOや財団等に務める方
・人事・組織開発の戦略を考える方
・ファシリテーターや場づくりに携わる方
・トランスフォーマティブ・シナリオ・プランニング(変容型シナリオ・プラン ニング)を学びたい方

プログラムや詳細についてはこちらをご覧下さい。

~~~~~~~~~~~~ご案内ここまで~~~~~~~~~~~~~~

通常なら、飛行機代をかけて海外でしか受講できないプログラムを、通訳付きで日本で受講できる、めったにないチャンスです。どうぞお見逃しなく~!

 

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