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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2014年05月21日

レスター・ブラウン「世界は中国を養えるのか?」 (2014.05.21)

食と生活
 

EICネット「環境さんぽ道」のエッセイを4ヶ月に1度書かせてもらっています。

イーズの「執筆・連載コーナー」からもご覧いただけます。
http://www.es-inc.jp/library/writing/index.html

2014年1月夢は「バラトン・グループ」日本版!

2014年5月つねに全体像を考える~80歳を迎えたレスター・ブラウン

写真もいっぱい載っているので、よかったらぜひご覧下さい。

さて、そのレスターの研究所からのプレスリリースを、実践和訳チームが訳してくれましたので、お届けします。(践和訳チームは、世界の英語情報を日本語で伝えるため、ボランティアとして作業をしてくれています。本当にありがとうございます!)

「私たちは、食糧供給が厳しくなっている現状を変えることができるのだろうか、それとも、この世界は、食糧価格が上昇し、政情不安が広がる未来に向かって進んでいくのだろうか」--日本は、私たちは、私たちの地域や社会は、どう対応していく必要があるのでしょうか?

グラフはこちらからご覧下さい。

~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~

アースポリシー研究所リリースプランBアップデート

世界は中国を養えるのか?
レスター・R・ブラウン
http://www.earth-policy.org/plan_b_updates/2014/update121

中国が突如、世界の穀物輸入国上位に躍り出てきた。米国農務省の最新予測によると、2013年~14年期、中国の穀物輸入量は2,200万トンという膨大な量になる。わずか8年前の2006年まで、中国では穀物が余り、1,000万トンが輸出されていた。なぜこれほどまで劇的に変化したのだろうか。

食糧安全保障が中国人にとっていかにデリケートな政治問題なのかを私がしっかりと理解するようになったのは、20年前に「だれが中国を養うのか?」(WhoWill Feed China?)という題で記事を書いてからだ。

当時、中国の指導者は皆、3,600万人もの国民が餓死した1959年~61年の大飢饉を生き延びた人たちだった。中国政府は、同国に国民を養う能力があるのかという私の指摘に対して表向きは批判しながら、水面下では農業政策の改革に着手していた。その一つが、現在行き詰まりを見せている、穀物の自給自足政策である。

2006年以来、中国の穀物消費量は年間1,700万トンの勢いで増大し続けている(www.earth-policy.orgのデータ参照)。年間1,700万トンというと、大局的に見れば、オーストラリアの小麦年間収穫量2,400万トンに匹敵する。

人口増加は鈍化しているにもかかわらず、穀物の消費量がこれほど増加しているのは、主に、膨大な数の中国人の食生活レベルが向上し、より多くの穀物が飼料として必要な肉や牛乳、卵を消費しているからだ。

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【グラフ】中国の穀物純輸入量 1960年~2013年

【縦軸】100万トン

【グラフ内側】注:純輸入量は輸入量から輸出量を差し引いたもの。

出典:米国農務省の資料をもとにアースポリシー研究所が作成

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2013年、世界全体で推定1億700万トンの豚肉が消費された。そのうちの半分を消費したのが中国だ。人口14億人の中国は現在、米国全体で消費される豚肉の6倍を消費している。

とはいえ、中国で近年、豚肉消費量が急増しているものの、中国人一人当たりの食肉全体の消費量は年間合計54キロ程度で、米国の約107キロの半分にすぎない。しかしながら、中国人も世界中の多くの人々と同じように、米国人のようなライフスタイルに憧れている。

中国人が米国人と同量の肉を消費するには、食肉の供給量を年間約8,000万トンから1億6,000万トンへとほぼ倍増させる必要がある。1キロの豚肉を作るにはその3倍から4倍の穀物が必要なので、豚肉をさらに8,000万トン供給するとなると、少なくとも2億4,000万トンの飼料用穀物が必要になる。

それだけの穀物がどこから来るのだろうか。中国では、帯水層が枯渇するにつれて、農業用の灌漑用水が失われつつある。たとえば、中国の小麦生産量の半分とトウモロコシ生産量の1/3を産出する華北平原では、地下水の水位が急激に低下しており、年間約3メートル低下する地域もあるほどだ。

その一方で水は農業以外の目的に利用されるようになり、農耕地は減少して住宅用地や工業用地に姿を変えている。穀物生産高はすでに世界有数レベルに達しており、中国が国内生産高をこれ以上増やす潜在能力は限られている。

2013年に中国のコングロマリットが世界最大の養豚・豚肉加工企業、米国のスミスフィールド・フーズ社を買収したのは、まさに豚肉を確保する手段の一つだった。

また、中国政府がトウモロコシと引き換えに30億ドル(約3,090億円)の融資契約をウクライナ政府と結んだのも、ウクライナ企業と土地利用の交渉を行ったのも、その一環である。こうした中国の動きは、私たち人類すべてに影響を与える食糧不足がもたらした新たな地政学を実証したものだ。

食糧獲得に奔走しているのは中国だけではない。中国以外の国々でも推定20億人の食生活が豊かになり、飼料穀物を多く必要とする畜産品の消費量が増えている。人口の増加、生活レベルの向上、さらに、米国で生産された穀物の1/3が自動車燃料用エタノールに転換されている現状があいまって、世界全体の穀物需要は年間4,300万トンという記録的な勢いで増加している。これは、10年前の年間増加分の2倍である。

現在、世界中の農業従事者が、急増する穀物需要に対応しようと悪戦苦闘している。以前、穀物の供給が厳しくなったときは、穀物の価格が上昇し、現場は生産量を増やすことで対応した。現在の状況は当時よりもはるかに複雑だ。水不足や土壌の侵食、農業先進国における穀物収穫量の頭打ち、さらには気候変動で、穀物生産への脅威は高まるばかりである。

中国は、穀物輸入量の増加に伴い、日本やメキシコ、エジプトなど数多くの穀物輸入国と直接競合している。その結果、世界中で食糧の価格が上昇するだろう。世界経済の下層部に位置する人たち(今日を生き延びるだけですでに精一杯な人たち)にとっては、さらに暮らしにくい世の中になるに違いない。食料価格の上昇で苦しむ低所得世帯は、日々の食料を買う余裕さえなくなるだろう。

世界は豊かな時代から乏しい時代へと移り変わりつつある。中国が膨大な量の穀物を国外に求めようと方針を変えた今、私たちは自分たちが食糧問題で窮地に立たされていることを認識せざるを得なくなっている。私たちは、食糧供給が厳しくなっている現状を変えることができるのだろうか、それとも、この世界は、食糧価格が上昇し、政情不安が広がる未来に向かって進んでいくのだろうか。

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レスター・R・ブラウンは、アースポリシー研究所所長であり、『仮邦題:新境地を開く――わが人生』(Breaking New Ground: A PersonalHistory, W.W. Norton, 2013)および『仮邦題:満員の地球、空っぽのお皿』(Full Planet, Empty Plates)の著者である。追加データはEPIの参考スライドを、さらなる資料はwww.earth-policy.orgをご覧ください。

メディア:
リア・ジャニス・カウフマン
電子メール:rjk[at]earthpolicy.org
電話:(202)496-9290 内線 12

研究:
ジャネット・ラーセン
電子メール:jlarsen[at]earthpolicy.org
電話:(202)496-9290 内線14

アースポリシー研究所
1350 Connecticut Avenue, NW, Suite 403, Washington, DC 20036
http://www.earth-policy.org

【訳注:1ドル=103円としました。】

(翻訳:保科京子/チェック:古谷明世)

 

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