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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2014年03月31日

WWF小西雅子さんレポート「IPCC 温暖化の影響と適応の報告書発表にあたって」 (2014.03.31)

温暖化
 

横浜市で3月25日から開かれていた国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の総会が終わりました。地球温暖化に関する最新の報告書を了承し、プレスリリースが出されています。
http://ipcc.ch/pdf/ar5/pr_wg2/140330_pr_wgII_spm_en.pdf

徹夜の討議が続いたと報道記事にありますが、この会合に参加していたWWFの小西さんが送ってくれた報告を、快諾を得て、ご紹介します。どんな会合なのか、どんなようすだったのか、伝わってきます。小西さん、ありがとうございます!

~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~

IPCC 温暖化の影響と適応の報告書発表にあたって

2014年3月31日に、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次評価報告書の第2作業部会(※)から、温暖化の影響と適応に関する報告書が発表されました。これは2007年に第4次評価報告書が発表されてから現在までの7年間の新たな科学の知見をまとめたもので、国連の場で各国政府が温暖化対策の交渉をおこなう際に、議論のベースとなる重要な科学の報告書となります。

報告書の本体は膨大な量とな るため「政策決定者向け要約」が作られます。その要約を作る際には、世界190か国の政府代表団が集まって、一文一文レビューして承認していくというプロセスを経ます。横浜で3月25日から29日まで開催されたIPCC第38回総会は、まさにこの要約を承認していく場であり、その作業を経て本日31日に報告書の発表となりました。WWFジャパンからは山岸尚之と小西雅子が参加して、この報告書誕生までを追いました。

新報告書では、はじめて、2100年までの気温上昇が2℃に抑えられた場合と、4℃になってしまった場合の両方の影響が、比較できる形で示されました。4℃になった場合の影響は、洪水や干ばつなどの異常気象、人の健康や食物生産へのダメージも計り知れな いことがわかります。

実は、今のペースで排出を続けるならば、我々は4℃上昇への道をまっしぐらに進んでいきます。つまりこの4℃のシナリオはいわばBAUシナリオ、私たちが何も根本的な対策をとらずにいった場合の2100年の世界は、この報告書の4度のシナリオが予測する危機的な温暖化の影響を受けることになります。

新報告書は、前回の第4次評価報告書よりももっと高い確信をもって、様々な影響の予測を示しています。

1)もっとも人々の生活に欠かせない水が温室効果ガスの濃度上昇に伴って甚大に不足していくリスク

2)沿岸部と低地における洪 水や海岸浸食のさらなるリスク

3)穀物への深刻な打撃

4)生物多様性の喪失リスク

5)都市における暑熱や大雨、洪水、土砂災害、大気汚染、干ばつ、水不足などが都市経済や生態系へ及ぼすリスク

このようにセクターごとに示されたリスクは、いずれも4度などの気温上昇が高いシナリオでは、非常に深刻な影響が予測されています。一方、2度など気温上昇を低いレベルで抑えるシナリオでは、影響は予測されるものの、4度シナリオに比べてはるかにリスクが低くなることも明示されています。

またアジア、アフリカ、小島嶼国、それに海洋など地域ごとのリスクと適応について、前回の第4次評価報告書よりもより詳細な影響と予測がされています。さらに今後の気温上昇が2度の場合と、4度の場合について、影響の差が明示されたのが特徴です。いずれも4度の場合に比べて、2度の方がはるかに影響が抑えられることが明示されています。4度の場合の影響予測は、たとえばアジアにおいて熱中症や洪水のリスクが"非常に高い"と示されるな ど、じっくり読めば読むほど怖くなるような影響予測がされています。

しかし、温暖化の影響に積極的に準備していく、適応の手段をとった場合、予測される影響が、どの程度軽減されるかについても初めて明示されました。

今回の報告書の肝は、大胆に言ってしまえば、温暖化の影響について、以下の3つを述べていると思います。

(1)今後の気温上昇は避けられないので、いずれにしても適応の準備をしなければならない。

(2)21世紀末の気温上昇が4度になってしまう場合と、2度に抑えられる場合では、予測される影響に大きな差がある。

(3)適応を行えば、影響は少なからず軽減することができる。ただし4度も気温上昇する場合には、適応も不可能となるケースが多くなる。

穀物などの食物や、水、都市や地域のインフラなど、いろいろな分野への影響について、今の科学で分かることが示されていますので、ぜひお手にとって報告書の要約を一 読してみてください!特に自治体や公共インフラの方々は必見だと思います。正面から温暖化に向き合って、対応すべき時が来たと言えるでしょう。

なお、世界190か国から政府代表団が集まっ て、報告書の要約を、会期を延長して6日間にわたって一文一文チェックした会議の模様については、ブログを書いていますので、よろしければ ぜひご覧ください!

IPCCは、 今の科学でわかることについて、なるべく多くの科学者たちの同意を得たものだけをまとめていく報告書です。大国の利害がぶつかる国際交渉 のベースになる報告書ですから、世界中の政策決定者が納得できる過程を経て、まとめなければなりません。ですので会議の進行も非常に公明 正大に行われています。

会議が始まる前に、要約の中 に、「適応のコスト」や「気候変動の経済的コスト」が入っている章があり、話題になっていました。しかし、コストを示す研究報告はまだ少 なく、しかもさまざまな前提条件次第で、結果がまったく変わってきてしまいます。会議ではこれらの事項を要約に反映させるべきか、などについてかなり各国政府間で応酬がありました。しかし、その意見の内容も「科学の報告書なのだから、一つや二つの研究の成果だけでは、とて も多くの同意を得たとは言えない。それでも要約に書きこむならば、その研究の前提条件や限界について言及するべきだ。」などといった意見が多く出され、結果として正確さを期した表現となりました。

普段、気候変動枠組条約において、国益むき出しの交渉官を見慣れている私たちにとっては、その同じ国々が、"建設的に"議論に貢献している国々を見るのは、新鮮でし た(?!)。改めてIPCCの報告書がまとめられる過程に信頼の念を強くした次第です。

1週間後にはすぐに今度は、温暖化の政策をまとめる第3作業部会の報告書が発表されます。2013年9月の温暖化の科学の報告書、今回の2014年3月の温暖化の影響の報告書、それに4月の政策の報告書、そして最後に9月にこの3つをまとめた統合報告書が発表されて、今回の第5次評価報告書のすべての発表となります。WWFはこれらの会議にも参加して報告書発表を速報していきます。

※  IPCCの評価報告書は、3つの作業部会の報告書から構成され、今回の第2作業部会は「影響、緩和、脆弱性」に焦点を当てた報告書となります。第1作業部会の報告書「自然科学的根拠」は2013年9月にすでに発表となり、第3作業部会の報告書「気候変動の緩和」は2014年4月に発表予定です。

WWFジャパン小西雅子

~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~

上記の文中に出てくるブログはこちらです~。臨場感たっぷりです!

横浜でIPCCの会議が始まりました(2014年3月25日)
http://www.wwf.or.jp/staffblog/2014/03/ipcc-3.html

横浜にて IPCC総会の会場より(2014年3月27日)
http://www.wwf.or.jp/staffblog/2014/03/ipcc-4.html

科学的な報告書の裏にある「人」の声(2014年3月28日)
http://www.wwf.or.jp/staffblog/2014/03/post-763.html

IPCC横浜会議 空席が目立つ夜の会場から(2014年3月28日)
http://www.wwf.or.jp/staffblog/2014/03/ipcc-5.html

IPCC横浜会議終了!報告書が発表されます(2014年3月31日)
http://www.wwf.or.jp/staffblog/2014/03/ipcc-6.html

 

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