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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2014年03月27日

地域の経済と幸せを考えるために~「地域の経済と幸せ」プロジェクトの報告と今後 (2014.03.27)

新しいあり方へ
 

JFSでは日立環境財団の助成をいただいて、「地域の経済と幸せ」プロジェクトを進めてきました。
http://www.japanfs.org/ja/projects/local_wellbeing/index.html

上記のコーナーには、いくつかの先進的な自治体の取り組みの紹介のほか、ヘレナ・ノーバーグ=ホッジさんへのインタビュー動画などもあります。

今年度のプロジェクトの集大成としてのシンポジウムで、私が発表した「地域の経済と幸せプロジェクトの報告と今後」、JFSニュースレター記事としてアップされていますので、ご紹介します。

地域の経済と幸せを考える上でのヒントや切り口を少しでも提供できたらと思います!

~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~

JFS ニュースレター No.138 (2014年2月号)

「地域の経済と幸せプロジェクトの報告と今後」

http://www.japanfs.org/ja/news/archives/news_id034718.html
(図はこちらからご覧下さい)

2013年度、JFSでは「地域の幸せ指標」を1つのテーマとして取り上げて、取り組んできました。2014年2月6日に開催したシンポジウム『地域から幸せを考える』での、JFS「地域の経済と幸せ」プロジェクトの研究成果発表内容をお届けします。

「GDP(国内総生産)では幸せは測れない」という考えや実践は、日本だけではなくて世界的な大きな流れとなっています。日本の地域でも、真の豊かさや幸せを測ろうという動きが数多く展開されています。
http://ishes.org/news/2012/inws_id000687.html

そもそもGDPの定義は「国内で新たに生産され、市場で取引された物やサービスの付加価値の合計額」です。「市場で取引された」ということですから、たとえば、畑で野菜を作ったとして、市場に持って行って売ればGDPに貢献したことになりますが、「野菜がいっぱい取れたから食べない?」と近所にお裾分けをしたとしたら、市場を通していないので、GDPには貢献しません。

全国で地元学を展開されている水俣市の吉本哲朗さんは、「経済には3つの経済がある」とよく話されます。お金でやり取りをする「貨幣経済」、自分たちで作る「自給経済」、そして、もらったりあげたり、お裾分けしたりという「贈与経済(バーター経済)」です。言うまでもなく、GDPが測っているのは貨幣経済の部分だけです。

GDPのもう1つの特徴は、「新たに生産された」ものを測ることです。「今年生産され、市場で売れたのはどれぐらいか」です。畑で野菜を作ったとして、その年に収穫した野菜はGDPに繋がりますが、その野菜を生み出した土はGDPには関係ありません。つまり、ストックではなく、フローを測っているのです。

あるストックがあるからこそフローが生まれる、つまり、豊かな土があるからこそ、野菜ができるわけですが、そのストック(土)の豊かさは関係なく、フロー(今年の収穫物)だけを測るのがGDPです。

極端な話、化学肥料や農薬、殺虫剤をいっぱい撒いて、ある年の生産量を大きく増やすと、GDP的にはプラスです。しかし、そのせいで土地が痩せて次の年から作物が育ちにくくなるという、ストックに対するマイナスはGDPには現れません。このストックとフローの区別は非常に重要だと考えています。

ちなみに、2009年に出された「経済パフォーマンスと社会の進歩の測定に関する委員会」による報告書(ステグリッツ報告)の12の提言の3つめは、「提言3:所得と消費を富と一緒に考えること」です。所得や消費というフローだけでなく、富というストックを一緒に考えなさいということです。

また、ストックを測ろうという試みとして、2012年6月に国連持続可能な開発会議(リオ+20サミット)で「包括的な豊かさの指標」(IWI)が発表されています。人工資本(道路、機械、インフラ等)、人的資本(教育やスキル)、自然資本(土地、森、石油、鉱物等)などの資本を計算するもので、フローであるGDPでは他国に抜かれつつある日本も、IWIの総額では米国に次いで2位、人口一人当たりでは世界1位だそうです。

ストックとフローを考えるにはバスタブを想像して下さい。蛇口から入ってくる水(インフロー)と排水栓から流れ出て行く水(アウトフロー)があり、その差が作り出す水の蓄積がストックです。ストックそのものをいじることはできないので、インフローやアウトフローをいじることになります。たとえば、雇用者数というストックを増やすには、新規就業者(インフロー)を増やす、離職者(アウトフロー)を減らすことになります。

もう1つ、同じフローでも「ストックを豊かにするフロー」と「ストックを枯渇させるフロー」を区別することも大事です。先ほどの例でいえば、土地を痛めつけながら作られた農作物(フロー)はストックを枯渇させるフローです。一方、有機農業のように土を豊かにしながら作られる農作物はストックを豊かにするフローです。

私たちは今回こういった観点から、内外の幸福度指標を調べました。経済的側面を含む幸福度指標を調べ、「個人-地域」「ストック-フロー」という2軸でプロットしてみました。

まだ暫定的な分析ですが、日本の地域の幸福度指標を16集め、そのうち住民に対する意識調査を行っている指標10のうち、経済項目の入っている7つについて、経済に関する全ての質問内容を分類、プロットした結果が図1です。「収入」を測定しているものが 多くありました。

図1 分析結果:日本の指標(暫定版)
http://www.japanfs.org/ja/news/archives/news_id034718.html

海外の指標のうち、住民意識調査の項目が手に入った5つの指標を調べた結果が図2です。「雇用」や「資産」という個人のストックを測っているものが多く、個人のフローを測っているものはやはり「収入」が多かったです。また、地域の建物や資産、産業など、地域のストックを測るものも多くありました。

図2 分析結果:海外の指標(暫定版)
http://www.japanfs.org/ja/news/archives/news_id034718.html

全体的に、フローよりストックを測ろうという傾向を強く感じましたが、もともとフローを測っているGDPに対する代替案だとしたらもっともかなと思います。今回調べた住民意識調査を通じての幸福度指標では、地域のストックにつながるフローを測っているものはありませんでした。また、「ストックを豊かにするか、枯渇するか」という視点でフローを区別して見ているものもなさそうでした。

経済的側面を考える際にもう1つ大事なのは、あるお金の動きがあったとき、そのフローが多層的なストックに影響を与えている可能性まで考えることです。地元のファーマーズマーケットで買い物をする人は、スーパーで買い物をする人よりも10倍多く会話をしていたという社会学の調査結果があります。

買い物という行為でお金が動いたということでは同じだとしても、それに付随する会話が10倍だとしたら、きっと笑顔や幸せ、その地域に対する信頼や安心感、絆などへの影響もきっと異なることでしょう。金銭的なやり取りだけではなくて、幸せにつながるさまざまなものも増やしている可能性も考慮に入れたいと思います。

地域経済を活性化させようと、地方の自治体はよく工業誘致をします。工場誘致ができてお金が入ったとしても、部品は域外で作っている、給料をもらった従業員は域外で作られたものを買う、ということだと、そのお金は次の瞬間に他の地域や海外に出て行ってしまい、地域は通過するだけになります。どれだけのお金が地域に入ったかだけでなく、そのうちどれだけが地域に滞留し、循環するかという視点が大事ではないかと思います。

それを見える化しようとする1つのアプローチが「地域内乗数効果」です。同じ1万円が地域に入ったとして、その8割が地元のお店での買い物などを通じて地域に残る場合と、2割しか地域にとどまらなかった場合とを比べると、最終的には5倍近くの違いを生み出します。

ですから、地域としては「漏れバケツ」にいくら水を注いでも残りませんから、漏れをふさいで、できるだけ地域の中で回すことを考えることが肝要です。イギリスのトットネスでは、この考え方を使って「現在、域外に漏れているお金のうち、これぐらいを地域内で回せば、これくらいの効果がある」という研究を行っています。

日本でも、多額のお金が食糧やエネルギーと引き替えに域外・国外に漏れ出ています。それを「地域でできるだけ回していけるようにしよう」という考え方と事例を紹介した「里山資本主義」という本がベストセラーになっています。

その観点から、とても興味深く思ったのが、秋田県知事の今年度初めの挨拶です。「今までは雇用と言うとどこでも工場誘致と言っていたが、工場誘致はもう死語であります」と述べています。よそに頼っても外に漏れ出ていくのではダメだ、自分たちの地域にある資源をどうやって使って、地域の中で回していくかが大事だという考え方なのだと思います。

地域の幸せを経済面から考える際に、ストックを豊かにする地域のフローは何か、フローとして入ってきたお金は地域でどのくらい回り続けているのか、そして、地域経済が回ることでお金以外に創り出されるものは何か――こういったことを考え、測れないか、と思うのです。

また、地域の経済と幸せをめざす具体的な取り組みとして、地域の事業者に投資をする「スローマネー・ムーブメント」や、CSA(地域が支える農業)の産業版であるCSI(community-supported industry)など、世界では非常に面白い動きがあちこちで始まっています。

私たちの今後のプロジェクトでも、こういった海外の取り組みの調査や紹介も含め、地域の経済と幸せのつながりと測り方について、さらに考えを深め、地域や自治体の幸せ指標や取り組みに反映していただける知見を構築していきたいと願っています。

みなさんは、地域の幸せを支える地域経済の側面をどのように考え、取り組んでいけばよいと思いますか? ディスカションのコーナーを設けましたので、ぜひご意見をお聞かせください。

(コメントはこちらからどうぞ)
http://www.japanfs.org/ja/news/archives/news_id034718.html

~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~

地域の経済と幸せを考えるプロジェクト、これからも続けていきます。考える枠組みや事例など、ご紹介していきますね!

 

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