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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2013年11月13日

紙の使用量と環境負荷を減らす「印刷を消せるコピー機」 (2013.11.13)

新しいあり方へ
 

環境・エネルギーの分野での取り組みを始めて10数年、世界の知見や情報を日本語にして日本に伝えたり、日本の取り組みを英語で世界に発信したり、持続可能な社会と未来に関わる分野で、少しでも日本と世界をつなぐ役割を果たしたい、と活動してきました。

最近では、ただ情報を翻訳して伝えるだけではなく、もうちょっと積極的に「日本のすぐれた技術」を世界に紹介し、広げるお手伝いにも力を入れています。具体的なソリューションを伝えていくことも実効性のあることであり、また求められていることだと感じるようになったためです。

そういう思いで、今年9月に開催された、世界の持続可能性の分野の有識者や研究者、政府や産業、NGOの関係者が集うバラトン合宿で、ある製品の紹介をし、「ぜひ環境の専門家としてのフィードバックをもらいたい」とお願いしたところ、とても高い評価と役に立つフィードバックをたくさん得ました。東芝テックが開発した"印刷を消せるコピー機"、「ペーパーリユースシステム Loops」です。

日本の企業でも「オフィスでの環境負荷低減活動を進めて、最後に残るのが紙だ」とよく聞きます。昔からオフィスの「ペーパーレス化」が叫ばれていますが、実際には紙の使用自体をなくしたり大きく減らすのは難しいことが多く、紙への取り組みの多くは「両面印刷」や「裏紙利用」、「使用済みの紙のリサイクル」です。

もっとも、「両面印刷」がほぼ常識となった現在、「これが紙削減の取り組みです」というのは難しいですよね。「裏紙利用」は、確かに使う紙の量を減らせますが、両面印刷がデファクトになると、たまたま最後のページが片面で終わったらという具合に、裏紙が出る割合もかなり小さくなります。「古紙のリサイクル」は大事な取り組みですが、オフィスで使う紙の量を減らすことにはなりません。

東芝テックの「ペーパーリユースシステム Loops」は、熱を加えることで消せるトナーで印刷する複合機(コピー・印刷・ファックス・スキャン)と、印字を消色することで、コピー済みの用紙をふたたびコピー・印刷用紙に戻す消色機からなるシステムです。
http://www.toshibatec.co.jp/products/office/loops/index.html/

このシステムを使うと、「目安として5回」ぐらい、同じ用紙をコピー・印刷用紙として使うことができます(使い方などにもよるそうですが、見せてもらった中には、7回使った用紙でも問題なく使えるものもありました)。

以前、私が代表を務めているNGOのジャパン・フォー・サステナビリティ(JFS)の事務局が、このペーパーリユースシステムの前身機をお借りしていたことがあります。内部用の資料などを何度も同じ用紙にコピーすることができ、コピー紙の使用量を劇的に減らすことができました。

今回、新システムについて説明していただいて「一歩も二歩も進化した!」と思いました。まず、消色機で印字を消すまえに、自動で両面のスキャンをして、USBやネットワーク経由で自分のPCやサーバーに保存することができます。「あ、要るものまで消しちゃった!」ということもなくなります。

また、消色しながら、リユースできる紙か、できない紙か(消せない印刷やメモがあるなど)を自動で判別して、それぞれ別のカセットに入れてくれます。「ええと、これは......」と紙を裏返しながら、裏紙を手で分別する手間もいりません。

こうして用紙をリユースすることで、印刷枚数はそのままで、使う紙の枚数は減らせます。単純に計算して、1枚の用紙を5回使えば使用枚数は5分の1、廃棄する用紙の枚数も5分の1ですから、用紙の購入・廃棄の費用も5分の1になります。

このペーパーリユースシステムによって、どのくらいのCO2削減ができるのでしょうか? LCA的には、「用紙製造時のエネルギー」「消色時のエネルギー」「使用時のエネルギー」「素材・製造・輸送・廃棄・リサイクル」のそれぞれを計算します。

一般的な複合機と比べると、「使用時のエネルギー」「素材・製造・輸送・廃棄・リサイクル」は同じぐらいですが、「用紙製造時のエネルギー」が5分の1となります(1枚の紙を5回使うとして)。その代わり、「消色時のエネルギー」が必要になります。紙を製造する過程では大量の電力、水などを使う(日本の産業別CO2排出量を見ると、製紙業は第5位です)ため、トータルでみると、一般的な複合機を使う場合に比べて、約50%のCO2が削減できるという試算です。

また、用紙をリユースすることで、CO2だけでなく、水使用量も大きく減らすことができます。ウォーターフットプリントをみると、水を使用するのは主に紙の製造時ですから、ここが5分の1になれば、水という側面での環境負荷も5分の1にすることができます。

開発時から担当されてきた方にお話をうかがいました。

この開発プロジェクトがスタートしたのは2008年。コピー機の環境対応は、「消費電力の削減」がメインになることが多いのですが、LCA的に見たときに紙製造時のCO2が多いことに注目しました。「使う紙の枚数を減らしたい」→「紙が繰り返し使えるようになればよい」→「トナーの色が消せればよい」という発想で、「色が消せるトナーによるコピー・印刷機+消色機」の開発が始まったそうです。

まずは技術開発です。「消えるインク」といえば、思い出すものがありませんか? そう、パイロットの「フリクションペン」です。フリクションペンで書いたものはこすって消しますよね。あれはある一定の熱で色の消えるインクを使っており、こすることによる摩擦熱で消しているのです。

(余談ですが、私はフリクションペンで書いたメモの上に、熱いコーヒーカップを置いてしまい、まあるくメモを消してしまった(!)ことがあり、熱が鍵であることを実感しました......。ちなみに、そのとき私は「もしかして?」と、メモ用紙を冷凍庫に放り込み、メモの内容は無事戻ってきたのでした......)

フリクションペンのインクのように、熱を加えることで消えるインクはありますが、通常の複合機のコピー・印刷では、熱でトナーを定着させます。つまり、トナーを用紙に定着させるための温度と、トナーの色を消すための温度の差を作り出さなくてはなりません。「色が消えてしまう温度よりも低い温度で用紙に定着するトナー」と、低い温度でトナーを定着させる装置の開発が難題でした。

ブレークスルーはミクロンの世界で起こりました。十数ミクロン小さなカプセルの中にさらに小さなカプセルがあり、その中に発色剤、発色させる成分、変色温度調整剤の粒子を包みこむという構造のトナーを作ったのです。この消せるトナーは、印刷時は青色ですが、所定の温度に加熱することで、無色透明になります。

ちなみに、消色機では、消せるトナーで印刷したものの他に、フリクションペンで書いたものも消すことができますから、印刷した書類にチェックや書き込みをしても、リユースすることができます。

一方、制約や課題としては、フリクションペンと同じく、消すことができるので、法的な文書には使えないことがひとつ。また、トナーの色がブルーなので、黒色の印刷も必要ということなら、通常のプリンターと2種類の設置が必要になるでしょう(ブルー以外の色のトナーについては開発中とのことです)。

加えて、コピー印刷機のほかに、消色機が必要となるため、通常よりもスペースをとります。大きなオフィスならよいですが、小さなオフィスでは置く場所の制約から入れづらいかもしれません。

冒頭に書いたように、バラトングループの合宿で、このペーパーリユースシステムの説明用パンフレットなどを配り、休憩時間などに個別にフィードバックを聞いてみたところ、たくさんの称賛と期待の声が寄せられました。同時に、主に情報伝達や説明方法について、環境専門家の視点からのさまざまなインプットも得られ、今後の製品コミュニケーションやマーケティングにも役立つ意見交換ができました。

そのひとつは、化学物質の点です。特別なトナーということで、カプセルや発色剤は有機物なのか、それと、重金属系の物質なのか、それらは消した後どこへ行くのか、通常の機種と比較して有害物質は減っているのか等の質問が寄せられました。

これに対しては、「トナーの成分は、消去後も、透明化されたトナー画像として、紙上に残ります。内部成分については独自製品のため公開できないのですが、LOOPSは様々な安全性の確認をおこなっており、通常のトナーおよび複合機製品と同一の各国基準を満たしています」とのこと。質問を寄せてくれたバラトンメンバーにも伝えようと思います。

このペーパーリユースシステムは、日本では今年の6月に本格発売が始まりました。メディアにも多数取り上げられ、環境意識の高い企業を中心に、市場の感触も手応えがあるとのこと。2011年に、「地球温暖化防止活動環境大臣表彰」を、今年「グリーンITアワード2013経済産業大臣賞」などを受賞したことも認知につながっているようです。

そして、まさに現在開催中の国連気候変動枠組条約第19回締約国会議(COP19)での展示会にも、37のブースの出展者1社として東芝テックが選ばれ、このペーパーリユースシステムが展示されているとのこと。環境意識の高い世界中からの参加者に知ってもらえる大きなきっかけとなっていることでしょう。

「オフィスの用紙の約90%は、使用後約1週間以内に廃棄されている」という調査結果があります。古紙をリサイクルすることも大事ですが、使用する紙の枚数そのものを減らすことも大事です。それによって、森林資源、水、CO2といった環境負荷を大きく改善することができます。

加えて、自動でスキャンしてくれるという業務上の利便性や、リユースのできる紙/できない紙を自動的に判別してそれぞれのカセットに入れることで、実は「リサイクル用の紙を集める」という機能も果たしているなど、「これは世界にもぜひ知ってほしい!」と思う技術です。

私も仕事柄、打ち合わせで見せるための資料をコピーしたり、自分の講演時にも手元で参照するためにパワーポイントを印刷しておく等、コピー・印刷をよく使います。でも、最近「マイ印刷枚数」は大きく減ってきました。PCの画面で資料を見てもらったり、講演やワークショップをするときも、自分のパワーポイントもiPadに送って、手元でその縮小版を見ながら進行するようになったからです。

このような技術やくふうで印刷そのものを減らすことはこれからも進んでいくでしょうし、広がっていくことでしょう。そもそも印刷が必要なのか、印刷しなくてもすむのか、を考えたあと、それでも印刷・コピーが必要なものは必ずありますから、その場合には、紙を何度も使えるシステムを使うのがいいなあと思います。

バラトンメンバーに「さすが、技術の国・日本ですね!」と言ってもらえたこのシステムが、国内でも世界でもどんどんペーパーのリユースを進めて環境負荷を下げていくこと、そして、日本発の環境負荷低減に資する技術がどんどん開発されて、世界にも広がっていくことを期待しています!

 

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