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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2013年07月26日

「エネルギー自立型の暮らし」に向けて~自分の問題としてエネルギーを考える (2013.07.26)

エネルギー危機
新しいあり方へ
 

明日は、福井県小浜市におじゃまして、スーパーサイエンスハイスクールに指定されている福井県立若狭高等学校の「SSH 環境・エネルギー学会 in OBAMA」に参加させてもらうことになっています。

この「環境・エネルギー学会」は、福井県内および北近畿地区をはじめとする全国の高校生が若狭に集い、環境やエネルギー問題に関する議論や研究活動の成果を発表し、科学者らとパネルディスカッションで意見を交わし、環境やエネルギーに対する理解、成果の発信力等を高める、というものです。

高校生とのディスカションには4人が登壇する予定で、私もその一人です。事前に高校生にエネルギーや私の考えについてわかりやすく説明する資料を、と求められ、大阪ガス株式会社エネルギー・文化研究所(CEL)の冊子の102号に寄稿した文章を、掲載先の許可を得てお届けしました。よろしければご覧下さい~。

(メール配信の読みやすさのため、改行を加えさせてもらっています)

~~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~~

大阪ガス株式会社エネルギー・文化研究所(CEL)102号コーナー名:半歩先の生活情報 <エネルギー・環境編>

「エネルギー自立型の暮らし」に向けて~自分の問題としてエネルギーを考える

(インタビュー:2012年7月26日)

(リード)東日本大震災以降、家庭で使うエネルギーの今後に関心を寄せる人たちが増えています。そこで今回は市民目線で国策のエネルギー問題に取り組み、「わが家のエネルギー自立」を提唱する環境ジャーナリストの枝廣淳子氏に「暮らしを支えるエネルギーの手綱を自分で握る」ために、今できること、すべきことなどについて伺いました。

○「エネルギー選択の自由」の意味を自覚する

ーこれまで、意識せずにエネルギーを使ってきた生活者の意識も、東日本大震災以降ずいぶん変わってきましたね。

 日本のエネルギー政策は、これまで主に国やエネルギー事業者主体で進められ、生活者がそこに口をさし挟む余地はなく、生活者自身もまたそれを強く求めてはきませんでした。しかし東日本大震災は私たちに「コンセントの向こう側」に何があるかを明らかにし、それまで当たり前に思っていた快適な生活の有り難さと脆さを思い知らされました。

とくに首都圏では計画停電が実施され、電力供給者の都合で利用者が振り回されるという経験をした多くの人たちが「電力を自分で選べればいいのに」と思い始めました。そうした流れを踏まえると、国民がこれからエネルギーに向き合う態度として大事なのは、「これはどうなっているのだろう?」といった小さなクエスチョンも看過せず、まずは知り、考えることだと思います。

ー先ごろ経済産業省は家庭向けも含めた電力販売すべてを自由化する方針を固め、いよいよ家庭でも「電力の自由化」が現実のものになってきました。

 エネルギーに関する制度改革はこれから確実に進んでいくと思いますが、重要なのは制度設計をどうするかというテクニカルな問題より、その背後にある国民(生活者)とエネルギーの関係性を、よりよい方向へ変えていくことです。

社会学者の宮台真司さんが指摘するように、今までの日本は「任せて文句を言う社会」でしたが、これからは「引き受けて考える社会」になっていくべき。つまり「任せる=依存」から「引き受ける=自立」への転換ですね。「選択の自由」にはリスクと責任がついて回りますが、これまでの日本社会ではそれらを回避する傾向にあったと思います。

ー「選びたい」という意志を生活者が明確に持たないと、制度だけ変えても意味がないと・・・。

 「選べるけど文句を言う」人たちばかりでは仕方ありませんから。制度改革を求めていくのも大事ですが「選択の自由」の意味を国民の側がしっかり自覚することが前提です。その点は東日本大震災以降、リスクがあっても自ら電力を選びたい、という人たちが確実に増えてきましたから、大いに期待しているところです。

○わが家のエネルギー自立を目指せる時代に

ーメガソーラーや風力発電など自然エネルギーへの期待が高まっていますが、日本にふさわしい選択と活用のあり方についてはどうお考えですか?

 太陽光、風力、地熱、小水力、バイオマスなど自然エネルギーにはさまざまな種類があり、エネルギー源として利用する上ではそれぞれにプラス面とマイナス面があります。太陽光発電のプラス面は「大きいなら大きいなりに、小さければ小さいなりに」発電できること。

風力発電も最近は、家庭で利用できる小型で静かなタイプも開発され、一つ一つは小規模でもあちこちで展開できるのがメリットです。また、家庭用燃料電池も、今はまだ高価ですが、ガス業界ではできるだけ早く価格を下げたいと言っています。

 私が有望株として注目しているのは地熱発電。日本は世界で3番目に潜在可能性があるのに国立公園や温泉地などとの兼ね合いで開発が進んでいませんでしたが、ここにきて新規開発事業がいくつか計画されています。また、地熱は電力に換えなくても、熱のままでも使えます。家庭で必要なエネルギーの半分強が「熱」で、それをどう得るかがこれからの家庭のエネルギーを考える時、重要なポイントだと思っているので、地熱には期待しています。

 一方、太陽光や風力の弱点としては間欠性(動いたり止まったりすること)があるわけですが、近頃はこれを解決する技術として、電気をためておく蓄電技術やスマートエネルギーネットワークがあります。

とくに後者はエネルギーとITをつなげることで、電力と熱の需要と供給をきめ細かく調整し、そのバランスを最適化するものです。家庭で必要なエネルギーの半分は暖房や給湯の熱ですから、それらをすべて統合した仕組みを地域ぐるみで導入すれば「スマートタウン」や「スマートシティ」になる。すでにいくつかの地域で実証実験が行われています。こうした技術的進歩によって、家庭のエネルギー自立を目指せる時代になってきました。

○「自立」と「つながり」が本当の強さに

ー近著で「エネルギー自立型の暮らし」を提唱されていますが、そのようなライフスタイルに移行するにはどういう手順を踏めばいいのでしょう。 

 エネルギー自立型の暮らしのメリットとしては、大災害や停電などの緊急時に備えられることや、化石燃料の値上がりを心配せずにすむこと、原発の電気を使うことに罪悪感がある人はストレスから解放される、などがありますが、なかでも、家庭で使うエネルギーを他人任せのシステムに委ねるのではなく、自分で管理・抑制し、生産することで、本当に安心した生活を送れることが大きいと思います。

 移行するためのポイントは、現状のエネルギー使用の中身を知ったうえで「減らして替える」こと。まずは「使うエネルギーを減らす」。このプロセスを私は「省エネ」ならぬ「少エネ」と呼んでいます。そのうえで最低限必要なエネルギーをできるだけ自立型のエネルギーに替えていく、という流れです。

実際に100%自立をめざそうとすると難易度はかなり高くなります。ですので「自立」と「つながり」という2本の軸で考えて、半分ぐらいは自立して、残りは周りとつながって、電気や熱を貸し借りするのがいいでしょう。

ー枝廣さんはそうした「強さ」を「レジリアンス」という概念で言い表し、エネルギー自立型の暮らしを実現させる重要なカギと指摘されていますね。

 何か不測の事態に遭っても、立ち直れる力のことを「レジリアンス(resilience)」といい、私はよく「しなやかな強さ」と訳しています。これまで世界中でその研究が行われてきていて、レジリアンスをつくり出す要素の一つに「多様性」があると指摘されています。たとえば「オール電化」の家に住んでいた友人が東日本大震災の影響で電気が停まって非常に困ったと言っていましたが、これは多様性が損なわれていたわけで、いざという時は電気だけではなくて、ガスや薪、あるいは太陽光と多様なエネルギー源を使えるようにしておくことが大事なのです。

 このほか、短期的にはムダ・非効率に見えても何かあった時に役に立つような「冗長性」もレジリアンスを高める大事な要素です。効率性重視の企業では削られがちでしたが、家庭なら、たとえば災害に備えた買い置きを増やすなど、比較的取り組みやすいと思います。

 これからエネルギーに関する技術がもっと発展し、価格も手ごろになれば、多くの人がエネルギー自立型の生活を送ることができると思いますが、先ほど述べたように自立するだけでなく、周りとつながって支え合うこともレジリアンスを高めます。私はこれからエネルギーをシェアする時代も来ると思っていて、そうなると「お金持ち」より余剰電力をたくさん持っている「電気持ち」の方が人気者になる可能性もありますよね。

○一般市民がエネルギー政策に影響を与えられる社会に

ーそういう時代を迎えるために、生活者はこれから何をすべきでしょうか。

 先ほども言いましたが、まずはエネルギーについて一人ひとりが知り、考えること。そして、その考えをもとに、自分と意見や立場が違う人たちとも対話を重ねることが大切だと思います。そうした対話の文化が日本社会ではあまり培われて来なかったですし、原発や自然エネルギーをめぐる議論にしても、賛成派、反対派というような二項対立になりがちでした。

そうした背景から昨年7月、環境NGOや大学、自治体、研究所などに所属する多彩な発起人と一緒に立ち上げたのが「みんなのエネルギー・環境会議」です。一般市民を含むさまざまな立場や考え方の人々が、日本のエネルギーについて自由に議論し、対話を重ねることで、エネルギー政策に影響を与えられる場にしようと活動を続けています。

 この会議のめざすところも、エネルギーについて「こうあるべき」と特定のスタンスを打ち出すのではなく、いろんな立場や考えの人々がオープンに議論する場を提供すること。このようなプロセスを通じて、日本の民主主義の質を高めていけるのではと思います。いわば、「エネルギー・デモクラシー」が醸成されるのを願います。それぞれの家庭や地域や職場で、話し合うきっかけにしてほしいですね。

出典「大阪ガス(株)エネルギー・文化研究所発行 CEL102号」

~~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~~

上記で紹介されている「近著」はこちらです。
『わが家のエネルギー自給作戦』(エネルギーフォーラム新書)

明日の高校生との"学会"、とても楽しみです!

 

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