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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2013年04月12日

アースポリシー研究所「世界の穀物備蓄量の低下、深刻に―原因は生産量を上回った2012年の消費量」 (2013.04.12)

食と生活
 

穀物はそのまま食べる主食でもありますが、肉や魚を育てるための飼料にもなり、バイオ燃料の原料にもなります。世界の食肉消費量が増え、トウモロコシなど穀物由来のバイオ燃料の需要が増えるにつれて、穀物の需要は大きくなってきました。

一方で、穀物を生産するために必要な土地・水の入手可能性は縮小しつつあり、気候変動による熱波など、穀物収穫量にダメージを与える要因は増えつつあります。

需要側は増える要因が多く、供給側は減る要因が多い......ということは、本当に心配な状況です。現状はどうか、レスター・ブラウン氏のアースポリシー研究所からのリリースを、実践和訳チームが訳してくれたので、お届けします。

グラフなどはこちらからどうぞ。
www.earth-policy.org/indicators/C54/grain_2013

~~~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~~~~

世界の穀物備蓄量の低下、深刻に――原因は生産量を上回った2012年の消費量

ジャネット・ラーセン

エコ・エコノミー指標は、持続可能な経済の建設に向かってわれわれがどれほど前進しているかを評価するために、アースポリシー研究所が追跡している12の動向である。

人間は生命の維持に必要なカロリーの大部分を穀物から得ているため、世界の穀物の収穫状況は世界的にみて食糧供給が適切な範囲にあるかどうかを判断するのに良い指標となる。

2012年には世界で22億4,100万トンの穀物が生産されたが、記録的な豊作だった2011年を7,500万トン、すなわち3%下回った。落ち込みの主な原因は(世界最大の収穫高を誇る)米国のトウモロコシやロシア、カザフスタン、ウクライナ、オーストラリアの小麦など、いくつかの主要な作物に壊滅的な被害を与えた干ばつである。こうした国々はいずれも重要な輸出国でもある。

穀物価格の高騰を受けて燃料エタノールの原料や家畜の飼料としての使用が減った結果、世界の穀物消費量は1995年以来初めて顕著な落ち込みを見せた。それでもなお全体の消費量は生産量を上回った。主要な産地で干ばつが続いているため、低下した世界の穀物備蓄量を回復するのに必要な余剰分の生産は、2013年もまた不可能ではないかと懸念されている。

【グラフタイトル】世界の穀物生産 1950~2012
【縦軸】百万トン
【グラフ下】出典:米国農務省(USDA)

トウモロコシ、小麦、米は世界の穀物収穫量のほとんどを占める。米と大部分の小麦は直接食糧として消費されるが、トウモロコシは主に家畜の飼料および工業原料として使用される。トウモロコシを大量に与えて生産される肉、牛乳、卵への需要が高まりつつある上、近年トウモロコシを原料とするエタノールの生産が増加したため、トウモロコシは1998年を境に世界で最も生産量の多い穀物となった。

2012年、世界では小麦6億5,400万トンと米4億6,600万トンが生産されたが、トウモロコシの生産量は8億5,200万トンに達している。耕作面積が最も大きい小麦を生産量で上回るのは、トウモロコシの面積当たりの収量が概して遥かに多いからである。小麦と米の収量が1ヘクタール当たり約3トンであるのに対し、トウモロコシの収量は世界平均で1ヘクタール当たり5トンに迫る。米国の上位生産地では、条件が良ければその値が10トンを超える。

世界中の穀物の半分近くは、中国、米国、インドというわずか3カ国で生産されている。中国の2012年の穀物生産量は推定4億7,900万トンで、過去最高の収穫量となった。かたや米国は3億5,400万トンである。インドの収穫量は2億3,000万トン、EU諸国は全体で2億7,400万トンを生産した。(データはwww.earthpolicy.orgを参照)

2012年の米国の穀物収穫量は前年比で8%減少した。夏期に米国本土の2/3近くを襲った高温と干ばつはとりわけ中西部のコーンベルトで深刻だった。気温の上昇に伴ってトウモロコシの価格も跳ね上がり、8月21日には史上最高の1ブッシェル(約25.4kg)当たり8.39ドル(約770円)を記録している。

米国最大のトウモロコシ産地であるアイオワ州では収量が2011年より20%減少した。例年通り第2の生産量となったイリノイ州でも収量は33%減少し、1988年の歴史的な大干ばつ以降で最低となった。2013年1月現在、両州の農家に支払われた農作物保険の金額はそれぞれ10億ドル(約917億2,000万円)を超えている。

米国全体のトウモロコシの収穫量は2億7,400万トンとなり、前年の3億1,400万トンを下回った。日照りの影響が少なかった州、または灌漑が十分に行われていた州が豊作でなければ、落ち込みはさらにひどかっただろう。

実際、ミネソタ州とノース・ダコタ州では過去最高の豊作だったのである。結果として、いつもならコーンベルトからトウモロコシを運び出すはずの貨車や輸送船の一部が、逆に食肉やエタノールの生産のためにトウモロコシを運んでくる事態となった。

米国のトウモロコシ備蓄量は1,500万トン、すなわち現在の消費レベルではわずか21日分の量にまで激減した。在庫消費比がこれほど――今日土地を耕している農民が生まれてこの方見たこともないほど――低い値となると、さらなる価格高騰も予想される。

トウモロコシの価格高騰によってエタノールの利益幅が縮小すると、多くの精製工場が操業を停止した。米国ではエタノール生産に使うトウモロコシの量が、2011年の1億2,700万トンから1億1,400万トンへと減少した。同国の穀物収穫量の約1/3は自動車の燃料に使われていたのである。

エタノール生産に使うトウモロコシと飼料用となる小麦の量が減ったことによって、この10年、平均すると毎年4,000万トン近く増えていた世界の穀物消費量は急に増加が止まった。米国農務省が2013年1月に発表した2012年の世界の穀物消費量は推定22億8,400万トンで、2011年より2,700万トン減少している。しかし消費量が減少してもなお、世界の穀物生産量は消費量にあと4,300万トン足りなかった。

この13年のうち、世界全体の穀物消費量が生産量を超えた年は8年あり、それが貯蓄量の減少につながったのだ。世界全体をみると、穀物の繰越備蓄量(新しい収穫期が始まった時点で貯蔵庫に残っている量)は、4億2,300万トンで、68日分の消費を賄える量だ。これは、2007~2008 年の穀物危機が始まる前の最低貯蓄量よりわずか6日分多いにすぎない。当時、穀物の価格が急騰したため、多くの国で輸出が規制され、食糧暴動が発生した。

近年の不況時には、穀物の価格がいく分低下したが、2010年にロシアで熱波と干ばつのために小麦が枯れると、輸出が禁止され、価格は結局また跳ね上がった。「2012年は不作になる」と予測されると、世界市場ではわずか6年で3回目となる価格の急騰が起こった。今回、2012年の収穫は2010年よりも低くなるだろうと見込まれるも、ロシアは輸出停止を避ける方向だと発表している。

【グラフタイトル】穀物の月別国際価格指標 1990年1月~2012年12月
【グラフ下】出典:国連食糧農業機関(FAO)

世界の穀物取引は、2011年に記録的な取引高を見せたあと、2012年には2010年の低い水準に戻った。2012年の取引高は2億9,600万トンだが、これは全世界の消費量の13%にあたる。

輸入国の世界第1位は依然として日本で、純輸入量は2,400万トンだ(ほとんどが家畜用トウモロコシ)。これは日本で消費する量の73%にあたる。人口密度の高い韓国の場合、穀物の輸入量は1,300万トンで、同じく国内消費の73%を占める。

トウモロコシの原産地、メキシコでは、飼料用トウモロコシが輸入の大部分を占め、輸入量1,500万トンは国内消費の32%にあたる。乾燥した中東地域では、エジプトが国内消費の39%にあたる1,400万トンの穀物(主にパン用の小麦)を輸入している。サウジアラビアの輸入量1,300万トンは、そのほとんどが飼料用の大麦で、国内消費量の87%に相当する。

中国は2年連続で純輸入国トップ10入りを果たし、2012年には800万トンの穀物を輸入している。この数字は2011年の1,100万トンを下回る。中国が2012年に輸入した穀物(主にトウモロコシ、小麦、米、大麦)の量は、国内消費量のわずか2%にすぎないが、同国はとてつもなく大きな胃袋を抱えているため、長年自給自足を貫いてきた中国が最近世界の穀物市場に参入したことに注目が集まっている(ただし、大豆となると話は別だ。というのも、世界の大豆輸出量の60%を占めているは中国だからだ)。

世界で穀物輸出量が群を抜いて多いのは米国だが、その市場シェアは縮小している。2012年に米国が出荷した穀物は正味4,900万トンで、輸出量としては1971年以降で最も少ない。そのうち、トウモロコシの輸出量は2,200万トンで、5年前の半分以下となり、南米の競合国、アルゼンチンとブラジルのそれぞれの輸出量をわずかに超える程度だ。

米は、タイがこの30年ではじめて輸出国首位の座を追われた。これは、4年間にわたりバスマティ米以外の米の禁輸措置を取っていたインドが、その間に蓄積した在庫分を市場に放出したことによる。

今後に目を向けると、2013年の冬小麦は、米国と黒海地域の干ばつで厳しい状況にある。また、コーンベルトの中心部では焼けつくような夏以降ある程度の雨が降ったものの、土壌に含まれる水分は依然として少ないため、春の作付けの障害になる可能性があり、トウモロコシの状況はさらに厳しくなるだろう。貯蔵量を回復させ、価格の安定化を促すためには豊作が不可欠なときにあって、これは困った話である。

【グラフタイトル】消費日数でみる世界の穀物貯蓄量 1960年~2012年
【グラフ下】出典: 米国農務省(USDA)

生産が伸びないもう一つの理由は、主要穀物の収穫量が頭打ちになっていることだ。特に、日本と韓国の米、フランス、ドイツ、英国の小麦でその傾向が著しい。

地域によっては、生産性を最大限伸ばしてしまったため、生物学的制約に直面しているところもあるようだ。その上、気候変動で、熱波や干ばつ、洪水といった、収穫量を瞬く間に台無しにする異常気象が起こる可能性も高まりつつある。

穀物備蓄は食糧安全保障上70日分あれば充分だと考えられていたこともあったが、今後地球の気候が不安定化すれば、食糧価格の混乱を防ぐためにより多くの蓄えが必要になる。価格高騰の影響を誰よりも強く受けるのは貧しい人たちであり、最終的にはその価格高騰が、すべての人に影響が及ぶ不安定化の火付け役になりかねない。

世界の食糧事情に関してさらに詳しくは、レスター・R・ブラウン著『仮邦題:満員の地球、空の皿:食料難の新しい地政学』(Full Planet, Empty Plates:The New Geopolitics of Food Scarcity)(New York: W.W. Norton & Co.)をご一読ください。なお、データ、動画、スライドショーはwww.earth-policy.org でご覧いただけます。 ジャネット・ラーセンは、アースポリシー研究所の研究担当部門長この情報の友人、家族、同僚への転送はご自由にどうぞ。

メディア関連の問い合わせ:
リア・ジャニス・カウフマン
電話:(202) 496-9290 内線12
電子メール:rjk@earthpolicy.org

研究関連の問い合わせ:
ジャネット・ラーセン
電話:(202) 496-9290 内線14
電子メール:jlarsen@earthpolicy.org

アースポリシー研究所
1350 Connecticut Avenue NW, Suite 403
Washington, DC 20036

(翻訳:野村、保科)

 

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